少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
滝を望む東屋からさらに深く、静かに口を開く樹々たちへと足を進めると、アップダウンを繰り返しながら徐々に標高を下げていき、見えなくなったりしながらもずっと隣を流れていたはずの川に近づいていく。
先の見えない山歩きにはもううんざりだが、もうすぐなのだと自分に言い聞かせて一歩、また一歩と足を出す。
ここまで来ると白露や時雨も汗でびっしょりと服を湿らせているが、バテ具合は俺との比ではないように思う。あと3往復しろと命じられたら余裕で完遂するんだろう。
なので、「暑い、疲れた」とぼやきながら前を行く白露の言葉は話半分に受け取らなければならない。暑いのも疲れたのも事実だろうが、だからといって限界はまだまだはるか先なのだ。
何度目かの登りを終え、下りに差し掛かったところで一気に視界が開けた。登山道はこのまま県境を跨ぎ、なんなら今までの行程でまだ半分に達していないくらいだが、本格的な登山行が目的ではないので俺たちの登山はここでお終いだ。
登山道から降りられるようになっているそこは、大きな岩がゴロゴロと転がる川原。
途中何度か休憩を挟みつつ、2時間と30分を少し回ったくらいの時間でようやく俺たちは目的地となる淵に到着したのだった。
これが清流でないのなら、いったいどこに清流があるのか。そう思えるほどに澄みきった流れが視界に入り、同時にせせらぎが耳を癒す。
ここまできてゴロゴロとした足場の悪いところを歩くのは体力的にはしんどいのだろうが、目的地だということで心情的には逸る気持ちだ。
疲れ果てた体を川の淵まで跳ねるように進め、さらに上流を眺めてみると切り立った岩に挟まれたザ・渓谷が姿を表す。そしてその隙間から覗くそこには、今までの疲れを吹き飛ばすほどの景色。
崖の間からは悠久の大地が育んだ流れと、その向こうには一筋の滝が山の中腹から真っ直ぐに伸びているのが見えた。
日本の山や森などは自然に見えても自然そのままなところなどほとんどなく、必ず人の手が入っているものだが、この風景には畏怖さえ感じてしまう。
自然の美しさ、自然の恐ろしさ。何千年も前から誰に誇るわけでもなく、ここに在ったのだ。
「こんな景色を見たのは初めてだよ」
いつの間にか隣に並び、同じ景色を見ていた時雨は汗で前髪をおでこに貼り付けながら、少しだけ上がった息でそう言った。
「ここまで歩いた甲斐があるってもんだね、今まで見たなかでいっちばんの景色だ!」
バックパックから取り出した2リットルペットボトルで水分補給をしながら、白露も嬉しい感想を言ってくれた。
こちらは時雨と違い、汗で背中とお尻をしっかり透けさせながらももう息が整っている。
相変わらず底知れぬ奴め。
「白露、バッグからバーナーとコッヘル出してくれ、山を登ったらまずはコーヒーだ」
登山とコーヒーは切っても切れない関係である。登山と言っても頂で飲むコーヒーとはならないが、それと比べても決して劣るものではないはずだ。
ついでに時雨のバッグからはおにぎりとカップ麺を取り出して飯の用意もしていく。
しっかりお昼時を回っているのでお腹がペコペコだ。スニッカーズはエネルギーにはなっても飯の代わりにはならないようだな。
コッヘルの中に収納してきたガス缶を取り出し、平らな岩の上を選んでお湯を沸かす準備は完了。無駄だと指摘されるほど大量に抱えてきた水はここで活かされるわけだな。三人分のコーヒーとカップ麺に使っても、まだ帰りの分くらいは余裕であるだろう。
山コーヒーだ、とはいえ、そこまでコーヒーにこだわりのない俺たちはスティックタイプのインスタントで十分。お湯さえ沸けばさほど待つことなくまずは一杯としゃれ込むことができるわけだ。
「うぅ体中が汗でベトベト、パンツまでぐっしょり濡れちゃってるよ。川に飛び込んだら気持ちいいんだろうなぁ」
お腹の辺りを摘んで空気の循環を試みつつ言ったのは白露。
オーバーヒートまではいかずとも、だいぶ体も熱を持っちゃってるしね。目の前をいかにも冷たそうな、しかも底まで完全に透けて見える綺麗な水が流れているのだ、浸かりたくなる気持ちはわかる。
しっかりオーバーヒートしてしまってる俺ならなおさらだ。だからこその提案をする。
「おう、コーヒー飲んだらあっちに見える滝までひと泳ぎしようぜ」
「さすがにこのまま水に入るのはね、僕はスカートだし」
「私このまま入っちゃって大丈夫かなぁ、帰り歩いてたら乾くと思う? 着替えとかないんだけど」
気持ちがわかると言ったろ? そして当然、こうなることも予測済みだ。
ならば戦う前に備えるのが俺の役目としたもので、問題などあろうはずがない。
戦場には備すぎなんて言葉はないのだ。
「ちゃんと用意してあるぞ、それぞれのバッグに入れてある」
痒いところに手が届くとはこのことだが、さすがの二人も俺がそこまで用意周到だとは思っていなかったようで、しばし互いに見つめ合ってからガサゴソと音を立ててバッグの底を漁る。
なんだ、そんなに泳ぎたかったのか。なら持ってきて本当に良かった。
これで道中白露のケツをガン見していたことや、岩をよじ登って進む時雨を後ろから堪能していたことくらいは帳消しになるだろう。
「ねぇ、提督」
「…………」
ショップの名前が書かれた袋を握りしめた二人が恐るおそるといった口調で言った。
「これ、私の服だね」
「僕の水着もあるようだけど」
「そりゃそうだろ、お前らの部屋から持ってきたんだから。水着がないと泳ぎにくいし、着替えがないと帰り困るだろ?」
でも俺の着替えはいいかな、なんて思う。そのまま泳いでそのまま帰路を歩けば勝手に乾く気がするし、なにより男の子だしね。
そうやって男性であることに感謝をしていると、白露がいろいろ諦めた顔で言うのだ。
「ねぇ、下着もあるんだけど」
長波サマ(少女のつくり方)
戦争中期に活躍し、「リンガの宝石」と謳われたリンガ艦隊所属の夕雲型駆逐艦。
後に史上唯一の提督艦となった霞の懐刀として艦隊を支え、海戦では水雷戦隊を指揮して数々の作戦に参加。そして陸戦時には帝国海軍で1番の戦果を挙げた駆逐艦姉妹と名高い白露型長姉の白露とバディを組んだ。
■■■■海戦で艦隊が■■■■■した後、苦しい状況の中で見せた勇猛果敢な戦いぶりから猛将としても名高い。
最後は……■■■■■■■■以後全部黒塗り。