少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
全部3章以降の話です。
実は本編は3章から始まる、の……で、す。
白露型のみなさんにもブラジャーを実装してほしい。そう思う今日この頃です。はい。
「電探に感あり! きゅ、救難信号よ!」
長距離演習航海の帰路。なんのトラブルもない穏やかな航海は、上擦った暁の声で唐突に終わりを迎えた。
「どうする?」
「スーパー面倒臭いな」
提督座乗艦の艦橋でそれを聞いた二人。
霞の確認にやる気の感じられない提督が答える。
「急行するわよ! 針路合わせ」
「結局行くんじゃん」
「当然でしょ、救難信号を受信しといて無視するのは国際法違反なの」
そういやそういうタイプだったねお前。
突然ですが、ここで我が艦隊の頂点に君臨する二人の駆逐艦を紹介しよう。
秘書艦時雨。本日は基地でお留守番。
救助活動となったらすかさず彼女はこう言う。
「警戒は僕に任せてよ」
司令艦霞。今、目の前にいる。
救助活動となったらまず間違いなく彼女は言う。
「ワタシがやっておくから、アンタたちは先に戻りなさい」
違うタイプだからこそ並び立つ。そんな感じだ。
「夕立姉さんを助けて!」
敵の的にでもなったのか、涙を浮かべたその子の制服は結構大胆に破れ、ほとんど背中が丸出しだ。
そんな状況ではないのだけど、腰下から覗くピンクの下着が目に眩しい。正確に判断するとウォーターメロンと呼ばれる種類のピンクだ。なんて瑞々しい。胸はぺったんこのようだけど。
あれから救難信号の出た海域に向かってひた走ってたわけ。
すると、その道中でかわいらしい女の子を引っ掛けることに成功したので、それを拾って今に至る。
「まずは落ち着きなさいな」
そのちっこいピンクの乙女に毛布を掛けながら霞が状況の説明を求めた。
「4艦で編隊を組んで哨戒をしていたんですが、敵に遭遇して」
哨戒中の不意遭遇戦ね、それでこんなになるというなら、敵艦隊はそれなりの戦力を持っていたのだろう。
「君の司令は?」
たどたどしく説明を始めた彼女に所属基地からの指示を確認すると、彼女は静かに首を振った。
「私たちは……、捨てられたんです」
押し殺したその声は、感情まで殺してしまいそうな、感情の坩堝だった。
悲しいのか、寂しいのか、悔しいのか。それとも失望なのか。
そして、司令から言われたのであろう言葉を口にした。
「駆逐艦のために危険は犯せないと」
「僚艦が次々と沈められていく中、夕立姉さんは私を逃すために一人で残ったんです。お願いします! 私にできることならなんでもします! 私たちを、救って……くださ……」
縋るようにして救いを求める彼女。その後半は言葉にならなかった。彼女も分かってはいるのだろう。
すでに二人は沈んでおり、彼女はこうして戦場から離脱できている。つまり、現在戦さ場には浮いているのか沈んでいるのか生死不明の駆逐艦が一人いるだけ。
しかも他所の艦隊に所属しており、その司令はすでに決断を下したあとだ。藪を突けば蛇が出るのか鬼が出るのか、こんな状況で手を差し伸べる軍属はいないだろう。
ただ、そうも言ってられない事情がこちらにもあった。まず確かめておかなければいけないことを尋ねる。
「君の名は?」
「し、失礼しました。私は白露型駆逐艦5番艦の春雨です。はい」
常温ほどに冷ました紅茶を運んできた金剛が会話に混ざる。
「なんでもするって言いましたネー」
「は、はい。どんな指示にも従います」
覚悟のほどを確かめたのかな。いや、金剛は案外と厳しい奴でもあるので、覚悟をしろと確かめたのかもしれない。
ともかく、言質は取れたわけだ。
「うーん。どうします、テートク?」
上目遣いで無言の「助けて」を伝えてくる彼女は男の嗜虐心をくすぐる。女の子を虐めたい気持ちが分かっちゃうなぁ。
「……添い寝かな。いや、しかし」
見たところ結構幼い感じ。ううん、そんなには見ていないよ? でも、あんまり妄想の題材にするのも悪いかな、なんて。ほとんどはだけてしまっている彼女を前にしてもこの理性よ。
庇護欲が嗜虐心に打ち勝った瞬間だ。やはり男は紳士でなければいけない。
しかし、やっぱり声には漏れていた。
「今、なんて……」
「気のせいよ」
おかげで、耳聡くそれを聞いていた霞に後ろから羽交い締めにされる羽目になっている。
意識を集中すると背中に成長を始めたばかりの霞の微かな柔らかさが……ダメだ。言ってる場合じゃねぇ、意識が刈り取られる!
