少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
この話の後にチラホラと今まで投稿した「〜」から始まる物語が入っている、そんな時系列のはず。
そしてここから数年(?)、こんな感じの出来事や海戦なんかを戦う彼らの日常が過ぎていく……。
次から始まる本編は数年経ったあとかもしれない。そんな感じ。
入口の自動扉は2枚。
入口の扉を抜けたあと行内側にもう1枚の、どこにでもあるよく見る作りだ。
「鈴谷」
「言っとくけど、ガラスの2枚をブチ抜いたくらいじゃ威力落ちないよ?」
リンガで戦術行動の申し子とまで呼ばれる鈴谷に細かな指示は必要ない。
たったの一言で、彼女には成すべきことが伝わったようだ。
そしてその返答は、ガラス扉を貫通した弾丸が行内に侵入するということを告げていた。
「構わないわ、扉の正面に立ってる人間がいたとしたらそれは犯人くらいよ」
人質を盾にしていることも考えられなくはないが、犯人が軍人であれば突入される可能性も考慮に入れているだろう。ならば人質を盾にしていた場合でも、正面入口前に堂々と陣取っているほどマヌケではないと信じたい。
最悪、鈴谷の対物ライフルならガラス2枚の上に人体がもう一体増えたくらいは問題にならない。人質ごと犯人が沈黙してくれるのなら、それはそれで目的の邪魔にはならないだろう。
兵は拙速を尊ぶと言う。リスクを負ってまで求めるつもりはないが、それを背負うのが提督でないのなら、それは検討に値するリスクだ。
信じる。か、思えばそれはおかしな言葉だと霞は思った。
信用しているならそんな言葉は存在しない。敢えて口に出す必要がないからだ。
たとえばこうだ、霞は時雨を信用しているし信頼している。
海戦であれば、霞が適切な作戦さえ考えられれば時雨が万難を廃してでも決めてくれると、半ば確信を持って言えるほどには信じている。
だからこそ思う。そんな折、ワタシは時雨に信じていると告げるだろうかと。
想像してみても全くそんなビジョンは浮かんでこない。
きっとその時、ワタシはこう言うのだろう。
『任せたわよ』
それに対する時雨の返答など、今さら聞かなくてもわかる。
今回のことなら、霞は時雨と顔を合わせてもいないのだ。
それでも突入が行われれば、彼女なら行内でうまく立ち回るだろうとの確信が持てる。
時雨ならやれるだろうとの信頼に、そして彼女は応えるはずだ。
これが信用の正しい使い方なのだと思う。
「ちょっと待ってくれ、この状況で突入なんてしたら人質に怪我人がでかねん! ここは堪えてくれ」
突入の気配を感じ取った刑事が提督の前に割り込み言う。
事件解決を願い出たのは警察のほうだが、問答無用で突入するなどさすがに常軌を逸している。
だが提督の答えは変わらない。
「待つタイミングではないな、より多くの人間が生きてさえいればいい」
先程まで、本気なのか本気じゃないのかわからない顔をしていたがどうだ、感情を窺い知ることのできない、まるで機械仕掛けの目をしている。こっちがこの男の本質なのかと、遅まきながら刑事は思う。
「それでも人間かっ?」
「人間だからだよ。俺の手はそれほど大きくない。守るべきものには優先順位がある」
「なっ、人の命に価値を求めるのが軍人の考えなのか?」
「神様でもあるまいし、平等に大切などあり得ないな。あいにくと神に祈ったこともないのでね」
神などこの世に存在しない。
神が万能であるならこの世に悪はなく、祈る必要もまた存在しないからだ。
だからこそ、俺が認めてもいいと思うのは艦魂を持った付喪神。この世に顕現し、見て触れることができる不完全な神。艦娘だけだ。
もしかすると荒神の類かもしれないが、祀らねば祟る神など俺の国では珍しくもない。
深海棲艦と並んでいまだに謎の存在である艦娘だが、本当のところその正体などに特別な興味もないのだ。
そこに在る。それ以上を求めるつもりなど毛頭ない。
そして優先順位など今さら議論する必要もない。
