少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
飯の後、長崎からはリムジンバスで佐世保まで移動する。停留所の藤原橋まで来たら目的地まではもうすぐだ。
「ちょっと歩くぞ」
歩いて行くと東公園との案内が見えてくる。
「目的地は公園なのかい?」
「公園? それって遊具が置いてあってたくさん遊べるところなんだよね!」
久しぶりに声を聞いた気がするよ時雨さん。
そして皐月よ、残念ながら遊具が置いてある公園なんてものは都市伝説だ、そんなところはもう国内にはないんだよ……。
「え? 公園で遊ぶためにわざわざ横須賀から来たんですか?」
「公園は公園だが、駆けっこしに来たわけじゃないよ」
当たり前だ、誰が公園で遊ぶためだけにわざわざ空路でうん百kmも移動するか。
「ま、お前らにとっては縁のある場所だ」
そう、目的地であるここは佐世保東山海軍墓地。
かの戦いで散っていった英霊と、軍艦たちを奉る慰霊の地だ。
「まずは1番奥にある大東亜戦争慰霊塔から周ろうか」
「こんなところがあったんですね」
いろいろ思うこともあるのだろう。感慨深い面持ちで阿武隈が言う。
俺たちは、知らなければ読めないであろう金剛の慰霊碑に始まり、羽黒、足柄と順番に周って行った。
ほどなくして美しく磨かれた真っ黒な石に、金の文字が彫られた慰霊碑の前に立つことになる。
「これは……、提督、これ」
第二十四駆逐隊と彫られたこの慰霊碑は、時雨の妹たちのものだ。
「そうだ、時雨の妹たちだ」
「大事に思ってもらえているんだね」
その碑を見つめる時雨は美しかったが、本来の目的はここではない。このすぐ奥にある場所、そこが今回の旅の最初の目的だった。
今までよりほんの僅かに、手を合わせる時間が長い時雨。彼女が満足するのを待って促す。
「さ、次はこっちだよ」
そうしていよいよ時雨が対面する。出迎えるのは綺麗に整備された、これまた真っ黒な石碑だ。
佐世保に赴任した直後に俺は一度ここを周っている。そのときにも、確かに心が揺れる何かを経験している。が、今改めてこの碑の前に立ち感じている思いは、あのときとは違う。
沢山ある慰霊碑の1つではない。この碑は、自分にとって特別な意味を持つものになった。
それを前に茫然と立ち尽くす時雨。
眼前の石碑には整った字体でこう書かれている。第二十七駆逐隊慰霊碑。下には僚艦の名前とともに時雨の名前がしっかりと記されていた。
「お前のための慰霊碑だよ」
皐月と阿武隈が両側からしっかりと時雨の手を握っていた。
たっぷりとその慰霊碑の前で過ごし、また歩き出した。
ふと阿武隈が声を上げたのは、白く尖った慰霊碑を見つけたときだ。
「懐かしいですね、ワタシの初陣です」
「ワタシたちの戦いのこと、そしてワタシたちのこと、こんなに変わってしまったこの国でも変わらず形にして残してくれているだなんて思ってもみませんでした。忘れないでいてくれたんですね」
「忘れた人もいるし、そもそも知らない人もいる。それだけあれから長く平和な時代が続いたんだ。それでも、こうして思い続けている人がいる。俺はそれで良いと思っているよ」
「そうですね」
そしてまた歩き出す。次の目的地はすぐそこだ、彼女はどんな反応をするんだろう。
「わ、これって!」
「そ、お前の慰霊碑だ」
時雨の慰霊碑とは違い、自然石を利用したかの様な大きな石碑に堂々とした文字で彫られているのは軍艦阿武隈慰霊碑。
「ワタシのまであるとは思いませんでしたー。でも、なんで佐世保に?」
「いやお前の慰霊碑はあるだろ、どう考えても。なぜ佐世保なのかは俺にもわからんが」
「大きいね、さすが阿武隈だよ!」
よくわからない感想を口にする皐月。大きければ強いみたいな考え方は改めなさい。
「ワタシのはなんで左下だけ欠けてるんですか? 倒れたりしませんよね?」
「いや、わからんが、さすがに倒れたりはしないだろ、縁起でもないどころじゃねぇ」
「でも、うん。好きです。なんかワタシらしい感じがします」
自分の慰霊碑の前に立つ阿武隈のために、ここでも少し時間を取ってやる。俺たちは少し離れたところで待機だ。
