少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
── これで、俺と君とは共犯者だ
遠くの方で、世界の壊れる音がする。
きっと壊れていくのは、僕の世界だ。
「……なぜ、指揮も執らずに逃げ出したのですか? なぜ、彼女たちを見捨てたのですか?」
声が聞こえる。
耳に届くのは、僕の手を取ってくれた大切な人の声だ。
なにをそんなに怒っているのだろう。
その言葉遣いは丁寧だったが、声色には確かな怒りが滲んでいる。
「※※※※※※※※! ※※※※※※※※※※※※※※」
怒鳴るような声がするが、僕にはその声が聞こえない。
「アナタは指揮官失格だ」
失意を越した、そんな冷たい声が思い出される。
彼の目が、まるで路傍の石を見るかのように、なんの感慨をも持たない色をしていたことを覚えている。
僕は怒っている?
それとも、彼と同じく失望しているのだろうか。
この感情は、提督から流れ込んだものなのか、それとも、捨てられた僕の感情だったのか。もうわからない。
僕の手には砲が握られている。
ああ、これは夢だ。
僕は、あのときの夢を視ているのだ。
「※※※※※※※?」
遠くで世界の壊れる音が鳴っている。
それと同じ音が、僕の中から放たれた。
『佐世保の時雨も看板かな』
それは僕の声だった。
世界を壊す音が消えたとき、僕の前にはもう誰も立ってはいなかった。
僕は、取り返しのつかないことをしたのだと。
僕が、取り返しのつかないことをしたのだと気が付いた。
体が軋むように痛い。
でも嫌な気分ではなかった。
知っているのだ。
体が折れてしまいそうなほど、キツく、キツく。
僕が消えてしまわないようにと、提督が僕を抱き締めてくれている。
提督が僕を繋ぎ止めていてくれた。
そして彼は僕に言うんだ……。
「時雨、朝だよ!」
その声で一気に覚醒し、現実の世界に引き戻される。
目に映るのは、今はもう見慣れた天井。
ここは僕の部屋だ。
「時雨? 寝ぼけてる?」
声を掛けてくれたのは、階段から頭だけを覗かせた白露だった。
こんな夢のことで彼女に心配をかけるわけにはいかない。
眠ると悪夢にうなされてしまい、一人で眠ることができなくなってしまった提督のことを思い出す。
僕も、同じ病に侵されているのかもしれない。
「大丈夫だよ、おはよう白露。良い朝だね」
いつもと同じ調子で、ようやく彼女へ挨拶ができた。
しかしそれを聞いた白露は少し眉をひそめ、それから僕の眠るロフトに上がり込んで……。
僕を抱いた。
それは、先ほど思い出していた記憶にある抱き方ではなく、優しく、包み込むようなものだった。
「白露?」
彼女はなにも言わずに、しばらくそうやって僕を抱いていてくれた。
「私は時雨のお姉ちゃんだからね」
「ふふ、知っているよ」
「こんなところで一人で寝ているから嫌な夢を視るんだよ」
「昨夜は遅かったからね、起こしてしまっては悪いと思ったんだ」
それから白露は僕から離れ、時雨は馬鹿だなと言った。
「白露はお姉ちゃんなんだよ。そんなこと気にしないでいいのに」
早く降りておいで、みんなで朝ごはんを食べよう。そう言ってハシゴを降りて行く白露が付け加えるように言った。
「今日は早く帰っておいで、時雨が無事に帰ってきてくれたお祝いをするんだから」
そうか、そうだった。
今日は僕が秘書艦になった日。
僕が、彼と共犯になった日。
「うん。ありがとう」
艦隊三役
提督、秘書艦、艦隊司令艦からなる艦隊の頂点に位置する役職。
それぞれが艦隊内の全てを決定する権力を有し、三役に決裁権の上下はない。互いに相手の決裁した案件を差し戻す権利が認められており、基本的には三者合意によってのみ意思決定がなされる。
提督、秘書艦の役職は固定となっているため、一般の艦娘がなることのできる最上位の役職は艦隊司令艦となるが、艦隊創設時より一貫して霞がその役にあり、事実上三役とも完全固定であると言える。
あくまで提督が定めたものであるため、これらは艦隊内だけの独自ルールだ。