少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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季節感? 知らない子ですね。

イベントはまったり進めて順調に拡張作戦に突入。
まったく進まない物語本編の筆やすめに書いてた番外ものに集中してしまった結果、予想とは全然違う季節に投稿することに。

そしてキリがないので章を分けました。最後の最後です。



◼️章 此岸の果実、彼岸の花弁。
The future that might have been.7


「はい、みなさん。時間がありませんから、事前の計画どおり円滑に進めていきますよ」

 

東海地方にあるとある集落。その山と海に囲まれた自然豊かな地に与えられた我らが新天地。その大きな日本家屋のキッチンで、集まっている艦娘たちを前に手を叩いて指揮を執るのは村雨。

 

落ち着いた色合いでまとめただけの、なんてことないカットソーにボトム姿ではあったが、どことなくフェミニンな空気を醸し出しているのは彼女の資質と弛まぬ努力の成果だろう。

 

彼女の前に時雨や長波など数人の艦娘が集まっているのは、本日から有志による秘密作戦が決行されることになっていたからだ。

時間は予定されていたとおりの9時。

限られた時間の中で行われる今次作戦。全員が揃っていることにまずは一安心。

 

 

「提督さんの帰宅予定時刻に変更はないっぽい?」

「大丈夫。朝に確認したけど、夕方までは山田さんの家でお手伝いがあるって言っていたよ。早くても帰宅は17時頃になるみたいだね」

 

手を上げて質問するのはパーカー姿がかわいい夕立。それにはエプロン姿の時雨が答えた。

行動を起こすときは執拗なくらいに確認をしたほうがいい。そしてそれらを全員に周知徹底することが円滑に作業を行うことに繋がると、ここにいる艦娘ならば当たり前のように教えられ、そして経験してきている。

 

 

「それでは、来たるVデーのための手作りチョコレート大作戦。その前段作戦を開始します」

 

 

憂慮のなくなった村雨が、満を持して作戦の開始を宣言する。いざ戦場へと言わんばかりに整列する艦娘たちだが、みな私服であるために凛々しさよりもかわいらしさを前面に押し出す立ち姿。そんな彼女らを前に、早速作戦内容についてを語るとしよう。

 

 

「手作りチョコレートについては各自書籍などから情報を仕入れているとは思いますが、万が一にも不手際があってはいけません。作戦司令部の基本的な方針を伝えるので、意思の統一を徹底してください」

 

作戦に臨むにあたり、各員が同じ目標を共有し、同じ方向を向いている必要がある。

わからないことは質問し、懸念事項は確認し、一連の流れを頭に入れて戦略目標の達成に向けて動くのだ。

 

 

 

そうして始まった、村雨から伝えられる作戦内容がこれ。

 

「まず、Vデーを手堅く勝つために、手作りチョコレートはできる限りチョコから離れたところで勝負します」

 

手作りチョコはチョコじゃないもので勝負すると言われても反応に困る。

作戦への不信感が蔓延る前にその真意を尋ねなければと、自らの役割を自覚した長波が手を上げて質問する。

 

「待て待て、バレンタインデーってチョコをあげる日なんだろ?」

 

こちとら、それでなくとも人間のイベント事には縁遠い艦娘である。

長年海しかないような、本土から遠く離れた南の海で、煤だらけの油塗れ、そして血を流したり血を浴びたりと、およそ乙女らしからぬ生活をしてきたのだから、もしかすると根本のところからわかってないことも考えられる。

 

わからないことは素直に聞いておき、一刻も早く一般女性らしい感性を身に付ける必要性も感じていた。

ならば、この家に住む艦娘の中で、多分最も乙女な事柄に詳しい村雨に説明をしてもらわなければならない。

 

それは当然出るべき質問だと理解していた村雨が言う。

 

「聖ウァレンティヌスさんの話ならスルーするところですが、はい。チョコレートをプレゼントする日って認識で大丈夫かと思います」

 

