少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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時雨のスカートの中は、きっと温かくて良い匂いがするんだ。


幌筵泊地で3

いい加減体の芯まで冷えてきた。

この気候で屋外の立ち話は虚弱な現代人に辛すぎる。

それを察したのか、霞が食堂へ案内すると言ってくれた。そうだね熱いお茶でも飲みたい。

 

「アンタがワタシを必要だと言うのなら転属は構わないけど、でも今は無理よ?」

 

その道中、霞が先ほどの返事をくれた。

あまり動きのない北方海域だが、今は状況が違うらしい。アリューシャンをうろつく敵艦隊を排除してカムチャッカ半島、アラスカ間の航路を開きたいのだそうだ。

ベーリング海だね、成功させたらカニパーティーをしよう。

 

「いいさ、それをなんとかしてこいってことなんだろうしな」

このタイミングで幌筵に送り出されたのはこのためなのだろう。

 

問題はあれだ、海域解放の今作戦にどうやって絡むのかだ。

誰かの指揮下に入るのか、それとも俺がそれをやるのか。

たかだか中尉くんだりの俺なのだけど、主に身内のせいで佐世保の英雄の名前がついて回るようになった。どこの誰が盛ったのかわからないが、南方の敵泊地攻撃を成功させた時雨は南方の女神と一部で呼ばれている。

 

戦争中だしな、プロパガンダ打つにはちょうど良かったのだろう。佐世保を生き残った英雄の艦隊に、悲劇を乗り越えた超強く美しい艦娘がいて戦果を挙げている。なんてのは。

どの道、佐世保の難を逃れた娘たちは全員迎えるつもりでいる。ならそのプロパガンダを利用させてもらうとしよう。

階級の足りてない俺には役立つ武器になるはずだ。

ただ、俺が作戦をまとめるにしても、当てにできる戦力が三人しかいないってことよ。

俺の指揮下で戦ってもいいと言ってくれる艦娘さんは他にいるのだろうか。

 

 

食堂で手ずからお茶を煎れていると時雨がやってきた。

探させたか? すまん。まさかこの寒空の下、お外で遊んでいるとは思わなかったろうな。

ついでに二人の分のお茶も用意して適当な席に腰掛ける。

 

時雨もここに霞がいるとは思っておらず、再会を驚いていたようだが、ひとしきり挨拶を交わした後、現状を説明する。

やはり時雨も霞を北方で遊ばせておくことに懐疑的だ。そして霞が艦隊に加わってくれると知って大いに喜んだ。

二人だけでの生活はそれはそれで良かったのだが、このままでは時雨に甘やかされまくってダメな男になってしまうかもしれないからな。時雨には苦労のかけどおしだったが、これで少しは肩の荷を分担できると思う。

 

 

「時雨は司令官にくっついて行ったのね」

「押し掛け秘書艦だからね。僕たちも南方の小島に転属になって、環境だけ見ればこれ以上ないって左遷だったけど……」

続きは声に出さなかった。しかし、小島よりはいくらかましな環境とはいえ、提督という心情を吐露する相手もいないここでの生活が、霞にとってとても良いものだったとは思えなかった。

 

 

「案内くらいするわ。1年もいるんだから、それくらいはね」

暖をとったら早速霞がそう言って腰を上げた。相変わらずキビキビしてる。

 

まずはドックに向かうことにする。俺への案内というよりは時雨のためだ。

食堂を出たところで黒髪の綺麗な、小さな艦娘に出会い霞が紹介してくれた。

 

「ワタシの僚艦を務めてくれている初霜よ」

「初めまして初春型駆逐艦の初霜です」

 

幼そうな外見に似合わず落ち着きのある、芯の強そうな子だ。性格的には霞と正反対のようで、だが根っこの部分は同質なのだろう。誰が選んだかは知らないが、霞のパートナーにぴったり収まる良い人事だと思う。

 

「久しぶりだね初霜。元気だったかい?」

「時雨さん、幌筵に来ていらっしゃったのですね」

お、知り合いか?

