少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
まったく進まないね。
艦娘には感謝を伝えるべきだ。
海を、そして世界のカタチを護っているのは彼女たちなのだから。
そして、彼女たちはこんなにも優しい。
ありがとう阿武隈。
お前のお尻はとても柔らかそうで、端的に述べるとエロい。カタチが良いのかな?
ほら、彼女はこんなにもやらしい。
痛ったーー。
両側からケツをつねられたゾ?
もちろん時雨と霞だ。なんだお前ら、口にしてない俺のお茶目な気持ちを読み取るのやめてよ。
ただの照れ隠しだったんだよ!
「そういえば部屋割りもなにもしていないね」
話題をスッと変えたのは時雨。
風呂を上がったはいいが、この後に向かう先がない。目的地があるのは元々この泊地に所属しており、私室を持っている金剛くらいのものだ。
「ボクお腹空いちゃったよ」
空腹を訴えるのは皐月。一度意識が向けばお腹が空いているのは自分も同じ、昼を食べ損ねているのでみんなそうだろう。
後先考えずお風呂に飛び込むもんじゃないね。お前ら揃いも揃って有能なんだから、誰か止めてよ。
海軍としては夕食の後に入浴ってなもんだが、個人的に17時あたりから始まる夕食は時間が早すぎると思う。反対がないようならウチの夕食時間はそこから2時間は遅らせたいところだ。
かくして、料理は得意だと言う金剛、阿武隈に時雨を含んだお姉さん組が食事の用意をすることになった。
裸エプロンとまではいかないが、お風呂上がりの下着姿にエプロンを着込む女性が料理の支度をしているシチュエーションは男のロマンを体現していたが、ほどなくキッチンから追い出されてしまったので大人しく席に着いて待つことにする。
俺も作れないわけじゃないから手伝おうと思っただけなのにな。
それはそれとして、余裕ができたら備えられているエプロンをもっと艦娘の魅力が増大するかわいいものに変えようと心に決めた。
料理といえば、聞けば阿武隈はカナリの料理上手さんらしい。
「阿武隈の食へのこだわりは大したもんだよ」
「警戒海域でも作戦行動中でも料理しだすものね」
とは六駆の感想だ。作戦行動中の
時雨も1年間自炊していたので、安心して任せられる腕前だ。金剛に至っては年の功でなんとでもなるだろ。あとで知ったことだが、金剛の作る飯は毎日食べても食べ飽きないと旧軍時代から有名なのだそうだ。
「仮にも前線の軍事施設でいいのかしら」
「いいんじゃないの、まだ艦隊も身内しかいないんだし」
「ま、アンタがいいならいいんだけど、風紀が心配だわ」
今さら湯にあたったのか、霞の頬に赤みが差してる気がする。
ほどなくして、みんなの分の夕飯が食卓に並ぶ。本日は野菜炒めにイワシの揚げ団子、それからイワシの天ぷらにすまし汁。
「この団子美味いね」
「それは阿武隈が作ったんだよ」
「へぇーお前はかわいくてお尻が柔らかいだけじゃなく、料理も上手なんだな」
手放しの賞賛を贈るも阿武隈の返事はすげない。
「余計な感想はいらないので、料理だけ素直に褒めてください」
あと、その手つきも止めて。
「イワシの揚げ団子は阿武隈の得意料理なんだから! 感謝して食べなさいよね」
「暁ちゃんが自慢することじゃないのです」
「でも最初から得意料理を振る舞うなんて、司令官のことを狙っているのかしら」
「阿武隈ならいつでも大歓迎だぞ?」
「ンン、チガイマス」
大きく腕でバツ印を作った阿武隈は、何かを思い出しているように呟く。
「この料理でギャフンと言わせたい人がいるんです」
「あぁ? 男か? どこのどいつだ」
「なんでイキナリ怒るんですか! 同じ軽巡の艦娘ですー」
「天ぷらも美味しいわね」
「それは金剛さんが揚げてくれたんだよ」
「ここらはイワシがよく捕れるのか?」
美味しいので特に問題はないが、並んだ料理がイワシばかりだったので聞いてみた。
「答えはnoネー、むしろこの辺りではイワシが捕れないので、どちらかと言うと高級魚になりマス。地元の食卓によく上がるのはサーモンですかネ」
「ならなんでイワシばっかり? ああ、高級魚って言ったか、それで着任祝い?」
「それもnoデスネ、高級魚とは言いましたが、単に輸入に頼る魚になるから高いデスと言うだけで、内地でのタイやフグみたいな意味はないデス」
「じゃあなんでなんだ?」
「アブーがイワシの肉団子を食べてもらいたいと駄々をこねたからデスネー」
ぶっ! とヒロインがしてはいけないリアクションを取る阿武隈。
「ちょ、なんで言っちゃうんですかー」
「いつでもいいんだぞ?」
「そんな配慮は要りませんー」
食事の席はワイワイと、楽しく過ごさなくてはいけない。
昔、姉にそう言われたことを思い出す。
まったくの無表情で言われてもなぁ。なんて幼心に思った俺だったが、言ってることは間違いではなかった。
「南の海域とはいえ、やっぱり南西は違うんだね」
「どうした?」
箸をつけながらそんなことを時雨が言った。
なにかあったのかと思ったら、微妙にテンションを上げた彼女はこう言ったのだ。
「砂糖が置いてあったんだよ」
「おぉ、これでサッカリンともおさらばか!」
砂糖は贅沢品だ。と言わなければいけないような、先の大戦みたいな状況に陥っているわけではないが、ここより激戦地に近かった小島では手に入れるのがなかなか容易ではなく、甘味はサッカリンに頼っていたのだ。
あれ入れ過ぎると苦くなるんだよな、そういう知識も小島に着任するまで知らなかったし、多分食べたのも初めてだったろうけど。
食事も終わり、またしてもまったりモード。
あれ? もしかして今日は仕事してない?
