少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
「裏切る? 僕がかい?」
「君たちは勘違いしているようだけど、僕は最初から仲間だなんて思っていなかったよ」
まるで基地の備品でも見るような顔で、彼女はそう言った。
おっと、しまった。
まだ先の話の一部が流出してしまったようだね。
気にせず本編へGO!
「ここがあなた達が任されていた島? ほんと小さいわね」
北方海域での作戦が終わり、俺たちは新しい赴任地となるリンガ泊地に向かうこととなった。
秘書艦の時雨と、このたび晴れて俺の艦隊のメンバーになった阿武隈、霞、皐月を引き連れての航海。その道中で懐かしの小屋がある小島に立ち寄り一泊することにした。
真っ直ぐリンガまで向かっても良かったが、なんとなく、みんなにも見せたかったのだ。
本当は暁たち六駆も一緒に来られたら良かったのだが、彼女たちはリンガに出る輸送船の護衛を引き受け、横須賀から周辺の基地に寄りつつ別ルートで一足先に向かっている。
順調であれば、昨日にはリンガに入港しているはずだ。
俺をリンガまで乗せていく予定だった船の乗組員的には迷惑この上なかっただろうけどね。
内心ではどう思っていたかわからないが、それでも快く予定を変更してくれた彼らに感謝だ。
そう。時雨たちは自分で海の上を移動できるが、ただの人間である俺は船がないと海を渡れない。
佐世保から脱出したときみたいに、伊勢の主砲にでも乗せてもらえたなら……。やっぱ無理だな。そんな体勢で外洋を渡れるビジョンが見えない。
先日、佐世保まで出かけたときのこと。
長崎造船所の担当が、俺の艦の進捗状況の報告がてらホテルまで訪ねて来てくれた。
資料やら写真やらをいっぱい持ってきてくれて、熱く語り合う良い夜を過ごせたのだが、結論から言うとまだ完成していない。
高速建造材とかない世界だしね、仕方ないね。
ただ、社内でも注目されている艦娘母艦という新しいコンセプトの艦であるため、カナリの急ピッチで工程が進んでおり、もう半年もあれば完成までこぎつけてみせると熱意いっぱいに話してくれた。
ついでだったので、アレから鬼出世をして今度新たにリンガの基地司令官をすることになったと伝えた。
初めは冗談だと思われ、まったく信用してくれてなかったが、ベッドの上に座ってテレビを見ていた皐月が事実であることを説明し、ようやく信じてくれた。
本当は、いずれ……。と思っていたのだけど、思いの外チャンスが早く回ってきたのでこの機会に言っておこうと、温めていた考えを話してみた。
技術者としてウチに出向とかできない?
艦を実際に運用してみて初めてわかることもあるだろうし、ウチに来たら艦娘の生の声が聞ける。会社的にもメリットがあるんじゃね? と口説いたところ、一存では決められないから即答はできないが、必ず社で検討して返答すると言ってくれた。
うまくいけば半年後、完成した俺の艦に乗ってリンガまで来てくれるだろう。
俺としては、技術に明るい工員が何人か確保できたら美味しい話。頼むぞ三菱。
「聞いてたとおり、なにもないところね」
島への上陸後、まずは小屋に荷物を置きに行くことにした。坂道を上り、桟橋の方を見下ろし霞が漏らした感想だ。
「いやいや、暖かく過ごしやすい気候と素敵な自然があるだろ?」
反論する余地もなかったので、言外に自然しかないと返答しておいた。
小屋で一服してから島の案内をしてくると時雨が言った。
案内するところは特にないが、じゃあそれは時雨に任せよう。
とにかく、まずはお茶でも飲んで寛ごうぜ。
時雨たちも横須賀から船を警護しつつ航海をしてきているので、一息くらいつきたいのだろう。
時雨が案内している間。俺は体を休めて待ってることにした。
ああ、体痛え。やっぱ船の上って苦手だわ。おっと、一日でも早く陸地に足を着けたかったから寄り道したってわけじゃないぞ?
それにしても海軍さんは凄いよね。
俺たちは本日小屋に泊まるわけだけど、彼らは今日も停泊させてる船で寝るんだぜ?
