少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
沸点がめちゃくちゃ低く行動するまで早いが爆発してても冷静なため詰めを誤らないタイプ
提督、霞
準備を重ねて穴を無くしてから行動するが行動すると決めるまでの判断がちょっ早のタイプ
阿武隈、響
積極的に動き出すのは大抵状況が相当に悪くなってからだが動き出してからが速攻のタイプ
鈴谷、綾波
命令が出るまで興味なし
戦争は嫌いです。
大切なものを壊してしまうから。
戦争が嫌いです。
大切だったものをなくしてしまうから。
だから、戦ったんです。
ただ、護りたかったんです。
感情を表さない瞳には、もうなにも映ってなどいなかった。
「綾波?」
本隊の中核をなす霞が近づいてくる綾波に気付く。その艤装は煙を上げており、制服もところどころ破れてしまっているようだ。どこかで一戦やり合ってきたのだろう。
しかしどうだ、警護艦の綾波が、どこもかしこも戦場になっているこの状況の中、提督から離れて行動するなどあり得ない。
嫌な予感だけをひしひしと感じる。心臓が早鐘のように警鐘を鳴らしているのを自覚する。
聞きたくない。ソレは、きっと悪いものだから。
「司令官が戦死なさいました」
聞きたくない。ソレは、ワタシの世界を壊してしまうから。
「詳しく話して」
聞きたくない、聞きたくない。
耳を塞いでしまいたい。
それでも、ワタシの口はそう開いていた。
「深海棲艦の攻撃で座上艦は撃沈。司令官は腹部に重傷を負い、長くは保たないと判断したので綾波がお送りしました」
簡潔に述べられた言葉で衝撃が周囲を襲う。
霞を窺うが、彼女は気丈にも常の表情を崩すことなく一息吐いた後に言った。
「そう。……ありがとう」
この人は可哀想な人だ、そう綾波は思う。
『なぜ諦めたのか、なぜ殺したのか!』彼女はそう言って、私に敵意を向け、私に詰め寄っても不思議ではないのに。
彼女の縋り付く先はどこなのだろう、今、それが必要なように見える。
「司令官は、なにか言ってた?」
「全権を司令艦霞に移譲、南遣艦隊総司令艦は以後を提督艦として思うがままに事を成せ。それから、すまない……と」
それを、霞は目をつぶって反芻しているかのようだった。
きっと彼女は、司令官からの最期の言葉を、彼の口から聞いているのだろう。
長くもない時間で再び目を開き、続けて口にするのはもう自分のことではなかった。
「時雨は一緒だったの?」
「はい。今は最期のお別れをしているはずです」
「……良かったわ。時雨はその場にいることができたのね」
羨ましい気もする。と霞は思った。
ワタシには望んでも得られない場所だ。
ワタシの立つ場所は提督の隣だったはずだが、それはここではなかったようだ。
どうやら、後の世界の歴史書の中でだけ彼の隣に並べるらしい。
それを聞いていた白露が、そんな霞に声を掛ける。
「こんな時に悪いんだけどさ、行ってあげてもいいかな?」
「現時刻を持って白露の艦隊護衛の任を解くわ。迎えに行ってあげてちょうだい」
肯いて背を向けた白露に霞が投げ掛ける。
「時雨を、よろしく頼むわね」
彼女は振り返らないまま右手を振った。
「金剛、通信を。全軍に繋いで」
『……南遣艦隊所属の軍人、艦娘に通達。艦隊司令長官が戦死なされたわ。序列により今後は司令艦霞が指揮を執る』
何海里も離れた通信越しに騒めきを感じる。
不安はこの空を曇天めいたものに変えていくかのようだ。
「艦隊は当海域より撤退、リンガ泊地に向かいます。由良は二駆、及び二十四駆を率いて先鋒。阿武隈ら一水戦は本隊の護衛を」
「ちょっと待って、ここまできて撤退? 徹底抗戦すべきよ」
「南方はもうダメ。一時撤退して艦隊を立て直さないと」
意見具申を行なったのは伊勢だ。
「提督が死んだのは確かに大きい。けど、今時作戦は南方を解放するための作戦でしょ? 戦力差で負けているのは想定通りのはず。千載一遇のチャンスを逃すことになるわ。きっと、彼ならそれを為すわ!」
「想定外よ。今の戦力では南方を落とせない」
「納得のいく説明をしてちょうだい! せめて彼の弔いを私たちにさせて!」
「提督の艦隊はもう無いのよ!」
「彼のいなくなった艦隊はもう今までの艦隊じゃない。士気の落ちた今のままじゃ、とても落とせない……」
霞とは長い付き合いだ。
私は、こんな時になにを。
霞だってショックを受けている。
もしかするとこの海域で一番ショックを受けているのは霞かもしれない。
霞の言うとおりだった。
これから作戦が行えるような状況ではない。海域は解放した、そして誰も残らなかったでは意味がない。
今は、一人でも多くが生き残れるように考えるべきだ。
「アンタはどうするの?」
司令官の言葉を届けてくれた綾波に、霞がそう問い掛ける。
「綾波は、霞さんの引き継いだ指揮系統に属していません。私は司令官の元に戻りますよ」
「そう」
警護艦である綾波は提督直属の特殊な立ち位置で、艦隊所属ではなく提督個人の私兵のような立場だ。彼女が戻ると言うのであれば、ワタシにそれを止める権限はない。
彼女は、もうここには戻らないのだろう。
「彼をよろしくね」
代われるものなら代わりたい。
役にも立たないこんな肩書きなど投げ捨てて、今すぐ彼の元へと駆け付けたい。
できるはずもなかった。
彼がワタシに望んだことだ。
彼の望みに沿えないワタシなど、彼が求めていないことを分かっている。
ワタシはワタシを捨て、彼の理想でなければならないのだと、そう思う。
ワタシの戦争は終わらない。
並み居る深海棲艦を乗り越えて、再び提督の元に戻ってきた綾波。
そこに時雨の姿はなかった。
白露はここに辿り着けたのだろうか。
二人で手を取り合い、どこかへと姿を消したのだろうか。
それも、今となってはもうどうでもいいことだ。
「司令官、一人にしてしまってすみませんでした。これからは綾波がずーっと、一緒ですよ」
彼岸の川の船頭を務め、これからは黄泉の国を船で渡ろう。
彼は河岸で困っていることだろう。大丈夫ですよ。綾波が、今、参ります。
だいたいの予想(期待?)を大きく裏切り、提督と最後を共にするのは時雨でも霞でもなく綾波さん。
意外なのか、それとも意外ではないのか。
謎です。