少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
この話と次話さえ書ければなんとかなるはず。
風呂上りの明石と合流してから夕食をいただく。今日も今日とてひもじい。
美しい女性三人に囲まれて食べる料理はたとえ凝った料理でなくともスパイスがなかったとしても、本来ならもうそれだけで十分に美味しいはずなのだが、贅沢は一度慣れるとなかなか下方修正が効かない。
とりあえずリンガに帰ったら阿武隈に茶碗蒸しを作ってもらおうと勝手に思い立った。
「それで、明石のほうはどうだった? 時間かかってたみたいだけど」
「バッチリですよ。なにからなにまで調べてきました」
満面の笑みというよりはドヤ顔だな。
そんな顔して自信満々の明石。お前一人でもうやり遂げたの? ちょっと気合い入りすぎじゃないかい。
聞けば、なにかと優秀な妖精さんたちが捕獲や採取に協力してくれたので、人海戦術で押し切ったとのことだ。
それにしたってさぁ、早いことは良いことなので当然文句はないけど。
こりゃ妖精さんたちにもお礼を考えなきゃいけないな。内地から治一郎のバウムクーヘンでもまとめてお取り寄せしようか。久しぶりに俺も食べたいし、他の基地とは隔絶したほどの自由が与えられているウチの艦娘さんたちでも食べたことないだろうからちょうどいい。
「流行り病や風土病ってことはなさそうですね。自生植物には毒を持つものもありましたが、ここの所属艦娘に確認したところ亡くなった二人の司令官はあまり基地外を出回らなかったそうですし、それらを食材として使ったこともないそうです」
謎の菌を持っていようが寄生虫を飼ってる動物がいようが、そして毒を持つ草木が生えていようが。接触しなかったのならそれらが原因である可能性はガクッと減ることだろう。
答えにはたどり着かなかったが、選択肢の数が減るのは良いことだとしておこう。
二人続けて死んだ司令官。
考えて考えた末に、実はただの偶然でしたなんてこともあるかもしれない。それぞれ持病を持っており、慣れない環境で悪化したなんて、ありそうな話だ。
だったらいいのになぁ。
明日は基地内での確認がメイン。
まずは彼女たちから話を聞こう。男のこともだが、正直すでに死んでしまった男の死因などより優先されるのは彼女たち自身のことだろう。
彼女たちは、男になにをされてきたのか。
ただの確認になってしまうだろうが、この予感は外れてくれていい。
明けて翌日。
結局、彼女たちから話を聞くのは時雨と霞に任せることにした。
もし本当に司令官から性的な行為などを強要されていたのだとしたら、やはり男は同席しないほうがいいだろうと思ったからだ。
身構えられているのは何度か話して実感もしているしな、俺がいないほうが安心して話せるというならそれでいい。
時雨たちが話を聞いているあいだにこちらは明石と執務室を確かめる。なんか他所さまの基地で家探しすることが多い気もするが、気のせいだろう。
なにかを見つけるための家探しってやつは、泥棒のそれによく似ている。経験したことのある人は少ないだろうが、警察の家宅捜査ってやつも、押収なのか窃盗なのかが違うだけで同じようなものだ。
今回は特に、これといって目当ての物がない。それがなにかは分からないが、なにかが分かる物を探すのだ。
そして基地内で探し物をするならまず執務室だろ? 朝は挨拶からってなもので、ひとまず三人娘を執務室に揃えておはようから始めるのが正しい。
にこやかとはいかないが、それなりの挨拶は無事に迎えられた。
身構えられているとは言ったが、それだって節々の行動から把握しただけで気にならない人なら気付かないくらいのものだ。
彼女たちを別室へと移動させたあと、明石と二人で執務室の書類からひっくり返していく。
