少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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秋の夜長、お供にどうぞ。

なんだろう。昨夜の投稿から急にアクセスとお気に入りが増えた。
なにかのタイミングが偶然あったのだろうかー。

もしかすると今の「あらすじ」に騙された人たちなのかもしれない。先に謝っておこう。結構な頻度であらすじを書き直しているが、アレは全部嘘だ。


急に思い立ったので絵を描いてみた。
よし、描こう! と思ったのが出先で、さらに筆ペンしか持っていなかったが、何事も成せば成ったようだ。
それをパソコンに飛ばして整えたのがコチラ!!

【挿絵表示】


これは妄想の中の下巻である『彼岸の花弁』の表紙。
上巻『此岸の果実』は花を持った時雨なんだけど、同じく筆ペンで描いてみたが納得いかないので、いずれそのうち描き直すかもしれない。



〜ある日の横須賀鎮守府〜

「姐さん姐さん! 大変ですよっ!」

 

静寂な空気を打ち壊したのは、いつもは静かな執務室の扉をノックするでもなく開け放ち、開口一番に大声を上げて飛び込んで来た男。

 

「いてっ」

 

男が部屋に一歩足を踏み込んだ瞬間、なにかの衝撃に耐えかねおデコをさすってしゃがみ込む。その足元には同じくおデコをさする涙目の妖精さん。

 

 

「その呼び方はやめてくださいと、そう言いました」

 

やりました。とでも言わんばかりの、しかしいつもと変わらない能面顔で椅子に腰がけ、振りかぶったままの姿を見せる、そんなサイドテールの女性を見て「この人、手近にあった物を投げつけようとして妖精さんを投げちゃったんだな」と理解した。

 

巻き込まれた妖精さんに安否を問う、駆け込んできた男は山崎。

元々は呉鎮守府に所属していたが、訳あって横須賀に匿われるように所属を変えた男。ある意味では被害者とも呼べる環境だが、当人が当人なのであまり悲壮感はない。

 

彼はその適応力を発揮し、今ではそんな環境だけでなく妖精さんなる存在をも当たり前に受け入れている。この運の悪い妖精さんに限らず、加賀が連れている妖精さんなら全員と顔見知りになっている程度の適応能力と言えば、ある種の化け物と呼べるかもしれない。

 

 

「だ、大丈夫っスか?」

「ヤマザキ オレハ モウダメダ。シデンカイヲ……シデンカイヲ タノ……ム」

 

大丈夫そうなので放っておこう。妖精さんはそのかわいらしい容姿に似合わず頑丈なのだ。特にこの妖精さんとは一緒にギンバイを楽しむ仲だ。そして見つかったときには、いつの間にか首謀者を山崎に仕立て上げて被害者面をしていた妖精さんなので慈悲もなし。

 

 

 

加賀という女性。見知らぬ人から見たら能面なのだろうが、これで喜怒哀楽が人一倍激しい。今もあのポーカーフェイスの下で投げてしまった妖精さんの心配をしていることだろう。

それがわかるくらいには同じ時間を共に過ごしてきたはずだ、なんだかんだとここに来てからもう一年近くが経つ。

 

それもこの男、山崎が物怖じしない性格だからこそだろう。

彼女も口に出しては言わないが、付き合いの難しいタイプであろう自分を相手に、よくここまで親しく接してくれるものだと、感謝と共に諦めの感情を持っていたりする。

 

 

 

「そうでした。じゃなくって、大変なんですって姐さん! これ、提督からの電文──」

 

懲りずに姐さんと呼び続けるのも、山崎が山崎である証明なのだろう。いつもならジッと冷たい視線に晒されるか、今度は彼女が手にしている立派な万年筆あたりが飛んできそうなものだったが、そうはならなかった。

 

 

山崎は驚いていた。

 

執務机で書き物をしていた姐さんと呼ばれた女性。横須賀鎮守府の重鎮の一人である海山中将の秘書艦であり、今は南方の小島に居を構える提督の育ての親とも姉とも言える加賀が、表情一つ変えることなく、しかし目にも止まらぬ速さで椅子から立ち上がり山崎の手から書類を取り上げ、気付けば何事もなかったかのようにまた椅子へと戻って黙々と読み耽っていたからだ。

 

 

どうやら「提督」というキーワードに過剰反応したらしい。真顔のまま行われる高速移動はホラー映画のようで本当にビビる。

しかし今はそんな場合ではない。

 

 

「これは」

書類を確認し終えた加賀が、つい声を出す。

まったくいつもどおりの平坦で、なんの感情もこもらない声色に聞こえるが、山崎スケールによるとこれで彼女的驚愕だ。

 

加賀と呼ばれる女性は、帝都の護りであるこの巨大な鎮守府の大御所の一人で、一航戦と呼ばれるなにからしい。

それがなんなのかはあまりよくわからないが、とにかく凄いのだろう。

なにより中将の秘書艦であり、あの提督の姉上だ。

そんな彼女はそれらに恥じない程度に優秀で、なにがあっても動じない肝の座った人というのが山崎の印象だった。だからこの驚きっぷりは予想以上のもの。

 

