少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
でもあの娘もこの娘も連れて行きたくなるじゃん?
実際にやったらカナリの資金がないと難しいよなー。好きな子(たち)と旅行もできないこんな世の中なんて。
さて、空港です。
珍しかろう珍しかろう。
空港ほどわかりやすくザ・現代日本! の施設もないよね。
あの大戦の記憶と海軍施設と海しか知らない艦娘さんたちとしては、目につくもの全てが新鮮。そんな感じ。
相変わらず時雨は固まっているが皐月なんかははしゃぎまくっている。対照的だ、個性というやつなのだろう。
「俺たちが乗るのはアレだな」
窓の向こうにボーイング737が見える。
最もありふれた、一般的な小型ジェット旅客機ではないだろうか。
特徴? 君が思い浮かべた旅客機がだいたいコレだ。
近隣に住む人なら音で飛んでいる旅客機の機種が当てられると聞いたことがあるが、それは本当なのだろうか。
窓に張り付くようにして熱い視線を送る皐月は、年相応のどこにでも居る女の子のように見える。艦娘の年齢は謎だけど。
なんて思いながら、勝手に娘の成長を喜ぶお父さんのような気持ちになっていたのが、呟く感想は全然年相応の女の子ではなかった。
「うわ、ボクたちあれに乗るのかい? 重爆じゃないか」
「ちげぇよ、ただの旅客機だ」
物騒な声を上げるんじゃない。お客さんたちが驚いているじゃないか。
幸いなことに、多分一般の方々は「じゅうばく」と聞いても漢字を想像できないだろう。
唐変木な感想を投げかけてくる奴がもう一人いた。阿武隈だ。
「提督、あの航空機エンジンが付いていませんけどー」
「ちゃんと付いてるよ。羽の下にぶら下がってるじゃねぇか」
「アレが発動機なのかい? でもプロペラもなにもないし、アレじゃあ進まないよ」
横で聞いていた皐月も納得ができないようだ。
そうだった。ジェットエンジンなんて知るわけがなかった。日本初のジェット戦闘機であった橘花も結局配備が間に合わなかったものな。
「レシプロの旅客機なんて今時ないと思うぞ、後で図鑑買ってやるから大人しくしてろ」
本は良い。知識を蓄えるだけではなく、調べる楽しさや知る楽しさを育んでくれる。
これから沢山買い与えてやろう。
しかし昨日の今日でよく希望の席が取れたな。
シーズンでもなんでもない平日の国内線だし、そういうことにしておこう。
ただの旅行のために、何か後ろ暗い権力が働いたとかは考えたくない。
しかし、車といい新幹線といい。
1番現代の世界を体験しているはずの時雨はまだ慣れないようでとても静かだ。
落ち着け、怖いところではないんだぞ?
搭乗が始まり、ようやく機内へと入る。
前の座席の通路側が阿武隈。窓側が皐月。
後ろは俺が通路側で時雨を窓際に押し込んだ。
早くもみんなドキドキしているようだが、皐月のドキドキは楽しみのソレ。他の二人は不安のドキドキ。
いいけど、今からドキドキしていたら保たないぞ? どうせ出発まで待たされる。
しばらく待ち、ようやく滑走路を進み出す旅客機。離陸前まではもたもたしているが、イザ発進してしまえばあっという間だよね。
機体が急激に速度を上げ、窓から見える景色がもの凄い勢いで後ろに流れていく。いつ見ても速ぇ速ぇ。
途端、阿武隈が前の席で声を上げた。
いいよいいよ、想定の範囲内だ。
「怖い怖い怖い怖い!」
「落ち着け、すぐ終わる!」
そしてすぐさま離陸。
この巨体が重力を振り切って空に上がる瞬間は堪らないね。とてつもなくパワフル。
男ならこうありたいものだ。
「怖い怖い怖い怖い怖い!」
「ちょっと、痛いよ阿武隈」
隣の席に座る皐月の手を力一杯握りしめているのだろう。その様子を周りのサラリーマンらしき男性数人が見て微笑ましい顔をしている。まぁこれもいいよ、かわいい娘っ子を三人も連れているんだから、見たけりゃ見るといいんだ。
「皐月は平気そうだな」
「うん、凄いね飛行機。ボクなんだか楽しくなってきちゃったよ!」
空港に入ってからとても静かな時雨だが、恐るおそる確認するとなにやら青白い顔をしている。
「し、時雨? 大丈夫かお前」
「な、なんとか意識は保てたよ」
今日明日という短期間であと2回乗るのだが少しは慣れてくれるだろうか。
着陸のときも想像どおりのリアクションを見せてくれた。想像どおりと言うより、ここまでいくと期待どおりと言った
到着したのはちょうど昼どき。
喉元過ぎればと言うやつなのか、二人共降りてしまえば結構ケロリとしている。グロッキー状態のまま連れ歩くわけにはいかないので、ホッとした。
佐世保に着いてから昼飯にしようと思っていたが、今から出ても佐世保着は14時頃になる。せっかくの旅行で同行者を飢えさせても仕方がないと結論づけ、軽めの補給を決めた。
そうと決まれば即行動だ、食べるものは決まっている。三人娘を連れだって適当な飯屋を選んで注文するのはこれ。
「皿うどん三人分」
元々佐世保所属の時雨や皐月にとっては別段珍しいものではないだろうが、それでも二人は皿うどんの本当の食べ方を知るまい。
しばらくして運ばれてきたのは大皿に盛られた三人分の皿うどん。大皿から取り分けるのが長崎流だ。
「じゃ、じゃあワタシ取り分けますねー」
ちょっと面を食らったようだが、すぐさま立て直してお姉さんの役割を果たす阿武隈。さすが一水戦旗艦だ。
機上のお前とは大違いだな。
本屋にはこの世の全てが置いてある。