少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
ちなみに彼は大穴狙い。
奥歯を噛み締めた金剛が指示を出す。
「アヤナミ、カスミをドックへ! ASAP」
その声に反応し、速度に優れた綾波が制止する間もなく倒れた霞を担ぎ上げて部屋から飛び出して行った。
それと同時に、獣のように飛びかかったのは激情を滾らせた夕立。
「時雨! 夕立たちを捨てるっぽい?」
暴力そのもの、そんな荒ぶる夕立の腕を風のようにかわす時雨は不気味なほどに、この状況下でも変わらぬ涼しい顔をしている。
「君にも邪魔はさせないよ」
「
対峙した姉妹。瞬く時も与えずに、赤い双眸の獣があっという間に間合いに飛び込む。
ここは夕立の狩場だ、その純粋な暴力から逃れられた者は一人もいない。
空気を切り裂くような荒々しさで、猛禽のような夕立の指が襲う。
手加減などない必殺の技。捕まれば時雨の肉を引き裂き、命を啄ばむのだろう。
しかし、それだって捕まれば、だ。
時雨はそれを最小限の動きで避けると、そのまま流れるような動きでカウンターを放つ。まるで分かっていたかのように、よくできた、それでいて性質の悪い演劇を観せられているように。
時雨の鋭い拳が夕立のアゴ先を打つ鈍い音。その、たったの一閃で、夕立は糸の切れた人形のように倒れ込んだ。
「君が僕に勝てるとでも思ったのかい」
あの夕立が為す術なく倒される。これは悪夢だ。
霞と夕立が戦えなくなり、綾波が離脱したこの場で時雨を止められる者などもう誰もいない。彼女の障害は全てクリアされたのだ。
「僕だけで十分だと言ったよね? それは海上でも陸上でも、ただ僕が一番強いからだよ」
意識を失った夕立を見下ろし、なんの感慨もなさそうに言う時雨。
まさか、まさかだ。この状況は、ここに居並ぶ艦娘たちにとっては衝撃以外の何物でもない。それは悪い夢のようだった。
秘書艦としてずっと提督と共に過ごしてきたという時雨。
めったと海に出ない彼女ではあるが、攻勢に出る作戦では常に一番の激戦になると予想される役に身を投じていた。
先陣を切るのも時雨。最深部の旗艦を相手取るのも時雨。ときには殿軍として敵性海域に残り、友軍の撤退支援までしてみせた。
そして一度海から上がれば、提督の一番近くに座して彼を警護するのも時雨だ。そのため陸上での訓練も当然のように修めており、近接戦闘もそれなり以上にこなせるのだと聞いていた。聞いてはいたのだ。
しかしまさか、司令艦として艦隊に君臨する霞も、格闘戦で頭一つ抜けた実力を持つ夕立でさえも、こんなにも簡単に戦闘不能に追い込まれるとは思いもしなかった。
気負った風でもなく、激情に身を滾らせるでもなく。いつもと変わらない静かな彼女のままに、稀有な実力を有している二人を、まるで歯牙にもかけずに降すなど想像の及ぶところではなかった。
彼女たちは見誤っていたのだ。
帝国海軍で奇跡とまで呼ばれた最上の駆逐艦。時雨の本当の姿を。
未だその力の底を見せすらしないこの駆逐艦を相手取り、その暴挙を止めることなどできるはすがない。
軽挙に動くことすらままならない、この息が詰まりそうな空間でただ一人、いつもの顔を崩さない時雨は、まるで格が違う存在だった。
「金剛、君の判断ミスだね。霞ならきっと、自身の延命のために綾波を離脱させたりしなかったよ」
綾波の速さは眼を見張るものだったが、時雨にとっては決して捉えられない物ではなかった。見逃したのはわざと。さすがの時雨でも夕立と綾波の二人がかりで来られては無事では済まないと判断したから見逃したのだ。
彼女が彼女の意思でここを出て行くのに、もう障害はなにもない。
そうして彼女は提督に寄り添うようにして、振り返ることなくここを出て行った。
なにもかもを置き去りにして。
なぜこんなことに?
さて、次からはここに繋がるための話が始まるはずですが、まったく書けていないのでいつ読めるかは不明です。(・ω<) テヘペロ
ここに鈴谷や阿武隈がいてくれたなら、少しは変わったのだろうか〜ん。
それとは別に、久しぶりとなるあの人たちの、なんてことのない日常回がそろそろ投稿できそう。
ただの筆休めなので内容はあってないようなものですが、そんな日常のお話こそが彼ら彼女らの人間性(?)ってやつを補強していくのだ。
決して筆休めばかりが投稿されていく理由を正当化しているわけではなく。