少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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え? 飛んでるって?
飛んでます。仕様です。

ところで、仕事の関係で陸将補の方とお会いしたことがあります。
冗談はともかく、目の前で不敬な妄想を繰り広げたりは不可能だと思った。
厨二病的なことを言うと、きっと魂強度からして違う。


彼は妄想の中で海に蹴落としてましたが、それだけでも凄いことだと思います(小並感)。


佐世保は壊滅しました。

みなさま、お久しぶりです。

士官学校を卒業し、晴れて内地の鎮守府へと配属を決めたそれなりに優秀な士官候補である私です。

 

配属されていた佐世保鎮守府では、理想を打ち砕かれたり希望を破り捨てられたりと楽しい毎日でしたが、場所を変えてもまだしばらくその生活が続くようです。

 

 

「君の査問会が開かれる。そうだろう、なにせ佐世保鎮守府をみすみす壊滅させたのだから、その責任は君に取ってもらわねば」

 

 

愉快なことをおっしゃるのは呉鎮守府にいらっしゃる威圧感のある男。

わぁ、肩章すごいっすね。なんでこんなに上の人から直接詰問されてるんだろ。引きちぎってやりたい。

這々の体で佐世保を生き延び、ちょっとかっこ悪い方法でたどり着いた先の呉鎮守府でいきなりこの仕打ちとかどうよ? と思わなくもないが、鎮守府が一つなくなっちゃったことを思えばイライラもするわな。わかる。

 

しかし俺にはまったく関係がないことなので、ここが航海演習中の艦上なら海に蹴落としてやったところだ。海の中で後悔すればいい。なんて、室内なので無益なことを一人考えるだけに留めておこう。

 

「あのねぇ! こいつは下っ端もいいところよ! たまたまあの場で生き残っていたから指揮を執った。そして作戦は成功でしょ? 裁かれるべきは逃げ出した基地司令と佐世保の上層部でしょうに!」

「口を慎みたまえ!」

 

おっと、妄想の世界で4度ほど男を蹴り落としていた俺の代わりに霞が代弁してくれている。

俺のことはいいから、言いたい奴には言わせておこうぜ。ちょっと今後の出世は厳しいかもしれないが、まぁ最悪退役すれば生活する程度の金は稼げるだろう。お前も着いてきてくれるなら頑張って養っちゃうぞ。

生きてるだけで丸儲けとは、どこかのお笑い芸人のセリフだったかな。良い言葉だ。

 

「鎮守府を預かる軍人が敵前で逃亡などあるはずがない。彼らは戦死したのだよ」

「あんた……」

「何度も言わせるなよ駆逐艦! 誰が貴様に口を開いてもいいと許可をした」

 

よし、殴ろう。

 

そんな物騒な心の声が聞こえた気がする。待て待て、事実聞こえていたのだとしたら全力で止めなくてはならない。

誰がそう思ったかって? 決まっている。隣の霞だ。

 

「霞」

小さく、しかし鋭い声で、もし視線で人が殺せるのであれば今しがた三度ほど殺し終わった後であろう霞に制止の声をかける。

殺害ペースが早いね、抜かされそうだよ。

 

「なんだ、まるで司令官のように命令するんだな。いい気になるなよ若造」

目を塞ぎノイズはシャットアウトだ。お前の生死は俺の手のひらに……などと現実逃避を試みて時が過ぎるのを待つとしよう。

いつか艦娘さん相手に、俺のセイシはお前の手のひらに……とか言ってみたいね。

おお、怖え。妙に静かな時雨さんの目から光が消えている気もするが、俺の心を読んだわけじゃないよな。多分そっちではないはずなので、気付かなかったことにしよう。

目の前の男が不審な死を遂げないことを祈るばかりだ。

 

「いつまで虚勢を張っていられるかな。伊勢、君はもういい。退出したまえ」

「なぜ? 私もあの場で彼に手を貸したわ」

「君は戦艦だろう。自分の立場を少しは理解することだ。行きたまえ」

悔しそうに唇を噛むが、ここでできることはなにもない。

「私がどうにかするから。なんとか耐えて」

通り過ぎ際に伊勢が耳元で囁いた。

 

 

「さて、少尉。君の今後だが……」

「中将! よろしいですか中将!」

伊勢と入れ替わりに入室してきた男が焦った顔で割り込んできた。

「何事だ! 今は取り込んでいる」

「すみません、しかし横須賀から」

 

 

横須賀からだと言う書類を受け取り、読んでいた男の顔が苦虫を噛み潰した表情に変わる。

 

「ちっ、横からしゃしゃり出てきて何様のつもりだ、クソっ」

 

佐世保鎮守府壊滅については呉がその対応を行うと通達していた。

しかし、送られてきたその書類には横須賀が調査を行うとの決定事項が記されている。

挙句、生存者であるこの男と、その秘書艦を名乗る駆逐艦の身柄を早急に横須賀へ移送しろなどと。

 

「中将?」

「……部屋を用意してやれ。逃げないよう監視付きでな」

 

 

 

 

 

 

「提督……」

「伊勢か? 大丈夫なのか、こんなところまで」

一応解放されたはずなのだが、実際のところは軟禁状態。大丈夫か、法治国家日本。

自由に出歩けないまま部屋に押し込められて、オマケに扉の前には監視の方が物騒な物をぶら下げている。お勤め、ご苦労さんです。

そんなところに訪ねてきてくれた伊勢が心配だが、本人は気にせず部屋に入ってきて力強く言う。

「なんとでもするわよ」

 

