少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
でも本格的にアレアレな感じになるのは最後も最後。
南方に進出してからになるので、その前にはちゃんとお伝えします。
それまでは、楽しく読んでいられるような、そんなお話。のハズ。
「提督(笑)、頑張ります。」が更新されてテンションうきうきの山田さんでした。
「アンタは、なにか余裕そうね」
セレターに周辺基地の司令官たちを集め、今後の南西海域の方針をすり合わせるための会議があった。
提督によってもたらされた富の分配と、相互に艦娘を行き来させ合う海域一群となった大きな枠組みのおかげで、この海域にあったかつての悲壮感は払拭され、ここは世界でも最も安定している海域の一つとなった。
リンガは南西にある一つの拠点という立ち位置から、南西海域全体を一つの艦隊とする、その本隊とも言える立ち位置を確立していた。
これでようやく攻勢作戦の検討に入ることができる。
本隊であるリンガの艦隊が進軍している間も、この海域はシステムどおりに抜けた穴を埋め、通常の営みを継続するのだ。
インドネシアの資源が与える効果は絶大。
次の狙いは西方海域。
一大石油産出地域に在る国々との国交を今戦争前の状態にまで引き戻し、さらに強大な権限を武器に南方海域へ殴り込み。その目処が立ったことを意味する。
その帰りだ。
本日の宿泊先である、シンガポールでの定宿に霞と向かっているときに聞かれた。
「うん? まぁ今回の戦争に関してだけなら焦ることもない。勝ち確のゲームでくらい余裕を見せもするさ」
まるで当たり前のようにそう話した提督に驚き、ついつい声が大きくなる霞。
「勝ち確? この戦争は勝つ見込みが高いって、アナタはそう言うの?」
「違う違う。勝ち確ってのは確率の話じゃない、勝つのが確定していることを言うんだ」
それから提督は、教え子に話して聞かせるように、こう言い直す。
「心情をちゃんと伝えるなら、勝つの“は”って言っておこうかな」
「どう違うのよ」
「時間や人命、どれ程のものを犠牲にするのかはわからんが、とりあえず勝ちはするんだ」
「これは戦争と言うよりは、生存権を賭けた戦いだ。古今東西、いつの時代のどこの世界でも、人類がそれに負けたことなんて一度もない」
それは脈々と続く過去が教えてくれる。
霞は頷きながら、静かに続きを待った。
「なんなら物語の世界でさえ、人類が滅亡する話なんて数えられるくらいなんじゃないかな。それは、なんでも書き手の自由にできる創作物でもやらないくらい、リアリティのない話だ」
そして無邪気な子供のように、笑ってこう話した。
「人類ってのはとにかく諦めが悪い。ルールのわからないゲームでも、勝つまでやめないからな」
なぜだろうか、霞にはそのゲームがとても血生臭く、泥沼のようなものに思えた。
その深い沼の底で、執念深いなにかが、私たちが足を踏み入れるのを手招きで誘っている。
「勝ち方は俺らが考えるとして、そろそろ世界のどこかでは深海棲艦の今後について話し合いくらいはするべきなんだろうがなぁ、誰かはやってんのかな?」
「深海棲艦の今後?」
また提督が分からないことを言う。
それなりに長く、この人の側で同じものを見てきたつもりだが。
未だに彼がなにを見ているのか分からないことがある。
「そうさ、絶滅の危機に瀕した彼女らを、根絶やしにしてしまうのか、それとも保護してやるのかってね」
戦争の最中に、そんなことを考えているのか。
人類が海を追われ、困窮したこんな世界でも……。傲慢なほどのそれが、地球の覇者で在り続ける人類の業なのか。
もしかすると、それはどんなに深く彼と繋がり、彼を理解したところで、艦娘であるワタシには辿り着けないところなのかもと思った。
息を飲んだワタシに提督が続ける。
「個々ならそうでもないはずだが、人類って種族になるとコイツらは我慢も妥協も絶対にしない。勝つまで戦い続け、再び栄華を誇るようになり、排除か管理かの選択をもって脅威は取り除かれる」
それからこう繰り返したのだ。
「さっきも言ったとおりだ。極々当たり前のことだが、生存を賭けた戦いで人類が負けたことはないんだよ」
そうなのかもしれない。
そして提督はこう言っているのだ、国と人類の数がたとえ半分になったとしても、勝つのだからそれでいい。と。
彼が自身のことをどう思っているかは分からないが、残った半分の国には日本が名を連ねている。その自信があるからこその考えだと思える。
だから、彼の戦争はワタシたちと見えているカタチが違うのだと理解した。
勝つのは当然で、その上で勝ち方を考えている。
「日本の一地方に地方病と呼ばれたものがある。致死率が100%とも言える危険なヤツだ。そう呼んでたのは山梨の方だったかな? 対症療法はあったが、結局防ぐことはできなかった。脅威を取り除くことが不可能だと理解した人は、その後どうしたんだと思う?」
フっと彼がそんなことを問いかけてきた。
リンガに来て様々な書籍を読み漁ってはきたが、疾患の類は読んだ知識以上のものがない。
ワタシたちにとって人間の病なるものは縁遠いものだから。
「わからないわ」
「それは寄生虫による疾患だった。だから、原因のほうに目を向けたのさ。100年以上の気が遠くなるような時間をかけて、彼らの生存域を破壊し、そして寄生虫ではなく、その宿主となっただけの貝を根絶に追いやった」
どこか楽しそうにそう語る提督は、今まで見知った提督よりも、どこか遠い存在のように思える。
ワタシには分からないが、これは人類の誇るべき成果なのだろうか。
「人類の都合で、結果的にではなく意識的に撲滅させられた彼らのために、今では供養碑が建ててある。人類は、自分たちを襲う脅威を決して許しはしないのさ」
「容赦ないのね」
「そうさ、そして現在ではその寄生虫の名前が消えた辞書まである」
矛盾しているように思う。
自分たちで滅ぼしておきながら供養の碑を建立し、しかし無かったかのように存在は消えていく。
提督は、過去になった。いや、そうなることを分かった上で、俺たちが過去にしてしまったんだよと、そう言った。
「じゃあ、もうどこにもいないのかと言えばそんなことはないんだ。今も研究所内で厳重に飼われ、脈々と代を重ね受け継がれているんだよ」
長く地域で脅威を振るったその原因を自然界から消し去り、でもその上で保護しているとも言える。
その理由もワタシには分からなかった。
罪滅ぼしのような感覚なのだろうか。
「それはなぜ?」
しかし、返ってきた答えは、そんなロマンチックなものではなく。
どこまでもシステマチックで、どこまでもプラグマチック。
これが、人という種の本質なのかと、そうワタシに思わせた。
「いつかまた、どこかでその病気が発生したときに抗原として使用する。だから本体に全滅してもらっては困るのさ」
人類恐ろしす。
こんな奴らと戦わなくてはならない深海棲艦たちにお悔やみの電報を届けてやりたいぜ!