初日に行ったことといえば、昨夜に引き続き部下の下着をチェックしただけのような……。ダメだなこれ。
ちょっとは考えを進めないと、霞の言う通りただのクズだな。
「さて、どこから手をつけようかな」
「誰から手をつけようかって話かしら?」
「それならウチの阿武隈がオススメだよ。だから私たちのことは出来ればそっとしておいてほしい」
「違う! 仕事の話だ」
なんとなく口に出た一言に、律儀に食いついてくれるのは雷と響。いい奴らだな。
しかし、こいつさらりと自分の旗艦を売り払いやがった。恐ろしい子。
人間と艦娘の話を聞いて思うところがなかったわけでもないのだ。
基地の運営には人材が必要だが、彼女らの傷を悪戯に触ってしまうのではないか、そう心配になっていた。
すると、心中を察したのか、そもそも俺と思考が繋がってるのか時雨が言った。
「軍人さんなら心当たりがあるよ」
「小島に資材を搬入してくれていた輸送部隊のみんなは良い人たちだったよ」
「昨日わざわざ挨拶に来てくれてたわね」
「彼らはセレター軍港に所属してるって言ってたから仕事にも慣れているだろうし、資材調達を任せられるんじゃないかな」
小島で世話になった部隊か、昨日も訪ねてくれていたとは驚きだ。
しかしナイスタイミング。彼らは時雨以外にも挨拶してくれているらしく、概ね高評価のようだ。
「セレターか、なら調達部として声かけてみるかな。こちら側の代表は阿武隈でいいか? 」
「構いませんけど、どういう理由でした?」
「弾薬や燃料、その他の備品も日用品や消耗品なんかとまとめて扱ってもらおうかと思って」
考えを伝えると、納得した様子で阿武隈が頷く。
「つまり第六の遠征も調達部で管理するんですね」
「そういうこと」
「それはいいですが、普通は提督がするもんなんじゃないんですか?」
「お前ら女性特有の日用品を購入するのに毎度俺のチェックとか欲しいのか?」
プライベートでなら大歓迎だが、業務で話題に出されても気まずいだけだ。
「調達に必要な経費は、これは経理を通すんだが」
「経理は僕が見るよ」
基地内のお金については時雨が手を挙げてくれた。人員が揃って部署がしっかり機能するようになるまで任せることにしよう。
「お願いするよ。明日はざっくりでいいから入ってくる予算と必要になる経費を計算して、余剰分からいくら給与に出せるか検討しよう」
「給与? 外注のですか?」
質問したのは阿武隈だ。
今まで身近じゃなかったからか、意識がついていかないようだ。
外注で雇い入れる分の予算はちゃんと軍から出るから心配は要らないんだよ。
「いや、お前らのだよ」
「はあ? そんなの要らないわよ」
「それは艦娘の権利。権利と義務を標榜にするウチの艦隊から作らねばならん今後の当たり前になる」
俺がブラックな経営者なら諸手を挙げて喜ぶんだろうなぁ。
しかし、ウチが始めなきゃいけないことだぜ。働けば金が出る。人間社会では極々当たり前のことだ。
「で、私はなにすればいいのよ」
「霞には調達や経理含めた基地運営と運用の総括やってほしいなー」
「運用って言うのは?」
「訓練や哨戒、攻勢作戦の発案と実行とか」
「それじゃあまるで艦隊司令長官じゃないの」
そだよ、そして運営のほうは基地での生活で必要になる諸々だ。
基地司令官も兼ねてくれってなもんで。もちろん俺もするよ?