 

「僕は元々一水戦だから。それに初霜とは一時期組んだこともあるんだよ。結局名前だけだったけどね」

時雨によると、初霜は一水戦に二七駆ありとまで言われる有名な駆逐隊に所属しているようだ。

先の大戦では開戦前から一水戦の解隊まで所属し続けた艦として一水戦の屋台骨を支えた高練度艦だと教えられた。

「おぉ、凄いんだな。よろしく初霜さん」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

「二七駆にはワタシも時雨も所属したのよ。その縁もあって、今も僚艦を務めてくれてるの」

なんだその豪華な駆逐隊は、向かうところ敵なしなんじゃないか?

「じゃあ三人は結構共通点があるんだな」

みんな違うタイプに見えるが、付き合いが長いからなのか仲が良さそうだ。

と言うより、初霜の資質が素晴らしいな。一歩引いて支える感じだ。彼女なら時雨の僚艦でも霞の僚艦でも万全にこなしそう。そう思った。

 

「やっぱり時雨ってエリートなんだな」

凄い奴だとは思っていたが、こうして経歴などを明かされるとますますそう感じる。いろいろな意味で、最初に出会った艦娘が時雨で良かった。

「エリートってわけでもないと思うけどね、一水戦から四水戦まで一通りたらい回しにはされたよ」

 

「ってことは阿武隈さんのことも知ってるんだ?」

「もちろんだよ、旗艦だったからね。阿武隈もここにいるのかい?」

「さっき挨拶したよ。良い軽巡のようだな」

「うん。阿武隈は信頼できる艦娘だよ」

実は駆逐艦なんじゃないかとまだ疑っていたので、あえて軽巡呼びをしてみたが、否定がないところを見るにやっぱり軽巡なんだな。

 

「共通点と言えば、僕たちはみんな同じ生まれだね」

「生まれ?」

「はい、私たちは浦賀船渠(うらがせんきょ)生まれです」

俺の疑問には初霜が答えてくれた。

浦賀か、浦賀と言えば横須賀だ。鎮守府からも近いな。次に帰ったら寄ってみたい。

 

「阿武隈もそうよ」

そう付け加えたのは霞。

一水戦御用達なのか? 浦賀船渠、凄いな。

 

初霜と別れて三人は屋外へと出る。

やっぱ寒い。二人はガッツリと生足を出してしまっているが平気なんだろうか。

その視線に気付いたのか、霞がさりげなくスカートの裾を押さえる。

 

待て、誤解だ!

 

 

 

「あれ? 時雨じゃない。どうしたのよこんなところで」

「雷。そうか、阿武隈がいるなら君たちも一緒だよね」

 

外を歩いていると、洗濯物を手にしたこれまた背の小さな駆逐艦娘が声を掛けてきた。今さらだが時雨はいたるところの艦に知られている。有名なんだな。

 

「こちらは僕の提督だよ」

「提督?」

 

チラリと肩章を見て疑問を浮かべた雷に時雨が説明する。

「あだ名みたいなものかな、いずれ大きくなってほしいっていう願掛けみたいなものだよ」

「随分と大仰なあだ名を名乗っているのね」

雷がこちらに向き直りそう言うのを慌てて弁護する。

 

「いや、自称したわけじゃないからな」

実は係長なのに、外では社長を名乗ってるみたいで少し恥ずかしい。しかも自分の部下に社長と呼ばせてるなんて、考えれば考えるほど罰ゲームのようなので考えるのはやめよう。だいたい世の中は考え方一つで幸せになれたりするものだ。

 

 

「まあいいわ、私は特Ⅲ型駆逐艦の(いかづち)よ、(かみなり)じゃないわ! この泊地で困ったことがあったらなんでも言ってちょうだい」

雷と名乗る艦娘は、薄い胸を叩き堂々とそう宣言した。

霞よりもさらに小さいが、ずいぶんと自信のある子だ。

 

「見ためで判断しちゃダメだよ」

時雨が小声で忠告してくれた。いいけど、俺の心を読むスキルが上がっていないか?

