少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

157 / 184
相変わらず海戦そのものは書かれていない作戦中のお話。
きっと上手いことやるのだろう。

タイトルどおり、「外れ」の話なのだと納得してくれぇい。
さて、いつかの共同作戦完結編です。

驚きのボリュームがある後書きで驚いてください。



〜いつかの共同作戦。その外れ〜2

「やった、頑張ればできるのよ」

 

 

海に静寂が戻ったところで小さな彼女が言ったセリフだ。

敵艦隊に強烈な先制を贈り物として届けたあと、撃沈を免れていた深海棲艦たちは他方から殺到した新たな艦載機によって今は黒煙を生成するだけの物へと姿を変えている。

 

芸術的とも言える追撃を行ったのは彗星に天山。ここからでは確認できないが、その胴体には白の二本線が引かれていることだろう。

 

 

一難去って、とも言えない状況だ。

敵は確かに在ったわけだが、私には何もできなかった。何をする暇もなく、それらは終わってしまった。

ついでに、私は僚艦の実力を推し測る目も持ってはいなかったらしい。無謀にすぎると思われた攻撃だったのに、この子は危なげなく完遂して見せたのだから。

 

 

波を斬りつけるような勢いで、白波を盛大に立てながら駆け寄る艦影が見える。先輩だ。

帝国海軍一を誇る強大な馬力を持つ彼女は、大型艦であるにも関わらず駆逐艦もビックリの速度で航行できるのだ。

特に、ここのような外洋なら駆逐艦を置き去りにできるほどの速力をも発揮すると言えば、その速さが想像できると思う。

 

しかし今は少しだけ会いづらい。

初めての戦場で、あれだけ側にいてほしいと願った頼れる先輩だが、合わせる顔がないと項垂れる。

 

 

 

「ナイスタイミングだったわね。葛城は無事だった?」

「だ、大丈夫です。それより、すみませ──」

 

声の届く距離まで近づいた瑞鶴から声を掛けられ、まずは何もできなかったことに対する謝罪を、と思ったのだが、最後まで口にすることができなかった。

葛城の後ろから跳ねるようにした小さな僚艦が空気も読まずに割り込んだからだ。

 

 

「やっほー瑞鶴、先輩って瑞鶴のことだったんだ」

「貴女! 瑞鶴先輩になんて口を、先輩は一航戦として戦った歴戦の空母ですよ! 本来ならおいそれと口を聞くのも──」

 

つい、だ。

先ほどまでの反省を活かし、大人しくしていようと考えを改めていた葛城だったのだが、その馴れ馴れしいとも言える対応を見て反射的に声を荒げてしまった。

すると、そんな葛城を窘めるようにして瑞鶴が言う。

 

「待った待った、葛城、ちょっと落ち着きなさい」

 

諫める葛城を落ち着かせた瑞鶴は、その小さい艦娘に向き直ると軽く手を挙げて微笑みを浮かべて言ったのだ。

 

 

「とりあえず久しぶり、なんか上手い子がいると思ったら瑞鳳だったんだ。それにしてもよくあの距離から飛ばしたわね、落としきれなかったらどうしたのよ?」

「んー、瑞鶴の艦載機が飛んで来るのが見えたからね、後はなんとかしてくれるかなって」

「あっそ、まぁ信頼してはくれてるみたいね、相変わらずのようで安心したわ」

 

 

それは昔から知っている懐かしい者への対応。葛城が望んでも手に入れることができない、信頼できる戦友へ向けられたもの。

 

 

 

「ところであの艦戦は? なんか輝いてる子がいるみたいだけど」

 

瑞鳳の航空隊はみな一様に練度の高い様を見せつけていたが、その中で一機だけ、明らかに他と隔絶した高練度の妖精さんがいるようだ。瑞鶴の声で初めて葛城にもそれがわかった。

そして、圧倒されるほどの、自分との力の差を思い知った。

 

なにを馬鹿なことを考えているの、葛城!

