少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
この話と次話のほんの少しで終わります。
秘書艦時雨
言っても彼女は秘書であって副官でも副長でもないです。
艦隊では提督の方針により権限を持ってますが、時雨は秘書の職分から外れないので使われることは基本ない。
艦これ本家(ゲーム)と2次創作で1番ギャップが激しいのが秘書艦の扱いだと思う。よく考えてみると、そういやゲーム内での秘書艦たちはプレイヤーの補佐以外はしていないように思う。
そう、時雨は秘書なのだ。
大海原に一人だった。
海はどこまでも広く、その深い色は昂る気持ちも、そして緊張や不安も一緒くたに飲み込んでしまうかのようだ。
見渡す限りの青の中、敵艦載機が遥かな空から飛来するのが見える。
こんなところで沈むわけにはいかない。
兎にも角にもまずは迎撃しなくては、彼女は自らを奮い立ちせるように声を張り上げて妖精さんたちに指示を出す。
「対空射撃! いや違う、直掩機上げて! 迎撃よ!」
なんてことだ、せっかくの初陣なのにこの状況。ここで合流するはずだった艦とはまだ出会えていない。一人きりで立つ寄る辺ない海は彼女の心を不安にさせる。
いや、こんなことでは先輩に笑われてしまう。どのような戦場でも臆することなく務めを果たした先輩に恥じぬよう、弱い心を叱咤し、頬を叩いて自分に言い聞かせる。
「大丈夫よ葛城! 訓練はしっかりやってるんだから!」
尊敬する大先輩とそれこそ毎日のように猛訓練に励んだのだ。彼女のセリフが思い出される「訓練は実戦のように、実戦は訓練のように。わかる葛城? アナタの流した汗はアナタを裏切らないわ」。
キッと空を睨み、矢をつがえる。
いざ初めての戦いを、と思ったその時だった。
「へっ?」
素っ頓狂な声。まさか自分がそんなものを口にするとは。
しかしそれも仕方がないこと、まるで予期せぬことが眼前の上空で起こったのだから。
「ごめんごめん、ちょっと遅れちゃった?」
颯爽と現れたのは小柄な体躯の軽空母だ、その小さな彼女が敵の航空戦力を蹴散らした。
単艦で海に在った空母葛城を目掛けて飛来した物たち。それらはこの小さな彼女の繰り出した艦載機によりその全てが爆発四散して海へと還ったのだ。
「お、っそい。今回の作戦は私たちの上空援護に掛かってるのよ! しっかりしてちょうだい」
助かったことへの安堵なのか、それとも驚きなのか。我に返った葛城は、遅れて合流してきた女性に対してついつい強い口調で責めてしまった。
あ、しまった。と思ったが後の祭りだ。
本当は、まずありがとうと、そう言うつもりだったのに。
「ごめんねー、ここ目印もなにもなくて」
しかし遅れてきたその子は特に気にした風でもなく、頬をかきながらそう答えた。
こんなところに目印などあろうはずもない。海上でなにを言ってるんだかとも思ったが、それもいい。まずは彼女の朗らかさに感謝だ。
「もういいです。さ、行きますよ」
「いやー、私なんにも聞いてないんだけどぉ、これからなにすればいいのかなぁ?」
「なんで作戦概要も知らないんですか!?」
「だって、制空確保と航空支援だけやってればいいって言われたから」
朗らかな彼女に感謝したばかりだが、早々にその考えは改めないといけないかもしれない。
大きな溜息が出た。初陣の自分にあてがわれたのがこんな頼りにならない僚艦だとは……。今次作戦は各基地との合同作戦だ。私の僚艦にと彼女を送り込んできたのはリンガの基地司令官だったはず。呉とリンガの司令官とは確執があると噂に聞いたが、これはその意趣返しなのだろうか。
「着いてきてください。一足先に前線に向かってる先輩と合流します」
「先輩?」
「そうです。先輩と合流できたらもう私たちの出番はないかもしれない、そんな凄い人なんです。そうじゃなかったら、とても今回のような大規模戦で私や貴女が起用されるなんてことないですから」
上でのやりとりなど私にはわからないし、現場で言い合っても詮無きことだ。
そう思った葛城は当座の方針だけ告げるとさっさと移動してしまおうと進み出した。
すると、少し遅れて追従する小さな彼女が言った。
「なんでここで合流じゃないんだろ」
「先輩は先に呉を出て、こっちの水上部隊との打ち合わせがあったんです! もういいから、速度上げるわよ」
「あ、直掩上げとかないと」
先輩との合流予定地点に艦首を向け、まだ直掩機を発艦させてないことに気付く。先ほどの戦闘では、上げる前にこの小さな艦娘が制圧したので結局上げていなかったのだ。
「温存してくれてていいよぉ、遅刻のお詫びですっ」
先ほどから空を舞っている艦載機に目を向ける。
「ってあれ、九六艦戦じゃない」
「優秀なんですよー」
信じられない。呉ではそろそろ紫電改が配備されるとの噂が囁かれている時勢なのに、零戦も積んでないなんて……。
2艦で海を往くこと4時間ほど。
長時間の航行? いいや、そんなことはない。