バレンタインデーに女性がチョコを贈るのは日本独自のローカルルールだ、なんて話はすでに広く知られていることだろう。

長波たちがそれを知っているかどうかはわからないが、日本の製菓メーカーが仕掛けたマーケティングの成功例として、そこは素直に乗っかっていけばいいと思う。

ウァレンティヌスさんが拷問の末に獄死した日だから、浮かれず喪に服すのだ。なんてのは、心に闇を抱えた一部の男子だけがやればいいとも思うので、その説明は省く。

 

 

そう、日本国に住う国民の一員として、バレンタインデーとはチョコレートを贈る日なのだ。

しかし村雨は、チョコレートから離れると言う。その真意を問わなければ、作戦成功への大きな障害にもなりうると、長波は思ったわけだ。誰にでも理解できる、納得できる答えが必要だった。

 

 

「じゃあチョコから離れるってのはなんでだ?」

「それは手作りチョコレートが不味いからです」

 

真顔になった村雨の、身も蓋もない発言に、聞いていた面々もついつい真顔になってしまう。

それは、戦う前から敗戦ルートなのでは? と不安になる問題発言である。

日本の乙女たちが一致団結してチョコレートを手作りする中での結論がそれとは、我が代表堂々退場すのようで落ち着かない。

 

 

しかし、此度の判断については間違っていないのだと村雨は自信を持っている。

なんなら乙女力の高い一部の女性たちは当たり前のように同じ戦略を選択するのだと。

 

「テンパリングもできない素人が板チョコを溶かして違う形に固め直しただけの物なんて、せっかくのチョコレートを油分の分離する劣化した姿に変えるだけです。風味もなにもなく食感も最悪……それならまだ板チョコのまま贈るほうがよっぽどマシ。そんな物をプレゼントしたいだなんて、ただの自己満です」

 

まず村雨は、手作りチョコを選択肢から外した理由を説明していく。

不味いからだと言われてしまえば、なるほど選択肢には入らないだろう。理解した。

 

 

「いいですか、日本の製菓メーカーはとても優秀なんです。コスト度外視で作らないと市販品ほど美味しいお菓子を作るのは不可能。特にチョコレートの類は湯水のようにお金だけかけても、私たちではまったく太刀打ちできません」

 

そう、日本のメーカーが作るお菓子は美味しいのだ。

お菓子作りを趣味にする人なら身をもって実感しているだろうが、お菓子の材料は金額の張る物が多く、どれほど手堅くコストを絞ってもメーカーから販売されているお菓子の値段にはとうてい届かない。また金額にばかりに気を取られたお菓子作りなど楽しくもないだろう。

 

そしてお菓子作りは料理と違い、計量こそが命とも言える繊細な作業である。

わずかな分量の違いで味が破綻する至高のバランスの上に成り立つ神の奇跡。

お菓子の完成度、つまり味の違いとは、素材と技術次第というわけだ。

 

メーカーの研究者や菓子作りの職人たちが、気の滅入るような途方もない年月を重ね、そして腕を磨いてきた。彼らほどお菓子に懸けてきた者はいないと村雨は言う。

素人がそれらに比肩することなど、地球がひっくり返ってもありえない。素人のお菓子作りに関しては、神の奇跡も起こらないのだと。

 

 

 

「ですから、できる限りチョコレートではないチョコレート菓子を作らなくてはならないのです」

 

これが村雨曰く、バレンタインデーにチョコレートを作らない理由である。

 

 

「間違いのない手作りお菓子で提督に喜んでもらう。その戦略目標を達成するために、私たちが取るべきは小麦粉とココアを使用したお菓子です」

 

「なるほど、チョコレートじゃダメなことは理解した」

 

そこまで熱弁されたあとで、しかしバレンタインデーならチョコレートだろう。なんて反論はできようもないと長波は思った。

他の参加者たちも納得顔で頷いているので問題はない。むしろ村雨に任せて良かったという空気を感じた。

 

 

 

「提督はチョコレートが好きです。これは身近にいる艦娘なら知っている子も多いと思いますが、彼はチョコレートだけではなくチョコ味なら大体なんでも好きです」

 

提督のチョコ好きは艦隊内で知れ渡っている。いつでも冷蔵庫に板チョコが常備されていることも有名であり、なんなら彼は海戦に出張ったときでも食べられるようにと座上艦にもチョコを持ち込んでいた。

