少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
話のほうは進んだり進まなかったり、嘘です。
進んでおりません。
「お、ここにいたのか」
山崎の邪魔にならない程度に仕事を続けていた霞の部屋に長波がやって来た。
霞の部屋と言うより、ここはしっかりと管理部なので管理部に所属している長波がやって来るのは山崎がやって来るよりずっと当たり前のことだ。
二人の様子を確認した長波は、霞の邪魔になっている山崎と山崎の邪魔にならないように仕事をしている霞に気が付き、この二人も変わった関係だよなと一人納得する。
「山崎さんはホント、ひとっ所にいない人だな。長波サマ分類でいくと提督、霞に続いて探すのに手間をかける人材の3位だ」
頭を切り替えた長波がひょいと肩を上げて山崎に言う。
霞の名誉のために言っておくと、霞が基地内を動き回っているのはフラフラしている二人とは違い仕事のためである。
結果的に、その山崎のフラフラに手を貸す形になってしまった霞がバツの悪そうな顔で問いかける。
「なに? 山崎に用事なの?」
「そ、調達部に寄ってたら阿武隈さんに捕まってね」
そう言った長波は手にした書類を振ってみせ、それを霞の机の周りをうろついていた山崎に差し出す。
「ほれ、阿武隈部長から資材のダブつきをチェックするよう指示書だ」
阿武隈からだと言う指示書を受け取ったものの、なぜか呆け気味の顔をした山崎。
たっぷり一拍の時間を空けてから、指示書に目を通していた顔を上げて言う。
「あれ? 自分がっすか?」
「なんだ、抗命か?」
「いや、違います違います!」
今にも精神注入棒を持ち出しそうになっている長波に慌てて顔を横に振る山崎。
もっとも、この基地では提督、霞両名により兵員同士の私的制裁が固く禁じられているのでその心配はないのだが、怖いものは怖い。
命令不服従の態度など見せれば、普段は気のいい長波でも正しく軍人としての顔に変わることだろう。
そして、渡された指示書に不備はないのだ。
あっちやこっちやに顔を出し、行く先々で何かと仕事を言いつけられる山崎。忘れ去られていることも多々あるが、本来彼の所属は阿武隈率いる調達部。
阿武隈から資材チェックの指示が出たところでなんの不思議もないはずなのだ。
そのはずなのだが、はて。
なぜか戸惑いを隠せないでいる山崎に今度は心配そうな顔をした長波が声をかける。
「どうかしたのか?」
何事かあるのか。そう思ったが、それは要らぬ心配だったことが山崎の返答ですぐにわかった。
「いや、いつもは資材の引き渡しが終わったら、後は港湾勤務の人たちがしてくれるんだけどなって」
長波にとっての山崎とは、多忙な霞の邪魔をしている暇そうな男に見えているのだけれど、その実、先ほど輸送任務から帰投したばかりである。
軍属としては甘いのだろうがこの基地は長時間の連続勤務にうるさく、それを避けられるよう配慮がなされている。
で、あるならば、彼の言い分はこの基地では一応筋立っているわけだ。
「ふーん」
それだけ言った長波は遠い目をして何か思案に入ったようだ。
提督なら長波さんの目線の向く先を確認しているんだろうな、なんて、それをぼんやりと眺めていた山崎は思った。
確か目線が右上にズレたら思い出していて、左上にズレたら考えているんだっけ? いや、逆か? それにしてもまつ毛長いんすね。
まあ、どうでもいいことだ。
知っていたところで、それがどう繋がるのかなんて見当もつかず、なぜそうしたのかわかりようもない。
凡人である自分には過ぎた領分だとの自覚はあるので、凡人は凡人らしく、大人しく彼女の頭の回転が落ち着くまで待つばかりだと山崎は思考を放棄した。
ほどなくして逡巡を終えた長波が、唇に指を当てながら難しい顔で口を開く。
「やっぱりサボりの防止か? 自部署の人間がちょこまかと暇そうにしてたら阿武隈部長の立場もないだろうっていう」
あぁ、考えた末に出てくるのはそんな感想なんですね。
ちょっとばかり他人からの見え方にも気を配ろうと、山崎が大人の階段を一歩上った瞬間だった。
「自分、そんな暇そうに見られてるんですね」