海での戦争は広く、そして時間がかかるものだ。一度作戦が始まれば、それはもう日を何日も跨いで行われるのだから、移動の数時間程度を問題にしているようでは艦娘などやっていられない。
空母として生を受けた葛城としては航行の数時間よりも、もっと大切な数時間こそを胸に思い浮かべる。
あの戦いでも、「私たちがいたなら」と思う場面が何度もあったようだ。
他国の航空機に比べ圧倒的なまでの航続距離を誇った我が国のゼロなど、作戦地まで数時間をかけて飛び、その先で戦闘をさせられていたのだと言う。
それと対峙した米軍が、近くに日空母がいるに違いないと判断するのも仕方がない話だ。
米軍はまともだったのだろう。
そのまともな頭では考えつきもしなかったのだ、はるか遠方の基地から直接航空機で乗り付けるなんて運用を行う国と戦っているだなんて……。そんな方法、パイロットを効率的にすり潰す研究でもしていたのかと勘ぐりたくなるものだが、それもこれも貧乏が悪いのだと、貧乏暮らしばかりを強いられてきた葛城は思う。
もう少しで先輩と合流できる、そんな安堵から思いがけず気が抜けた。
戦場は初めてなのだ。
常在戦場の精神でとまでは言わないが、ここは曲がりなりにも本物の戦場。
先輩に近づくということは前線に近づいているのだと、意識しておくべきだった。
反応が遅れたのは葛城。
夢想にも似た考えを頭に浮かべていたら、急に小さな彼女の声が耳を打った。
「行きます! 攻撃隊、発艦!」
一瞬で意識がここ、戦場に戻ってくる。
慌てて見渡すと視界の先には朧げながら艦影らしき姿が見えた。いや、それだって彼女が攻撃隊を発艦させたからこそ確認できたものだ。
私だけであれば、空と海が溶け合うその狭間にある物を発見できなかったに違いない。
僚艦の行動で、そこに敵がいるのだという先入観を踏まえてようやく判別できるそれは、しかし未だ私には遠くの海にこびりついた染み程度にしか認識できないのだから。
経験の差なのだろうか、艦としての性能の差だとは思いたくないが、この小さな空母が私よりも索敵に優れていることは疑いようもない。
しかし、それとこれとは話が別だ。
「ちょっと、勝手に……」
瑞鶴先輩じゃあるまいし、この距離から攻撃隊を届かせるなんて無理だ。ましてこの子の直掩隊は制空担当のはずなのに、だ。
九六艦戦が虫のような敵艦載機を墜としながら道を作っていく。それに引かれて敵艦に向かうのも、これまた旧式となる九七艦攻と九九艦爆。
よしんば辿り着けたとしても、これでは力不足だ。彼女の制空能力はそりゃ凄いものだと認めるものだが、敵艦への攻撃ともなれば航空母艦として小型であるこの子よりも、まだ自分のほうが適切であるとも思う。
「なにやってんのよ! 私たちはサポートをするべきなのに」
すぐそこには瑞鶴先輩だっているはずなのだ。攻撃は先輩に任せて、先輩の艦載機を無事に敵艦まで送り届けるのが最も効率的で確実な方法であるはず。
あの強くて美しい大型航空母艦である艦娘は、いかなる戦場でも笑顔を絶やさず、私たち後進に大きな背中を見せてくれるはずなのだから。
まぁたいつもの悪い癖が出ているわけよ。
癖と言えば、やっぱ書き癖みたいなものはある。
リゼロの小説だといつもスバルくん小気味よく笑ってるし、幼女戦記だとともかくの代わりに「とまれ」が頻出する。
実は少女のつくり方にもあるわけだが、幸い自覚しているので1話の中に3度も出てくる。みたいな状況は回避できている(はず)。
さりとて、求められているのはきっと文法だとか癖だとかではなく面白いかどうかなのだろう。
決して二人称に固有名詞が少なく、いつも彼女やら女性やらと表現して存在を濁してしまうこの話を正当化しているわけではなく……。
もちろん「この話は面白いんだから、癖くらいは見逃してくれ」と言っているわけでもないぞ。お気に入りの数が1億2千万人を超したら自信を持って「面白ければ他はいいだろ」と改めて書く予定だ。
【おまけ】
「艦娘に罪を被せるその発想。理にかなうものだが、しかし残念だったな」
「なにがっ?」
「お前の勉強不足だ、艦娘は基本的にみんな左利きなんだよ」
「なっ!?」
「知らなかったろ? 旧軍のタービンが左回りだったことが原因と言われてる。もう少し調べてからやるんだったな」
「ちっ」
指摘された男が突如走り出した。
これにて確定。やっぱりコイツが黒幕だ。
「夕立っ!」
「ぽい!」
夕立に飛び付かれ、あっという間に組み敷かれる男。
「クソっ」
「クソはお前だバカ」
ふに落ちないと言った顔で疑問を投げかけるのは金剛。
長く艦娘をやっている金剛にとっても初耳だったようだ。
「タービンは左回りだったのデスカ? 私はイギリス製なので右利きなんですかネ? アレ、カスミは右利きだったと……」
「タービンの回転方向なんて俺が知るわけないだろ。霞も時雨も、そこで犯人を殴り倒してる危ない女も右利きだ」
「なんだブラフ、デスカ」
どこにも使われることがないネタ帳でした。