少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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2日目。

関係ない艦娘紹介

「我が索敵機から逃げられるとでも思うたか」

横須賀、呉、舞鶴鎮守府と所属先を変えた「舞鶴戦艦」。
帝国海軍最強の重巡利根である!

真珠湾攻撃に先立って偵察機を飛ばしたのも彼女だ。レイテでは武蔵と共に大暴れした鬼の重巡。

しかし美しいだけじゃない戦争。彼女を知るなら「ビハール号事件」は避けて通れない。
詳しくは各々調べてもらうとして、簡単に言うと捕虜を甲板にならべてやっちゃったと。
このときの艦長は戦後にBC級戦犯として禁固刑。

ちなみにこの艦長は「秋津洲流戦闘航海術」や「厚化粧」で有名な秋津洲の艦長でもあり、なかなかに優秀な人物でもある。

戦争だったのだ。



〜提督の事件簿〜5

翌朝。俺は時雨、霞チームで島の散策を始めた。

いざってときに俺が離れていると警護しきれないと二人に言われたのが主な理由。

明石の手伝いはまったくできそうにもないし、当の明石も一人で集中してやりたいと言うのでちょうどいい。

 

そんなに大きな島ではないので見て回るだけなら半日、遅くとも夕方には基地に戻れるだろう。

それからは基地に残された記録と、彼女たちからの聞き込みをする予定だ。

 

散策から始めることにも三つほど理由がある。

一つは朝から動き出し、できるだけ気温の低い間に調査を進めておきたいこと。

二つ目、一つ目に被るが、記録や聞き込みなど夜でもできるからな。そっちを優先して島の調査が暗くなってからなど阿呆のすることだ。

そして最後。話を聞く前に当たりを付けておきたい。オマケがくっ付いてきそうだが、本筋は死んだ司令官たちのことだ。なぜ死んだのか、無限の可能性を抱えたまま走るよりも、選択肢を狭めた状態でのほうがゴールも近かろう。

 

 

しっかし、朝っぱらだというのに暑い。

なんで基地司令官になってからハイキングなんてさせられてるんだ、俺は。

元々、分不相応に収まっているだけの役職で、本来なら駆けずり回っていてもまったくおかしくない年齢なんだけどな。しかし辛い。

 

二人は平気なんだろうか。

時雨の制服は半袖だ。その中身が非常に涼しそうな装いであることも知っている。

素肌の上に直接制服を着込んでるからなアイツ。被弾して制服が破れでもしたらほとんど全開みたいになる。

だが霞はカナリ着込んでいる。昨夜のキャミソールの上から長袖シャツ。そしてワンピースタイプの制服と結構な防御力だ。視覚的な意味で。

 

涼しい顔で歩いているので、そんなでもないんだろうけど、タフだなぁ。

 

 

島を歩いての感想だが、まずはこれだ。

「結構穴だらけだな」

 

人の手が入っていない島ってこんなもんか?

そこには少なくない数の穴ぼこがあった。

また海沿いには波にでも削られたのか硬い岩? の隙間から入ることのできる大きな空間があったりもする。

俺たちが上陸した場所以外は港にできそうなところもない様子。サンゴなのか、硬い石灰岩でできた海岸線が続く。ソールのしっかりした靴じゃなければしんどそうな地面。転倒でもしたら体中傷だらけになるだろう。

なんとなく沖縄みたいだ。ここは観光地でもなければ街もないけど。

 

俺の前後を挟むようにして進む二人を見て、なんとなくリンガにいる暁を思い出した。

戦争をする気があるのかないのか不思議な奴だが、あんなでも運動神経がいい。

普段の暁を見てるとそれも危なっかしく見えるんだが、アイツならぴょんぴょんと跳ねるように歩くんだろうな。

 

 

水分補給を心掛けつつ、俺たちは島内をうろついていく。

水筒を持ってくれているのも時雨だ。いつだったかも持ち歩いていたカーキ色のウエストバッグ。なんなの、ウエストバッグって最近は斜め掛けするものなの? ジェネレーションギャップにあたるかどうかは分からないが、艦娘である時雨がどこからか仕入れてきた感覚であるのだとしたら、その成長ぶりは喜ぶべきところだろう。車に乗るときに靴を脱ぐレベルだったのに。

 

 

海沿いから木々の生い茂る中へと場所を移し、基地の入口側と反対の方向から基地方面へ。感覚的には島の裏側と言ったほうが伝わるかな。

 

 

「臭え、強烈な臭いだな」

「鼻が曲がりそうだよ」

 

卵の腐ったような、と言われるアレを感じた。

ソレをさして硫黄の臭いとよく言われるが、実のところそれは勘違い。

イメージとは違って硫黄は無臭なのだ。

 

この腐卵臭と呼ばれるものの正体は硫化水素。

過去、マスコミ報道のせいで一躍有名になった自殺方法であるところの、混ぜるな危険のアイツである。

 

 

確かに硫化水素は強力ではあるが、ネットに散見した『キレイに死ねる』はハッキリ嘘と言える。

高濃度の硫化水素は一息であの世まで連れ出してくれもするが、誰でも手にすることができる市販品でそのような濃度の硫化水素ガスを発生させることは不可能だ。

 

中途半端に濃度の低いコイツは呼吸器系にダメージを与え、数時間にわたる呼吸困難の後に死亡という無駄な苦痛を味合わせてくれる憎いヤツ。ついでにそうやってして体内に取り入れた硫化水素は血液に乗り、死体に緑の死斑を生じさせる。