 

しかも、そんじょそこらの人が食べたらくどくて食べきれないレベルのチョコチョコしたデザートでも喜んで完食するくらいのチョコレートホリックだ。

 

チョコ好きの人間は多い。そしてケーキ好きの人間も多いだろう。しかしチョコケーキとなると、不思議なことになぜかその魅力が半減していると感じる人間もいるだろう。

が、提督はチョコケーキも好きだ。

おかげでお土産に貰ったケーキの詰め合わせを選ぶときなど、提督の艦娘たちは意識せずともチョコケーキが一つは残るように選んだものだ。

 

 

それほどチョコを愛している提督にはチョコレートに一家言あるらしく、板チョコは明治の物以外を口にしない面倒な奴でもある。

 

さらにお菓子全般が好きで、それに携わる方々に敬意を持っているとかなんとか言う提督は『スイーツ』なる言葉が嫌いだ。

 

彼曰く、「スイーツって駄菓子だぞ? 駄って駄目とか駄作の駄なわけだ。食後のあとに提供される嗜好品がデザート。炭鉱の労働者なんかが糖分補給などに摂取したのがスイーツだ」らしい。

なので彼はパテシェが、またはチョコレートを愛し、そしてチョコレートから愛されるショコラティエが作るデザートをスイーツ呼ばわりする風潮に懐疑的なのだった。

 

 

「チョコから離れるってのはわかったけど、なら僕たちはなにを作ればいいんだい?」

 

行き先の見えない現状に答えを求めたのは時雨。その可憐なエプロン姿に、侮りがたし我が姉よ、と村雨は思ったり思わなかったり。

 

 

「提督のチョコ好きは極まってますからね、そんな彼を喜ばせる逸品。それは……」

 

一息の間を取り、集まる視線の中で宣言する。乙女のための日バレンタインデーを勝利で過ごすための手段を。

 

「フォンダンショコラです!」

 

 

 

「くどくて最後まで食べられないってほどのフォンダンショコラを作りましょう。これが、私たちが提督に贈る真心です!」

 

入念なリサーチの結果、チョコレート好きを満足させられる手作り物として白羽の矢が立ったのがフォンダンショコラだった。

そして贈る品が決まったからと油断する村雨ではない。決まったからにはより追究し、少しでも成功確率を上げなければならない。その過程で知り得た情報も合わせて、今回の手作り案件を説明していく。

 

「最近は手軽に簡単フォンダンショコラなんてレシピもありますが、アレはやめておいたほうが無難なので、どうせならチョコ好きを唸らせる最高の物を作りたいと思います」

 

「簡単レシピだと気持ちがこもらないとか、そんな理由じゃないんだろうな?」

 

理由があるなら手間を惜しむことを厭うつもりはないが、精神論の類なら簡単に同意し兼ねる。先の戦争で精神論に振り回されてきた長波としては古傷に触る思いだったが、それもすぐさま村雨により否定される。

 

「違いますよー。フォンダンショコラって、ナイフで割ると中のチョコレートがとろけ出るような、聞くだけで胸焼けを起こしそうなお菓子なんですけど、これ、中身を固めないために焼き時間を短めに調整して半生に調理するレシピが出回ってるんです」

 

 

一般的に出回っている簡単フォンダンショコラのレシピとは、バターにチョコを混ぜ合わせ、それに砂糖と卵、振るった小麦粉をさらに加えて混ぜ合わせたあと、中身が半生になるよう時間を短めにオーブンで焼くだけのものだ。

名前に恥じぬ簡単さで、材料の準備さえできていれば30分もかからず完成する手軽さ。

 

それではダメなのか、と疑問に思う声もあるだろうが、その答えはこれだ。

 

「それだと問題が?」

「大問題です」

 

 

 

「私たちなら、まぁ平気かも知れませんけど、熱を通さない小麦粉って毒なんですよ。私たちの手作りで提督が食中毒なんてことになったら……」

 

