少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
セイロンティーとか有名。
南西や西方海域でならまだ勝っていたんだよ……。
「対空! 厳に!」
霞の怒声が飛び交う戦場です。
どうも、俺だよ。
ただいまセイロン沖での海戦真っ只中。
深海棲艦の水上艦隊をウチの自慢の水雷部隊が相手取り、その間に龍驤の攻撃隊で港湾棲姫を焼き払うつもりでいたのですが、非常にまずい状況に置かれている。
なんでこっちにいやがるのかなぁ。
大人しくモルディブの方にいてくれよ。
とはいえ、どのみち倒さねばならない相手だ。
ここで倒しておけばモルディブの方は無防備な状態。わかってはいるがキツい。
問題は敵の航空戦力。
敵には3隻も空母さんがいらっしゃる。
知ってますよ、ダブルダブルとうるさいイラストリアス級と鳳翔さんのライバルであるハーミーズだ。
対してこちらは龍驤頼み。そして龍驤の艦載機は陸上攻撃装備になっている。
まさかここで換装作業か? 史実どおりだな、ファック。
間の悪いことに、事前に準備していた基地航空隊はまだ発進できていないようだ。
後方でなにか? 考えたくはないが、思っているより俺たちを邪魔に思う奴らがいるらしい。ファック。
航空隊が到着するまでまだ数時間はかかる。
保たせられるか?
まるで悪夢が形を成して現れたかのようだ。
空が狭いとは、こういったことを言うのだろう。敵の機動部隊から飛び立った航空機が、雲霞の如く空を埋め尽くしている。
西方海域に棲息する主たる深海棲艦はこの艦隊だけ、敵も必死なのだろう。
「前線は任せたわよ、本隊を近付けさせないで」
金剛の艤装の上から海面へと降り立った霞が指示を出し、自らは後方へ下がる。
「時雨、皐月! 座乗艦まで戻って! 対空射撃よ!」
対空射撃には自信がある。しかし、たった3艦でこの量を凌げるのか……。
私たちならなんとでもなる。命さえ繋げれば、私たちは入渠することで直るのだから。
しかし司令官はそうではないのだ。
「ふふん、僕の頭の上を越せると思ったのかい? かわいいね!」
ゆとりがないことは、そのセリフに合わない皐月の表情でわかる。当然だ。
死兵を相手にしてはならないと言うが、正にそのとおりだったと実感している。
皐月と時雨の対空能力に賭けるしか……。
敵艦載機が爆撃コースに入る。
それは数の暴力。とてもじゃないが落としきれない。その一瞬の間に、最悪の結末が頭を過ぎる。
その時だった。空一面に花が咲いたかのように、覆われていた黒い絶望の塊が霧散して晴れ間を覗かせたのだ。火の塊となって脅威だったモノが海へと還っていく。
そうして開かれた新しい空から次々と舞い降りるのは零式戦闘機21型、そのどれもが光り輝くオーラを纏っているように見えたのは願望が見せた幻だろうか。
「援軍? 助かったが、どこの艦隊だ?」
提督が柵から身を乗り出すようにして甲板から確認する。
友軍艦隊の姿は今も見えないが、時を追うごとに増える零式戦闘機で空が塗り替えられていく。
「全艦変針! 最大戦速でこの海域から離脱するわ! 時雨、皐月、アナタたちが先頭よ!」
状況の変わった戦場でいち早く思考を切り替えた霞が指示を出す。
時雨を先頭にした単縦陣。二人のあとに提督の座乗艦、殿には一水戦を配する。
ここまできて潜水艦に沈められてもつまらない。
先頭に時雨と皐月を配置したのはそのためだ。小器用になんでもこなす二人で助かったと思う。
周囲を警戒しながらも、危機を脱したことでようやく張り詰めていた空気が緩む。
「赤の2本、一航戦ね」
空を見上げた霞が言う。
零戦の胴体識別帯は赤色のラインが2本。それが示すのは、太平洋最強の航空艦隊と名高い帝國海軍の虎の子、その一航戦のものだ。
「少し、慢心が過ぎるようですね」
突如繋がった無線から、聞き覚えのある声が届いた。
遠くに薄っすらとその存在を表した姿を見て、時雨が驚きの声を上げる。
「提督の……お姉さん?」
座乗艦からは双眼鏡を手にし、海面を覗き込む提督の姿があった。
見間違うはずもない、そこには見慣れた袴姿の姉が、いつもと同じ表情で海面を滑っていた。
「姉さん?」
「話は後です。まずはこの海域を抜けアンダマンまで戻りましょう」
「加賀が助けてくれたのね、おかげでみんな無事よ、ありがと」
混乱する提督をよそに、雷が横に並び親しげに話しかけた。単艦で航行する彼女を護るため、第一水雷戦隊がそのまま護衛に就くのだろう。
「服に穴が空いちゃったわ、もう少し早く来てくれたらもっと助かったんだけど」
「そう、ごめんなさいね。これでも急いだのだけれど」
「暁ちゃん? 助けてもらったのになんてこと言うんですかー!」
「わ、わかってるわよ。感謝はしてるのよ? ありがとう、なのです」