目についた日誌をめくり遡っていくと、三人娘ではない艦娘が書いたものが混ざるようになった。
沈んだ彼女のものだ。
彼女が沈む前は四人で交代しながら書き上げていたのだろう。
こうやって文字を追っていくと、それなりに人間性が見えてくる。艦娘に対しても人間性と言ってよいものなのかは分からないが、つまりは個性と言うやつだ。
きちきちと神経質そうに書く子もいれば、漢字のとめ、はね、はらいに主張を感じさせる子もいる。
文字のサイズが一定な子はコツコツと同じことを積み重ねていくのが得意なタイプ。
文字のはらいなどが大きくなるのは自己主張の強いタイプ。文字の大小が揃わず、どことなく情緒豊かに文字が並ぶのは日常に変化を求める冒険家タイプに多い。
ウチの子で言うなら上から霞、時雨、長波がそんな系統だ。
その中で一際目を引くものがある。目を引くと言うより、これはもう異彩を放っている。
こんな文字を書いてても誰も気にしないものなのだろうか。
それは綴られた日誌で、新しいものになればなるほどより顕著にその特徴を認めることができる。
妙に直線的に書かれた文字。
一言で表すと病んでいる。
これがもっと明らかなものになれば、まるで定規を当てて書いたかのような直線の集合体みたくなったのだろうか。
そこまでいけば、他の誰かが気付いただろうけど。
ウチの基地でこんな文字を書く子が出たなら、即座にカウンセリングを受けさせただろう……。
これほどのシグナルを発していて、それを受けてもらえなかったのは不幸なことだ。
「これと言ってめぼしい物はありませんね」
「悪事の証拠と呼べるようなものなら、そんな簡単に見つかる場所に残しておくわけもないしな」
日誌や戦報を読んでみても特段変わったところはない。
分かったことと言えば、ここに着任した司令官の二人は特別優れた才能を持っているわけではなさそうだってことくらいだ。
いや、優れた才能を持ってるわけではないが、頭でっかちで自尊心の強いエリート風を吹かせたがるような奴だ、と言い直しておこうか。
そういうのも、別に珍しいわけでもないけどね。
なにも見つからないならそれでもいい。残された三人娘の今後だけ考えれば、それだけでも十分だろう。
今ごろ時雨たちが聞き出しているだろうが、最低の予想が当たっているようなら彼女たちの心のケアに努めるだけだ。
そういうやつもいるし、そういうやつばかりではない。
それだけ分かってもらえたら、あとは日にち薬。当たり前の生活と過ぎ去る時間が彼女たちを癒すのだろう。
あらかた執務室をひっくり返す作業が終わりを迎えるころ、時雨と霞が三人娘を引き連れて戻ってきた。聞き取りが終わったらしい。
「彼女たちをリンガに連れ帰るんだよね? なら荷造りをさせようと思うんだけど、構わないかな?」
「そだな。これ以上長居しても仕方がないし、よろしく」
そう指示を出すと、三人娘は頭を下げて部屋を出ていった。
去り際に少女の一人が向けた、そのガラスのような目だけが心に引っ掛かった。
なんとか書ききれそうではあるが、言い訳はするまい(言い訳)。
書くってのが難しいことだと分かっただけでもう良しとしよう。
根性と技術があればなー。
女性司令艦と新人艦娘の話とかも構想だけならあったんだけど。
今回の話を書いて、今それに手を出すのは無謀と分かった。
二人の話が交互に進んでいき、新人艦娘の指導と上層部(提督)の板挟みで苦労する司令艦と、司令艦の優しさやどうにもならない軍組織での葛藤を理解できない新人艦娘。
最終的に、女性司令艦は新人艦娘の成長した先の話だったんですよって話。
◯女性司令艦 → 新人艦娘
女性司令艦 ← ◯新人艦娘
つまり本編で女性司令艦が苦労させられる新人艦娘と女性司令艦に対して文句を言う新人艦娘は別人。
叙述トリックってやつだね。
色を出す前に、事件簿をなんとか終わらせようか。