少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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とある理由でリンガ泊地へと短期体験にやってきた阿賀野姉ぇのお話。
その後半。

ミリタリーや銃に興味がないと辛いかもしれないが、その場合は阿賀野姉ぇと同じ気持ちで読めるかもしれない……。


4章で終わると言ったけど、リンガ泊地での話数が多くなりそうだったので章を分けることにしました。



〜噂の艦隊へ〜(後)

「それじゃあ軽く陸上訓練を体験してもらうわよ」

 

そう言って連れてこられたのは広大な敷地面積を持つ陸上訓練場だ。

鎮守府や基地にも運動場はあるが、ここリンガ島にある訓練場には見たことのない設備が多い。

「ウチはとにかく陸上訓練を徹底してやる」とは霞の談だ。

 

 

 

「走り込みやアスレチックは飛ばすわね。あんなのどこででもできるだろうし」

「アスレチック? そんなの他のどこでも見たことないんですけど!」

 

アスレチックという響きに強い興味をひかれたが、それの体験は考えていないようだ。

 

訓練場を横切りながら案内役の霞が言う。

「まずは射撃訓練ね、射撃場に行くから着いてきて。ちょうどウチの陸戦隊が訓練してるはずだから」

「ふぇー、さっそく拳銃撃つんですか」

「本来なら普通科の初期訓練をしてもらうんだけど、体験だしね。ロープワークや体力作りなんて数時間やったところで役に立たないから」

 

 

 

訓練場の一角に造られた射撃場には火器や銃弾などが保管してある建物があり、奥には屋内突入訓練を行う屋根のない迷路のような物が並んでいる。

建物の前にある射撃レンジでは、屋根だけ伸ばしたようなスペースに簡易テーブルが並べられ、阿武隈と六駆が銃の手入れをしているところだった。

 

阿武隈と名乗った艦娘からも良い匂いがする。

この艦隊の艦娘は本当に香水率が高いようだ。

 

 

 

「まずは好きなハンドガンを選んでくださーい」

「好きなって言われても、何を選んでいいのかまったくわからないんですけどー」

「あ、いいなぁその反応。ウチの子たちこだわり強い子多くてうるさいんですよ」

 

リンガに所属する艦娘は大なり小なり提督の影響を受けている者が多く、とにかく好みが面倒臭いのだという。

 

 

「あれ、初めての子にはどんな銃がいいの?」

「電たちはP90に合わせて選んだのでよくわからないのです」

 

頼りになるのかならないのか、阿武隈たちが顔を見合わせ、ああでもないこうでもないと初心者にオススメの拳銃談義を始めたのを確認し、矛先を霞に向けた。

「あのー、霞さんは持ってないんですか?」

 

「ワタシ? 持ってるけど、あんまり使わないわよ?」

そう言ってスカートの下を(まさぐ)り、内腿に下げられていたPPKを取り出す。

 

うわ、そんなところに仕込んでるのが普通なの? それでなくてもスカート短いのに、取り出すときに下着が丸見えになるんじゃ? と思ったが、それは声には出さず。拳銃の感想を述べるにとどめた。

 

 

「うわーかわいい」

「なんだいその趣味の悪いピスタリエートは」

同時にソレを確認した響が率直な感想を口にする。

 

霞の手に握られているのは、ドイツのワルサー社が製造するステンレスモデルのPPK。コンパクトで体に仕込みやすいその銃にエングレービングという加工でアラベスク模様が彫り込まれている。木製グリップまで同様の柄が入っているカスタムガンは知る人ぞ知る霞スペシャルだ。

 

「うるさいわね!」

眉をしかめる響に短く告げ、阿賀野に手渡す。

 

「えーかわいいじゃないですか! 私もこういうのがいいなー」

希望を告げる阿賀野に、すかさず阿武隈が言う。

「あーゴメンね。ここにはステンレスモデルの銃はないですぅ」

「ワタシのは完全な私物だからね。それ、申請しても経費では落ちないわよ」

「え、なんでですか?」

 

「防錆処理の違いだけですけど、金額のこともありますし、多分シルバーモデル自体が採用されることはないと思います」

「軍で使う火器は安くて目立たないほうがいいのよ。まあ、黒くてもその彫刻銃は論外だわ」

阿武隈が変わって説明し、雷が補足をする。

「だからうるさいっての」

 

