少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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マジな話をすると。
提督って自衛隊でいう海将補以上の艦隊司令官を指す言葉。
海将補は米軍での少将クラス。

50歳でなれたらかっこいい。ってな具合なので、提督と呼ばれたらだいたいその辺りの年齢。ちなみに定年は60歳。

身近じゃなかったらどうでもいい話だけど、そうじゃなかったら20代や30代の提督ってギャグなんだ。
24歳で学校の校長をやってるくらいにはおかしい話。普通なら新米教員の年齢だもんね。


それを踏まえて物語を作ると、シン・ゴジラ級の重い話になるに違いない。艦娘とキャッキャうふふどころか、孫がいてもおかしくないし、話も政治ばかりだろう。

うん。逆にちょっと読んでみたいかもしれない。



幌筵泊地で4

夜にもなると尚更寒いね。

吐く息が白い。

 

いや、それは昼もだったね。失敬失敬。

本来なら今頃部屋で時雨と駄弁りながら暖を取っているか、下手すりゃもう就寝しちゃってるかもしれなかったのに。

なぜこんな時間に基地内をうろついているのかと言うと、この美しい星空を見に。

 

来たわけでは当然ない。

 

星空を見に来たのなら隣には時雨か霞が居るだろう。もしくは二人とも居る。まである。

一人で星を見るようなロマンティックな趣味もないので外にも出ていない。

屋内でも寒いんだよ。

 

俺と時雨のために用意された部屋から一階下ってちょっと行ったところにあるとある詰所。この時間だと誰も利用しておらず、そこで一人、所在なく突っ立っているところだ。

おっと、済まないな。ポケットにカイロ、ではなく。妖精さんが居た。俺は一人ではないようだ。

妖精さんと二人、やることもないので窓から星でも眺めてみる。

空気が澄んでいるのだろう。明日にでも時雨を誘って見に行こうかな、と思えるくらいには美しかった。

 

 

そうやって時間を潰していると、慌ただしく扉を開けて一人の女性が駆け込んできた。

 

「遅くなってごめんなさい。報告書が溜まっててー」

甲高い声だが、聞いているうちに癒しの波長でも出ているのか、癖になる声だと思った。

そう、この声の主は阿武隈だ。

今まで仕事をしていたのだろう。入浴もまだなのか制服のままだ。阿武隈のルームウェア姿が見たかったなぁ。

 

 

それは夕食をとっていたときのこと、彼女からそっとメモを渡され、そこにはこの部屋までの道順と時間。それから「二人だけで話がしたい」とだけ書かれていた。

 

時雨を一人待たせることになってしまうが、おぜうさんに誘われたのなら致し方ない。おぜうさん。発音に注意してくれ。

 

よからぬ期待がないでもないが、まぁなんだ。まっとうに、人に聞かれたくない話でもするんだろう。

 

「いいえ、私も着いたところですよ。お気になさらず」

そう言って紳士的に阿武隈を迎え入れた。

 

阿武隈は、部屋に入るとパイプイスを2つ組み立てて座るように促し、その後でストーブも点けてくれた。

 

さすがは北の果ての基地。建物の気密性はカナリのものだと思う。内地の国内メーカーは気密性よりも断熱性に走りがちらしく、あんまり気にしてないようだが、ここは北海道の工務店で建てたクラスのC値になっていそうだ。

どこが建てたのかな。南極みたくミサワさんなのだろうか。循環とか換気にも気を使うんだろうな。

 

そのどれもが、あの日の日本にはなかったものだ。

つくづく、戦中ここでお国のためにと頑張ってくれた先人たちの苦労が偲ばれる。

 

 

「どうかしました?」

「いえ、一時期流行った『倉のある家』って、今どうなのかなって考えてただけです」

 

微妙な空気が流れてしまった。素敵なんだけどな、ミサワさんの倉のある家。倉の使い方を想像するだけで心が躍る気持ちになる。なるよね?

 

さて、気持ちを切り替えて、そろそろ話を進めようかな。

「それで、お話というのは?」

 

 

「アナタは良い人そうですね」

唐突にそんなことを言われた。

 

なぜそう思ったんだろう。良い人って、とどのつまりは都合の良い人とどうでも良い人に二分されるんだけど、この場合は前者だと思ってもいいよね。悪い意味ではなく。

 

そういえば昔、同学年の友人に同じ話をしたことがある。そいつはその後、良い人だと言われても嬉しくなくなったと言っていた。

そうじゃないんだぜ?