「気の迷いだ! 気のせいだ!」
力強く言い訳を口にして霞から逃れることに成功した。そして追撃される前に艦隊に指示を出す。
「進路そのまま! 救難信号の発信地点まで最大戦速、敵艦と遭遇次第攻撃を許可。あらゆる手段を以って全力でこれを退け、海域に残された艦娘の救助を行う!」
「助けて……くれるのですか?」
やっぱりちょっと泣かせたいな。この娘の上目遣いはそんな気にさせる。
好きな女の子に砂場で砂をかける男の子の気持ちだと言えば分かるだろうか? 嫌われるだけなんだけどさ。
「助けるよ。かわいい娘のお願いは叶えてあげなくちゃバチが当たる。それに……」
「シグレのシスターですからネー」
そうなのだ。彼女も、そして彼女を逃すために現場に残ったという艦娘も時雨の姉妹。この二人のことは時雨から聞いているのだ。
「時雨姉さんを知っているんですか?」
「泣く子も笑顔で問い詰めるウチの艦隊の秘書艦さまデース」
「時雨にはもうずっと世話になりっぱなしだ。ゆくゆくは時雨の姉妹は全員ウチで面倒みたいと思ってたところだから、渡りに舟とはこのことだな。艦だけに」
「アナタの元所属基地には後でキツーイお灸をプレゼントねー」
こちらとしては、二人を助けた後の受け入れについての問題はない。諸事情により少数精鋭を強いられているウチの艦隊ではあるが、白露型に限っては最優先で確保だ。
あり得ないことだが、救助を断念してこのまま帰投したほうが大問題に発展する。「君たちには失望したよ」なんて言われたなら立ち直る自信がない。
後々発生する先方との問題については、それは今後の問題として割り切っておこう。
今は、残された夕立がまだ沈んでいないことを願うのと、彼女らを捨てた司令とやらが一線で活躍するバリバリの将官でないことを祈ろう。
「そんじゃあ霞さんや、後は任せたよ」
「アナタはなにすんのよ?」
「わからないか? 俺には春雨ちゃんの背中をさすって落ち着かせるという重大な使命がだな」
その台詞を聞いて、春雨は体を震わせる。なんでもすると言ったからには、そういうことも想定していた。まさか、まだ陽の高い艦上で、なんてことはないだろうが、そういう趣向を持つ人間の男がいるということくらいの噂は耳にしている。
姉を助けてもらう対価。私に差し出せるものなど、自らの身一つだ。唇を噛み締めてそれを受け入れることを覚悟した。
しかし、当然のように眉間に皺を寄せるのは霞。
「却下よ。ワタシが戻るまでアンタはその子から3mは離れてなさい」
「今回はカスミに賛成ネー。負い目を感じてる子に優しくするのはフェアじゃないデス」
二人は分かってるだろうが、もちろんホントにセクハラする気なんてないよ? 落ち着かせて慰めようとしただけ。それも金剛には控えろと言われてしまったわけだけど。
「雷、電! 座乗艦まで戻って、至急!」
そして警戒に当たっている二人を無線で呼び出す霞。
「その子のケアは雷たちに任せるから、アンタは見てるだけ。特別に良識に則った声掛けまでなら許可するわ」
助けてもらえるという安堵感にある春雨は、未だ落ち着かない心情の中、この奇妙なやり取りを見つめていた。
戻ってきた雷と電が艦娘昇降用のスロープから乗艦すると、甲板でへたり込んでいる春雨を見て言う。
「さっきの救難信号はこの子?」
「時雨の妹よ、もう一人が敵艦隊の中に残ってるそうだから、今から向かうわ」
言いながら、霞と金剛は艤装の準備をしている。
雷電姉妹の抜けた穴をお前らが塞ぐのか? 豪勢だな。
「二人は司令官がその子にちょっかいかけないよう見張ってて」
「了解なのです」
「ダメよ、司令官。弱ってるときの女の子を口説くのは一人前の男がすることじゃないわ」
「それはさっきも聞いたよ。とりあえず、彼女を艦内に連れて行ってあげてくれ」
「全員に通達、敵艦隊の中に取り残されている友軍の救援に向かう。分かってるとは思うけど今作戦の指揮はワタシが執るわ! 戦闘準備!」
作戦の開始を告げる霞に出撃準備のできた金剛が声を掛けた。
「それじゃあカスミ、乗ってクダサーイ」
そうして霞を自らの砲塔の上に乗せ、二人はスロープを降りていった。
さて、何事もなく終われば良いが。
一人残された甲板で、空を見上げながらそう思う。
緊迫した状況とは裏腹に、空は抜けるような青空だった。
時雨と霞の救助活動の違い。
だいたい史実がそんな感じ。
戦闘が終わったあとの艦娘を抱えてドックに運び入れる仕事に就きたい。
春雨ちゃんって、中破状態で立ち上がるとスカート脱げちゃうだろうなぁ。