少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
それでまだ初日なので、話数的にも結構使うかも。
最後が駆け足にならなければ、だけど。
どうでもいいことですが、山田さんは車でも小船でもまったく酔いません。1週間近く船に乗りっぱなしだった経験もありますが、捕まってなきゃ振り落とされるレベルの大時化が2日続いてもへっちゃらな三半規管を持っております。
「まずは話を聞かせてもらいましょうか」
執務室では挨拶もそこそこに、霞が本題を切り出す。自分もせっかちだと言う自覚があるが、霞のせっかち具合には負ける。キビキビハキハキしてる奴だからな。それも彼女のチャームポイントだとしておこう。
時雨のほうは俺のサポートに徹するので、こういう場ではあまり積極的に口を開きはしない。明石も空気を読んで大人しくしている。
事前に役割を決めたりはしていないが、当たり前のように話の進行は俺と霞が担当するようだ。
しかし陰気臭い。ここに所属している残りの二人を見た俺の素直な感想を述べるならそんなところだ。
人間の性質ってやつは環境で変わる。稀に生まれながらにおかしい奴もいるが、基本的にはそのはずだ。俺がどこに出ても恥ずかしくない素晴らしい人間に育っているところを見るに、生い立ちはともかく育った環境は良かったらしい。主に姉とサエさんのおかげだとでも言っておこう。
艦娘は人間に似て非なるもの。どこが似ていてなにが違うのだろう。彼女たちをそうしたのは、環境なのか、はたして。
前任者の話を簡単にまとめるとこうだ。
日に日に顔色が悪くなり、体調を崩していってそのまま死んだ。
うん。まったくなんの参考にもならなそうな普通の死に方に思える。
むしろ気になるのはそう説明する出迎えてくれた艦娘と、その隣で身を抱くようにしている艦娘。さらに隣の子は目線を合わせることもなく、指を忙しなく絡ませながら俯いている。
それらはどれも不安を示すサイン。一見普通に見える案内子ちゃんも、よく観察すると説明時に目線を1度たりとも逸らさない。
視線を合わせるのは霞も同じだが、これは違うね。
記憶を遡るとき、人は目線を上げるものだ。君は昨日の晩ご飯を思い出せるか? と言われたなら、無意識のうちに顔か目線を上げる。その多くの場合左上を向いているだろう。
嘘をつくときは右上を見るだなんて言われることもあるが、女性の場合はじっと相手の目を見ることが多い。それは観察。彼女は俺を窺っているのだ。
俺と霞が交互にする質問に一度たりとも口籠ったり詰まったりしなかったのも引っかかる。すべての想定と対策が為されたあとの空々しい面接会場みたいだ。
今のところ、ただ職務に忠実で真面目な子なのだと言うこともできるが、さて。
「呪いなんです。だって、彼女は」
突然そんなことを言ったのは指をもじもじしていた子。
すぐに案内子ちゃんに「止めなさい」と遮られた。
突然と言うか唐突だな。呪い……。
俯きながら自信なく自己紹介したときと違い、しっかりと俺を見て力強い言葉でそう言った。少なくとも彼女はそう信じているのだろう。
隣でそれを聞いた霞は片目を細めて眉を上げている。説明は不要だと思うが、この表情は強い疑いや困惑を表す。
先日、ちょっとしたアクシデントで霞のお尻を鷲掴みしてしまった俺の言い訳を聞いたときにしていた表情でもある。つまり霞がよくやってる顔なので、俺は見慣れている。
怖いのは霞と反対側で俺の隣に立つ時雨が挨拶以降表情一つ変えずにいることのほうだと思うが、それに突っ込むと後で俺が怖い思いをするので触れてはならない。あと明石、気持ちは分かるが半目は止めろ。
「その彼女って言うのは?」
霞が指子ちゃんに問い掛けると、彼女は案内子ちゃんの顔を伺ってからこう答えた。
「ここには元々4隻が所属していました。1隻は……」
なるほどね、三人しか所属してないのは中途半端な数だと思ったが、やっぱりもう一人いたのか。
呪いねぇ。
その返答に霞が噛みつきそうになってるが、それは止めておく。きっと軍人に相応しくないと、その不明瞭な説明に対して言いたいことがあるのだろうが、彼女は俺の部下なわけではないし、ニュアンスだけならもう伝わった。
資料を読めば事足りることだし、必要なら案内子ちゃんが説明するだろう。不安げな顔をしている少女の口から説明させるほどのことでもない。
それから簡単に二人の司令官についてを聞く。推移ってやつだ。
もう一人いた件の彼女だが、沈んだのは一人目の司令官が死んだ後なんだそうだ。なら二人の司令官が死んだのとは関係がない感じかな。
案内をしてくれたここのリーダー格らしき艦娘の子がそう話してくれた。
横の二人は俯いたまま涙でも堪えているようだ。別に泣いてくれたって構わないんだけどね、心理的にも心をリセットするのに役立つらしいよ? 涙って。
俺に泣きつかれても困るが、物のついでだ。帰るまでにはウチの基地でカウンセラーもどき診療所をやっている明石と話す機会でも作ってやろうと思う。
聞いたところで役に立ちそうな話はでなかったわけだが、時系列は把握した。
そして気になることもあった。
それは、二人目に死んだ男の最後のセリフ。
「あの女」
そう呟いて死んだと言う。
最後の言葉がドイツ語だったので聞き取れなかったと言うアインシュタインよりは幸せだったのかな? 死後の世界とやらで当事者にでも会うことができたなら聞いてみようか。そいつよりはアインシュタインに会って、最後はなんて言ったんですかと聞いたほうがまだ有意義な気もするが、どのみち死んだあとのことに意味などないか、やっぱりどちらを答えてもらっても役に立ちそうにはない。
呪いじみていて、呪いじみすぎていて。
どうなんだろうな。
ま、そっちは追々。まずは事務的なことから終わらせておくか。
「三人は今後、一時横須賀預かりになる。心配する必要はない、姉……横須賀に属する一航戦を知っているか? その彼女が対応してくれる。君たちが落ち着いたら、希望の基地に配属できるよう手配してくれるし、なんならそのまま横須賀に所属してくれても構わないそうだ」
今日はこの辺にしておこう。
移動の疲れもあるしな、俺だけど。いきなり見知らぬよそ者が基地に入り込んだのだ。彼女たちにも時間を与えよう。
詳しい聞き込みは明日からするとしたところで、出迎えてくれた少女に寝床となる部屋まで案内してもらう。俺は基地施設内。お付きの艦娘さんには別の建物に宿泊してもらう予定だったらしいが、それは時雨と霞が断った。この島で俺を一人にするつもりはないとのことだ。
俺と同室で夜を明かすことについては明石がちょっと困っているようだが、諦めてくれ。その二人の意見を曲げさせることなど誰にもできはしないだろうから。
想定しているケツにちゃんと繋がるかしら? 謎です。
そうそう、今回の話に出てくる艦娘さんにはまったくモデルがいないので、この話に限っては「誰だろう」を考えなくてもいいです。
考えるのは「死」の原因くらい?
え、ノックスの十戒だって?
そんな名前の人は知らない。