少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
戦果と栄光に彩られた駆逐艦霞の転機となった事件。
そのときに霞を助けたのが雷と電ちゃんなのです。
横須賀鎮守府内にある食堂では海防艦や特務艦の艦娘たちが多く食事をしていた。規則でガチガチに決まっているわけではないが、ここは艦娘のためにある食堂となっている。配慮のためか、軍人には軍人の、士官には士官用の食堂があり、ここには普段軍人が立ち寄らない。
そんな食堂内に提督が入ってきたことで少しその空間ざわついた。
その一角で、時雨たちが俺を待ってくれている。
「終わったのかい?」
「ああ、1週間後には新しい配属先に向かう。それまで準備期間と言う名の休暇だ」
そう言って提督もイスに腰掛けた。
早速霞が尋ねる。
「赴任地はどこなのよ?」
「リンガ泊地に基地司令官として配属された」
「リンガ? それも基地司令官だなんて、大丈夫なの?」
さすがにその重要性は把握しているようで驚かれたが、命令が出てしまったのだから仕方がない。
「そっちはおいおい考える。差し当たっては休暇の過ごし方だ、時雨と皐月、阿武隈は俺と一緒に明日からお出かけ、霞と暁たちは横須賀でオリエンテーリング」
「ボクを遊びに連れて行ってくれるのかい?」
それを聞いた皐月は天使の笑顔でイスから飛び上がるようにして喜ぶ。
対して暁がお留守番となったことについての説明を求める。
「ちょっと、なんで私たちは連れて行ってくれないのよ」
「全員で行くと大所帯過ぎるだろ、暁たちは霞と一緒に横須賀探索を楽しんでくれ、次の機会も絶対作るから」
「約束だからね!」
あぁ約束だ。これから嫌ってほど連れ回して、体験させて、思い出を作ってやるんだからね! ……気持ち悪いな。今後は封印しよう。
「それで、僕たちはどこに行くのかな?」
「佐世保に行くから準備しといてくれ」
時雨が行き先を尋ねてきた。佐世保に行くと答えると、中々に微妙な顔をする。
理由はさもありなん。
そういえば、佐世保以降はずっと時雨が身支度の用意をしてくれている。
贅沢なことだけど、ダメになりそうだなぁ。
「で、ワタシたちは横須賀で何をしたらいいの?」
「霞たちは横須賀ショッピングと、ついでに雷神社ってところにでも参拝してくるといい」
リンガに行くための準備を兼ねて、いろいろ買い込んでくるといい。今ならジジイがお金も出してくれるだろう。
自分のイラストが描かれた絵馬を見て、雷がどう思うのか。生で反応を見れないのが残念だ。
さて、佐世保に行く俺たちはそのルートを考えないといけない。
時雨や阿武隈に相談しても、面白い案しか出ないだろうから、俺が決めなければ。
「まずは羽田まで電車で出るか。問題はそこから、さて福岡着にするか、長崎まで飛んでしまおうか」
「羽田? 確か陸海で使ってたわね。軍用機で行くの?」
「別に爆撃機や輸送機じゃないからな? 普通に民間機で行く。ちゃんと復活したんだよ」
そういえば当時は戦争の影響で軍用飛行場になってたな。
「航空機に乗るんですか? 大丈夫なんです?」
阿武隈が心配そうに言う。軍艦だからね、艦が飛行機に乗る。面白いじゃないか。
「心配するな、現代日本では極々ありふれた移動手段だ」
金額もあまり変わらないし、今回は長崎着で行くことに決めた。
「時雨、姉さんとこまで行って飛行機のチケット四人分頼んできてくれるか? 長崎までって言えばそれで手配してくれるから。あと適当なホテルも」
「うん、わかったよ」
「あ、そうそう。できれば1番ケツの右側2列がいいって言っといて」
「それで伝わるのかい? ならそう伝えておくね」
いちいち面倒な男。それが俺だ。
しかし何も言わずに頷いてくれる時雨はさすがとしか言いようがないな、女神のようだ。