彼女らが滅べば、遠からず俺たちの文明は滅ぶのだから。
現代文明が失われた世界など、それは種族の根絶とどう違う。人類の繁栄は足を止めたときに終わるのだ。
軍人の所信表明などさせるつもりはない。
もちろんクーデターも改革もだ。
それらはどうせ……、俺たちがやるのだから。
身内の不始末は身内で。
この場合は海軍だ。有効に利用しなくてはいけない組織に、こんなところで傷を付けさせるわけにはいかない。
まだ利用価値があるうちに、他人が勝手に価値を下げるなど断じて見逃せない。
故にこう命じるのだ。
「突入しろ」
「行かせん! 」
坦々とした提督の命令に喰ってかかる刑事。
重ねるようにして、提督が静かに、そして覆ることのない意志を告げる。
「突入だ」
根本的に考えが違いすぎる。これが軍人か、その命の見積もりは自分たち警察と、いや、一般人との乖離が大きすぎた。
「お嬢ちゃん!」
見積もりが甘かったことは認めよう。しかし犠牲が出るかもしれないこの状況で、警察組織の一員である自分が日和っているわけにはいかない。
振り返り、この小さな女の子に希望を託す。訴えかけるのは彼女の良心というやつだ。
しかし、返ってきたのは短い現実だけだった。
「全艦突入なさい」
さもそれが当然かのように、少女は眉ひとつ動かさず、怒鳴るでも気負うでもなく、ただ静かにそう告げた。
鈴谷の対物ライフルが自動ドアのガラスを粉砕し、破砕音と共に辺りの空気を戦争のそれに染め上げる。
粉々になったガラスが崩れきらない内に響を先頭にした第一陸戦隊が突入し、その後を追うように獲物をSMGに持ち替えた鈴谷が行内に消えて行った。
行内からは途切れることなく射撃音が鳴り響く。それらは、遠い世界で行われている出来事のようで、こんなに近くにいるのに現実感がまるでない。
私たちは失敗したのだと、刑事は思った。
だとしたら、それは軍に、いや彼の艦隊に話を持っていったところからが間違いだったのだろう。
彼らは事件を解決したいのではなく、戦争に勝つために、ただ作戦を成功させるのだ。
呆然と状況を見守る刑事の横で、内腿に下げられたPPKを取り出した霞が艦娘としての存在意義を告げる。
この男には言っておくべきだろうと、そう判断したのは霞なりの優しさか、それとも義務感から出た説明責任だったのか。
「司令官は突入だと言ったの。なら、どんな状況でも突入するのが私たちの仕事なのよ」
慣れすぎたのかもしれない。
ワタシにとって、人間の見積もりが安くなっているのは自覚している。
人質に行員、それから襲撃者。全部足してもたかだか50人に遠く及ばないだろう。
脳内で弾かれたソロバンには、ハッキリとそれが浮かんでいた。
『その程度、ただの誤差だ』
戦争被害の数から見たら、今さら数十人など数え間違いに等しい数字だ。
それは無視していい数字ではないが、しかし無視できる数字ではある。
良くない考えだとの自覚はあるが、今は自覚があるということを免罪符としておこう。
せめて、人を数字で数えるのは有事の場合だけに留めておこうと思う。
ワタシは、良き隣人たる人のことも、決して嫌いではないのだ。
終わってみれば人質には重傷者も死者もでなかった。
彼女たちがうまくやった。
もちろんそれもあるだろう。
基地で繰り返されている突入訓練は無駄ではなかったと、自信を持って言える程度にはスムーズな突入だった。
しかし1番の要因はきっと彼らだ。
突入時、人質の姿がないことに暁が気付いた。それを受けた突入部隊はスムーズに提督の敵に弾丸という刃を向けた。
時雨の話によると、彼らは事前に人質を壁際に集めて頭を低くするよう指示していたという。
多少の被害はあるかとも思ったが、それは嬉しい誤算となった。
突入時に頭を下げている人間は攻撃対象にならないのだと、銀行に居座る彼らなら当然知っていたはずだ。
彼らは、やはり強盗ではなく日本の軍人であったのだ。
「肝を冷やしたよ」
「だから言ったじゃない」
