少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
ま、だいたいこの字が使われるときは「鳳凰」の二字熟語だとは思いますが。
実は「鳳」がオス、「凰」がメスを表している。
つまり鳳翔さんは……。
「ウチは流れ次第で、キミの艦隊のお世話になるんも悪くない思うてる。ただしや、ウチが異動するには一つ、飲んでもらわんとあかん条件があるんや」
「一人にしとけんやつがおる」
─────
ノックの音が響いた。
こんな時間に執務室を訪れる者がいるとは思っておらず、時雨の反応が一瞬だけ遅れた。
こちらの返答を待たずに、深夜の訪問者が二の句を継ぐ。
「鳳翔です。少し、よろしいでしょうか」
扉を開け、鳳翔を執務室に招く時雨。
龍驤異動の裏側については時雨にも言っていない。
知っていれば彼女にもノックの主がわかったと思う。
「このような時間に来てしまいました」
「構いませんよ、ひょっとして。とは思っておりましたから」
提督は、そう返答しながら時雨に視線を送る。
それを見て察した時雨が閉めかけていた扉の前で挨拶を待つ。
「時雨、今日はもう上がってくれ。お疲れ様」
「うん、先に戻っているね」
それから執務机の横で考えているのかいないのか、よくわからない顔の夕立にも声を掛ける。
「夕立も、少し席を外してくれるかな」
「うん、ダメ。提督さんの側から離れるわけにはいかないっぽい」
「ちょっとの間だけ扉の前で待っていてくれないかな」
「……わかった」
すげなく断られてしまったが、なんとか室外に出すことには成功した。
さて、やりますか。静かに気合を入れる提督に鳳翔が唐突に言う。
「あの子が、無理を通したのではありませんか?」
「無理など」
建前から入ろうと思っていたが、矢継ぎ早に言葉を継ぐ鳳翔に遮られる。
「私は! 私は、外洋航海も満足にできない身です。南方のこの地で、お役に立てることがあるとは思えません」
思った以上に思いつめているのか、切羽詰った空気を感じた。
「お茶は出せませんが」
そう言ってコの字に組まれた応接用ソファの頂点の位置に座り、鳳翔にも掛けるよう促す。
「龍驤は、確かに貴女と一緒でなければ移籍はしないと言ってきましたが、私はそれを聞いて喜んだのですよ」
龍驤から出された条件、それは鳳翔との同時移籍だ。
「なぜですか、私はもう戦うことも叶わない身であるというのに」
「あなたの体のことは把握しております。失礼かとは思いましたが、空母鳳翔のことは、調べさせてもらいましたので」
「それであればなぜ?」
この人は聡い。そう判断し、ストレートに切り込むことにした。
「鳳翔と言う名が欲しい。それが最初の理由でした」
「あなたは空母勢に多大な影響力を持っている。それはあなたが思う以上のものだ」
鳳翔が険しい顔で次の語を待つ。名前だけで利用価値があると言われたのだ。控えめに言っても面白くはないだろうに、それでも声を荒げたりはしなかった。
「だけど、あなたを調べていくにあたり、名前ではなく貴女という存在を手元に置きたいと欲が出た」
「おっしゃることの意味がわかりません」
「貴女は非常に高潔な人だ。人柄は母のよう、穏やかで優しく、そして自分を曲げない芯を持つ」
艦娘から聞いた鳳翔の評判はどれも好意的なものだったし、彼女の属した艦隊はどこも円滑なコミュニケーションがなされていた。
実績としてはそれで十分だろう。
「ウチの艦隊は癖のある奴らが多くてね、そしてなにやら良からぬことを企んでもいるようだ。一人でも多く、彼女らを支えることができる仲間が欲しい」
「実際に、言葉を交わしたこともありません」
「私は南方で、一度龍驤には会っているんですよ。彼女の人柄は知っているつもりです。その彼女が、自分の身より案じたのが貴女だ、私は私の信頼する龍驤の目を疑ったりはしませんよ」
「それは、卑怯な言い方です」
龍驤がそう評した。そう言われてしまえば、この人は龍驤の沽券にかけて、それを否定することはできないだろう。
「ズルいのは自覚もしてますがね。でも、貴女は私の予想通りこの場に来た。私の目も節穴ではなかったと、安心しているところです」
「しかし、ここで私にできることはありません。なにも、返すことができません」
「体についてはリハビリしましょう、もちろん無理をさせるつもりはないですし、海に出るつもりがなければそれでも結構ですよ。ここは自由の艦隊ですからね」
人間の都合で無理を詰め込んだ。しかし、それを解消する努力を、軍は放棄した。
鳳翔で得られた経験だけ、次代の空母に活かせればそれで良かったのだろう。
クソ喰らえだ。
彼女にはまだやれることがある。彼女が望むなら、望むがままに、できる限りのことに尽力しようと思う。それが、人間としての責任だ。
妖精さんに思いっきり頼る面も多いだろうが、なに、アイツらに任せておけば問題ないだろう。
むしろ、世代を超越するなにかを造りだして「ほうしょう」に改名する事態になってしまわないかが心配なくらいだ。
「それでは、ご迷惑を増やすだけです」
