少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
相変わらず本編は進まない。
そういえば、艦これ界隈ではよく目にする「憲兵」。
あの人たちは陸軍だぞ?
しまった! 記念となる27話目だった。
第二七駆逐隊と言えば、有明、夕暮、白露、時雨が所属した駆逐隊。
この四人は有明型駆逐艦と呼ばれたりもする。その場合、白露が長女ではない。彼女が1番艦にこだわるのは、きっとそんなところから。
「あれ? 珍しいな」
日本ほど四季を感じることはできないが、年中暑いリンガがより一層の猛暑を振るう季節。
時雨が席を外しているので執務室には提督と、提督が目を通しておく必要があると判断された書類を渡しにきた霞の姿だけがあった。
そのうちの一枚、直近に予定されている他艦隊との演習表を確認していると、演習艦隊に時雨の名前を見つけたのだ。
「時雨が演習に参加するのってどれだけぶりだっけ、相手の艦隊どこだ? 絶対勝たなきゃならない理由でもあるのか?」
艦娘の数も増え、戦力に余裕ができてからの時雨はもっぱら内政に精を出しており、海に出ることが少なくなっている。練度も艦隊随一の水準を保っているため他艦隊との演習に参加するのもご無沙汰のはずだ。
その時雨が唐突に演習に参加する。これはなにか事件の前触れかと思ったが、その心配はすぐさま霞に否定された。
「半年ぶりくらいかしら? 相手は関係ないわよ」
腰に手を当てた霞が呆れたように続ける。
「忘れたの? 先日軍令部から攻勢作戦の概要が届いたでしょ。ウチの艦隊としては、そろそろ無視できない戦果の一つでも叩きつけておきたいところなの。だから勘を取り戻すんだって」
そりゃまた演習相手には酷いタイミングだ、運の悪い艦隊に心の中で合掌。
「霞はいいのか?」
「よく見なさいな。あるでしょワタシの名前」
慌てて演習表を確認すると、しっかり旗艦の欄に霞の名前が入っている。時雨の名前のインパクトが凄すぎて他の名前が目に入らなかったようだ。
「ワタシは定期的に演習にも参加してるのよ。知ってるでしょうが」
「だってお前、演習のときも金剛の艤装に乗りっぱなしで戦わないじゃん」
深海棲艦との海戦時でも海に足をつけることなく、金剛の艤装の上で指揮に専念している霞だ。演習だからといって自ら先陣を切るようなやつではない。おかげで、真面目にやれだのやる気があるのかだの。他所様よりやっかみなのか、不真面目に見えるのか、クレームがひっきりなしだ。
「ふん。戦ってほしいならワタシを海に立たせるくらい追い込んでみなさいったら」
視線を窓の外に向け、吐き捨てるようにそう言う霞だが、この言い分だと一応クレームの件は把握しているらしい。ついでに霞の性格から想像するに、実は気にもしているんだろう。
それに、と霞が付け加える。
「今回は駆逐艦の選抜チームよ。だからよく読みなさいったら」
どれどれ、そうして改めて演習表に目を走らせる。
演習艦隊旗艦は霞、そして上から順に響、皐月、綾波、島風、時雨と続く。
おお、容赦のない選抜だな。不死鳥から武勲抜群、そして鬼神に規格外艦。とどめは南方の女神ときたもんだ。
さて、運のなかった対戦者は──。
長門、千歳、那智、木曾、夕雲、巻雲。
バランスいいなー、と遠い目をしてみる。ガチなやつだこれ。
「おい、勝てるのか?」
「失礼ね。負けるつもりの艦隊を編成するわけないでしょ」
気負っているでも見下しているでもなく、坦々と答える霞の根拠はなんだろう。その表情を読んでか霞が言う。
「アンタ知らなかったっけ?」
「情報大好きなヤツが上官だからか、ウチの作戦室はなんでもかんでもデータベース化しちゃっててね。深海棲艦はもちろん、今まで見聞きした艦娘の戦力や練度も全部数値化して保存されてるのよ。それを基に編成組んでるんだから決して無謀ってわけじゃないわ」
ウチの作戦室はって、室長お前じゃん。と思ったが口には出さない。
「それにしても、相手も結構なメンバーだな。そんなにウチが嫌い?」
「ワタシの話聞いてる? だから、それは攻勢作戦に参加予定の子たちよ。いわゆる連合チームね、ついでに連携の確認でもするつもりなんでしょ」
ああ、そういえばそう言ってたね。海軍を挙げての大規模作戦ね、その参加艦でも倒しちゃう気でいるのが霞らしいが、ま、お互い訓練になるならなんでもいいだろ。別に、倒してしまっても構わんのだろ?