誰だって都合の良い人と都合の悪い人が居たら、選びたいのは都合の良い人でしょ。

俺は君にとっての都合の良い男になりたいんだ。そう言えて初めて大人の男になる。

 

人に好かれるのは案外と簡単なものだ。そう言う話。

 

なんて、詮無きことを考えていたら阿武隈が話を続けた。

「霞ちゃんからよく聞かされてました。ちょっとおかしいけど、見どころのある司令官だって」

「へぇ、霞がそんなことを。ボロカスに言われてるかと思ってたから意外だな」

「ボロカスにも言ってたから意外ではないですよー」

いかにも霞らしくてつい笑ってしまった。

阿武隈はそんな提督の顔を窺うように見つめていた。

 

「やっぱり、怒ったりはしないんですね」

 

怒るなんてあるはずがない。当時も今も、俺と霞は上官と部下の間柄ではないし、最初の出会いがそもそも罵倒だったのだ。

阿武隈には戦友だと言ったが、本当は悪友に近いかもしれない。もっとも霞の評はきっと、自分が口をうるさくしてやらなければ酷く頼りない新米士官といったところだろう。

 

「アナタについては、霞ちゃんとのやり取りで人柄もわかりましたし」

霞ちゃんから信頼される人間なんて、それだけで自信を持っていいんじゃないかなと、阿武隈が口の中だけで呟く。

 

「なにより驚いたのが、時雨ちゃんがアナタにべったりだってこと」

 

それについては疑問だった。俺にべったり尽くしてくれることについては、それは少々疑問もある。が、時雨は基本人好きする奴だと思うからだ。

 

 

「佐世保のことを聞いていいですか?」

なんだなんだ、話が飛ぶなぁ。繋がっているのか?

まぁ特に隠していることでもないので、あらましを説明してやることにする。

査問で何度も繰り返し話させられた経験が活きたかもしれない。

結構饒舌に佐世保のことを話せたと思う。

 

「霞ちゃんに指揮を任せた理由は?」

「現場を知らない人間が無線越しに他人の命をどうこうするのはいかがなものかと思ってね、みんな初対面だったから尚更だ」

 

やっぱりそこ、気になっちゃいます?

あのとき霞にも言われたが、取りようによっては俺の責任逃れにも思えるよな。

そんなことは決してなく、俺より霞が現場で指揮したほうが良いと思っただけなんだけどね。合わせてそれも説明してやる。

 

「もともと霞は戦況を読み解く優れた能力を持ってたんだ。なら現場は霞に任せて、私は行動指針を示すだけに徹したほうがうまくいくんじゃないかって、そんな理由」

 

最後に一つ。阿武隈がそんな風に言った。

別に回数制限は設けていないので、朝までだって質問を続けてくれてもいいんだけどね。

 

「アナタの目的はなんなんですか?」

目的、か。

深海棲艦を倒して平和な世界を、とかを聞きたいわけではないのだろうな。

こちらも、別に隠すようなことじゃない。

 

「当座は艦娘が手にするべき権利と義務を当たり前に享受できる艦隊を作るってことかな。そのうちそれを海軍の当たり前にしてやりたいと思ってる」

権利と義務。良い言葉だなぁ。

それを意識せずとも手に入れられる国。日本に生まれて良かったと、どの程度の人が気付けているのか。

 

だが残念ながら、その範疇に艦娘は入っていない。俺はそれをどうにかしたい。

 

それを聞くと、阿武隈は「納得しました」とだけ言って、何かを考えている様子を見せた。

 

会話は面白い。

言葉のキャッチボールだなんて言うが、言い得て妙な良い表現だと思う。

言葉の節々から相手を理解し、想像し、推し量る。

相手がどんな球を投げてくるのかを考えるだけではなく、相手が取りやすいボールを投げることも考えなくてはならない。

 

話してみたら、誰にだってわかるだろう。

艦娘には自己があり自意識がある。それらは個性と呼ばれるものだ。

 

なら、俺たちとなんら変わらない。

 

 

 

「提督はここに艦娘をスカウトにきたと聞いていますが」

「横須賀に顔見知りの中将さんが居てね、そいつがうるさく言うんだよ。形だけでも早く整えさせたいみたいだし、ついでにここで戦果の一つでも上げてこいと叩き出されて困ってるところだな」

 

あ〜のクソジジイ。霞がここに居るのを知ってたに違いない。

サプライズのつもりか? それなら迷惑ではあるが、まだ可愛げがある。

しかし奴のことだ。言わなかったのは俺を計っているからなのだろう。

ここで霞と再会し、俺が霞を連れ帰るのか否か。

 

 

「お願いがあります」

急に改まって向きなおる阿武隈にびっくりした。切羽詰まった顔をしているがどうしたことだ。

 

「ワタシの水雷戦隊を、提督の艦隊に迎えてはくれないでしょうか?」

 

 

「阿武隈さんのって、第一水雷戦隊をですか?」

帝国海軍栄光の一水戦。それが俺の艦隊に?