「その分の仕事はしてもらうので、負い目に感じることはありませんよ」
「艦娘の悩みを聞いてあげたり、対空戦闘の練習を見てもらったり、あとは私の話し相手になってもらったりと、やってほしいことは山ほどありますからね」
「戯れです」
「大真面目ですよ、これは施しではありません。貴女に無理をさせた人間としての贖罪と、私の勝手な願望です」
それらは確かに鳳翔が適任だと思える。しかし、鳳翔でなければいけないのかといえば違う。
鳳翔でなければ、それがあるからこそ。少々目立つことを理解した上で鳳翔、龍驤という空母を2隻も迎えたのだ。
「鳳翔さんに頼みたいのは、実のところ内政がメインだったりもします」
見送るために扉を開けると、廊下では耳を塞いだ夕立がこちらに背を向け周囲の警戒をしていた。そして、扉が開いた気配に気が付くと飛び跳ねるように室内へと消えて行く。
「本当に、こちらの艦隊は賢い子たちが揃っているのですね」
鳳翔の隣に並び階段まで少し歩く。
「良くできた子たちです。しかし、それ故に心配でもある。彼女らは気を張りすぎてはいやしないか、少しでも彼女たちが安心できるよう、バックアップできる環境を用意したい」
「微力を尽くさせてもらいます。夜分に押しかけてしまい申し訳ありませんでした」
「気にしないでくださいね、日によっては夜食を食べるためだけに訪ねてくる者や、怖い夢を見たとパジャマのまま来る子までいますから。あそこは、いつでも誰でも来てくれていい場所になっているんです」
蛇足になるかとも思ったが、鳳翔を計る役に立てばいいと思い、そこに一言付け加える。
「それに、鳳翔さんが夜に訪ねてくれるなら、それは私にとっては望むところでもありますしね」
「お戯れはよしてください。本気にしてしまったらどうするおつもりですか」
どうやら警戒心は少しほぐれたようだと、その返答からは読み取れた。
階段を降りていくのを見届けてから執務室に戻る。
「夕立、お菓子でも食べようか、用意してくれ」
尻尾を振って棚に向かう夕立が湯呑みを3つ用意し、お茶受けの羊羹を切り出す。さりげなく提督の皿に乗っている羊羹だけ厚くなっているのを見て顔が綻ぶのがわかった。
かわいい奴め、暖かい気持ちにさせてくれたお礼にその羊羹は夕立のと交換してやろうと思う。
それからソファの端っこに腰掛け、天井を見上げる。
「あれは気が付いてる風だったな」
独り言のように呟いたそれに返答したのは、意外な場所からだった。
「だね、あれは達人だよ。いつ
そのまま天井の一角に向けて話を続ける。
「彼女とも良い関係を築きたいものだな」
「いつも通りにしていたらいいんじゃないかなー、それで十分伝わるよ。きっと」
「お待たせしたっぽーい」
ガシャン、と音を立ててテーブルにお茶を並べる夕立。
ソファから身を起こした提督は、気持ちを入れ替えるかのように手を叩いた。
「それじゃ、いただこっか。降りといで」
天井のパネルが1つズレたかと思うと、ぽっかりと口を開けた闇から一人の少女が音もなく執務室に降り立った。
「ちょっと夕立、お茶くらいもっと女の子らしく用意しなさいよ」
「川内に言われたくないっぽいー」
「私はこれでも十分女らしいんだよ」
「いいんだよなー夕立は。今のままで十分かわいいから、特別に俺の羊羹と替えっこしてあげよう」
「ホントに? いいの?」
「そうやって提督が甘やかすからいけないんだ」
そう口にして、天井から舞い降りた艦娘。川内がソファに腰掛ける。
「で、ホントのところ彼女にはなにをさせたいのさ?」
羊羹をつつきながら川内がそう切り出してきた。
「聞いてたろ? 内政だよ。あと艦娘同士の潤滑油になってもらいたい」
「……彼女は艦娘、特に空母に顔が効くしねー、本土の実情なんかもまるわかりだ」
川内は本土と言いかえたが、わかっているのだろう。
抑えておきたい情報は呉鎮守府のものだ。
「な? 内政だろ」
「彼女を直してやるってのは?」
「それは人間としての責任だろ」
さも当然のことだと言わんばかりの提督に、川内は羊羹から目を離すことなく、重ねて聞いた。
「いや、ホントの話」
察しがいい奴は好きだ。建前ではなく真意を問われたわけだが、特に悪い気分ではない。
「彼女を慕う空母艦娘は多いらしいからね、できることなら彼女を教官にして航空戦の訓練をここで大々的に受け入れてやりたい」
できるだけ目立つことなく戦力を集める。
ウチのモットーを叶えるのにとても都合がいいカード。
彼女はそれなり得るのだ。
「いろいろな艦隊の空母が入れ替わり訓練を受けにくる基地。あら不思議、ウチは航空戦力を持たぬままに、有事の際に使える空母を手に入れるわけだ」
白露型駆逐艦1番艦 白露
武闘派姉妹と名高い白露型の長女。
艦隊戦の実力はかなりのものだが、海上護衛や輸送任務を主にこなし、秘書艦や警護艦を務める姉妹の裏方役を率先して行う。基地内では事務仕事などもこなしている。
陸戦の能力もカナリのもので、本人は海戦よりも陸戦のほうが得意だと言っている。陸戦時の相方はだいたい長波。
時雨や夕立をして、姉には敵わないと評される練度。