次々と集まってくる警察車両や救急車の鳴らすけたたましいサイレンと光の渦の中、撤収の準備をしていた霞に刑事が話しかける。
この数時間で少し痩せたんじゃないかと心配になる顔色だが、軍を利用しようなどと考えると手酷いしっぺ返しを喰うことがこれでわかっただろう。
次に不幸な出来事が起こらないよう忠告だけはしておいてあげようと、そんな風に思い、戦時の軍隊としての率直な気持ちを伝える。
「軍隊が警察の真似事なんてやっても不幸にしかならないわよ」
「アナタたちの平和は足し算でできている。でもワタシたちの平和は引き算で作っていくの」
なにも失わせない覚悟と失うことを享受する覚悟。どちらが優れているなんて詮無きことを論じるつもりはない。ないが、
「ワタシたちが間違ってるなんてこれっぽっちも思ってやしないけど、街の生活を守るアンタたちのことは尊敬してるわ」
なんて言ったらいいのか、そんな顔で頭を掻く男に別れの挨拶だけして車に乗り込む。
もう二度と会うことはない、そのほうがお互い幸せだと思う。
次があるのだとしたら、それは戦後の話だ。
それは、想像するだけで胸の弾むもの。
そうだわね、出来れば戦後に、そんなこともあったわねと言って笑えるようになりたい。
「おつかれさん」
「ふぅ、他人の事件に首を突っ込むなんて二度とゴメンだわ」
車ではすでに撤収気分の提督が待っていた。狭いから助手席に行け、と言いたいところだが、反対側に時雨がぴったりと寄り添っているところを見ると、基地まではもう離れないだろう。ならば自分が助手席に移ろうかとも思ったが、すでに提督に捕まった状態だ。
撤収は残すところ霞待ちの状態だったようで、乗り込むとすぐに「行っくよー」なんて声をかけながら鈴谷が車を出した。助手席には暁が落ち着かない様子で座っており、これは鈴谷に捕まったのだろう。
来るときと違い、今度は刑事を置いてきてしまったが、警察車両もたくさん来ているのでわざわざ基地まで連れ帰る必要もないはずだ。
結局、落ち着くところに落ち着いた感がある。走り出してから文句を言うのも今さらなので、基地に着くまではもう諦めようと思った。
「やっぱり陸の上だと被害も大きいわね。ウチから出す?」
走り出した車の中で、霞が今回の後始末についてを尋ねる。
木っ端微塵となった自動ドア。チラッと行内を覗き込むだけで、容赦なくぶっ放した小火器のせいで修繕が必要になっていることがよくわかった。
その費用をリンガから出すのかと言うのだ。
そのくらいならしてやってもいい、面倒ごとではあったが、結局ウチの不始末をウチが無理やりつけただけのことだ。
人質は全員無事だった。そう、人質は。
警察がどれほど事件の背景を掴んでいるのかはわからないが、あの軍人たちの真意が外に漏れることはもうない。
「その必要はないだろ」
金銭的に余裕のあるウチが、せめてお金くらいは出してもいいか。そんな考えだったのだが、それも提督が必要ないと言う。
そして、彼は事件についてをこう語った。
「偶然にも、銀行強盗があった行内にウチの艦娘が紛れ込みやりとりができた。密な情報のやり取りの結果、安全に、そして迅速に事件を収束させられた。その為の必要経費だ。治安が悪いのは俺たちのせいじゃない。怠慢だと言って地元の警察と基地でも責めてみようぜ、防犯を蔑ろにした銀行にも責があるとか言ってみたら三等分にしてくれるかもよ?」
ぶっちゃけると、
「突入しろ」
「行かせん!」
「突入だ」
「お嬢ちゃん!」
「全艦突入なさい」
だけが書きたくなって作り始めたお話でした。
そして日常を守る組織と、日常を護る組織の対比などに話が膨らんだ(・_・;
どう違うのか、ニュアンスだけのふんわりした物ですがなんとなく。
次回は完全ボツとしてなかったことになっている裏話でも投稿する予定です。
ボツになってる理由は、少女のつくり方が18禁ではないから……。
未来のifよりも遠い世界の話として読んでください(;´Д`A
それではまた、次のお話で会いましょう!