 

だが、驚いてくれる彼女は山崎が想像するよりも彼女らしく、とても好感が持てる。

その話を小耳に挟んだ山崎も飛び跳ねるほど驚いたからだ。だからこうしてここに駆け込んで来たのだ。

 

 

「どうします!? 姫が姫を見つけたって、援軍を求むって!」

 

山崎は時雨を姫と呼ぶ。多分、(時雨)(港湾棲姫)を見つけたと、そう言っているはずだ。

それが伝わったかどうかはわからないが、それを聞いて音もなく、再び立ち上がった加賀が壁に立て掛けられていた自身の艤装を手に取る。

 

 

加賀が驚いてくれたことで、逆に落ち着きを取り戻していた山崎がまた慌てる番になった。

 

 

「ま、待ってください! なにしてるんですか!」

「決まっています。出撃の準備です」

 

黙々と準備をしながら、端的にそう言い放つ加賀。

テキパキと、いつにもなく俊敏な動きだったがその所作は美しく、物音一つ立てない彼女は育ちの良さを伺わせる。

 

が、今はそんな場合ではない。

 

「姐さんって戦える感じの人なんですか? でも勝手に行ったらマズいんじゃ、中将に怒られますって! それに、行くなら自分も連れて行ってくださいよっ!」

 

言いたいことも聞きたいことも山とあるが、とにかく勝手に出て行くのはマズかろうと思う。提督なんかはカナリ自由にやっているようだが、ここは軍隊で、しかも中枢の中の中枢だ。

よしんば駆け付けることができるのなら、そこにはなんとしてでも着いて行きたい。今のところなんの権限も持っていない下っ端軍人としては、彼女に手を回してもらわないと絶対に叶えられない望みであるくらいは理解できる。

 

 

「あの子が呼んでいます。なら駆け付けるのが私の役目です。貴方を連れて行くと時間がかかるわ、貴方には私の代わりにあの人のお守りをしていてもらいます」

 

今にも部屋を出て行きそうな加賀の腕を掴み懇願するが、どうも取り合ってはくれない様子。しかもあの人ってのは海山中将のことか、加賀の代わりに秘書を務めていろだなんて無理が過ぎる。

 

 

「自分も行きたいんですっ、絶対役に立ちますから!」

「私が一人で出たほうが早いのよ」

「船に乗るのに一人も二人も変わらないじゃないっスか!」

 

なんとか考えを改めてもらおうと腕に縋り付くが、山崎を引き摺ったままグイグイと進む加賀は止められない。

山崎はこれでも鍛えられた軍人だ、それを物ともしない歩みはブルドーザーのようで、とても女性とは思えない力強さだった。

 

さりげなく山崎の肩に乗っていた先ほどの妖精さんが「オレトキサマダ ココハ マカセテオケ」と言っているのがドヤ顔気味で少しだけイラッとした。

 

 

くっ、自分では止められないのか。

そんな風に山崎が諦めかけたとき、不意に声を掛けられた。

 

 

「はぁ、いったいお前たちはなにをやっているんだ」

 

 

今まさにドアノブに手を掛けようとした加賀だったが、それより前に開かれた扉から嘆息混じりの声が室内に届く。

 

 

「あれ、長門さん?」

「こら山崎。勝手に書類を持ち出すとは何事だ、それは返してもらうぞ」

 

そう言って加賀が握りしめていた書類を受け取る黒髪の女性。現れたのはちょくちょく山崎と立ち話をする仲である長門だ。

実を言うと提督からの電報は彼女が持っていた物で、偶然その内容を知った山崎が、これは一大事だとつい持ってきてしまったのだ。

 

「残念だが、お前を出撃させるわけにもいかん。さぁ戻るんだ」

「長門、たとえ貴女でも邪魔はさせません。ここは通してもらいます」

 

加賀の行動を阻む長門に、今にも掴みかからんとする剣呑な声で加賀が言うが、それを気にする風でもなく「頭を冷やせ」と、長門は軽く加賀を小突いで見せた。

 

一触即発かと気を揉み身構える山崎だったが、それは杞憂に終わる。

山崎の知る加賀は、誰かに頭を小突かれて笑って流せるタイプではないはずだが、長門はどうやら特別らしい。

 

凛とした表情の長門が諭すようにして加賀に言う。

 

「お前の足では何日掛かるかわからん。援軍はもう南方から出ているはずだ、ここは友に任せておけ」

 

 

「あの子が助けを必要としているんです。私がここで見ているだけなんて、我慢がなりません」

今度はハッキリと、落ち着き払った声で加賀が自分の意思を告げる。

 

「これは命令だ。加賀、お前にしか出来ない手助けの方法もあるだろう。それを為すのがお前の役割だ」

 