「細かいですねー、ワタシは航空機に乗るの初めてですから任せますけど」
成り行きに任せる。生きるためには必要な能力だ。
だいたいのことは成るようにしか成らないのだと理解したときに人生が少しだけ楽になる。
「さて、さすがに経費では落ちないが、まあ旅行だしな。こっちもじじいが出してくれるだろ」
「ふーん、それっていくらくらいなの?」
ろくでもない他力本願っぷりを見せた提督に霞が尋ねた。
「片道3万ちょいってところかな?」
昨今の事情を考えるともう少し高いかもしれない。自国に資源がない国の辛いところだ。
「3万? 四人で3万円もするの? 魚雷が何本買えると思ってるのよ!」
それを聞き、驚きのあまり声の大きくなった霞。その金額に他のメンバーも一斉に驚愕の顔を見せた。
落ち着け、食堂のみんなが何事かと驚いてる。
「いつのレートの話をしてんだ、一本も買えねぇよ。それに四人で3万なわけあるか、一人3万だから四人で12万円だ」
「そんなにするんだね、頼んだ瞬間に殴られたりしないかな」
「ないない、俺の姉をどんなキャラだと思ってんだよ」
神妙な顔をして時雨がそんなことを言う。
確かにキャベツが高いだの電気代が上がっただのと姉がブツブツ言っていた記憶もあるが、移動にかかる費用にまで文句を言ったりはしないだろう。
だいたい俺のためだとは思うが、姉やじじいと出かけたときなんか結構頻繁にタクシーのお世話になってたと思うし。
ま、訓練と海戦しかやってこなかった艦娘だ。仕方がないとは言え、世情に疎いにも程があるな。
そんな風に考えていると、震える声で暁が言った。
「そ、そんなにお金がかかるのね。暁たちはいいから、い、いってらっしゃい」
変に萎縮してしまっている。
よし決めた。この1週間でできる限り現代の感覚をこいつらに叩き込もう。まずは金銭感覚だ。1週間も買い物に付き合わせればそれなりに覚えると思う。艦娘は基本的に数字に強いからな。
「お願いしてきたよ、帰りは翌朝10時頃に長崎を発って中部国際空港着、夜は21時頃の便で中部国際空港発羽田着だって言っていたよ」
「お、ありがとうな時雨」
「なにかの暗号みたいですね」
「中部? ここには帰ってこないの?」
行程に疑問を持った霞がそう聞いてきたので、軽く予定を話して聞かせる。
我ながらしんどいスケジュールだぜ。
「朝長崎を出て途中名古屋で降りて寄り道だ。夜にはここに戻ってくるよ、ハードスケジュールだけどな」
「それ大丈夫なんですか? そんな時間に長崎を出て、寄り道って言っても寄ってる時間なんてあります?」
「良い機会だからお前たち、国内移動の時間感覚を覚えような。時雨は一度広島から横須賀まで電車移動しているから、ちょっとは理解できてると思うんだが」
今後、俺の部下となる艦娘たちは、自意識を持つ艦娘として現代を生きるのだ。こういったことに触れらせて、人と変わらない知識と感性を育んでもらいたい。
軍の備品扱いなんてのはクソ喰らえだぜ。
「いいか、長崎から名古屋なんて1時間で移動できる。名古屋からこっちに発つのは夜だから、半日は遊んでいられる計算だ」
もちろん必要となる金銭を考えなければ、だ。本来なら2泊3日での観光でも選択しないルートだろうが、仕事の出張と考えるならあり得るかもしれない。あったとしたら多分ブラック企業だけど。
「1時間? 確かに航空機は速いけど、今は一般人でもそんな移動速度の乗り物を利用できるの?」
「そうだ、いくら日本が狭いとはいえ、この距離の移動だと当たり前に選択肢に入ってくる」
「そういえばそんな記憶もあるわね。艦だったころの記憶というより、これは乗組員や士官の知識かしら? 世界から見ると日本は結構大きくて、独国よりも少し小さいくらいだったかしら」
相変わらず艦娘の記憶は謎だ。