憂鬱な気持ちに負けそうな心を自ら叱咤し、気持ちを新たにする。

そうだ、私が先輩の隣に並ぶのはまだ早い。私は、まず先輩の自慢の後輩になりたいのだ。まだ届かないことを知っている。この知っているという気持ちは、必ず自分の力になるのだと、そう信じるのだ。

いずれ、必ず私も同じ場所に立ってみせると心に決めて、ますますの精進を誓う。

 

葛城の秘めた決意とは裏腹に、妖精さんを褒められた艦娘は相変わらずのとぼけた解答を返していた。

 

「あぁ、志賀さんだね。基地で山崎さんって人が貸してくれたんだよ、なんか戦闘機に乗れる妖精さんなんだって、懐かしの九六艦戦がなんとかって言ってたからお手伝いしてもらったの」

 

「志賀って、まさかね……」

 

それを聞いて微妙な顔をする瑞鶴だったが、それには気付かず葛城が声を掛ける。まずは二人の関係性を確認しておかねば、返答次第では、とても失礼な態度を取っていた気がしなくもないと今さら後悔するが、そんなもの後の祭りだ。せめて顔見知り程度ならいいなと思ったが、それが淡い期待であることもちゃんとわかってはいる。

 

「先輩、もしかして知り合いなんですか?」

「知り合いもなにも私の先輩よ、レイテまで私の背中を守って蹴飛ばして、最後まで一緒に戦った大戦友。なに? アンタたち自己紹介もしてないの?」

 

 

葛城の中で瑞鶴は半ば神聖視された生きる伝説のような艦娘だ、帝国海軍の一航戦として数多の海戦で主力を成してきた古兵。

実はその一航戦には瑞鳳も所属したことがあり、彼女自身は「でもすぐに元の所属に戻ったんだけどね」と頓着していないことを知る。驚きとともに、ある意味葛城の視野を広げる良い機会になるのだが、それはまだ後の話。

 

 

 

「あ、忘れてたね。私は瑞鳳、体は小さいけど強いんだからっ」

 

それから瑞鳳と名乗った艦娘はマジマジと、葛城を見つめるようにして言う。

 

「でもそっかー、葛城ちゃんはあのとき呉にいた子なのか、ちょっと顔を見ただけだったからわからなかったよ。それに瑞鶴が先輩だなんて、私も歳を取るわけだ」

 

そう言われるも葛城には見覚えがない。

瑞鳳と名乗る彼女が言っているのは艦だった頃の記憶だ、私が待っているしかできなかったあの戦争を、彼女は知っているのだ。

 

前世とも呼べる過去の記憶。それをどれだけ覚えているかは艦娘によるらしい。

置いていかれる焦燥感、何もできない自分の無力さ、そして貧困。

葛城が覚えているのはほとんどそういった類のものだけで、その他、強烈に覚えている唯一の存在が瑞鶴だった。

 

そんな瑞鶴と肩を並べた彼女の先輩、戦友。

それはもう雲の上どころか遙かな天に住うなにかだ、そんな相手に対して私は……。

 

 

葛城の葛藤をよそに、瑞鶴と瑞鳳の話は続いていた。葛城の耳には届いていなかったようだが、続いてはいたのだ。

 

「やめてよ、そんなんじゃないから。それに私たち歳なんて取らないでしょ」

「でも瑞鶴変わったよ、ちょっと大人っぽくなった? 落ち着いた気が……、しないかな、わかんないや」

「なによそれ、瑞鳳はあんまり変わんないね」

「大きくなったわよ! 相変わらず瑞鶴はわかってない。身長だって15mmも伸びたんだから」

「それは改装の影響でしょ、瑞鳳は甲板延長してたじゃない」

 

 

 

ようやく青ざめた顔の葛城が現実世界に戻り、二人の会話のキリの良さそうなところで間に入る。言うならば上官同士の会話に割り込む形だ、精神注入棒を持ち出されても仕方がないことだが、もはや割り込んででも始末は付けなければいけないのだと覚悟を決め、口にするのは謝罪。

 

悪気があったわけでも悪意があったわけでもないんです。艦だったころの苦難の日々と違い、はたまたその反動なのか、甘やかされて育った私の危機感のなさが招いたことだった。なんとか伝われ、と思いつつ恐るおそる告げる。

 

「あのぅ、すみません。若そうに見えたので、つい……」

 

どこぞの大先輩にでも聞かれれば、よくわかりませんが、それは謝罪なのかしら? と抑揚のない声で止めを刺されそうなものだが、当の瑞鳳は気にした様子もなくこう言ってのける。

 

