少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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「命は皆一律に等しい。だから、それは付加価値によって測られる。人の命は平等で、そして優先順位はあるのよ」と言うのが霞。

「人の命は平等ではない。俺の隣に立つ者と、俺の前で対峙する者が同じ価値を持つはずがない」と言うのが提督。

「提督とそれ以外だね」と分けるのが時雨。



お出かけの艦隊5

到着後の部隊展開はさすがの練度。

鈴谷は地図で当たりをつけた狙撃ポイントに移動し、阿武隈たちはいつでも銀行に突入できるよう付近の車の陰に陣取った。

 

 

現場から少し離れたところに停めたメガクルーザーの裏には提督と霞、それから刑事の男。ここが前線司令部代わりになる。

 

警察としては羨ましいところかもしれない。

事件が起こっている建物の前に司令部が設置されるなんて警察では起こり得ないだろう。つまりあれだ『事件は現場で起こってるんじゃない、会議室で起こっているんだ!』なんか違ったっけ?

 

しかしこの度はとてもイレギュラーに、事件の指揮をリンガ艦隊司令官が執る。

当人が現場にいるのだ。

刻一刻と変化していく状況にも柔軟に対応し、誰の顔色を伺うでもなく即決即断で事に当たれる。

 

『無線越しに命令だけ出すのは無責任ではないか?』と(のたま)う提督にとってはいつものことで、そして理想の環境でもある。

 

さて、あとは状況が整うのを待つばかり。そんなとき。

 

「ひゃっ!」

 

緊迫した空気が漂う中で変な声が出た。なんの前触れもなく、提督が後ろから霞を抱きしめたのだ。

眉間のシワをさらに深くした霞が口を開く前に、肩越しに顔を出した提督がじゃれるような体勢で呟く。

 

「作戦は変更だ」

 

周りからの好奇な視線が気になるが、提督に合わせて、まるで恋人同士のように背をもたれさせる霞。

提督の髪を撫ぜるようにしながらも、小声の口調はいつもと変わらず問う。

「なによっ?」

 

「どうもただの強盗騒ぎじゃ収まらないようだ」

「どういうこと?」

「妙に手馴れてる。突入の手口も鮮やか、現場の状況からも行内の制圧に時間をかけてないことが窺える」

 

言われて周囲の様子を確認する霞。現場に繋がる交差点はどちらも規制をかけている。現場に展開するのも早かった、それもあるが。

 

それにしても静かすぎる。騒ぎになるどころか野次馬一人いないのだ。まるで、強盗が銀行に押し入ったことに誰一人として気が付いていないみたいに。

 

「道一本向こうに大手の銀行があるはずよね」

先程確認した地図と現地の様子を重ねる。なぜ大手を避けてまでこちらの銀行に押し入ったのか、静かすぎる現場と合わせて嫌な予感が止まらない。

 

 

口を開こうとしたとき、霞の下げている無線に鈴谷からの通信が入った。

「ダメだぁ、木が邪魔して行内を狙える狙撃ポイントがないよー」

 

 

「まさか、全部計算されている?」

「出入り口を見ろ、突入時に身を隠すところはなく、オマケに中がどうなってるのか植栽が目隠しになってて外からは見えん」

 

イマドキの銀行ならもっと開口部を大きく開き、誰にでも入りやすい設計にしそうなものだが、確かに。この銀行は古いタイプなのか、そういった配慮がなされていないように思う。

 

メインストリートとも言える道から一本入ったところにあるので、交通量はそれなりにあるようだが歩行者はおらず、それも強盗には都合が良さそうだ。

 

さらに提督が言う。

「三方は建物に隣接してて、出入り口の他に突入できそうなところは唯一道路に面した窓側だけ、それも今はシャッターが降りてる」

 

光量はあの窓で確保していたのだろうか。今はシャッターで塞がれているソレはまるで灰色の壁のようだ。

銀行に使われるシャッターが一般的なものより頑丈にできている、なんて話は聞いたことがないが、さて。

 

幸いこちらは陸上訓練を経験しているリンガの艦娘だ。やってやれなくはないが、しかし中の様子がわからないままアレを火力で突き破って突入するわけにはいかないだろう。

 

 

 

提督が霞を抱き寄せているのを横目で窺い見る刑事。

何か勘付いたのかとも思ったが、その様子を確認し、すぐに気のせいかと頭を振った。

 