コイツらの性格が当時の艦長や指揮官に引っ張られているって話は俺も座学で学んだし、まぁそうなんだろうと思うが、記憶や知識ってやつをどこまで保持してるんだろう。
そういったことも、これから共に生活していく中で分かっていくかもしれない。興味深いことだ。
ただし、その知識が偏ってる面は否めない。
これは案外と強敵になりそうだ。要はコイツら浦島太郎なのだから。
「ドイツが日本よりデカかったのは当時な。今は日本のほうがデカい。一応言っておくと、日本が大きくなったんじゃなくドイツが小さくなった」
「あぁ、分割でもされたの?」
「まぁな。さらに言うと日本もかなり小さくなってるぞ」
樺太やサイパン、まさか台湾まで日本から外されるとは。敗戦国とは辛いものだ。
アレ、もう少しうまくできなかったのかな。
「それでも、市民が飛行機に乗ってお出かけできる世の中だ。お前たちが艦として生きた時代よりも随分と豊かになった。そういうことだ」
確かにあの戦争には負けた。何度繰り返しても結果は変わらないだろう。俺が転生モノの主人公として当時に飛び、奇跡的に作戦を成功、もしくは被害の縮小に抑えたとしても終戦日が後にずれ込むくらいしかできない。
しかし彼らの、そして艦の戦いが無駄だったかと言えばそんなことはない。
あの戦いがあったからこそ迎えることができた終戦。そして終戦後は、俺ではない誰か未来人が転生して作ったとしか思えないほど完璧な敗戦処理だったと思う。
もう1度敗戦時からやり直せと言われても、経済大国日本として繁栄できたか分からない。
それくらい、日本は終戦後に勝ったのだ。
「あ、あと中将さんからの伝言。提督のお姉さんに休みを取らせたから、明日の横須賀散策は引率をしてくれるそうだよ」
「大きなお世話、と言いたいところだが、姉さんが着いてきてくれるのなら安心だな。霞、明日はいろいろ勉強も兼ねてしっかり遊べ」
いくら霞がしっかりしているとはいえ、先ほど露呈した金銭感覚では街の散策などできまい。姉が着いて行ってくれるなら何があろうと安心だ。じっくり学んでゆっくり楽しんでほしい。
「人間さんと一緒に出歩くなんて、ちょっと心配ね」
暁が不安気な顔で言う。やはり接し慣れていないからだろう。
心情的になのか体面的になのか、艦娘はちょっと世間との隔絶がすぎる。隔離政策でもあるまいし、いっそ戦う美少女アイドルとして売り出せばいいのだ。
そうすれば、言葉のままの国民的アイドルになること請け合いだろう。
幸い次の任地では基地司令官だ。悲観するよりは、前向きに考えよう。
与えられた武器を有効活用できないようでは先が見えている。
新聞社などメディアを呼び込み、艦娘密着取材で広報活動などしてみようかな。
考えてみたら基地司令官なんて一国一城の主人。しかも、リンガは内地の目が届きにくい外地も外地だ。
艦娘のための艦隊。
それを実現させるためのルートが早くも見えてきた。
とりあえず、暁たちの不安を不安のまま放置するのは得策とは言えない。今回は知り合いらしいので、それは伝えておいてやろう。
「姉さんはお前らのことをよく知ってるって言ってたぞ、それなら大丈夫じゃないか?」
「そりゃ私たちは横須賀鎮守府所属艦だから、知られてはいるかもしれないけど、人間の軍人さんにお友達はいないわよ。雷や電の知り合いかしら?」
「さぁ? 覚えはないわね。でもいいわ、司令官の家族なんでしょ? だったら大丈夫よ」
はて、暁たちに覚えはないらしい。
言われてもみれば、姉がよく知っているだけで、別に知り合いとは限らないのか。まぁアレで姉さんは中将の補佐役だしな。所属艦娘くらいは知っているだろう。
それでも俺の身内である姉を手放しで信頼してくれる雷のセリフは嬉しい。
「明日はまとめ役を頼むぞ。そしていろんな物を見て来い」
「そっちも、気を付けて行きなさいな」
実践したくない日本列島強行横断だぜ!