それに返す長門の声は優しく、そして心情に寄り添うものだったが、しかし意志の固い、絶対に覆らないだろうと感じさせるなにかが確かにあった。

 

これは、自分たちが提督の元に駆け付けるのは無理だろうなと、山崎が判断するのに十分なほどだ。

でもそれよりも、脳裏に浮かんだ疑問はもっと別のもので、それは条件反射のように、なにも考えずについ口から溢れた。

 

「あれ、長門さんってもしかして偉い人なんですか?」

 

 

 

部屋に立ち込めた緊張感が時間を止め、そしてすぐに霧散していく。

山崎の問いを聞いて気が抜けたのか、加賀が手にした艤装を置き、大人しく机に戻っていった。

この男はいちいち場の毒気を抜いてしまうのだ。稀有な才能と言っていいのかもしれないが、慣れないものだと加賀は思う。

 

 

 

男前な笑い声を響かせたあと、快活に長門が言った。

 

「なんだ、お前は知らなかったのか? 私は聯合艦隊旗艦の長門。まぁそうだな、偉いひとなのかも知れん」

 

聯合艦隊旗艦。それは帝都を守護する要たる横須賀の、そしてこの国を護るための最強の矛。

あぁ、このひとは艦娘なのだと、山崎はそのとき初めて知った。同時に、今まで気軽に立ち話をしてきたが、失礼があったのではないかと気に病む。それがどのくらい偉い物なのかはわからないが、わかる範疇にないくらい偉いことはわかる。自分程度の人間がおいそれと話し掛けていいものでは到底ないこともだ。

 

 

そんな山崎の葛藤に頓着せず、執務机で難しい顔をしている加賀に長門が声を掛ける。

「加賀、馳せ参じたいのはこの長門も同じ気持ちだ。わかるだろう?」

 

返答をしない加賀に、困った奴だと溜息を吐いてから長門は壁に立て掛けられた艤装を手にして言う。

「念のためだ、お前の艤装はしばらく預かるぞ。なに、心配はいらない、すぐに吉報が届くだろうさ」

 

 

用事は済んだと言わんばかりに背を向ける長門が部屋を出るとき、物のついでのように山崎にも声を掛ける。

 

「ああ、山崎。だからと言って、特に畏る必要はないぞ。人前であまり馴れ馴れしくするのも困るが、私とお前の仲だ。今までどおり接してくれ」

 

 

彼女はそれだけ言うと、後ろも振り向かず颯爽と出て行ってしまった。

サラサラの黒髪を伸ばした綺麗な女性だが、その性格は竹を割ったようで、非常に男前だ。心の中でアニキと呟いたが、本人の前で口にするのはやめておこう。きっと冗談では済まなくなる。

 

 

 

「なにも出来ないというのは辛いものね」

浅い溜息を吐きながらそう言う加賀に、同じ気持ちを抱えた山崎が言う。

「とりあえず神社にお詣りでも行きます?」

 

なにかしたいが、なにをしていいかわからない、なにも出来ない自分たちなのだ。

しかし元来、脳より体で考える山崎は、ただジッとしているしかない現状でも、それでもなにかと考えた末のこと。思いついたのは結局神頼み。なにもしないよりは、そんな考えではあったが、意外なことに加賀は同意し、すぐさま行動に移す。

 

「外出の許可を貰ってくるわ。出る準備をしておいてちょうだい」

 

 

 

このあと、なぜか石川県の神社まで足を伸ばそうとする加賀と押し問答の末、結局靖国まで付き添いさせられることになるとは、このときの山崎はまだ知るよしもなかった。




本日の夕飯は「和風バターしょうゆステーキのワサビソースあえ」。
ワサビで食べるステーキの美味しさに気付いたとき、君は一つ大人の階段を上るわけだ。


ふぅ、スカートで山登りする艦娘さんたちの後ろに着いていきたい。


【おまけ】

それから数日経って、グランドに呼び出された白露たち。
そこへ、水の入ったバケツを運んでいるような足取りで霞が近づいてくる。
「はいこれ、ダンスの曲」
そう言った霞は両手で持っていた円柱型のゴツい物体を持ち上げて白露に「重いんだから早く持って」と手渡す。

「わっわ、何これ」
手渡されたのは音楽プレーヤーだ。ただし、屋外で使用するのを前提に作られた物のようでかなり大きい。

「うへー、重い」
それもそのはず、武骨なデザインをしたその大きなプレーヤーは6kgを超す重量があり、そのサイズから艦娘が陸上で持つにはしんどい代物だ。
「まずはウチの備品扱いにしてあるから、大事に使ってちょうだい」


モニターに表示された曲名を見て白露が問い掛ける。
「なんて読むのこれ?」
「アナタのとこの次女がウチの司令官に嫌味を言う海軍高官を見てるときの様を表したいい言葉よ。四文字熟語くらい知っておきなさいな」


「ふ〜ん。いい曲なの?」
「さぁ? 艦娘が踊るならまず外せない課題曲らしいわよ」

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