少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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ゴールデンウィーク。この言葉を作ったのは映画業界だが、GWに映画館に行くような時代はとっくの昔に終わりを告げた。



〜提督の事件簿〜11

──静かに身を焦がす。この熱はいずれ地獄の業火のように、心とキミを焼くだろう。

 

 

 

 

 

この基地から彼女たちを連れ出すため、荷物も全て座上艦に積み込んでしまわなければならない。

どの程度の荷物があるのかを確認するため、まず俺たちは彼女の部屋を訪れていた。

 

この基地でただ一人、戦没艦となってしまった少女の部屋だ。

 

 

駆逐艦は相部屋であることが多いが、ここの艦娘はそれぞれ自室を用意されていたようだ。

部屋が有り余っていたからか、それともここの司令官が彼女たちを呼び出すのに都合が良かったからなのか、それももう確認のしようがない。

 

ここを訪れたのは荷物を運び出すため。そこに間違いはない。

本人が沈んでしまっているのだ。他の誰かが荷物をまとめなくては先に進まない。

 

そしてもう一つ。

 

毒物が使われたのなら、それはきっとここにあると思ったから。

使われたのがカンタレラであるのなら、二人目の司令官が死ぬより前に彼女が沈んでいても不思議はない。

 

十分に毒がまわり、あとは勝手に死んでいくとの予測がつけば彼女は男の死を待つ必要がなかった。

その場合、彼女は限りなく自沈に近い終わりを迎えたわけだ。

 

 

探すほどのこともなく、それはすぐに目に止まった。

衣装棚に残された衣類の下。木箱に入れられたそれは、瓶に入った見るからに怪しい白い粉末と鈍い光沢を放つ鉱石。

 

隠すつもりなど毛頭なく、ただそこにしまっておいただけとでも言わんばかりだ。

 

 

そしてそこには、添えられるように置かれた1枚の手紙。

 

よくないものだ。

 

ひと目見てそう思った。

恐るおそるそれを手にし、糊付けもされていない封筒から便箋を取り出す。

 

流し読みで十分だった。

 

予想していないところから頭を殴られたように、それは衝撃となって俺を襲った。

 

 

 

見せるつもりも隠すつもりもなかったそれを、ごく自然な動きで時雨が俺の手から取っていく。

 

「これ、は……」

 

それを一読した時雨も困惑の表情を浮かべ、なんと言っていいのか分からない様子。

無理もない。

 

最悪で、最低の結末だ。

こんなのが真実であるのなら、クソのような男が艦娘たちを慰み者にしていただけのほうがまだマシだった。

 

時雨の手に握られた手紙を横からかっさらい、今度は霞が読み始める。

 

 

「狂ってるわ」

しばしの沈黙のあと、深い溜息と共に口から吐き出されたそれに誰もなにも答えない。

 

「どうするのよ、このまま報告を?」

「できるわけがない」

 

 

そう、こんなものを報告するわけにはいかない。

艦娘は人類の希望だ。

そうさせると俺が決めた。艦娘の未来を手に入れるためにはそれが絶対に必要なのだ。

ならば偶像は、汚れ一つ付いていてはいけない。

 

艦娘は人間と友誼を結ぶ存在であり、決して害を与えない友人でなければならない。

 

 

それを、こんな……。

 

「まさか、司令官を愛していただなんて」

 

 

 

『誰にも渡さない。私だけの司令官。誰の手にも触れないように、誰の肌にも触れさせないために』

 

 

四人の艦娘を自分勝手に、性の捌け口に使うような奴だ。

それを愛していただと? そして、自分以外の艦娘に手を出す彼を独占するために殺したなんて、愛憎渦巻くヘドロのような感情の末の惨劇を、俺の立場で誰に言える。

 

 

『私だけがずっと、愛してあげる』

 

そこには黒い狂気の感情で彩られた文字が延々と書き連ねられていた。

 

 

フランスでは相続のための殺人に使われることが多かったので、そのまま相続薬とも呼ばれたらしいその毒薬。では彼女は、その男からなにを相続したのか。

 

今となっては、もう誰にも分からないことだ。

 

 

『私は司令官だけの物。あの人は、私を汚す他の男を決して許しはしないわ』

 

 

 

 

隠すどころか、今となってはこれ見よがしに、まるで自らの功績を誇るように。それらが置いてあったようにも思える。

 

他の三人に手を出す最愛の司令官を恨み、その彼に抱かれる僚艦に嫉妬し、そして自分を汚す二人目の男を許せなかったその女。

 

 

