少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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小島での生活3

「時雨、帰投したよ」

「無事か? 今日は敵艦と遭遇したかい?」

哨戒任務から戻り、ここは小島の桟橋だ。艦娘の出迎えをする提督という世にも珍しい光景にも少し慣れてきた。

そんな提督は、帰投の度に僕の姿を見て露骨にほっとした顔をする。それを見ると多少の疲れなんて吹き飛んでしまう気がする。

 

小島に着任してから数日。ここでの生活にもパターンができてきた。

あれから哨戒やささやかな量の事務作業、家事の合間に毎日トレーニングを続けている。

定期連絡船が来るのはまだ先なので、相変わらず制服での訓練ではあるが、成果は少しずつ出ていると思う。

 

「うん。昨日と同じようなところにはぐれ駆逐艦が2体だけ」

着任直後は小島の周辺の調査も兼ねて近海を周っていたのだが、思った以上に平穏な海らしく、敵艦と遭遇することはなかった。

なので、ここ数日は少しずつ哨戒範囲を広げているところだ。

「なんにせよ無事で良かった。で、どうだった?」

「うん。昨日も感じたけど、やっぱり効果は出ていると思う。体幹が鍛えられたのか、ちょっとくらいバランスを崩しても安定して砲撃できるようになったよ」

不安定な海面でバランスを取ることができるのは、海戦ではとても有利なことだと実感していたので、素直な感想を告げた。

 

「そうか、生存率が上がるのなら僥倖」

満足そうに頷く提督。

「そうだ、出撃の記録は夜にやるとして、今日から陸上戦闘の訓練も始めようと思うんだが、体調のほうはどうだ?」

「僕は平気だよ。そんなに疲れていないから」

コンディションならさっき回復したところでもある。もちろん言えるわけもないが。

 

「じゃあ一休憩したら始めようか、艤装置いてきな。小屋でお茶でも飲もう」

 

あれから色々考えたんだが。

お茶を楽しんでいると、急に真面目な顔をして提督が言った。なんだろう、緊張する。

 

「やっぱり前任者がソファで寝てたってのは嘘だろ。でなければあの無意味にデカいベッドの説明がつかん」

拍子抜けだ。

しかし提督の言うことももっともだと思う。実際、報告書的には僕がソファで寝ていることにしてあるし、同じことをしていたんだろう。

 

「さて、ぼちぼち始めますか」

「どこでやるのかな?」

「浴場の裏を考えてるよ。あそこは見晴らしも良いし、結構拓けてたから」

「あそこはダメだよ!」

咄嗟に声を張り上げてしまった。提督も驚いているが僕はもっと驚いてる。

 

風通りの良い浴場裏は洗濯物を干すのにうってつけで、ちょうどの位置に生えている木の枝にロープを張れるよう浴場の壁にフックが備え付けられていた。多分前任者もあそこに洗濯物を干していたのだろう。

そして洗濯物の中には当然自分の下着も含まれているのだ。家事の分担で洗濯担当を時雨が譲らなかったのもこれが理由だった。

相変わらず寝室ではTシャツに下着といった姿で過ごしており、実は結構慣れてもきているのだが、それでも自分の下着がひらひらと舞っているのを横目に訓練をしたいと思えるほど羞恥心を失っているわけではないし、そんな特殊な性癖も持ち合わせてはいない。

 

「いや、あそこは洗濯物を干したりしているから……」

「そうか? まあ特に理由があってのことじゃないから、それじゃあ懸垂してるとこでいいか」

こうして、めでたく懸垂器の置いてある場所が正式に小島の訓練場となったのだった。

 

 

「陸上戦闘っていうのは、具体的にどういうことをするのかな?」

「そうだな。俺は基礎しか教えられないが、基本はCQBとCQCの2つ。CQBは近接戦闘のことだ。直近から大体30mくらいまでの距離で戦う」

「30m? 目と鼻の先だね」

「時雨から見たらそうだろうな。普段は艦砲射撃なわけだし」

「でも砲撃するわけじゃないんだよね」

「砲撃じゃなくて射撃かな。とりあえず手持ちが俺のしかないから、今回はこれを使います」

そういって手渡されたのは拳銃だった。

それがどういう物であるかは知識として知っているが、間近で見るのも触るのも初めてだ。

「弾倉は抜いてあるが、引き金には指をかけるなよ」

 

「じゃあCQCっていうのは?」

「CQCは近接格闘、その名のとおりの格闘戦だな」

「格闘? 僕が殴り合いをするのかい?」

深海棲艦との戦いに活きるとは思えず、必要性を疑問視しているのが伝わったのか提督が言う。

 

「敵は深海棲艦だけとは限らないだろ。俺が暴漢に襲われたら助けてくれないのか?」

そんな状況になれば、もちろん助けたいと思うし、助けるのだろう。しかし、面と向かって助けてくれと言われるのもなんか違う気がする。

 

「まあいいや。その様子じゃ拳銃なんて持ったこともないんだろ? 普通に射撃の訓練からだな」

渡された拳銃をもう一度見直す。

見慣れぬ妖精さんが一人くっついているが、提督の妖精さんなのだろう。

「そいつは俺の私物のM8000って銃だ。耐久力あって撃ちやすいぞ。時雨にはちょっとグリップが大きいかもしれないけど、しばらく我慢してくれ」

こうして、僕の訓練メニューに拳銃での射撃が加わった。

 

 

日が暮れてからは、今日の出現記録をつけて使用燃料や弾薬をチェックする。

燃料や弾薬は、必要なもろもろと一緒に連絡船に手配することになっていた。幸い時雨は駆逐艦なので消費量は少ないのだが、小島で手に入る燃料には限りがある。燃料が尽きるときがこの小島を出るタイミングとなりそうだ。

 

というのも、横須賀鎮守府から提督に出ている命令はいわゆる実地研修であり、ざっくり言うと、艦隊指揮の経験や教育を受けていない提督のために、辺境の泊地で徐々に艦娘を増やしながら艦娘の運用に慣れろ。というものだ。

そして提督はここで艦娘を増やすつもりがない。さらに、粘れるだけ粘ってここで僕の練度を上げるのだと言う。

 

なので、小島に居座る間は輸送護衛などで資源を手に入れる方法がないということだ。

 

「これは、ギリギリまで切り詰めなきゃいけないかな」

 

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