お世辞にもキレイとは言えないモノに君を変えてくれるだろう。

ネットで見知ったのなら、ついでにちょっとくらい調べればいいものだが、その手間を省く気持ちはよく分かんねぇな。

 

 

そしてこのガスは水に溶けやすく、さらに空気よりも重いという特徴がある。

自然に発生しているコイツは、なので目の前でぽっかりと口を開けた洞窟なんかに溜まっていることが多い。

アパートの二階などで発生させると一階の住人だけを殺してくれることもある。ちなみにそれも実際にあった事件だ。

 

キレイに死にたいなら雪山に入れ。凍死が1番キレイだからだ。言葉のとおり雪のように白い肌にもしてくれる。ただし発見が遅れると野生動物に食い荒らされるので、ただの残飯になってしまうのが難点でもある。

 

強烈な臭いを発するのなら、簡単に避けられるとも思うだろうが、自然ってやつは恐ろしい。このガスには嗅覚麻痺の効果があるので、ある程度嗅いでいると臭いを感じなくなる。

まさに天然の罠。そして倒れている人を発見し、救助のために駆け寄ると底に溜まっているガスによりもれなく二次被害をもたらす。

悪意を持った何者かがデザインしたとしか思えない完成されたガスである。

 

 

「ちょっと、これ硫化水素ガスってやつでしょ? アンタはさっさと離れる」

臭いを知っていたのだろう霞が追い払うような仕草で俺に遠ざかるように言う。

俺だって好んで嗅ぎたくねぇよ。お言葉に甘えて高く隆起した近くの土肌を上りながら、二人の様子を伺うことにする。

 

「そうさせてもらうけど、お前らは平気なのか?」

「問題はなさそうね」

「僕も平気かな、慣れると臭いも感じなくなるね」

 

いや、臭いを感じなくなるのはガスの影響だぞ。ホントに大丈夫なのかコイツら。

 

 

「ちょっと試してくるわ」

「待て待て、なにをするって?」

「中に下りる。すぐに戻ってくるわよ」

「行かせるわけないだろが、そんな中で生きてられるのは海底火山の熱水噴出孔を住処にしてる細菌くらいだ」

 

なにを思ってか、妙なやる気に燃えてる霞さんだ。

近くにいるだけで目に見えるように充満しているガス溜まりの中に侵入とかあり得ないだろ。硫化水素は無色なので実際に見えたりはしないから事故も起こるんだけどもさ。

 

しかし事故ってのもよく分からん。こんな臭いがしてたら避けないもんか? 別府の地獄めぐりのような気分なのかな。アレもよく硫黄の臭いだと言われるが、前述のとおり硫黄に臭いはないので、硫化水素混じりの炭酸ガスでも噴いているんだけど。

 

 

「ワタシたちは船みたいなもんだし、作戦によってはこんな中で攻撃をかわす必要があるかもしれないわ。試せるうちに試しておくのは有意義よ」

「じゃあ体をロープで縛ってからにしようよ。なにかあったら僕が引っ張り上げるから」

「そうしてくれる?」

 

言っても聞きやしねぇ。お前ちょっとこっちに来いよ。俺が亀甲縛りにしてやるから。

「行くわけないでしょうが。いいからアンタは近づくな」

 

実際に亀甲縛りにしてやると時雨が引っ張ることができなくなるんだけどな。

平均身長の女性を亀甲縛りするのに必要なロープの長さはだいたい10mだ。

外聞が気になるので、なぜ時雨がロープを持ち歩いているのかは分からないと言っておくが、時雨が手にするそれの長さもそのくらいなはずなので亀甲縛りにしてやると本当に縛るだけになってしまう。それではただのプレイだ。しかも野外緊縛調教。

 

俺を心配させる罰だ。お仕置きするのは決めたが、リンガに帰るまでは待ってやろう。

 

 

「ホントに大丈夫なんだろうな」

「一呼吸で死なないなら平気よ。明石もいることだし」

「一呼吸で死ぬことがあるから言ってるんだけど」

 

これで霞が帰ってこなかったら、最後の会話は夫婦漫才だったことになる。

おっと怖え。なにに勘付いたのかは知らないが、ロープを握る時雨がイキナリ振り向いて冷たい目をしている気がする。

分かってる分かってる。夫婦と言うならお前だと、にこやかな顔をして手を振ってやると時雨も微笑みを返してくれた。

 

分からん。

 

 

数分で霞は洞から帰ってきた。

感覚的には長い数分だったが、行ったときと同じようにちょっと様子を見てきただけよ? みたいな顔をしているのだから平気だったのだろう。

 

「息苦しいけど平気のようね。体に変調はないわ。奥まで行くなら灯りが欲しいってくらいかしら」

「とりあえず地図にバツ印を付けておくね。提督や他の人間が入ったら大変だ」

 

なんか俺のほうが疲れた。いいからもうこっちに戻ってこい。そして時雨さんや、水筒出してくれ。変に緊張して喉が渇いたよ。

腹も減ったし、ここから離れて休憩でもするとしよう。




A級戦犯とは言うが、あれは罪の重さを表しているわけではなくただのカテゴリー分け。

日本で言うところの「いろは」なので、別にA級が1番悪いなんてことはない。


次回。
米海軍史にその名を轟かせる偉大な軍艦エンタープライズが唯一こだわった好敵手。

帝国海軍最強の一航戦「翔鶴」。
彼女はすべての波を越えてなにを見るのか!
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