少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
「しっかし白露とこは大きくてズルいなー。優遇され過ぎなんじゃないの?」
白露の部屋に遊びに来ていた敷波がぼやく。
確かに白露たちの部屋は他の駆逐艦娘の部屋の数倍はある。
幹部クラスの専用居住棟、その二階に用意された部屋を姉妹の上六人と下四人で2部屋確保しているのだ。
「10人姉妹で2部屋なんだから、それなりの大きさは必要でしょ」
煎餅を頬張りながら言うのは白露だ。
「それにしたってキッチンやロフトまで付いてるってちょっとさー、戦艦クラスの部屋でもここまで充実してないでしょ。見たことないけど」
戦艦や空母などの大型艦は個室が用意されており、ゆとりのある居住スペースであることも多く、相部屋が当たり前の駆逐艦たちにとっては羨望の的になっている。
それと比べても、白露姉妹の部屋はちょっとしたマンションのようだった。
2LDKの部屋には大きなベッドが2つ置かれ、それとは別にロフトにもう1つ。簡単なキッチンとトイレに、それなりの広さがあるリビング。今はそのリビングにてダベっているところだ。隣の妹部屋も同じ作りになっているが、そちらのロフトは姉妹共通の収納スペースになっている。
「人数多いからっていうのもあるけど、これは時雨姉さんの秘書艦特権の変形なんですよー」
テーブルにお茶を並べながら村雨が言う。
ここ、リンガの基地では役職者に対して様々な特権があり、秘書艦ともなれば権利も絶大。そのうちの1つに私室を持てるというものがある。
しかし、策定はしたものの、提督も時雨もほとんどの時間を本棟内で過ごすため、執務室の階に空き部屋を利用した寝るだけの部屋を持っているだけで、特権としての私室や私邸を用意したりはしていない。
その権利の変形として、姉妹で過ごすための特別な部屋を与えられているのが現状だ。
秘書艦姉妹の部屋が特別待遇なのは事実だが、それでもリンガにある駆逐艦寮は、他の鎮守府や基地の物と比べると立派なもので、やはりかなりの高待遇だ。
これは一重に提督の考えからで、泊地拡張の際に艦娘の私的スペースに対し優先的に予算が回された結果でもある。
霞の反対を押し切って、提督が私財から資金援助を行ったとも噂されるが、真相は闇の中。
そうしてできた新しい寮は、部屋も広さに余裕があり、寝るだけにしか使えないという駆逐艦寮が多い中、二人部屋で八畳程度。役職に就いている者には個室が与えられるなど、艦娘の人権に配慮された住まいが用意されている。
「しかし仲良いよね、一緒に寝てるんでしょ?」
ベッドは3つあるが、普段は三人ずつ2つのベッドを使用している。ロフトのベッドは秘書艦や警護艦として帰宅が遅くなりがちな時雨と夕立が、姉妹に配慮するときに使うものだ。寮の生活スタイルと比べると独特の姉妹生活を送っているのは事実だろう。
「時雨が提督スタイルに染まってるからかな、部屋を広く使えるから一緒に寝ること自体に文句はないんだけど」
姉妹の仲が特に良く、艦隊でも珍しく姉妹全員が揃っている大所帯であることも関係しているが、決定打となったのは小島の貧乏生活を経験し、個々人の寝具を用意しない生活を時雨が受け入れているからこそのスタイルだと思われる。
ちなみに六駆の四人は八畳間の部屋に布団を並べて生活している。遠征、護衛に飛び回る六駆の稼ぎと格付けなら、もっと広い部屋を使用することもできるが、このくらいが丁度良いのだと姉妹全員から固辞されたらしい。
「ま、部屋を広くしたけりゃ働けばいい話なんだけどさ」
ここリンガでは、貢献具合によって誰でも生活環境の向上を享受することができる。