日本では、それこそ手作りフォンダンショコラ以外ではあまり聞かないかもしれないが、アメリカなどではたびたび小麦粉の生食で事故が起きるらしい。

あちらの国では休日に子供とクッキーを焼くといった、非常にアメリカンな文化があるようで、手に付いた小麦粉やつまみ食い、中には焼く前のクッキー生地を口にしてしまうなんてこともあるようだ。

 

生の小麦粉は消化不良を引き起こすので、これらは絶対にしてはいけないことなのだが、砂糖やバターが混ざった小麦粉は生でもそれなりに美味しいらしく、残念ながらいまだに周知されずに健康被害を訴える方々が消えない。

 

もしもそんなことが提督の身に起きてしまったら……。

 

「あぁ、霞になにされるかわかったもんじゃないね。標的艦にされかねないぜ」

 

想像してしまったのか、霞の右腕として長らくパートナーを組んでいた長波が腕を抱いて震える仕草をする。

その発言で、霞がバレンタインデー作戦に参加していないことに気付いた村雨。

「そういえば霞ちゃんの姿が見えないようだけど?」

 

 

「霞は金剛さんと買ってきた物を渡すから、今回は参加を見合わせるんだって。お気に入りのチョコレートがあるから、それを提督にも食べてもらいたいってことみたいだ」

 

霞から予定を聞いていた時雨がそう伝える。

霞のことだ、先ほど村雨自身が言ったように、手作りではプロが作った市販品には到底届かないことに早々気付いたのだろう。

霞らしいことだと納得できる。

 

「なんだ、霞は作らないのか。でも霞がお気に入りだなんて言うんだから美味しいんだろうな、アレか? ちょっとお高い明治の『The Chocolate』ってやつ。それともまさか『GODIVA』とか言う大人の定番物か?」

 

あまりそういったことに詳しくない長波が、頭の中にギリギリ組み込まれていた高級チョコレートの名前を引っ張り出すと、これまた時雨が答えてくれた。

 

「そんな名前じゃなかったね、『ピエールマルコニーニ』って言ってたかな?」

「名前からしてオシャレだな。高そうだし美味そうだ。まぁ手作り作戦でいく長波たちと被らないジャンルならなんだっていいんだけどさ」

 

人は人、と簡単に割り切ってしまう長波の感想はこんな感じ。

品がなんであれ、方針が被らなければ問題はないとの男気溢れる判断である。

 

その名前を聞いて村雨が美人のしてはいけない顔をしていたようだが、それには誰も気付かなかった。

 

 

 

「で、その安全なフォンダンショコラってのはどうやって作ればいいんだ?」

続く長波の問いに、素早く表情を切り替えた村雨が説明する。

 

「簡単ですよ? 中身と生地とを別々に作ればいいだけですから」

 

聞いてしまえばそれは単純。最初から分けて作ればいいと村雨は言う。

とろける中身には小麦粉を使用しない。それなら生地をしっかり焼き上げたところで固まってしまうことがないわけだ。

 

「ですので、基本工程は二つです。中身となるチョコレートを作るのと、それを包む生地。あとは焼くだけですね。それを手分けして作っていこうと思います」

 

やることが決まっているなら、あとは手を動かすだけだ。

用意されている生クリームを鍋で温め、製菓用のチョコレートを加えてよく混ぜる。

これを冷蔵庫で固め、生地を焼くときに中に入れてやればいいと、思っていたより簡単にできそうでそれにも一安心。

 

 

 

そうやってして、それぞれが与えられた任務に携わっていたのだが、ちょっと目を離した隙に次の指示を与えるはずの司令艦、村雨の姿がないことに気付く。

 

「あれ、村雨はどこに行ったのかな? 混ぜ終わったと思うんだけど、もう冷蔵庫に入れちゃってもいいのかな」

時雨に答えるのは、自称味見係としてこの集いに参加している夕立だった。

「村雨なら血相を変えて出て行ったっぽい。すぐに戻ってくるって言ってたけど」

 

 

お花でも摘みに行ったのだろうか、そんな風に思っていると、なにやら廊下を駆ける足音が聞こえ──

「お、お待たせっ!」

 