自分の慰霊碑を前にするなんて経験は俺では絶対にないだろうから、彼女がそれを前にして何を思っているのか、その感情は計り知れないが。
「お待たせしましたー」
「もういいのか?」
「はい、全員の名前も書いてあって嬉しかったです。一人ひとり顔を思い浮かべて思い出してました」
「覚えてるのか?」
「当たり前じゃないですかー、みんな覚えてますよ」
「どうだった?」
「ふふ、軍艦阿武隈よ安らかに眠り給えって書いてありました。戻ってきちゃいましたけど」
阿武隈に感想を尋ねてみると、彼女は照れたようにそう言った。
「それじゃ、お待たせ皐月、最後はお前だよ」
「ボクのもあるのかい!?」
「佐世保にお前の慰霊碑がないなんて、そんなわけあるか。さ、こっちだ」
今回は奥から下りながら周ったので最後になったが、それは1番入り口に近いところにある。
第二十二駆逐隊慰霊碑。
「あ、みんな並んでるよ! なんだか嬉しいね」
皐月は珍しい物を見るかのように、あっちやこっちやと周りを移動しながらいろんな角度でそれを見ていた。
本当は連れてくるかどうかを迷ってもいた。
自分の慰霊碑を詣る。その反応が読めなかったから。でも、やっぱり連れてきて良かった。そう思った。
さて、感傷の波に浸っていたら、なんだかんだで16時。オヤツの時間には遅いが、アレを食べさせなきゃ今回の旅も片手落ちとなる。佐世保籍といえど、これは時雨や皐月も食べたことはないだろう。
移動の金はケチるなが信条の俺。タクシーを呼んで佐世保駅付近にあるお目当ての店を告げたあとは、ただ到着を待つばかりだ。
走り出して10分少々で到着したのは、あまりうら若き女性とのデートで行くには向かない外観の店だと思うが、なぜか横須賀に残してきた暁とこのお店が脳裏に浮かんだので仕方があるまい。
「なんのお店なんだい?」
「佐世保と言えばの佐世保バーガーだ、お前ら食べたことあるか?」
「佐世保って言うくらいだから、ここで有名なものなんだね、残念ながら聞いたことはないけど」
やはりな、いくら佐世保所属艦と言えど、基地では艦娘向けに佐世保バーガーを出したりはしていなかったようだ。
「なんだか変わったお店だね」
「防空壕をそのまま利用して建てられてる店だからな」
「防空壕? これ防空壕なのかい?」
外観と違い、店内はお洒落な内装となっている。小さなお店だが、居心地は悪くない。
すぐに店内に入ることができるこの幸せを、彼女たちはわかるまい。注文するのに2時間、受け取るのに2時間かかる佐世保バーガーが世の中には存在したのだよ。
「これ、夕食を食べられますか?」
「軍務じゃないんだ、夕飯はお腹が空いてからでいいだろう」
そう言って、みんな仲良く頂きますをして食事を開始した。
ちょっと遅れてしまったが、予約をしていたホテルに到着。受付を済ませて鍵を受け取るが、予約されていたのはツインの部屋が2部屋だった。
時雨に関しては今さら感だが、これ姉さんはどんな組み分けを想定して予約したのかな。
時雨と同じ部屋なのは特に問題ない。小島で生活していた1年間は、時雨が海に出ているとき以外ほとんど常に互いが視界に入るところで過ごしてきたのだから。
皐月と同室になるのも大丈夫。断じて言うが自分はロリコンではないからだ。性的なドキドキに悩まされることなく、安心して夜を過ごせること請け合いだ。
懸念事項はそいつ、今まさにジト目で俺を見つめている、微妙に成長した少女である阿武隈。しかも美少女。
いっそ男1女3や、四人揃っての雑魚寝に持ち込むという手も考えたが、残念ながらホテルは消防法との兼ね合いから、設定されている利用人数を超過することができないのだ。
→時雨と同室
皐月と同室
阿武隈と同室
脳内にこんな選択肢が現れている。さぁ、どうする?
嘘だ。選択肢などあろうはずもなく。
この中で安パイなのは皐月のみだ。
時雨と同じ部屋で過ごすのも、ありといえばありかもしれないが、阿武隈に余計な心配をかける恐れがある。阿武隈と同室なる考えは論外。時期尚早もいいところだろう。
そして紳士な俺は本音をしまい込みこう言うのだ。
「それじゃ、俺と皐月。時雨と阿武隈の部屋割りでいいよな?」
昨晩はお楽しみでしたねぇ?
それは冗談だが、お風呂は一緒に入ったはず。