少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
ようやく進める気になった。
進んでくれた(;´Д`A
結局無難なところに落ち着きそうですが、事件自体はどうでも良いので大目に見て……くれると嬉しいなって(・ω<)
お詫び(?)に、後書きに短編が付いてます(*'▽'*)
想像力を突破した妄想力がないと読めないスパルタンな作りになっていますが、ここにいる熟練読者のみなさまならきっと……。
「はじめまして、アナタが代表ってことでいい?」
受話器を片手に歯に衣着せぬ物言いをするのは、まだ幼さを残す顔立ちの、小さい背丈の少女。
可憐である。そう評することができる造形だが、その顔に微笑みはない。
それはひどく事務的なもの。飾ることなく紡がれる言葉は簡潔で、意味の取り違えが起こる隙さえまったくないほどだ。
およそ外見に似合わないそれは、声だけ聞けばまるで納期に遅れた取引先にクレームを入れる担当者のようで、少女が発する挨拶としてはギャップが大きい。
しかし電話の先は取引の相手ではなく、また彼女を知っている者ならば、きっと“らしい”と言うに違いない。
今は固く門戸を閉ざしている銀行が望める車道の端で、大きな車の大きな扉からそれらを見やり話すのは霞。
電話の相手は行内に立て籠もっている犯人と呼ばれるうちの誰か。
まず話してみないことにはわからないと、単純に、大胆に、彼女は銀行のダイヤルを回したのだ。
現場に在る刑事も、そしてその他多くの警察官も、みな同じ気持ちになったことだろう。
『君が掛けるのか』と。
そんな周囲の疑問など一顧だにせず霞は続ける。
「お金だけが目的ではないわよね、聞かせてもらえるのかしら?」
ややの間があってから、そしてこう返答があった。
「私たちは艦娘の解放を願う者だ。軍と政府、それぞれに窓口を設けてもらいたい。1時間に一人ずつ人質を殺す。早急の対応を望む」
まさか霞の応対に合わせたというわけではないだろうが、それは霞に負けず劣らずの事務的なもの。そして霞が二の句を次ぐ前に、電話からは無機質な電子音だけが響いていた。
言うだけ言って切られた受話器を真顔で見つめる霞の顔は、綺麗に整っているだけに一層怖い。美人の真顔は不機嫌に見えるので、自分の顔に自信のある人は気を付けておいたほうがいいだろう。
「取りつく島もないわね、デッドラインも引かれちゃったわよ?」
受話器を置いた霞が肩を竦めて提督に言う。
さて、会話が成立するのならばやりようはいくらでもある。人はコミュニケーションを取る生き物だからだ。
話せば楽になるってのは本当だし、会話を重ねた相手には無茶を言い難くなるもの。それは『単純接触効果』と呼ばれるもので、変な話だが、警察と犯人の間柄でさえ親近感は湧くのだ。
それ故に交渉人は、まず相手と繰り返し接触することが求められる。
つまり、それらを全てシャットアウトしてしまう相手とはコミュニケーションの取りようがないってこと。
さらにデッドラインまで引かれてしまった。もうこうなっては対話で解決の道は閉ざされたと言っていい。
「お金が目的じゃあないんだろうとは思っていたけどよ」
「これは面倒ね」
艦娘の解放を願う。
美しい心で素直に受け止めるなら、それは幼い少女を兵器として使う現在の世界の在り方を言っているのだろう。
汚い気待ちで読むなら、誇り高い志で国防を願い志願した軍人が、しかしその役割を消失してしまったことへの嫉妬心とも取れる。
後者ならまず間違いなく、行内に居座る謎の男たちは海軍の軍人だろう。
霞じゃなくても面倒だと思うはずだ。
「こういうときのことを表す良い言葉がこの国には昔からある」
もちろん、それらを面倒事だと思うのは提督もだ。そんな提督が言う。
怪訝な表情を隠さない霞が顔を向けると、どこか遠いところを見ているかのような顔をした提督が続けた。