男前だ。これが戦艦ってやつなんだな。

本人は至ってかわいい女性なので、口にするのはやめておくけど。

 

 

「今のあなたに聞かせるのは酷かとも思ったんだけど」

肘を抱いた伊勢が言い淀むが、わざわざこんなところまで来てくれたのだから、聞いておかねばならないことなんだろう。

 

「話してくれ」

「壊滅当日に遠方に出ていて難を逃れた艦娘が全員捕まったわ。深海棲艦を引き入れた間諜行為の容疑がかかってる」

間諜ときたか、深海棲艦と意思の疎通ができたなんて話は聞いたことがないが、なり振り構わずだな。

 

「時雨の姉も出ているって言ってたな」

「白露ね、彼女はここで取り調べを受けているわ。当然証拠は出てないけど、どこに着地させるつもりなのか皆目見当もつかないわ」

俺にもさっぱりだ。佐世保の件を呉はいったいどうしたいんだ?

 

 

「それから、朝潮と皐月の異動が決まったけど、一言で言えば左遷でしょうね」

「二人だけか?」

「私と霞はもともと呉鎮守府籍だから」

遠征帰りに寄った、伊勢と霞がそう言っていたことを思い出す。

「そうだったな」

「それも、いつまでそうなのかはわからないけど」

 

「二人の異動先は?」

「まだわからない。辺境の地に送られるのならまだいいわ。でも……」

伊勢が口ごもる。その理由は自分にもわかっていた。

「やっかいな事件の生き残り、処分を兼ねてるのだとしたら」

激戦地に送られ使い潰される。過去そういった話も何度か耳に入ってきていた。

「もしそうなっても、私がなんとかしてみせるから、あなたは心配しないで」

 

 

「そんなことより1番心配なのはあなたと時雨よ、横須賀でどんな処分が下るかわからない。私も横須賀まで届く手は持っていないのよ」

 

横須賀がどんな思惑で俺を呼びつけているのかはわからないが、真っ当に見てくれたなら、俺は巻き込まれながらも艦娘を生還させただけの一軍人なので、そう酷いことにはならないだろう。そう信じたい。

これっぽっちも鎮守府を守る気がなかったことについては、俺と伊勢たちしか知らないことだし、バレたところであの状況では仕方のないことだったと思う。

 

 

「呉鎮守府としては、なんとか時雨に罪状をつけて横須賀行きを阻みたいと考えているようだけど」

「大丈夫そうか?」

 

時雨自身が秘書艦だと言い張ったところで、司令でも司令官でもなんでもない俺は時雨に関する権限を何一つ持っていないのだ。

こんなところで足止めを喰らっては、と心配になった。

 

「呼び出しはかかっているけど、生憎と時雨は体調を崩していてね、横須賀出発の日まで起き上がることもできなさそうよ。呉鎮の名物秘書艦が診断書も提出してるし、私たち戦艦寮でゆっくり療養してもらってるから大丈夫よ」

そう言って伊勢は、安心させるように力強く微笑んでくれた。本当にありがたい。

ちょっと前まで艦娘なんて、と思っていた自分に謝らせに行かせたいところだ。

……機会があったらその秘書とやらに感謝を伝えに行こう。

 

 

 

「時雨のことはできる限りなんとかやってみる。お前はあいつらのことを頼むよ」

頼めた義理はないし、頼みを聞く義務もない。彼女らは偶然あの場に居合わせただけの間柄だ。伊勢にしたって、他人の心配をしていられる場合ではないのもわかっている。

それでも、伊勢はやってくれるだろう。

 

 

「時雨だけじゃなくあなた自身のことも、できる限りやってみせて。あなたは知らないけど、あのとき、あなたを置いてきてしまったと知った時雨は怖かったわよ。あなたが死ぬなら自分もここで沈むと言ったわ」

 

それから伊勢は、ちょっとした懺悔だと言って続けた。

「ホント言うとね、私はあなた一人の犠牲ですむのならと、少し考えたわ」

申し訳なさそうにそう言うが、置いて行けと言ったのは俺自身だ。気にする必要はまったくない。

 

 

「でも、時雨の覚悟を聞いて助けようと決めたの。今は、あのとき戻って良かったと思ってる。諦めないで」

本当に律儀な艦娘だ。この艦娘に、伊勢に助けられたのだ。ならば、助けるだけの価値はあったのだと証明して見せなければ男が廃るだろう。

伊勢の手を握り、力強く宣言する。

「約束する」

 

 

しばらく硬い握手を交わしていた。

そしてゆっくりと互いの手が離れ、伊勢が扉に向かう。

伊勢に恥じない自分であろうと心に誓っていると、退室際に伊勢が言った。

「最後に一つ。霞があの夜言ってたけど、私もね、あなたに『お前』って呼ばれるの好きみたいよ。その呼び名はあなただけの特別にしておくわ」

 

 

 




本編で「やっかいな事件の生き残り……」とありますが、史実では戦艦武蔵が有名。

レイテ沖で利根と大暴れしたあと、撃沈された武蔵の生存者はその多くが陸戦隊にまわされることになる。
秘匿されていた日本の切り札である不沈艦が沈んだ、なんて話が海軍内に広がるのを防ぐために口を塞ぎたかった……なんて言われてたりもする。
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