あれ、ちょっと今、気になること言わなかった?
「なんでもデータベースって言ったか?」
「ワタシの記憶が確かならそう言ったわね」
ま……さか、それはつまり。
「ってことは、所属艦娘の下着リストもあるわけだ」
なに言ってんだコイツみたいな顔をされたが、霞は生真面目な性格をしているので一応の返答はしてくれた。
「外出時に直接買ってきた物までは把握してないわよ。でもそうね、制服として申請されてる分なら履歴はあるか」
ホントにあるんだ、恐ろしいな。おちおち変な物も買えないぜ。
「お、ってことは」
「まだなにか?」
片眉が上がっているが、これは通常時の霞だ。他の艦隊の軍人さんや艦娘さんなら誤解するかもしれないが、間違えてはならない。特に今の霞は不機嫌でも怒っているわけでもないんだぞ、むしろツンツンしててかわいいじゃないか。
「下着の申請頻度の平均から、著しく数の少ない艦娘は自分で直接買いに行っていると予測できるな」
指を顎にやり、なるほどね。と霞が独り言ちる。霞の癖だがこの動作は提督から移ったものだ。
「で、それがなんなのよ」
「申請できる下着ってどんなだ?」
「普通のやつよ。ここはかなり自由な艦隊だけど、用途はあくまで制服だからね。まあカタログから購入するからどのメーカーのでも大体手に入るんじゃない?」
「つまり、わざわざ自分で買いに行っているのは趣味性の高いものであると推察できる」
「ふーん、申請頻度か……」
お、喰いついた?
よほどマヌケな顔をしていたのか、チラリと提督を一瞥したあと霞が言う。
「言っとくけど、そんなリスト出さないわよ」
艦娘にもプライバシーはあるのだと、ごくごく当たり前のことを説かれた。断られる前にせめて色別の比率くらいは聞いておけばよかった。そんなデータがあるのかは知らないが。
「そうじゃなくって、艦娘個人が頼む物品は総務を通して調達部が用意するんだけど、当然それらは経理に記録が残ってる。妙に購入頻度が高いものがあれば、それを必要としているのはなんのためなのかしら」
なにかしら思いついたのだろう。執務机に腰をもたれさせ思考ゲームに入ったらしい。
提督自身もそうではあるのだが、彼女にとってふざけた日常会話と仕事の話。その境界線はどこにあるのかまったくの謎だ。霞にとってオンとオフの切り替えはないのかもしれないなと思った。
「例えば筆記具やノート。その子はいったいなにをそんなに書いているのか」
「勉強熱心なんじゃないの?」
「対象が特定できれば調査は簡単よ、基地内で一人になれる機会なんて限られてる。もし普段書いてる様子がないのに申請頻度が高ければ」
「そりゃ日記だ、私室で書いてる」
相変わらず顎先に指をあて、眉間にシワを寄せながらなにやら考え込む霞。もっとも、霞の眉間にシワが寄っているのも上機嫌のとき以外は常のことなので、それは直接には関係ないのだが、懸念については素直に質問することにした。
「情報漏洩の可能性が?」
「ううん。心配しないで、今のところそういった兆候は見られないわね」
「考え方の一例ってだけよ、データはいくらあっても困らないもの」