「あの霞って子。あんなかわいい顔もできるんだな」

安心しきったかのような顔で提督にもたれかかる霞は、どこにでもいる普通の、恋する乙女のように見えた。

「そんな場合じゃあないんだが、どうもやっこさんらとは感性が違うのかねぇ」

 

 

二人を知らない警察官たちから見たら、今も変わらずイチャついているように見える提督と霞。二人を知っている艦隊の艦娘から見ても『いつものようにイチャついている』としか見られていないのだが、ともかく、顔に胡散臭い笑顔を貼り付けたままの二人は話を続けている。

 

「強盗のプロ、なんてのがいるなら別だけど。でなければ軍隊経験者?」

「その可能性がある。事件発生から20分も経ってる、相手がただの強盗なら時雨が叩きのめしていても不思議じゃないし、そうでなければ強盗に成功した犯人たちがいつまでも行内に居座る必要もない。それに……」

 

言葉を切った提督に先を促すよう、霞が頬を重ねた。

「軍だ。俺の勘もそう告げている。陸さんかウチかまではわからんが、もしそうなら……そこまでわかっていて俺たちを現場まで引っ張ってきたとも考えられる」

 

目をつぶり小さく溜息を吐くと、霞が提督を押しやる。

 

「もぅ、そういうのは帰ってから。ね」

霞が提督から離れるのを見て、何人かの警察官が露骨に目を逸らしたのが癇に障った。

とんだ狸ね、やってくれるじゃないの。

 

 

「鈴谷、一旦戻って。それからイクを呼んでちょうだい、なんとか中の時雨とコンタクト取るわよ」

 

言っちゃ悪いが、ただの強盗であれば簡単な仕事だ。そんな風に霞は思っている。

なにせ、こちらの普段の職務は戦争なのだから。

過去には他国の軍隊と、そして今はその戦力も、目的さえも不明である未知の生物と戦っている。

 

今さら強盗程度を問題にしない。

それが強盗であるのなら、だ。

 

 

提督の言うとおり、強盗であれば長く行内に留まる必要などない。

ならば目的はお金ではなく、この状況を作り出すことである可能性が高い。

一番に考えつくのは人質をとっての声明発表。相手が警察なのか、マスコミを通じて世論に訴えることなのか、それはわからないが、そのお膳立てはすでに完了しているわけだ。

 

 

時雨は判断を違えない。

 

艦娘への世間の目や軍の立場もわかっている。

だからこそ、人質の安否よりも優先される事柄が発生したなら躊躇なく人質を捨てるだろう。

最悪の状況だと判断した場合。あの頭の切れる艦娘は“事件を無かったこと”にしてしまうかもしれない。

 

心配なのは、事件を解決できなかったときのことではない。

事件にできなかったときだ。

 




【※ ※】

春雨の髪から、肌から色素が流れるように抜けていく。陶磁のように真っ白なその姿は、生気というものをまるで感じさせない。

「誰にも見せたことはないんですけど、春雨の改二は誰とも共闘できないんですよ」


見誤っていた。白露型が持つその狂気を、一番色濃く身に宿しているのは夕立だと思っていた。
現に彼女は、帝國海軍の全駆逐艦の中で突出した突破力と火力を持っていたから。

コレは違う。根本的に、そんなモノではない。


「さぁ行ってください。じゃなイと……間違えテ、シズメてしまイまスヨ」


【言い訳】
また軍人さんの仕業みたいですね、この世界の軍人さんにロクなやつぁいないんですかね。決して考えなしに書きたいシーンだけを書いてきたツケを支払うハメになってるわけではなく。

春雨さんですか? 彼女凄いんですよ。ソロモンでブイブイいわしてた夕立と一緒に暴れてた艦で、みんな大好きソロモン海戦でも夕立と一緒に突撃してる勇敢な子です。
彼女については100話をどうぞ。

え? 好きな駆逐艦ですか?
一隻に絞れませんが、ソロモン繋がりなら朝雲さんが好きです。
ソロモンでもレイテでも、その練度の高さが伺えます。朝潮型はガチ。
朝潮型での戦果一位が霞なら二位は朝雲なんじゃないかなぁ。

霞さんは大東亜戦争の「功績便覧」とか読むと一隻だけ「不明」になってて面白いです。それによると朝雲さんは現状で六位になってます。
興味が湧いたら検索検索ぅ!
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