もしかすると、それでも他の三人を守りたかったのかもしれない。

こうして証拠を並べてあるのは、そういうことなのかもしれない。

 

そうでなければ、救いがなさすぎる。

 

 

 

 

 

ここで眠るのもこれが最後。そんな夜だ。

提督も明石もすでに夢の中で微睡んでいる時間に、霞は時雨を呼び出した。

 

彼女に確認しておかなければいけないことがある。

 

時間はあまり掛けられない。ワタシたちの司令官は、放っておくと悪夢にうなされてしまうからだ。彼にとっての睡眠は休息になっていないのかもしれない。ワタシたちが側にいてあげないと、あの人はダメになってしまう。

 

 

 

あの女と呼ばれた彼女。

その艦娘は歪な愛を胸に秘めていた。

 

誰かの愛情などどうでもいいことで、好きにしたらいいとも思うが、その対象がウチの司令官であるなら捨てておけない。

時雨に限ってそんなことにはなり得ない。そう信じてはいるが、ここに一人。そうではない方法で愛を独占した艦娘がいた。

 

彼の身近にある危険は排除したい。彼に降り注ぐかもしれない万難は全て取り払ってあげたい。

彼はソレを望まないかもしれないが、ワタシがそう望んでいるのだから仕方がない。

 

 

 

「アンタはそこんとこどうなの。先に言っておくけど、不穏な解答をするようならアンタでも放っておけないわよ」

 

 

霞の言葉はキツく聞こえるが、彼女は優しい。「だからワタシの前で迂闊なことを言わないで」と、そう言っているのだ。

 

たとえ友軍でも、戦友でも。提督に害をなすなら掃いて捨てると言う霞。

 

ああ結局、僕も霞もとっくに壊れているんだ。カタチが違うだけで、僕たちはどこまでいっても沈んだ彼女と同じ穴の狢。

人間に惹かれるのは艦の魂のせいだなんて思いたくない。これは、僕だけのキモチ。

 

そう、僕の狂気の沙汰(キモチ)だ。

 

 

「ふふ、まさか」

 

でも安心してほしい。幸いなことに、僕には彼を独占したいという思いがない。

嫉妬心はあっても独占欲ではないのだ。

艦長や司令が変わることなどままあること。そして司令や司令官ともなれば、複数の艦を指揮下におくものだ。

 

僕の提督が彼から変わることはない。それで十分満たされている。

それはとても自慰的で、あるいは被虐的なものかもしれない。しかしそれが僕の意思。

そして駆逐艦としての僕は、彼が艦隊を大切にし、また隊のみんなが彼を必要とすることも望んでもいる。

 

いいとこ取りで申し訳ないくらいだ。

多分、霞もそう思っているだろうし、他のみんなもそのはずだ。

 

 

この島の、彼女だけがとびっきりの変異種。

アレも提督の言う個性なのだろうか。

個性を伸ばせだなんて提督は言うけれど、そんなものなら僕には必要なさそうだ。

そう、僕には分からない。分かっているのは僕の気持ちだけ。

 

「僕はね、彼の花なんだ」

 

霞に嘘をつくつもりはない。その必要もない。

 

「彼のために咲く花。彼だけに愛でられて、花を開かせる様を楽しんでもらったなら、その香りで喜ばせてもあげられる。そして」

 

 

「そしていつか、彼に手折ってもらえたら……」

 

 

 

夢現。遠くの景色を見るかのようなその視線は美しくおぞましい。

時雨をこんなにしてしまったのはなにが原因だったろう。佐世保で会った彼女はここまでではなかったように思う。

じわじわと体と心を蝕み、浸食していくこれこそ呪いだ。

 

 

ワタシはどうだろうか。

時雨は手折ると表現した。ワタシは彼に沈めてもらいたいわけではない。

だけど、彼のためにならワタシは喜んで沈むことができるのだ。

そのときのワタシは、きっと胸を張りながら誇らしい気持ちで海に還るのだろう。

ワタシと時雨の求められ方は違う。必要だと言われたい、でもそのカタチが違う。

ワタシと時雨も似て非なるもの。

 

ワタシも、呪われている。

 

いや、彼から受けるこの影響がもたらす結果を、もしかすると祟りと呼ぶのかもしれない。

 

狂っていたのは誰だったのだろうか。




惜しみなく愛は奪うものと有島先生は書いておられますね。
与え続けると目減りするとエキドナさんも言ってましたし、どうなんでしょ。


病んでるわけではない、病んではないんやー!
これは愛。これが彼女の愛の形……。
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