 

霞から渡された銃をまじまじ観察していて気付いたのだが、残り香だろうか? 鉄とオイルに混じって良い匂いが鼻腔をくすぐる。

つい鼻を鳴らしていると真っ赤な顔をした霞が、匂いを嗅ぐのはやめてったら。と声を荒げた。

 

 

「柄がなくても無理なんですかー?」

「やめておきなよそんな豆鉄砲。霞も、ワルサーならせめてP5にすればいいのに」

「放っておいてってば! ワタシの用途は護身用なの」

 

阿賀野から銃をひったくり、いそいそとスカートの中へしまい込む。

ほらやっぱり。チラッと目に入ったチェック柄を横目に見ながら阿賀野は思った。

 

 

 

「ま、これは諦めたほうがいいわよ。どうせワルサーは採用されないから」

「どうしてですか?」

 

「高いのよ」

 

 

 

この話はこれで終わり、と手を叩き話を先に進める。

 

「ほら、さっさと9mmパラの銃、なにか適当に持ってきなさいよ」

「そうね、基本は大切よね。じゃあグロックでいいんじゃないかしら」

そう言って雷は壁沿いに並んでいるガンセーフの1つを開けて弾薬とグロック19を机に並べる。

 

 

「あ、これもかわいいですねー。しかも新品みたいにキレイです」

「あら、正真正銘の新品よ?」

ケースから取り出し、阿賀野の言うかわいいの規準に疑問を覚えつつも銃を渡す。

 

 

グロックと呼ばれるこの銃は銃身のほとんどが強化プラスチックで成型されており、一般的な金属製の銃より潮を含んだ風や水に強いといった特徴がある。

生活環境が完全な海辺である艦娘にピッタリの銃だ。

 

 

「司令官もだめねー、使わないピストルなんて買っちゃって」

節約できないなんてまだまだ子供だと語る暁に、雷が突っ込みを入れる。

「なに言ってんのよバカツキ。それアナタのよ」

「へ?」

「そういえば暁ちゃんは自分のハンドガン持ってないね」

隊長を務める阿武隈が、困った教え子を半目で見つめる。

 

「なんで暁のだけみんなと違うのよ!」

「暁姉のは響に合わせてるから弾が違うのよ。説明あったでしょ」

「響のピストルとも違うわよ!」

「私のは私物だからね」

 

第1陸戦隊は暁と響を除く三人が銃を揃えている。

響が愛用のロシア拳銃を使うことを譲らなかったため、割りを食った形で暁も響の拳銃が使用する弾に合わせられた経緯があるのだ。

もっとも、その拳銃を使用したことがないことが今回判明したわけだが。

 

 

 

私物の拳銃の話題が続き、疑問に感じたことを阿賀野が雷に質問する。

「私物の拳銃を持ってるのが普通なんですか?」

「まさか、そんなのわざわざ持ってるのは変わり者だけよー。自分で買わなくても、ここの艦娘は陸戦教程を受ければ誰でも採用銃を貰えるんだから」

 

陸戦教程は任意だが、この艦隊で上を目指すなら必須とも言えるスキルだ。

そもそも向上心の強い艦娘が多いここリンガでは、半数近い艦娘が陸戦教程に参加し、P226と言う採用銃を所持しているそうだ。

この採用銃も、長時間水や泥の中にあっても確実に動作すると言われるほど耐久性に優れており、世界中の海軍や特殊部隊で使われているのだとか。

 

 

 

 

「それじゃあ始めますか」

 

簡単に銃の構造を説明し、構え方やトリガーの絞り方をレクチャーされる。

艤装の主砲に比べると飛距離などあってないようなものなので、初めて小火器を手にする艦娘は狙い方の違いに辟易するものだ。

 

 

「山なりに狙うようなもんじゃないから、だいたい真っ直ぐ飛ばすもんだと思えばいいわ!」

ブースの前で緊張している阿賀野を見かねた雷がフォローを入れる。

 

「普段はもっと大きな砲を撃ってるんだから、そんなに肩肘張らなくても大丈夫よ」

 

 

いざグロックと呼ばれるそれを構えてみる。

お、握りやすいぞ。と思った。

 