白露たちも、ただ秘書艦である時雨に負んぶに抱っこではなく、少しでも時雨の力になろうと事務や護衛を精力的にこなしているのだ。
「敷波さんは綾波さんと同室ですよね? 駆逐艦寮ですか?」
「綾波は部屋の大きさにこだわりないんだ、だから普通の駆逐部屋。まあ綾波はなかなか帰ってこないから一人部屋みたいなもんなんだけどね」
警護艦である綾波も、希望すればこの専用居住棟に部屋を持てるのだが、住まいに頓着がないようだ。
「綾波を差し置いて私が部屋を申請するのもちょっと違うしね」
「敷波も暇してるなら私と一緒に事務仕事やればいいじゃん」
「やっぱ地道にやるしかないかー」
新しい煎餅の袋を開けようとして、踏ん張っている白露がそう言って仕事に誘う。
中々開けることができない姉を見かねた村雨がハサミを持ってきたついでに、資格についての話を振る。
「専用居住棟の権利なら司令艦認定を受ければすぐにもらえますよ?」
「だめだめ、一度チャレンジしたけど実技も筆記も不合格だったもん。あれなら陸戦教程で上を目指す方がまだ現実的。白露はそこんとこどうなのさ?」
「実技は合格したんだけどねー、問題は筆記のほう。地理ならなんとかなりそうだけど、人間社会の常識や歴史に至ってはちんぷんかんぷんだよ」
「はは、司令艦には幅広い知識をって言っても限度がありますよね」
「でもそう言う村雨は持ってるじゃん。凄いよね、やっぱ勉強とか大変だった?」
「由良さんが教えてくれましたし、まあなんとか。でも戦隊クラスまでですよ?」
「十分だよ、司令艦認定の甲種って霞しか持ってないんでしょ? あんなの雲の上過ぎて実感わかないもん」
艦隊司令艦認定証。通称甲種認定を持っているのは霞のみで、金剛や阿武隈も持っていない。
乙種と言われる戦隊までを指揮できる司令艦認定でさえ狭き門で、駆逐艦では霞のほか村雨と長波の三人だけしか持っておらず、そのため認定試験に合格すればそれだけで幹部昇格は確定と言われる難関資格なのだ。
「白露は経理で働いてるんだっけ?」
「そだよ、村雨と一緒」
「募集してたりしない?」
「大募集中ですよ! 敷波さん働いてくれるんですか? 採用です、すぐに管理部に行きましょう」
「む、村雨、ちょっと落ち着いて。そっか村雨が担当だっけ」
管理部経理課長、それが村雨の肩書きだ。
「そうです、管理部はいいですよ〜食いっぱぐれることもないし、権限も強いですから! おすすめです」
艦隊にある管理部、調達部、警備部に上下関係はないが、管理部長を霞が兼任していることもあり、なにかと融通が利きやすい。なんて話があったりなかったり。
霞の性格を知っていれば、その可能性は皆無だとわかるだろうが、採用してしまえばこっちのものだ。勧誘とは綺麗事では務まらないのである。
「はぁ、白露とこはみんな管理部なんだっけ?」
「うんにゃ、春雨が調達部で五月雨は警備部だね」
敷波の問いに、お茶のお代わりを所望する白露が答える。
「なに? 白露型で艦隊乗っ取りでも考えてるの?」
「そうそう。いずれは私が大提督に〜、問題はウチの次女に気付かれずにことを成せるかってところかな」
「あ、そりゃ無理だ。白露が提督になったら部屋広くしてもらおうと思ったのになー」
その後、シンガポールにある美味しいスイーツの店や化粧品、訓練の愚痴など話題をころころ変えながらも話は続いていった。
こうして艦娘たちの非番は終わる。
幹部組
艦隊の中枢を担う艦娘。役職組とも。
能力があれば誰でも昇進できる。
幹部の中でも、特に初期から所属している艦娘はコアメンバーとも呼ばれ、提督の腹心とも言える存在。
幹部になるためには陸戦教程を好成績で納めるか、海上での要人、輸送護衛を極めた護衛エキスパートになる。もしくは司令艦認定を受け合格すると言った登竜門がある。