「役職作るなら艦隊司令部の統括部長ってとこかなぁ」
「金剛は顧問ね、今までの基地運営を参考に相談乗ったり、参加してきた海戦を元に作戦練ったりのサポート」
経験者の金剛が居てくれて助かった。
同じ手探りでも知恵袋が居るのと居ないのでは大きく違うだろう。
「なんか雑務もドッサリありそうね、人数少ない分負担が増えそう」
「雑務の心配はしなくて大丈夫だ、雑務専用の人員はすぐにでも呼びつけてやるから」
溜息を吐いた霞にちょっとした朗報を伝えておく。朗報になるかどうかは実のところ未知数なんだけど。
時雨には雑務専用員で分かったらしい。
「ああ、山崎さんのことかな?」
「山崎さんって誰のことだい?」
なんだこいつ、天使か? 違った。
金髪の濡れ髪が美しいこの子は皐月だな。うっかり間違えちゃったよ。
「髪くらい乾かしなさいな」
そう言ってタオルで頭を拭いてあげる霞。口はうるさいが、やっぱ面倒見が良い。
「山崎さんは呉の軍人なんだけど、僕と提督の付き添いで横須賀まで着いて来てくれたんだ。その後はそのまま横須賀鎮守府に所属してるはずだけど」
「関わりを持ったせいで割りを食わせてしまったからな。アイツが断るなら仕方がないが、声はかけておかねば」
ほっこりした顔で時雨がこちらを見ている。声に出さずとも何が言いたいのかはわかった。
「そんなんじゃないよ!」
「呉の山崎ねぇ、覚えがないわ」
忘れてる人も多いかもしれないが、霞はもともと呉鎮守府所属艦だ。
「艦娘と話をするのは僕が初めてだって言ってたしね」
「なに? じゃあまた新米士官なの?」
「昇進してなければただの機械いじりが好きな一等主計兵だな」
「下士官もいいとこじゃないのよ」
「こぉーら霞、階級だけで人を見るんじゃない」
「そ、そんなつもりで言ったわけじゃ……。ごめん」
かわいいなぁ、なんてかわいいやつなんだ。ハグしてやろう。
「ちょっと、無言で抱きつくのやめて」
「でも不安ではありますー。下士官の軍人さんとなるとますますお話したことなくって」
相変わらず不安な顔をしている阿武隈。彼女は六駆のことも考えているのだろう。
こればかりは直接話させてみないと安心させられないが、会えば問題も消え去るだろう。
アイツはバカっぽいけど、良い奴だってところだけなら太鼓判を押してやっていい。
「僕もそうだったけど、彼は良い人だよ。彼のおかげで僕は階級ではなくちゃんと顔を見て軍人さんと話ができるようになったからね。提督や山崎さんに出会ってなければ、多分輸送班の彼らとも挨拶しない関係だったと思う」
ほらね、俺だけじゃなく時雨も同意見だ。
「どうでもいいけど、なんで食後の食堂で会議なのよ」
「節操ないですねー」
「下着姿で話すことじゃなかったかもしれないね」
疑問を呈するのは霞で同意するのは阿武隈と時雨。
俺的には素敵な話し合いになったよ?
リンガでの会議はこれからもこのスタイルでやっていけないかなぁ。
ただの願望だぞ? もちろん本気でそんなルールを作るつもりはないからな。
キャミソールから浮く突起に目を奪われて、頭に入ってない内容もあるかもしれん。
議事録なんかも作ってない適当会議になってしまったからな、後で時雨に確認しておこう。
「で、今日はこれからどうすんのよ?」
「部屋の用意もしてないしなぁ、どっか大部屋で今日も雑魚寝かな」
「今日も安眠できなさそうですー」
「俺は阿武隈のおかげでグッスリだよ」
そんなわけで、寝るところのある金剛を除いた俺たちは、適当な部屋を探して就寝だ。
本日から雑魚寝に加わる新しいメンバーは六駆のみなさんだな。
「ちょっと見過ぎなんですけどー」
「いいだろ、減るもんじゃなし」
「増えるんです! ワタシのストレスゲージが増えそうなんですー!」
昨日の今日で警戒されたのか、阿武隈の寝床まで距離がある。
俺が安眠できなかったらお前のせいだぜ。
寝床に就いた俺の左側にはいつもの如く時雨。小島のころからの定位置だ。
本日の右隣に陣取るのは霞。今日は大人しく二人に挟まれて寝ることにしよう。
なんか監視されてる気になってくるが、気のせいだろう。
「ちょっと、腰の下に腕をまわされると寝づらいんだけど」
「お前は阿武隈に売られたのだ、恨むなら阿武隈を恨むことだな」
「言いがかりですー」
六駆の向こう辺りから声がするが無視だ。
ついでに霞の意見も却下。
諦めて俺の安眠に協力するがいい。
司令艦 霞
佐世保を生き残った後は北方海域に左遷。北方解放後に晴れて提督の艦娘としてリンガに所属することに。
以降は金剛の艤装に乗って艦隊指揮に専念することが多く、滅多に海面に立つことがなくなった。
陸上戦に参加することもほとんどないが、成績は優秀。
陸海ともに平均以上の能力を有しており、かわいい顔と華奢な体に似合わず第2言語は肉体言語。暴走状態の夕立を素手で戦闘不能に追い込んだ唯一の艦。
艦隊を支える三本柱の一人で、艦隊の行動指針などを一手に引き受けるある意味1番の権力者。
提督を丸ごと模倣するかのように知識を蓄え戦略にも精通する提督の後継者。
史実にて、食べる人への配慮はするが、食べる場合への配慮をまったくしない阿武隈。
霞も似た話があり、沖縄を目指す最後の作戦時、他の艦では戦闘糧食としておにぎりを食べていた中で一人だけカレーが振る舞われていたりする。