北方海域での作戦を手伝ってくれないかなぁとは思っていたが、指揮下に入るとなれば話も変わってくる。

まったくもって現実味がない話だ。

 

「さすがにそれは、私はただの中尉ですよ?」

「どうぞ阿武隈と呼んでください。私は階級を特に気にしていません」

気にしないと言われてもな〜。戦隊旗艦って基本的に大佐クラスじゃないとなれないよね、こちとらカナリ早いペースで昇進したが、未だ中尉です。駆逐艦長にだって全然手が届かない階級です。

めちゃくちゃ上手く事が進んで、あと20年でなれたらいいな。そんな話だそ。

 

「いや、気にするもなにも。本来なら司令になれない階級ですよ?」

「ワタシにとって重要なのは、一水戦のみんなを守ることなので」

 

頑なで意志が強い。しかしどこか危なげに、彼女はそう言った。

 

 

 

「護衛が主の一水戦ですが、戦況は芳しくありません。今も北方に来ているように、これまでも各地を転々としてきました。軍人さんにはいろんな考えの人がいますが、ワタシたち、いえ、六駆のみんなを大切に扱ってくれる司令官を探しています」

 

そのために、彼女はどこの艦隊にも落ち着かず、横須賀を離れ六駆を率いて北へ南へと転戦してきたのだと言う。

 

なぜそこまで六駆を、と聞くと彼女は滔々と話しだした。

それは、一緒に行動して長い、有り体に言えば情がある。特に、六駆はそれぞれ脆いところがあり、過去の記憶を引きずっている。そんなところだ。

 

昼に会った雷にそんな印象は持たなかったが、長く一緒に居るからこそわかることもあるのだろう。

 

 

「艦娘と対等に、条件について話し合える司令官はなかなかいません。そこに現れたのがアナタです」

 

つまりこれが、俺の艦隊に加えてほしいと言った理由。

 

「その条件とは?」

「この阿武隈率いる一水戦を指揮下に置くことができる、そのために必ず守ってもらいたい一つのルール」

 

 

「なにがあっても、六駆を解隊しないこと。彼女らをバラバラに運用し、転属させたりしないと約束してほしいんです。誰か一人でも欠けてしまえば、彼女たちはダメになってしまう……」

男の子の感性としては、そうなっても大丈夫なようにと考えるだろう。ダメにならない強い子に、でなければ根本的な解決にはなっていないと思う。

 

しかし、だ。

 

「その条件を飲んでくれるのなら、ワタシの待遇はどんなものでも受け入れます」

強い意志と覚悟を決めた目をしている。

約束を守る限り、阿武隈はどんなことでも受け入れると思う。

 

俺は雷以外の姉妹に会ったことがない。

問題の根っこがどのように張っているのか想像もできないが、わかっていることもある。

 

 

「頑張ってきたんだな」

阿武隈の頭に手を置き、撫でるようにして言ってやる。

 

「そうやって一人で抱え込んで、ずっと彼女たちを守ってきたのか」

 

わかっていること。

それは阿武隈が良い奴だということだ。

わからないなりに、今後は彼女と悩んでいこう。

俺は阿武隈にとっての都合の良い男になりたいと思ったから。

六駆の問題については、まず話してみて、そして時間をかけて対処していこう。

 

今やらなければいけないのは、その問題を阿武隈から取り上げてやることだ。

まずやらなけらばいけないのが、阿武隈を救うことだ。

 

 

「なにも心配はいらない。そういうことなら、これからはお前と一緒に俺も苦心するよ」

「ありが、と、ございま……」

声を押し殺し、静かに、嗚咽を噛み殺す阿武隈の姿が印象的だった。

誰にも打ち明けることが出来ず、たった一人で戦ってきた阿武隈は、本当に強い女性だ。

 

親猫のように六駆を守り、艦隊を転々とする生活とはどんなだったのだろう。

この阿武隈のお眼鏡に適ったのなら、それは誇るべきこと。頼ってくれて嬉しい。もっと頼られたい。

だから、頼れる男になろう。

 

 

「お前たちが笑って過ごせる艦隊を作ろう。まず、この北方で結果を出すよ。俺が、お前たちを守るに相応しい頼れる男なのかどうか、それで判断してくれ」

 

足掛けの駄賃がわりではなく、この作戦で戦果を上げる。

少しでも釣り合いが取れるようにしておかねば、第一水雷戦隊を指揮下に置くなどできないだろうから。

 

 

それから、阿武隈が笑えるようになるまで詰所で話をした。とるに足らないバカ話だ。

それはそれ、これはこれ。

畏る関係である必要はない。俺は阿武隈が欲しいし、阿武隈も俺を必要としている。

なら二人は対等で良いのだ。

 

 

夜もすっかりふけてから部屋に戻ると、時雨が起きて俺を待っていた……。




提督、司令官、司令はそれぞれ役職です。
司令は司令官の略ではなく、別の役職。

そういうのを知って艦これ小説を漁ると、「俺は東大を卒業したばかりの20歳で新人アルバイトの専務! 経理に自信のある厨房担当だ! 横須賀にある甲子園ドームで卓球を頑張ってるぜ!」みたいな話に出会えて楽しい。

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