データは集めて読み解くのが大事だと昔教えたような気もするが、やっぱり情報好きは俺のせいじゃなくてお前の資質だ、と言ってやりたくなった。
「そんな備品より燃料弾薬の方からやったらどうよ?」
「そっちはとっくに使用申請と実際の在庫とを照らし合わせてるから問題なんてないわよ。どこをどういじくり回しても用途不明なんてことにはならないわ」
あ、さいですか。本当に、なんでも完璧にこなすヤツだな。改めてこの艦隊で1番重視しなければいけないのは霞のケアだと思った。
当人がそれにやり甲斐を感じているのは幸運なことだが、それと労うことは反しないからだ。
「他の艦隊との比較はどんなもんなんだろうな」
「そんな意味ないデータは要らないわ。他の艦隊での使用量が少なかろうと、ウチでは必要なの。他所に合わせて訓練減らすなんて馬鹿げたことをやるつもりはないし」
燃料や弾薬の話が出たから何気なく口についただけだったが、えらく饒舌に返答がきた。
しかし、ウチの方が少ないって可能性は最初から除外されてるんだな。さてはコイツ比較データ持ってやがるな。
とはいえ、推定される使用量から必要な遠征や護衛頻度を計算し、常に黒字になるよう艦隊運用をしているのも知っている。釈迦に説法をするつもりはないのであえて口を挟むこともないだろう。
ま、誰に言われるでもなく、ウチの艦娘は揃いも揃って訓練大好き娘たちなので、それは軍組織として良いことなのだろうし。
「ウチの艦娘とよその艦娘の戦力比ってどのくらいなんだ?」
「バラツキはあるけど、そうね。ウチを10だとすると他は平均して7から8ってとこかしら」
結構な差があるんだなと言うと、胡座をかいていられる程の余裕はないと念を押された。これは平均値のマジックらしい。
と、いうのも、ウチの艦隊は一部の例外艦を除けば大体横並びの練度を維持しているとのことだが、他所の艦隊は個々艦でのバラつきがひどく、有象無象の低練度艦が平均値を著しく下げているんだそうだ。
数字の上では差がついても、演習や実戦で合間見えるのは艦隊上位艦ばかりになるだろうことから数字ほどの差はない。そういうことのようだ。
「艦隊戦だとさらに差は出ないわね。駆逐艦主体のウチはどうやっても正攻法では戦艦や空母なんかの大型艦に勝てないことも多いわ」
こればっかりは自分の行動指針に付き合わせていることなので、彼女らには頭が下がる思いだ。おかげでウチの艦隊の戦術セオリーは肉薄してからの水雷戦という、一発狙いを強いることになっている。
システムではなく個人の資質に頼る戦術ならごめん被りたいところだが、一応それを可能にするだけの訓練をやっている。
「陸上戦ならどうだ?」
「相手にならないわよ。ウチで訓練を経験したことのある子でも5は超えないわ。それ以外ならいいとこ3ね、まだ陸軍の方が脅威よ」
うーん。海軍籍の艦娘のはずだが、ウチの娘らは陸の上で無双する。どこに向かってるんだろうなぁ。
「そうは言っても、これは市街地戦や屋内戦、突入作戦までしか考慮してないわよ。森林や荒野で撃ち合うのは私たちの戦いじゃないもの」
そりゃそうだ。そこまでできるならもう陸軍に鞍替えした方がいい。その場合は誰と戦えばいいのかな。ところでお前は読唇術でも使えるのか?
