少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
「こんにちは時雨さん」
「こんにちは、いつもありがとう」
小屋のある島を訪ねる数少ない人間。彼らは2週間に1度という頻度で補給物資を運搬する輸送船の乗組員で、声をかけてきたのはなにかと時雨を気にかけてくれる年配のベテラン軍人さんだ。
「しばらくぶりですね、なにか変わったことはありましたか?」
輸送船の乗組員は固定されているわけではないため、この乗組員に会うのは2ヶ月ぶりのことになる。
「毎日変わらず、だよ」
「哨戒に出られてたんですか? 時雨さんなら万に一つもないとは思いますが、気をつけてくださいね」
「毎日の任務だからね、でもありがとう」
「最近ここいらを担当してる乗組員の間で噂になってるんですが、ここ3ヶ月くらいかな? この近辺で深海棲艦に遭遇することがなくなったってね」
「そうなんだよ。おかげでかなり遠くまで行かないと見つけられなくなってね。苦労してるよ」
時雨がそう言うと、男は驚いたように言った。
「見つけに行くんですか?」
「うん。ここに来てすぐの頃から訓練も兼ねてね、できる限り交戦するようにはしてるかな」
「じゃあ、この海域で遭遇しなくなったのは……」
「気付かれちゃったのかな? 今では結構広範囲を哨戒するようになっちゃったよ」
「これは……時雨さんに足を向けて寝られないですね。南方の女神様だ」
「やめてよ、僕なんてまだまだだよ」
残燃料も厳しい中、深海棲艦を見つけるための哨戒活動は大変なものだ。
ここに来てもう10ヶ月。いよいよ二人の生活にも終わりが見えてきた。
自身の練度は上がっている。と、自信を持てる程度には努力もしたし実感もしている。
ついでに料理や洗濯の腕もカナリ上達したと思う。思う存分凝れるほどの食材が手に入らないのは残念だが、それについては、内地勤務にでもならない限り今後もあまり改善しないだろう。
提督のほうはと言うと、たまに何処かから見つけてきた釣竿を持って、夕食の食材を提供してくれる以外は小屋に籠もって資料を漁りながらなにやら懸命にまとめている。
チラッと覗いたところによると、戦争の想定と推移。それから戦後の展望なんて文字が見えた。
また、定期輸送の船に頼む品に書籍が増えた。今日の荷物にも入ったいたが、ミクロだマクロだのいう本がどう繋がっていくのかはわからない。ただの趣味かもしれないけど。
彼の頭の中でなにが考えられているのかはわからないが、それについては別に問題ない。
彼が話してくれるときに聞いて、彼が必要とするときに動けるように備えるだけだ。
その日もいつもと変わらない朝だった。
妖精さんたちと協力し、脱衣所に脱ぎ捨てられた二人分の洗濯物を片してから軽く浴場の掃除をする。
桟橋の近くに建てられた質素なドックに足を運び、妖精さんたちが毎日汗水流して整備してくれている艤装を身に付ける。
ここには工員も工作艦もいないので、本格的な整備をもうずっとしていない。それでも騙しだまし、完調を保てるようにと頑張ってくれている妖精さんたちには感謝だ。
僕も妖精さんたちも、ちょっと艤装のメンテに対する能力が上がっているようにも思う。
今までなら、自分で艤装をバラすなど考えたこともなかった。何事も経験すると蓄積されるということを、今さらながらに実感する。
何人かの妖精さんたちが艤装に乗り込んだのを確認すると、足を海に着けて朝の哨戒に出発だ。
今日は東の島嶼辺りに行ってみよう。潜水カ級でもいるようなら、輸送船にとっての脅威になる。
海に出てから2時間ほど経ったところで妙な空気を感じた。
うなじの辺りがチリチリとする。残念ながら嫌な予感ほど当たるものだ。対潜警戒を厳にして進む。
しかし、予感は半分外れたようだ。
その日は結局潜水艦に出会うことはなかったからだ。
そう、潜水艦には出会わなかった。
「こんなところに棲地が作られてるだなんてね」
とある島の湾内に深海棲艦が構築中の泊地を見つけたのだ。
こんなところに敵拠点を整備されてしまえば、付近の泊地や基地が空襲の危険に晒されることとなる。
敵泊地に気付いてすぐさま距離を取り、ボイラーを止めて島に上陸した。素直に海上を移動したなら発見されてしまうかもしれないからだ。
提督と出会った初めての佐世保でも陸上移動を何度かしたが、それ以後も陸上訓練を欠かさずにいたのが役に立つ。
島内に鬱蒼と茂る木々を縫っての単独縦走。
帰りが遅くなることで、提督が心配するだろうことだけが気がかりだ。
さすがに南国の島でジャングルを駆けるのは骨が折れた。制服は汗でびっしょりだし、生足で来るようなところでもなかった。
すでに太陽は真上に鎮座し、さんさんと熱量を大地へと降らし続けている。
アゴから落ちる汗を拭いながらも、ようやっと湾内が見通せる場所に到着する。
多くのワ級に混じって軽巡ホ級に駆逐イ級、重巡リ級のほか、奥には戦艦ル級の姿まで見える。
まさに勢揃いといった様相。さすがに駆逐艦単艦でなんとかできる相手ではない。
さて、提督が死ぬほど心配しているだろう。早く戻って報告しなければ。