「今も霞相手にくだ巻いてたところなんじゃないのか?」
霞相手にくだを巻けるってのはそれはそれで稀有な才能、奇特な精神だと長波も思うが、やっぱり何をするでもなく他部署に居座っている山崎の姿は暇そうである。
「いやいやいや、自分はこれでも準待機っすよ? 輸送護衛帰りなんですから!」
輸送護衛帰りの六駆が休息に入り、山崎だけが準待機任務に就くのには当然理由がある。
連続勤務と言ってしまえばこれ以上ないほど連続勤務だったに違いないのだが、それでも、簡単に言ってしまえば山崎はただの付き添いにすぎないからだ。
艦に乗っているだけ、なんて言えば船に乗り続けることがどれだけ大変かお前にわかるのか? と船乗りの方に怒られるかもしれない。
しかし、順当に昇進を果たしている山崎の今の肩書きは海軍二等主計兵曹。その階級が示すとおりの主計科員である。
庶務や会計などの事務仕事、それから栄養学と調理技術を駆使して兵の腹を満たすこと。ついでに他の誰もやらない、しかし誰かがやらねばならない雑多な作業までもを請け負うことで部隊を支える屋台骨が主計だ。
しかし、六駆と共に移動していく彼に与えることのできる仕事は輸送艦の中で少ない。
山崎に航海の手伝いができるわけもなく、もちろん漁業に勤しんでいるわけでもない。
艦での雑用をこなしつつ輸送護衛を行う六駆のメンタルケア、もとい管理といった大仰なお名目が一応付いてはいるが、いなくてもいいと言われてしまえばそのとおりの男。
さらに、この基地での規則を作成したのは他ならぬ艦娘である。多分、他の誰より海を往く大変さを知っているはずだ。
そんな彼女たちが判断した山崎の準待機。文句の言いようもない。
「まぁいいですよ、やれと言われたらやりますし、やったほうがいいなら言われなくてもが信条です」
手にした指示書を畳んでポケットにしまい込むと、今まで霞に見せていた姿が嘘のように堂々とした立ち姿で山崎が言う。
良く言えば裏表のない一本気な性格をしている山崎は快活な男であり、元々指示に対する文句など毛ほどもないのだ。
疲れているからと仕事をサボるような考えは山崎の頭の隅にだって存在してはいない。
ただ、阿武隈らしからぬ指示に戸惑いを覚えただけのこと、準待機任務と言えば任務中だとも聞こえるのだろうが、これは指示がない限り休んでいてもいいことをこの基地では指す。
そんな準待機に入っている山崎に、山崎でなくても問題のない仕事を阿武隈が振るとは思えなかったからの戸惑いだったが、仕事をさせてはならないなんて法はない。
実際に命令は出ているのだ。在庫チェックだって大切な仕事と思えばやる気も出ようというもの、精一杯努めるのみだ。
「いいけど、準待機中は居場所を明確にしておくってのが規則だろ。ちゃんと阿武隈さんには伝えとけよ」
「ここにいれば霞さんが把握してるのでいいかと」
「いいわけあるか、部署が違うんだよ。おかげでワタシは探すハメになったんだからな」
準待機についての一応の注意をしておくが、まぁ無駄なことだろうと半ば諦めの感情を長波は持っていた。
よろしいわけではないが、提督と違って山崎は一人フラフラと埒外の場所に行くことはないだろうとの信用くらいはあるのだ。
なので、口ではうるさく言いつつ頭の中では山崎の信条を捕まえて『シンジョウね、大阪タイガースにいた伝説の選手だったか?』などと時差ボケどころか時代ボケした実のないことを考えていた。
長波の生まれは大阪であり、時雨や霞らリンガ艦隊の大派閥浦賀船渠組の最大のライバル、藤永田船渠の出なのだ。
「ほら、さっさと行きなさいな。それが終わる頃にはちょうど準待機も明けるでしょ」
「そっすね、ちゃっちゃと終わらせて今日は久しぶりの布団でゆっくり寝るとします」
こうして本日も特に何かが進展するでもなく、霞に追い出されるようにして山崎が退室していった。
長波サマかっこいいですよね(о´∀`о)好きです。
いずれ朝霜や清霜を連れて夕雲ねぇのところに行く話を書きたい。
夕雲姉さんは姉妹の下のほうと面識ないんですよね。
きっと「アナタが清霜ちゃん? 会いたかったわ。ふふ、許可は取ってあるから、今晩は私の部屋でアナタの話を聞かせてほしいわ」とか言うだろう。