 

 

「彼女たちは一水戦に所属するベテラン艦娘の第六駆逐隊だよ」

耳元で時雨がそう説明した。ここでも一水戦か、凄いな一水戦。凄いな阿武隈。

ところで耳元で囁かれる声っていいよね。こういった心の声が漏れ出たら、そのうち殴られるかもしれない。少し控えよう。

 

「聞こえてるわよ。でも本当。この北方海域の戦域は私たちがいなければ支えられないんだから!」

びっくりした! 心の声が聞こえていたのかと思っちまったよ!

 

なんてことはなく、聞こえていたのは時雨の声のほうだった。安心。

しかしちょっとギャップが激しすぎない? 見た目だけなら霞よりも幼い子だ。それがベテランで、しかも一桁ナンバーの駆逐隊を名乗っていると。

 

すると霞が補足してくれた。

「六駆は護衛と遠征のエキスパートなのよ。海であれば北方だろうが南方だろうが構わず駆け回れるだけの練度も持ってる。特に北方は燃料もカツカツでやってるから、彼女たちがいなければ1ヶ月と保たず兵站が崩壊するでしょうね」

わかった、大丈夫。そんな本気で疑ってたわけじゃないんだよ。二人が言うのならそうなんだろう。

人は見かけに依らないとは言うが、艦娘も同じなんだな。

ところで、不穏な発言が聞こえたな。兵站が崩壊ってどういうことだよ。

 

「なんでそんなに燃料が不足しているんだ? 大規模攻戦でもやっているのか?」

まさか不当な流出で財をなしている。なんてことはないだろうな。なんて考えてたら霞が即答した。

 

「南方が全部持っていくからよ」

問題はあっちか、海を抑えられたらなんにもできないのが我が国だもんね。

自国で賄える大国が羨ましい。米国とか米国とか米国のことだ。

 

 

「雷は凄いんだな。頼りにさせてもらうよ」

そう言ってつい頭を撫でてしまった。

「ちょっとー、いきなり頭を撫でるのはこの雷様もどうかと思うわよ」

やばいやばい。幼い見かけでつい忘れそうになるが、彼女は一水戦所属の艦娘で、しかも初対面だった。

しかし、それほど気にしてはないようで、彼女は胸を張りこう言った。

 

「でもそうね、頼りにはされてあげるから、そこはドーンと任せておきなさいよ!」

 

 

艦娘って度量の大きい子多くない? 佐世保で感じていたイメージと全然違う。

この子たちが特別なのか、はたまた一応ではあるが俺が司令だからか。

阿武隈、初霜、雷と、まだ三人と話しただけなので判断は保留しておこう。

 

「北方は有能な艦娘が揃ってるんだな」

「そうね、さっきは護衛と遠征のエキスパートだなんて紹介してもらったけど、ここらにはもーっと凄い駆逐隊もいるしね」

「ほほう、ベテランの六駆より?」

「私たち六駆の先輩にあたる第五駆逐隊がいるのよ。北方の護り神、船団護衛の守護神よ」

 

新しい名前キタコレ。早速時雨に説明を求める。

「特型駆逐艦である雷の先輩ってことは、僕たち全駆逐艦の先輩でもあるんだよ。長く艦娘をやっている大ベテランさ」

「それは是非一度あいさつしときたいもんだな」

「こっちに来ることがあったら紹介してあげるわよ」

 

 

本日の俺日誌。

阿武隈さんは凄いひとだった。声も凄い。

初霜さんは周りを立てる気配りの子。彼女が僚艦を務めてくれるなら、安心して時雨や霞を見送れると思う。

雷はいい子。かわいい。

 




阿武隈さんの声で脳を壊されたい。
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