少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
「ってことは皐月もここにいるんだな」
「今は護衛に出てるはずよ、戻るのは2日後ね」
天使……じゃない、皐月も一緒なら都合が良い。二人まとめて俺の艦隊に入ってもらおう。これで時雨を合わせて三人確保。艦隊……? という人数ではあるが、考えてもみろ。
ただの駆逐艦ではなく、天使、天使、天使? の三人だぞ。勝ったも同然だ。
佐世保のときの皐月は瀕死の状態だったので、その練度は分からないが、少なくとも所属艦のウチ二人は海軍最高レベルだぜ。ますます勝ったも同然だ。
「あれ、朝潮は?」
そういえばさっきも、皐月と二人で飛ばされてきたと言ってたな。
「ここにはいない。朝潮姉さんは南方の前線に送られたの」
「連絡はあるのか?」
北方海域と違い、南方は激戦区がひしめく最前線だ。一人だけ離されての異動。嫌な予感がする。
「心配しないで、無事よ。……伊勢がね。無理を押して着いて行ってくれてるの」
霞の返答を聞きいて胸をなで下ろす。
伊勢は、四大鎮守府の籍を捨ててまで約束を守ってくれたみたいだ。
佐世保壊滅はよほど具合が悪かったのか、結局あれを生き残った艦は最前線か、ここのような辺境の泊地に全員が転属させられたようだ。
考えてみれば同じく生き残り組の自分と時雨も、なにもない南方の小島に1年間飛ばされていたとも言える。左遷と言えば左遷だろう。
霞はあれから、北方で輸送船護衛と艦娘の指導という地味な仕事を続けているとのことだ。
「兵站輸送も後進の教育も重要な任務。そう思ってやってきた、それは嘘じゃない。でも、護衛を成功させるのは当たり前で、育てた艦娘は南方に送られ次々沈んでいく。たまに、私はここで何やってんだろって思うこともあるわよ」
霞は佐世保壊滅に巻き込まれただけで本来の所属は呉鎮守府。海軍の主力が並ぶあの巨大な鎮守府で、誰もが羨み一目置いている第二水雷戦隊に所属し、海軍最高練度の駆逐隊と言われた第十八駆逐隊の司令駆逐艦をも務めた艦娘だ。
率直に言って、ここのような後方に篭らせるには惜しい人材のはずだ。
1年世捨て人をやってる間にそんなことになってるとは……。伊勢のことも心配だ。早々に合流したい。
「えっと、君も、霞のことを本当に心配してくれているようだね。コイツをわかってくれる人が側にいてくれて安心した。ありがとう」
そう言って、ずっと話の推移を見守ってくれていた阿武隈に深々と頭を下げる。頭を上げてくださいと言われたが、中々上げることができなかった。そんな状況に仲間が陥っているのを知らず、そして知ったところで何をしてあげることもできない自分が情けなかったからだ。
ようやく頭を上げたときには、霞の目は潤んでいるし、阿武隈は焦りまくっているしで、ますます申し訳なく思った。
「それじゃあアタシはもう行きますね、また後で」
二人で話したいこともあるだろうと、彼女はそう言ってこの場を後にした。まだ艤装を付けたままだったのでドックに向かうのだろう。
見た目の割に凄く空気を読む娘だ。空気を読める能力は大切だが、実は周りの空気にまったく気付かない奴のほうが生きる上では楽なのかもしれないぞ。きっと彼女は苦労性に違いない。
「今は第一水雷戦隊に所属してるわ」
改めて近況の確認をし合うと、霞がそう口にした。
二水戦の後は一水戦か、飛ばされてもなおエリートコース真っしぐらで逆に驚く。
驚きはしたが、まずはやることができた。
「そりゃお前の上官にあたる軽巡さまにも挨拶しなくちゃな」
霞がお世話になっている直属の上官。ならばしっかりと挨拶をしておきたい。
一水戦の旗艦と言うのなら、尚更顔を繋いでおいたほうが良いだろう。社会の現場で人脈に勝る武器などないのだから。
「アンタ気付いてなかったの? 阿武隈がそうよ」
飽きれたように霞はそう言って、阿武隈が駆けて行った方を親指で差す。
「彼女、駆逐艦じゃなかったのか?」
それ、本人に言わないでよね。と、軽く溜息を吐かれた。
実は最後まで霞を抱きしめたままだ。