住めば都って言葉は、この小島で実感したことだが、彼らにとっては船がそうなのかな。
お茶を飲んで落ち着いてから、時雨が島の案内を始めた。
狭い島なので時間はかからないが、南国特有の植物や鳥の声、木々の間から見下ろす南方の海は絶景だ。
ここで過ごした懐かしい記憶が戻ってくる。
「時雨、船が近づいてくるよ?」
そんな思い出に浸っていると、小島に近づいてくる船を発見した皐月が時雨を突っついて知らせた。
沖を見ると輸送船がこの島に向かってきているようだ。
「あれ? 定期輸送船だね、なんだろう」
自分たちの異動とともに閉鎖された泊地なので、物資が届くこともないはずなのだが。
理由はわからないが、ここに向かって来ている以上は無視するわけにもいかず、もう一度桟橋まで戻り船の到着を待つ。
「ああ、やっぱり。船が停泊していたから、時雨さんが戻って来てるのかなって」
輸送船から顔を見せたのは、いつも時雨を気にかけてくれていた、あの年配の乗組員だった。
彼はいつもの穏やかな口調でそう言い、それからみんなに挨拶をした。
「久しぶりだね、それで寄ってくれたんだ?」
「南方の女神が帰ってきてくれたんだから、挨拶しておかないとね」
「やめてったら」
たわいのないお喋りであったが、あまり軍人と積極的に会話をすることがない艦娘にとっては奇異なこと。
初めは阿武隈たちもよそよそしい接し方になっていたが、自然体である時雨が気構えることなく話してたので、すぐに打ち解けることができたようだ。
「ここにはちょっと寄っただけなんだよ。明日には立ってリンガ泊地に行くんだ」
「そりゃ嬉しいですね。私たちはリンガ泊地の近くにあるセレターに居ることが多いんですよ」
セレターはシンガポールにある軍港で、輸送の要として重要拠点リンガを支えた場所だ。
これからリンガに居を構える時雨たちにとって、切っても切れない関係になるだろう。
「じゃあご近所さんなんだね、これからもよろしくお願いするよ」
彼らは輸送任務の途中だからと言って、足早に小島を離れていった。
忙しい中、挨拶のために寄ってくれたのだ。
全員が良い人だとは限らないが、同じように、悪い人ばかりではないのだと、そんな当たり前のことをしっかりと頭に刻んでおかなければ。
きっと、提督の望む世界にとってそれは必要となってくる。
「トレーニング場って……鉄棒1つ置いてあるだけじゃないのよ」
懐かしの提督お手製懸垂スタンド一号くんが、主人の帰還を静かに待っていた。
ここは懐かしの訓練場。
訓練場と言っても、霞が言ったように懸垂スタンドがあるだけの小さなスペースで、走り込み1つできないのだけど。
それから日課であった懸垂など筋トレメニューをみんなで一通り行い、一頻り汗を流した。
「汗を流したいんだけど、ここって入浴できるの?」
「この小島で数少ない誇れるところだよ」
汗を流したいと言ったのは霞だが、気持ちはみな同じだろう。
トレーニングを切り上げ、小島自慢の入浴場で疲れを癒すことにする。まずは着替えを取りに戻らねば。
服を脱ぎながら、あの頃は、まさかこの無駄に広い脱衣所が活用されることがあるだなんて想像もしていなかったなと思う。
脱いだ制服は脱衣カゴに綺麗に畳まれ置かれていく。
誰に教えられた記憶もないが、当たり前のように下着を衣服の下に隠すのは、人間でも艦娘でも変わらないようだ。
脱衣を終え、一足先に駆け出した皐月を追いかけ懐かしの岩風呂に向かう。
「うわー、旅館のお風呂みたいですね。行ったことありませんけどー」
髪を器用にまとめ上げ、タオルで頭を包んでいる阿武隈が感嘆の声で言った。
そうだろう。360度パノラマの大景観のほか、唯一自慢できる小島のスポットがここなのだから。
旅をしない音楽家〜の話が思ってたより話数を消費しちゃいましたね。
え? 霞たち居残りサイドの話が掲載されてないって?
(๑・̑◡・̑๑)