「瑞鳳が若く見えるのはしょうがないからなぁ、別に気にしてないよ。でもさすが瑞鶴の後輩だね! 初めて会ったときの瑞鶴も似たようなこと言ってたのよぉ」

 

いかにも瑞鳳な、瑞鳳らしい対応で、むしろどこか嬉しそうでさえある。

そんな瑞鳳の発言に焦った顔をするのは瑞鶴。「ちょっと、止めてってば!」と瑞鳳の口を塞ぎにかかるが、これが先輩の先輩なのか、ちょこまかとした軽い身のこなしで瑞鶴の手をヒラヒラと躱しながら続ける姿に練度の高さを見出す葛城も、ちょっとズレた感性を持っているかもしれない。

 

 

そうやってして紡がれた言葉。

「だって初めて会ったときに『私のことはお姉ちゃんだと思ってくれていいわよ』って」

「ちょっ! だから止めてってー!」




瑞鳳が山崎くんから借りてる志賀妖精さんはもともと加賀姉さんが持ってた子。
山崎のおデコ目掛けて投げられてた妖精さんでもある。山崎がリンガに異動するにあたって、さりげに心配していた加賀さんが連れて行かせた。基本的に山崎と一緒に六駆のみんなと輸送付き添いしているので役には立っていない。


瑞鳳ってば実は結構なお姉さん。
軍艦の誕生日である進水日は正規空母の飛龍や姉であるところの祥鳳よりも早い。そのため艦型は瑞鳳型航空母艦と記載されていたりする。まぁ名を連ねているのは「その他」の寄せ集めであり、同型ではないんだけど。

当然瑞鶴や葛城は歳下の後輩にあたる。
瑞鳳と瑞鶴は3歳差、葛城はさらにそこから5歳下なので、古より伝わる由緒正しき例えを出すと以下のようになる。

葛城が小学校に入学したとき、瑞鶴は5年生で瑞鳳は中学2年生。
ついでに時雨は中学3年生で生徒会書記をやっており、霞は中学に入学したところ。
同じく空母の龍驤さんはピカピカの女子大生で、リンガで1番若い長波サマは小学3年生。

え、金剛? とっくの昔に4年制の大学を卒業して働きだした後に寿退社して子育てが一段落したからとパートをやり始めてもう数年経ってる時期だ。
なにせ艦歴の差を考えると金剛が25歳のときに霞が生ま……。



とりあえず、この空母さんたち3人の中に提督のお姉さんを投入してみたいと思う山田さんでした。



オマケのオマケになるが、前編で葛城ちゃんが思い出していた瑞鶴先輩のセリフ「訓練は実戦のように、実戦は訓練のように」は、『〜初めてのおつかい〜』にてとある大先輩艦娘さんが言っている。
行間を読むってわけではないが、書かれていないところでも彼女らは生きているんだなぁと妄想すると楽しい。かもしれない。

ここまで読んできてくれている読者の皆さまにとってはもう今さらの話だと思いますが、本作は書かれた順番も時系列もぶっ飛びで進んでおります。
このエピソードは「おつかい」よりも前に書かれた話を、なぜこのタイミングで? となる今になって投稿した次第。特に理由はない。


さらにオマケ

この話のあと、葛城はリンガにて龍驤に出会う。
呉に所属する葛城は弓道系の空母さんズに面倒を見てもらい、それに憧れを持っていたが、瑞鶴や瑞鳳が一目置く陰陽系空母の実力に触れて世界を広げるわけだ。

そもそもの葛城は、実は陰陽系の空母さん。
彼女の持つ弓は和弓ではなく梓弓と呼ばれる物で、本来矢は必要なく、弦を弾いた音で魔を滅する神器の類。
憧れの瑞鶴先輩に近づくようにと矢を飛ばしているのだが、世界の広さを目の当たりにした葛城は以降その能力を存分に活かして一端の空母になっていくのだった。

本編には出てこない。


ふふふ、後書きのほうが文量多くなりそう。
そう言った話は本文に入れろよ! と自分でも思うわけだが、まあまあ、やもすれば番外のほうが充実していると話題の作品だ。勘弁してちょー_:(´ཀ`」 ∠):


次回、またもや番外。
あのシリーズの続きがお目見えするかもしれませぬ。
新規完全書き下ろしなので、投稿できるのか、そして完成するのか謎ですが、乞うご期待。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。