少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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比叡は凄いんだゾ!


小島での生活5

ようやく小島に戻ってこれたのは、そろそろ日が落ちる時間になってからだった。

予定の時間に戻らない僕のことを提督はずっと桟橋で待っていてくれた。皮膚がカサカサになっているが体調は大丈夫なのだろうか、提督のことが心配すぎて報告どころではない。まずは小屋に戻って水分補給をしてもらおう。

 

 

 

「よし、風呂だ」

 

敵泊地についての報告を行ったあとの提督のセリフだ。

どこまで本気なのか分かりにくいが、今焦ったところで仕方がないというのは理解できるので、大人しく入浴してこよう。

実は汗の匂いが気になっていたのでちょうど良い。

 

 

提督は夜のうちに敵泊地発見の報告を入れ、至急対応をするよう求めた。

翌朝には艦隊が派遣されることとなっており、比叡、龍驤、川内、綾波、敷波が援軍としてこちらに向かうとのこと。また、時雨は今作戦の艦隊に組み込まれる形で攻略に参加することも併せて決定される。

 

 

 

比叡が旗艦を務める艦隊が到着するまで2日。この2日が、事態を最悪なものにしないよう祈りつつ、まずは制服の洗濯だ。

 

 

 

 

「お久しぶりです。時雨さん」

声をかけてきたのは金剛型戦艦2番艦の比叡。

時雨が初任務として務めたのが御召艦比叡の供奉艦だった。右も左もわからなかった頃だったので、随分とお世話になったように思う。

「立派になられて、比叡は嬉しいです」

「お久しぶりです」

比叡はエリート揃いの金剛型姉妹の戦艦だが、気取った風でもなく誰とでも気さくに接する。練習艦として後進の育成に携わっていることも、この人柄からかもしれない。

 

「佐世保の陥落は残念でした。僚艦を失うという辛い経験をしましたね。お力になれず申し訳ないです」

佐世保の件に触れられて驚く。比叡にはまったく非のない話だからだ。

「僕の力不足だよ」

 

「いえ、敵の奇襲により早々に司令部が壊滅し、為す術もなかったと聞いています。私になにかができたとも思えませんが、時雨さんがそのような状況になっているとき、その場に居られなかったのが悔やまれます」

本心から言っているのだろう。肩を落とした比叡が沈痛とした表情で続けた。

それらは育ちの良さが窺え、好感が持てる。人格者として名が通っている帝国海軍きっての武勲艦である長姉金剛の影響もあるのかもしれない。

 

「五月雨は元気にしていますか?」

「元気にしていますよ。近隣の住民や海軍の軍人さんたちにとても人気があるんです」

姉妹艦である五月雨のことを尋ねると、比叡はまるで自分のことのように誇らしく近況を教えてくれた。

それだけで、大切にしてもらってるんだろうと思える。

 

「なぜか私は怖がられているようなんですが……」

今日は選ばれなかったようだが、妹は比叡の所属する艦隊に所属している。

過去、比叡を敵艦と勘違いして撃ちまくったことを引きずっているのか、まだ気不味い関係のようだ。

 

 

「お、時雨、元気そうでなにより。なになにー最近こっちでブイブイいわせてるらしいじゃん」

「ご無沙汰してますー」

第3水雷戦隊旗艦の川内と綾波だ。二人とはガ島輸送などで一緒に隊列を組んだことがある、後ろには敷波の姿も見える。

 

「川内さんが3水戦を率いて来てくれるなんて、心強いよ」

「いいよー、時雨の妹には世話になったし」

気軽そうに手を振る川内は相変わらずだ。ここには泊地襲撃のために来てもらったわけだが、まるでそれを感じさせない胆力がある。

僕たち駆逐艦を率いて戦う水雷戦隊のボスとして、これほど頼もしいことはないと思う。

 

 

「ウチが今回の制空を担当する軽空母龍驤や。あ、先に言っとくけど堅苦しいのは勘弁してや、普通に接してくれてええから」

桟橋を上がったところでは、出迎えた提督に、気さく。と言っていいのか龍驤と名乗る艦娘が言う。

 

「軽空母? 龍驤といえば歴戦の武勲艦だったはずだが」

赤鬼も青鬼も龍驤の名を聞けば後ずさりするとまで言われ、空母としては珍しいバリバリの武闘派だったと記憶している。

確か艦載機を繰り出しつつ砲撃で応戦するような血の気の多い艦娘だったはずだ。

 

「ウチにもようわからんけどな、今は軽空母っちゅー艦種に分類されるらしいわ」

ウチは気にしてへんけどなと、カラカラ笑う姿は人好きするようで好感が持てる。良い意味で男前だ。

「ま、基地攻撃なら任せといて。ちょっち自信あんねん」

 

 

 

「初めまして、今作戦の艦隊旗艦を務めます。金剛型戦艦2番艦の比叡です」

「わざわざお呼びだてして申し訳ないです」

挨拶に来た比叡に敬礼をもって出迎える。改めて戦艦の艦娘と対峙することに少々緊張気味だ。

 

「まさか比叡さんが来てくださるとは思ってもおりませんでした」

「比叡で結構ですよ司令官。ここには私から志願したのでお気になさらず」

「志願、と言いますと?」

 

「報告者が時雨さんになっていましたので」

 

そう言って比叡は、川内たちと楽しそうに話ている時雨を見た。その表情は優しげで、安心しているようでもあった。

 

「司令官が、あの佐世保壊滅から時雨さんを逃してくれたんですよね。そのことに感謝をお伝えしたかったのと、やはりこの目で時雨さんを見て安心したかったんです」

「まさか比叡ほどの戦艦に気にかけて頂けているとは、ありがとうございます」

 

