少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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〜それはすっぱいイチゴのように〜

黄色のヘルメットを頭に乗せた霞が工廠内を闊歩している。

几帳面な霞らしく、そのヘルメットの後ろには丁寧な字で名前が書かれていた。

 

少し薄暗い工廠内では、軍人のほかアウトソーシングで入っている人間も多くおり、合わせて工員に分類されている。

そんな彼らと、妖精さんたちが忙しそうに駆け回り今日も艦娘のために顔を油で汚していた。

 

「悪かったわね、余計な手間をかけさせて」

「なんの、我々の職域ですよ。むしろ自分の庭の不具合、申し訳のしようもありません」

油や煤で汚れた工員たちの中にあって、真っ白なシャツに静謐な香りを漂わせる彼女の姿は場違いではある。しかし、ここにはそんな彼女を悪く言う工員は一人もいない。彼女はこの基地での最高権力者なのだ。

 

全ての決裁権を持つ司令艦が、わざわざこんなところまで足を運んでくる。仕事に妥協しない厳しい艦娘ではあったが、その人となりはむしろ好感を持って迎えられていた。

 

「それで、状況は?」

「単純な漏水だとは思うんですがね」

そういって壁際を走る配管のところまで促す。ダクトテープで応急修理された配管はかなりの年代物に見える。

下にはバケツにボロ切れが突っ込まれており、周囲は水が漏れ出た跡が残っていた。

 

「漏れてるわね」

「漏れてるんですよ」

 

 

「真水を配給する管です。応急修理の後も滲むように漏れは続いてますが、可及的速やかにと言うほどではありません」

かといって放っておくわけにもいかないだろう。水回りの不具合は放置すると傷むばかりだ。報告もなく、気付いたときには大問題。なんてことにならずホッとした。

苦心して作り上げたここは、風通しの良い職場環境になってくれているようだ。

 

「業者の手配が必要?」

「いえ、配管だけのことですし、無用な出費でしょう。管だけ用意して頂ければ自前で交換できます」

「そう、苦労かけるわ。部材の見積もり上げてくれる? 最優先で処理するから」

「それはすぐにでも、ただ問題がありまして」

言い淀んだ班長に、霞があごを上げ続きを促す。

「交換作業中はポンプを止めなきゃなりません。そうすると工廠内の作業も止まっちゃいますね」

 

「ポンプは常に動き続けてるものなの?」

「そうですね、いつ何があるかわからん施設でもありますし。一度止めるとエアーを噛むもんで、再稼働時の不具合も怖いんですよ。年中動いてると思ってください」

 

工場の大型機械の多くは止めることを前提に作られてはいない。盆や正月などの大型連休明けに冷やひやするのは、工場勤めにとってままあることなのだ。

特に、ここは軍事施設。基本的に24時間人員が配置されており、光の落ちることがない。

忙しく走り回っている自覚はあるが、夜には業務が終わる事務方としては頭が下がる思いだ。

 

「交換から通常の稼働までどの程度必要なの?」

「交換自体は1時間もかからんでしょう。再稼働まで4時間、いや3時間見てくれれば、問題なく業務を再開できるようしてみせます」

「工廠のシフトは三勤になってたわね? 夜は1時からだっけ……」

 

 

「0100までに工廠の作業終了、その後交換修理に入って0500までに通常業務ができるよう対応してくれる?」

日の昇りきらない5時頃から哨戒任務が始まる。ならそれまでに稼働できていれば問題は最小限に抑えられるだろう。無理に作業時間を短縮させて事故でも起こせば本末転倒だ。

 

「翌朝の哨戒班のリストを出すから、大変だとは思うけど前日のうちにチェックして、当日持ち出すだけにしておいてくれる?」

不慮の事態は往々にしておきるものだ。トラブルのために翌朝の哨戒ができませんでした、では困る。

 

「今後のこともあるし、バルブも付けとこうかしら?」

「了解です。では金額や納品予定日がわかり次第書類を提出しますので、それから交換作業日をご指示願います」

 

「ん。怪我に気を付けるよう全員に通達なさい。トラブルや、時間に間に合わないなどあれば早め早めに、何時でもいいからワタシに連絡して」

 

それからふと思い直し尋ねる。

「立ち会った方がいい?」

 

「まさか、お休みなさってください。トラブルのないよう事前計画を立て、私も当日は現場に入ります。もしものときは申し訳ないですが、ご連絡致しますので」

「そう、ありがと。でも気は使わないでね」

こんな油臭い現場のことまで自分の仕事として対応してくれる。

工廠だけではない、この基地の最高権力者と恐れられる彼女は、基地内のどのような末端に至るまでこの調子だ。

自分たち工員だけでなく、彼女のために働けることを感謝する人間は多いだろう。

だからこそ、彼女の多忙さを心配もしてしまうのだが、彼女がそんなことを望んでいないのも知っている。

自分たちは、自分たちにできる最高の仕事で彼女に応えればいいのだ。

 

「アナタもだけど、交換作業は0100から出勤できる者だけで対応して。もしくは変則勤務ね、夕方勤務者が夜を通して作業にあたることのないように」

「ご配慮ありがとうございます。当日の状況や引き継ぎもありますので私を含め少数は夜から入りたいと思いますが、長時間労働で残業手続きを出さなきゃならん状況は避けるように対処します」

 

前線の軍施設であるにも関わらず、この基地は労働時間についての規則がうるさいのだ。

つくづくこの基地に配属されて良かったと思う。問題は、この環境に慣れきった自分が、別の基地に転属になったときに耐えられるかどうかだなと心の中で苦笑した。

 

いつの間にか足元に集まってきている妖精さんたちにも一声かける。当日はこの子たちにも頑張ってもらいたい。彼女たちは一糸乱れぬ動きをみせ「お姉ちゃんに任せなさい」のポーズで答えた。

いったいどこで覚えてくるのか、軽く頭痛を覚えたが、やる気になってくれているのならありがたい。

 

 

さて、本日も大きな問題は起きていない。

事務所に戻って仕事を続けるとしよう。

 

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