 

隣のレンジでも阿武隈らが射撃訓練を始めた。

こちらの標的とは違い、人質を取った(てい)の人型のもので、犯人だけを撃つ訓練のようだ。

それを先っぽしかないような変な銃で撃っていく。

おお、音が途切れない。あんなに連射できるものなんだ。

 

 

「ちょっとちょっと、見事に当たってるわよ!」

 

両手でイングラムを持つ響が連射した弾は、狙ったかのように犯人、人質両名の頭と胸を貫いている。おそロシア。

当の響は、銃口から立ち上る煙をわざとらしく息で吹き消し、1発だけなら誤射かもしれないと呟く。連射だったけど。

 

「それ、実戦でやったらホンキで怒るわよ?」

腰に手を当てた雷が言うと、響が運用の根底を揺るがすことをさらりと言ってのけた。

「いやいやMAC10でできるのはせいぜい面制圧だよ、人質がいるような状況ではそもそも発砲するべきじゃない」

 

掘り下げちゃダメだ。ジト目で振り返り矛先を変え、次いで眠そうにしゃがみ込んでいる長姉にも突っ込む。

「それで、なんで暁は座ってるのよ?」

「火薬の匂いが染み付いてるなんてレディじゃないわ。それに私のは響が持ってるし」

「だったら暁も香水着けなさいよ!」

 

地団駄を踏んでいる雷の奥では、突っ込むのが面倒なのか、我関せずとでも言いたげに阿武隈と電だけが黙々と射撃を続けていた。

 

これが普段通りの訓練風景なのかな。

 

 

 

そんな感想を抱いていると、後ろから唐突に声をかけられた。

「お、阿賀野さんじゃーん。ちーっす」

Tシャツにジャージといったラフな格好で現れたのは鈴谷だ。

なんてことない着合わせで、しかもダサTなのに、こんなにキレイに決まっているなんてこの人、本当は何者なんだろ?

 

 

「あら、珍しいわね」

「たまにはねー」

 

鈴谷に声を掛けた霞だったが、何か思いついた様子だ。

「ちょうど良かったわ」

 

 

鈴谷はこの艦隊の陸戦教官を務める実力者らしい。

いやぁ女の私から見ても魅力的なこの人が教導クラスだなんて、天の采配には多分に贔屓が入っていると思う。

 

「阿賀野さんはまったくの初めてだから、拳銃での射撃を見せてあげてくれる?」

「うん? 鈴谷の見てもあんまり参考になんないと思うけどなー」

 

そう言って担いでいたバッグからゴソゴソと拳銃を取り出した。

見た目からは何事もキッチリとしていそうな美艦なのに、バッグの中はあまり整頓されていないようだ。そんな放り込まれただけ、みたいな収納の仕方で大丈夫なのだろうかと心配になる。

 

 

 

鈴谷が手にしているのは見るからにゴツい拳銃で、阿賀野が手にしている物よりも一回り大きい。

 

「見られてると緊張するねー」

なんて言いながら、特に構えるでも緊張するでもなく、ひょいひょいっと的に向けて発砲する鈴谷。

 

それまでの発砲音とは比べものにならない.50AEの音と衝撃を響かせ、的を木っ端微塵に吹き飛ばしてみせた。と、同時に。

 

「熱っ!」

 

空薬莢が胸元に飛び込んだようで、Tシャツの首元を伸ばしてパタパタやってる姿はとても扇情的。

 

 

「なんでそんな服で来たのよ」

訓練の様子を見ていた霞は感嘆の声をあげていたが、そんな鈴谷の姿を見てすぐに微妙な顔になった。

 

「ハンドガンの予定はなかったんだよー、熱っつ、これ火傷残らないかなー」

小銃でも同じように排莢されるはずだが、果たして彼女にどんな予定があったのかは謎だ。

 

 

「よくそんなので当てるわね」

「いやーこれだけは自慢なんだよ。でもこの距離が限界かなー、拳銃万能論なんてやっぱ幻想だね」

 

……ムラサキか。霞と鈴谷の会話を聞き流しながら、派手なのを着けているんだなと阿賀野は思った。

 

 

 

「トリガーには撃つとき以外に指かけちゃダメ」

そんな風に阿武隈から教えられた。

 