「大の虫を殺すために小の虫を殺す、だ」
「どっちも死んでるじゃない、真面目に聞いて損したわよ」
小さく肩を落として溜息を吐いた霞だったが、すぐにその意図を知り考えを改めることになった。
向き直った男の目だ。それは真意を窺い知ることのできない目だった。
彼はたまにこういった目を人に向けることがある。
そして霞を捉えたその瞳で、男はなんの感慨もなくこう言い放ったのだ。
「つまりだ、虫などいらんってことだな」
「……殺る気なの?」
「生き残ってもらっても迷惑だ」
いつものことだ。
彼の考え方はいつも自分が中心にある。
日本人には多いと言われるが、内と外とを分けるこの考え。彼の内は非常に狭く、そして外に対して容赦がない。
彼に言わせれば合理性。
敵と認識した者に容赦はしないが、それが無駄であるなら行動を起こさないだけの理性も持っている。
彼の敵でも、排除するだけの理由がなければ放置されるのだ。
そして、排除されることが決まった今回の敵は、彼にとっての邪魔者なのだろう。
ならばそれは、霞にとっても邪魔者であり、敵なのだった。
「軍隊として正しい考え方だと思わないか?」
「火力にものを言わせるのが?」
飽きれたように言う霞だったが、それもすぐに納得して「そうなのかもね」と続けた。
最大火力を用いて一気呵成に敵を粉砕する。
状況を戦争に見立てるのなら、それは軍隊として非常に正しいただ一つのことだ。
中で大人しく人質をやっているらしい時雨には、出力最大でレーダー照射でもすれば勘付くだろう。
ワタシたちが来ている。
それだけ伝えられたらもう問題はない。
あとは突入に合わせて勝手にやるはずだ。
【おまけ 三つ巴】
男の目の前で静止するナイフ。
視界いっぱいに切っ先が広がる光景とはどのようなものか。興味があったとしても、誰も体験したいとは思わないだろう。
瞬きでもしようものなら、この切っ先から目を離してしまえば、二度と視界に光が差すことはないのだと予感させる。
そんな緊迫した空気が流れる中で沈黙を破ったのは霞だった。
「時雨っ、人目がある。ここで傷害事件はマズいのよ、ナイフを下ろしなさい」
「聞けないね、ソレは生かしておく価値がない。いや、無価値どころか害悪だよ」
男の顔面目掛けてナイフを最短距離で移動させた時雨の、そのナイフを握る拳を包み込むようにして止めた霞が時雨をなだめるが、表情一つ変えない時雨は男から一時も目を離さずそれを拒否する。
ここに提督がいれば、笑いながら突っ込んだのだろう。霞が止めなければとても傷害で治りそうにない事態に発展しただろうからだ。
「殺すなとは言わないわ、ただ今は待って」
一歩も引かない霞だが、彼女だって男を助けたいわけではない。
そこへ……。
「お二人とも、邪魔ですよぉ」
いつの間に現れたのか、いつもの微笑を浮かべた一人の少女がそこにはいた。
手を伸ばせば、というほどの距離ではないが、彼女であればいつでも凶行を止めることができる。ここは彼女にとっては必中の距離。
「“今”じゃなくてもさせませんよ」
霞の言う“今は”をも否定してみせる微笑の少女。
「提督の敵だよ?」
まさか提督の敵に情けを見せるのかと問う時雨には端的に答える。
「司令官からのご命令です」
それだけが彼女にとっての全てだ。
提督のことを思えばと行動を起こす二人とは根本から違う行動原理を持つ少女。
柔和な物腰とは裏腹に、そう断じた言葉には彼女の、綾波にとって絶対の正義があった。
「待ちなさい綾波、そいつを生かしておくと禍根を残すのよ」
霞だってその目的は時雨と同じ排除だ。
ただし時雨と違い、やるべきことを済ませてから、穏便に、誰にも知られず処理する必要があると思っているだけ。
しかし、それに対しても答えは同じ。
「二度は言いません」
変わらぬ微笑を浮かべた綾波が、話すつもりはないと告げる。
それは、邪魔をするつもりなら二人ともが等しく障害であると、そう言っているのだ。