「そういったのを踏まえて、今回の演習は勝ちに行くと?」
「楽な勝負ではないけど、負けるつもりはないわよ」
「あれ、誰の艤装に乗るんだ? お前も島風の背中に乗れるのか?」
島風の魚雷発射管の上に暁を跨らせるという、トンデモ運用をしたことがある。島風の快速と暁の索敵能力を有効活用した高速索敵チームだった。だった……。当の暁が酔って戦闘にならないと、1回限りで幻のチームになってしまったがな。
それを霞がするにしても問題はある。霞は暁より大きいし、なにより発射管に跨られた状態では島風も魚雷を放つことができないのだ。
「アンタねぇ、ワタシをなんだと思ってるのよ。今回は真っ向からの水雷戦。指揮官先頭の心意気を見せてあげるわ」
ウチの艦隊でも、霞の艦隊戦を見たことのある艦娘のほうがもう少ないかもしれない。艦隊指揮を執る例外艦。そんな風に見られているようにも思う。だから誤解される。
霞は戦術眼に優れるだけの艦娘ではないのだ。艦隊司令艦として秀でたこの指折りの例外艦は、艦隊戦でも遺憾無くその能力を発揮する。元最高練度の駆逐隊を率いて海を駆け、あの佐世保陥落からも生き残ってみせた。自ら動ける武闘派駆逐艦なのだから。
「そりゃ見ものだな。敵艦に肉薄して魚雷で大型艦喰いか」
「最後はそうね、でも今回は昼戦の間に那智さんを狙っていくつもりよ」
「このメンツであえて重巡を目標にするのか? 理由を知りたいね」
「まず相手もそう思ってるでしょうね、だからこそよ。彼女は本番だと慎重になり過ぎるのか判断を間違うことがある、接近戦は避ける傾向にあるようだし、突き崩すべき穴はそこね」
大型艦についてはあまり詳しくないが、霞がそう言うならそうなんだろう。艦隊指揮は任せてある。ならば自分の仕事はサポートと、いざというときの責任を果たすだけ。それが、仕事を任せるということだ。
「聯合艦隊旗艦さまがいらっしゃるからね、彼女がどこまでフォローにまわるかわからないけど、できれば那智さんには昼の間にご退場願いたいものだわ」
「そうは言っても大型艦だぞ? 霞の主砲では抜けない」
直撃させたとしても、駆逐艦の主砲では大型艦の装甲を抜くことができない。艤装の弱い箇所にうまく当たっても継戦能力喪失まで持っていけるかどうか。
「ワタシの砲ではね、それは綾波がやるわ」
警護艦綾波は、大人しい外見と物腰柔らかな態度から想像できないバカ火力の持ち主だ。確かに彼女なら昼戦で重巡の装甲くらい抜くだろう。駆逐艦でありながら飛びっきりのイレギュラー、それがウチの艦隊で二大鬼畜艦と呼ばれる彼女の特性。
「空母は航空戦力さえなんとかできれば残しておいても脅威じゃない、それは皐月と時雨がやるわ。木曽さんには島風をぶつける、魚雷の撃ち合いでもしててもらいましょう。重巡と駆逐を昼戦で落とせば、あとは夜戦で時雨が旗艦を落としてS勝利よ」
口にするのは理想の結末。ただし、それを理想で終わらせないための鍛錬は日頃から積んでいる。
霞は夢想家ではないのだ。彼女らとならできると、そう判断したからこその作戦。そのための編成。そして僚艦たちは各々それに応えるのだろう。
「ま、誰が残ろうと時雨が長門さんに決めてくれたらA勝利。勝てない相手じゃないわ」
「被害の想定とかは?」
「ワタシと時雨は残るつもりよ? 中破はしてるかもだけど、後は状況次第で島風か響のどちらかくらいは戦力を残したまま夜戦に移行できるかもね」
霞のそれは決して慢心ではない。僚艦の練度と働きを信じ、許容できる範囲の犠牲と被害も織り込み済み。あとは現場で霞が指揮を執るだけだ。
ついでに、今回の駆逐艦オンリー編成での演習で何か試したいことでもあるのだろう。もちろん言ったとおりに勝つことを考えてはいるが、最悪勝てずとも目的は達成するつもり、霞はそんな奴だ。
「さて、もう行くわ。仕事が貯まってるのよ」
「あまり根を詰めすぎるなよ」
体を気遣う提督に対し、柔らかな笑みを浮かべて応え、歩幅の大きいいつもの歩き方で扉に向かう。
部屋を出るときに少し振り向き、最後にこう投げかけた。
「そうだ、言っておくげど。下着の申請頻度と趣味性の高い下着の関連性は確かめられないわよ? よく盗まれる子もいるから」
今までの会話が全部吹き飛んだ。そんな衝撃だ。
「待て、それについて詳しく……」
魂の深いところから出た男の慟哭にも似た声が彼女に届いたかどうかはわからない。
はたして、無常にも扉は閉まり、再び彼女によって開かれることはなかった。
女子校みたいなもんだしね。あと、戦場に生きる少女ってことも関係してるかも。