「トリガー?」

「引き金のことです」

 

「最低限守らなければいけない銃の基本は3つです。その1、常にマズル……銃口のことですね、マズルは安全なところに向けておく。その2、撃つ直前まで安全装置は外さない。最後、先程も言いましたがトリガーガードの中に指を入れない」

「ほうほう、安全装置ってどれですか?」

 

「その銃にはないよ」

横から響がアッサリと言った。

 

「危ないじゃないですか!」

「まぁ危ないかな? でも撃つときまでトリガーに指をかけないって基本ができてたらメーカー的には大丈夫らしいよ」

 

 

 

「それじゃあ、撃ってみましょうか」

 

 

銃と一緒に持ってこられた弾薬を一箱撃ちきったところで、訓練終了の緩い空気が流れ始める。

初めて撃った拳銃の衝撃から腕は痺れるし、何気に弾倉に弾を込めるのは指が痛かったので、ホッとしたのだった。

 

 

 

「そろそろ本命をやりますか」

「さて、何を使ってもらおう」

本命??

 

「M4でいいんじゃない? 一般的でしょ」

「聞き捨てならないね、一般的というならAKこそが全ての基本だろう」

「ちょっと、一体なんなんですかー?」

 

雷と響が言い争いを続けているが、自分の関わっているであろう話題についていけないのはゾッとしない話だ。

 

 

 

「ハンドガンは“とりあえず”なんですよ。現場では撃ってもなかなか当たりませんー。だから陸戦で使うのは主にアサルトライフルなんです」

「待った、だったらM4はアサルトカービンじゃないか。アサルトライフルじゃないよ」

「その話題は面倒だから持ち出すのやめてくれますぅ?」

 

 

「カービンなんて軟弱な物を勧めるなんて気が知れないね」

なにか譲れないポイントでもあったのだろうか、よくわからないが。

 

「でも使えなかったら意味ないじゃない。部屋に置いてあるアナタの銃、大きいし重いし邪魔なんだけど」

相変わらず座り込んだまま訓練に参加しようとも思っていなさそうな暁が呟いた。

……ここまでにしておこう。響が静かに決意した瞬間だった。

 

 

 

ともかく、と阿武隈がまとめる。

「M4派とAK派の二大勢力はいつの世も争いの火種なんですー」

 

「あら、FA-MAS派の秘書艦様に聞かれたら粛清されちゃうわよ?」

またもやなんのことかはわからないが、雷の一言に一瞬みんなが静かになった。

 

「鈴谷はステアーだから、なんとも言えないねぇ」

巻き込まれまいと蚊帳の外を決め込む鈴谷だったが、それは霞の一言であっけなく捕らわれる。

 

「じゃあステアーでいいんじゃない? どうせアナタたち普段アサルトライフルなんて使ってないんだし、鈴谷が教えなさいな」

 

霞の言うとおり、主な任務が要人警護である第1陸戦隊はアサルトライフルを使用しておらず、個人防衛火器と呼ばれるP90が主だった装備になる。

 

 

 

「いやいや待ってよ、阿賀野さんだって陸上で戦争するわけじゃないんだよね! だったら現実的な用途はSMGじゃん?」

 

艦娘と言われる彼女らの性質を考えると、陸上での戦闘行動はひどく限定的なものになる。

屋外戦はあっても野外戦はあまり想定されておらず、そして水辺であれば、それこそ艤装による砲撃を行うのだからそもそも小火器を必要とすらしない。

艦娘が小火器を使用する状況は限られているのだ。

 

 

 

 

「サブマシンガンねー。ならMP5でいいんじゃないかしら、今後揃えるにも手軽でいいわよ」

「MP5? バーチャルリアリティとか?」

音楽(MP3)動画(MP4)も関係ないわよ。ただの銃の名前」

 

 

 

よく知ってんのね。と霞に問われた阿賀野は、妹が詳しいんでと言って頬を掻いた。

 

 




銃の呼び方が各人で違うのは仕様でっす。
(後)から始まってますが、特に問題はないでしょう。


野球を知らない山田さんが、M4派とAK派を例えてみる。
多分、巨人派と阪神派のようなものだ。
そしてFA-MAS好きは日ハム。

仲良く語り合ったりはできない気がする。

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