「私だけではありませんよ、伊勢さんもです。なかなか今回の任を譲ってくれなくて苦労しました」

そう言って比叡が笑う。その顔は畏まった言葉遣いに似合わず、人懐っこいものだった。本当の比叡はもう少し砕けた印象を持つのかもしれないと思った。

 

「言伝を頼まれています。その後変わりはないでしょうか、二人のことが心配です。と」

彼女は相変わらずのようだ、今も案じてくれていると思うと嬉しくて、ついこちらも笑ってしまう。そんなに頼りないですかねと照れ隠しのように言うと、比叡が続けた。

 

「あなたが困っているのなら、どこの海からでもすぐに駆けつけるから、くれぐれも無茶をしないようにとも言っていましたよ」

こう言ってはなんですが、変わった関係ですね。彼女は子供を気遣う母親のようだったと付け加えた。

そんなに心配させるほど情けなかったのかな、俺。

 

 

「それで、作戦はいつから?」

こんなに大勢の艦娘と話す機会はあまりないが、いつまでも会話を楽しんではいられないだろう。そう思って、作戦についてを尋ねる。

 

「まずは飯や、飯。腹が減ってはって言うやろ?」

「飯、ですか?」

「大切やでー? ウチらはこれが最後のご飯になるかもしれへんからな、いつそのときが来ても後悔せんように、楽しく食べなあかん」

そう言った龍驤は、うんうんと自分で頷きご飯の正当性を主張した。

 

「楽しく食べるってのは賛成なんだけど、龍驤は軽く重いんだよー。ねぇ比叡さん」

「ホントですね、司令官が真面目な顔をしてしまってます。気にしないでくださいね、時雨さんはもちろん、誰も沈めさせるつもりはありませんから」

比叡は力強くそう言って、胸を叩いてみせた。

 

ご飯は龍驤に指名された比叡が作ってくれた。比叡、戦艦であり旗艦なのに。

むしろ楽しそうに料理をしていた比叡の懐が広いのか、龍驤が凄いのか。川内たちがなにも言わないところを見るに、二人は元々こんな関係なのだろう。

 

比叡が作ってくれた料理をみんなで頂き、ついに出撃の時間がやってきた。

艦隊での攻勢作戦は佐世保以来だ、見送りのつもりで来た桟橋で、ついつい時雨の手を握る。

「大丈夫だよ、ちゃんと帰ってくるから」

 

困ったように時雨がそう言うが、それでもなかなか手を離せないでいた。

 

「いつまでやっとんねん、すぐに帰ってくるから夕飯の用意して待っといてや」

龍驤に軽く叩かれ、つんのめっている間に連れ去られてしまった。

さて、飯を作ろう。

 

 

 

 

さすが歴戦の艦娘たち、切り替えが凄い。海上を滑る彼女たちを見て時雨は思った。

時雨にとっても久方振りの海戦だ、負けじとその後に続く。

 

敵泊地までもう少し、と思ったときには龍驤が攻撃隊を発艦させていた。

タイミングが早い、そう思ったときには次々と艦載機が空へと舞い上がり、猛スピードで湾内に侵入、攻撃を始めていた。

早い速い、これが龍驤の戦い。

 

「相変わらずせっかちだなー」

川内が呆れ顔で言うと、龍驤が答える。

「川内らの突撃が早いからね、先にしとかんと怖いんよ」

 

すかさず比叡が声を上げる。

「主砲、斉射、始め!」

空母と戦艦による先制。

狭い湾内は今頃パニックを起こして大混雑だろう。

 

「よし、一気に決めるで! 第二次攻撃隊、発艦や」

続け様に龍驤の第二次攻撃が始まる。

青い空の一角が、早くも黒煙で塗り替えられていた。

 

 

「さぁ、突入するよ!」

川内を先頭に綾波、敷波が突入を開始した、慌てて時雨も後を追う。

泊地付近には、湾からようやく脱出してきた軽巡や駆逐艦が居た。その体からは火の手が上がっている者もある。

 

いよいよ僕らの番だ。

単縦陣で突撃、T字不利から反航戦へと持ち込み砲撃の応酬。

射撃指揮所でもやられたのか、敵の攻撃は至近弾にもなりはしない。対してこちらは妖精さんとの連携を毎日毎日繰り返してきた自慢の一撃だ。

 

散布界に敵を捕らえ命中弾を数えていく、もたもたはしていられない。奥にはまだ戦艦が……。

そのときだ、敵の駆逐艦が急に爆ぜた。同時に轟音が空を裂く。

「なっ!?」

 

駆逐イ級越しに砲撃を仕掛けてきたのは戦艦ル級。そのほとんどはイ級に突き刺さり、彼を海の藻屑へと変えた。しかし、イ級を抜けた砲弾が2発。

 

それはとても遅く、コマ送りのようだった。

 

「時雨ぇ!」

先を往く川内が叫ぶ、さすが、先頭を走っていても、目の端に僚艦を捕らえているのだな。なんて、場違いな感想を持った。

 




川内さんは日中戦争まで第2水雷戦隊旗艦を務めており、そのときの部下が2駆(村雨、夕立、春雨、五月雨)と24駆(海風、山風、江風、涼風)。

ガ島への鼠輸送では本隊川内の元に海風、江風、涼風。別働隊は夕立が隊を率いており、その後も白露型とは何度かソロモンで一緒した仲。
また、川内の最期となるブーゲンビル島沖では白露、時雨、五月雨とチームを組んでいたなど繋がりが深い。
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