肩で息をする村雨がキッチンに駆け込んできた。

そうして室内の注目を集めた村雨は、息も荒いままにこう言った。

 

「これ、チョコレートの隠し味にっ」

 

村雨が突き出した手に握られているのはスリムな形をした真っ黒の瓶。いかにもワインだ、という形をしている。どうやらこれを自室まで取りに行っていたようだ。

 

「なんだぁ、必要物資が揃ってないだなんて村雨らしくないな」

揶揄するのは同じく司令艦経験者の長波だが、実は、これは村雨の準備不足ではなかった。

 

元々使用するつもりのなかった物なのだ。

 

「へぇ、洋酒を隠し味に使うだなんて、ちょっと大人っぽくていいね」

 

素直に感嘆してくれた時雨ににっこり笑顔で返した村雨が、ワインのラベルを見せつけるようにして言う。

「そう、ヴァイゼンハイマー・ハーネン・シャルドネ・アイスヴァイン! 希少なシャルドネ種を使った究極の白、そのデザートワインです! これを使って最高のフォンダンショコラを提督にプレゼントしますっ!」

 

「おぉ、全然わからないけど、なんか凄そうだな」

 

 

村雨が隠し持っていたとっておき。正直フォンダンショコラの隠し味に使うにはもったいないワインなのだが、村雨は迷うことなくこれの投入を決断した。

敵戦力を見極めて作戦を立てるのが司令艦の役割だ。乙女としては、簡単にピエールマルコニーニに負けるわけにはいかないんだと! 見えない炎を体に纏わせ闘志に燃えていた。

 

 

「これは隠し味なので、ほんの気持ち入れるだけですよ」

 

使うと決めたら即決即断。とはいえ、開栓するときにはちょっとだけ逡巡することになった。

ドイツが誇る希少なワインだ。上質な甘さで豊かな味わいを約束する至上のワイン。僅かな量でも隠しきれないその存在感は神々の作りし大地の雫。も、もったいない……。

 

 

そんな村雨のとっておきを投入したチョコレートは、芳しい香りを放つ大人のためのチョコレートとして完成した。

「ん、こんなもんか。あとはこれを冷やして固めるだけか?」

 

「そうですね、フォンダンショコラの中身になるので、一粒チョコなんかよりかなり大きめにして固めましょう」

 

生地にナイフを入れ、中から溢れ出るチョコレートを見たとき、果たして提督はどのような顔をするだろう。きっと私たちの想像どおりの顔を見せてくれるはずだ。

その顔を思うなら、中身のチョコレートは大きめにしておきたい。

もちろん、それに待ったを掛ける意見など出はしなかった。

 

 

「次は生地作りですね、まずは材料を温めます。溶かしたバターをねっとりするまでかき混ぜてグラニュー糖と混ぜる間に、チョコレートと卵も温めておきますよ」

 

「卵も温めておくんだね、どのくらいの温度にしたらいいのかな」

「人肌になるくらい温めちゃってください。バターもチョコレートも油なので、温めておかないと乳化しづらいんですよ」

 

一人でいるときは結構ズボラな村雨は、自分の分だけだとインスタントやエネルギーチャージ的なゼリーで食事を済ませてしまうタイプだが、それでも料理のスキルはカナリのものだ。

 

彼女に作戦立案を任せて良かったと、参加する全員が成功を確信していた。

 

全ての準備が整った。

あとは提督に気付かれることなく夕食後にオーブンで焼いて、明日の朝一にでもプレゼントするだけだ。

 

きっと喜んでくれることだろう。

 

 

バレンタインデーとは、準備している時間さえも幸せ色に彩られた楽しいイベントだった。

今だってこんなにポカポカした気持ちになっているのに、明日になればもっと、胸に灯る想いを実感できることだろう。

 

それはとても幸せなことだと、口に出さずともみんなが感じているのだとわかった。




ホントはプレジロンSU-600という、砂糖の600倍甘い甘味料を使っての手作りバレンタインデー大作戦を書くはずだったのですが、文量が多くなったのでサクッと諦め。

甘すぎて舌先が麻痺するお菓子ネタは各人の脳内で展開してくだせぇ。
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