「阿武隈も無事なようね」
「はい、本当に助かりました。ところでなんで加賀さんがこんなところに?」
「それは戻ってからにしましょう。あの子にも話しておかなければいけないから」
金剛と合流した霞が再び艤装に乗り込み、不思議そうな顔で呟く。
「司令官が姉さんって呼んでたみたいだけど」
「どう言うことなんでしょーネ」
アンダマンの岸につくやタラップを駆け下り、海上から
「姉さん、これはどういう?」
「やっぱり、覚えてはいなかったようね」
眉尻を下げた姉が少し困った風に、でもいつもと変わらない、俺を労る声で言う。
「焦らないで、まずは一息つきましょう」
「姉さんが艦娘だったなんて知らなかった、なぜ隠してたんだ?」
「隠しているつもりはありませんでした、貴方と初めてあったのも作戦行動中でのことでしたし」
「あの空襲……」
「私の手がもう少し早く届いていれば、避けられたものでした」
朧げな記憶が脳裏に浮かぶ。あのとき、姉さんに助けられたのは空襲の後じゃない、空襲の真っ只中で手を引かれたんだ。
『要救助者です。志賀、上空援護を頼みます。追撃は赤城さんがやってくれるはず、制空確保が最優先です』
靄がかかっていたものが晴れるように、あの日の一コマが再生されていく。
今日と同じように肩からは飛行甲板を下げ、右手でしっかりと俺の手を掴んだ反対側の手に和弓を握っていた姿を。
なにかに耐えるような、それでいて強い意志を携えた、そんな顔をしていた。
「でも姉さんが艦娘だったなんて、そんな素振りは……。俺の面倒を見てる間はどうしてたんだ?」
「作戦には参加していました。その合間に時間を見つけて通っていたのよ」
俺を育てながら作戦に出てたのかよ、どんな時間の使い方をすればそれが実現できたのか、見当もつかないぜ。
「なになに、どういうこと? 加賀は司令官のお姉ちゃんなの?」
「Oh! そういえば、カガが戦火に巻き込まれた子供を保護したという話がありましたネ。その子がテートクと言うことデスカ?」
ひとまず全員が無事に帰投できたことを喜ぼう。
そうして集まってきた中で、雷と金剛が姉に声を掛けていた。
「教えてくれても良かったじゃないか」
「勇気が出ませんでした」
そう言うと、姉さんは自分の体を抱くようにして、不安そうに心情を吐露した。
「貴方が軍属になった頃から、艦娘への不信を募らせていたのを知っています。私が艦娘であることを知られて、もし貴方の態度が変わってしまったらと思うと言えなかったのよ。ごめんなさいね」
バカなことだ。
姉は姉なのだ。人間であろうと、艦娘であろうと。なんなら深海棲艦であったとしても問題はない。
『言葉や態度ってやつはな、お前がどう思ってるかは重要じゃない。相手がそれをどう受け取るかだ』
そんな風なことを霞に伝えたのはいつのことだったか。
なんてことはない。ただ俺の言葉が足りず、俺の態度のせいで、姉を不安にさせていただけのことだ。
改めて伝えていこう。俺がどれほどの感謝を貴女に持っているのか。どれだけ大切に、貴女を思っているのか。
「じゃあ横須賀が寄越すって言ってた援軍って」
「私から志願しました。ここは私が来られなかった戦場だから」
それからこう付け加えた。
「今度こそ、役に立ちたいと思ったのよ」
「事実は小説よりもと言いマスが、わからないものデスネ」
「金剛は知ってたのか?」
「カガが子供を保護しているというのは、古い艦の間では有名な話デスからネ」
「司令官は加賀に育てられたのね。そっかー、だから横須賀で遊んだときに話が合わなかったのね」
そういえばそんなこともあった。
北方から横須賀に帰ったときだ。俺たちが佐世保まで足を運ぶ間、姉が残った暁たちを連れて横須賀観光に行ってくれると。
しかし話を聞けば、姉とは合流できなかったと彼女らは言った。
その代わり、昔馴染みの艦娘が案内をしてくれたのだと。
二人は同一人物だったんだな。
ホンマひどい目に合ったわ。なんて言いながら龍驤も無事に帰投した。
帰りがけのオマケのようにトリンコマリーへ爆撃してくるような艦娘がなに言ってんだか。
「おうおう、加賀やないか。こっちまで出張って来るなんて珍しいこともあるもんやね」
「ここには大事な家族がいます。それに六駆の子たちも来ていると聞いたから」
「嘘でもウチがおるからって言わんところがアンタらしいわ」
そうやって軽口を口にする龍驤に姉が言う。
「貴女がいるから、楽をさせてもらえると思ったのよ」
「嬉しいこと言ってくれるなー。ま、基地攻略は任せとき、敵機動部隊は任せてええんやろ?」
「ええ、任せてちょうだい」
今回確認された敵機動部隊には正規空母が2隻と軽空母が1隻いた。それを一人で抑えると、そう言うのだ。
艦娘としての実力はわからないが、姉さんが任せろと言うのなら、任せても大丈夫なのだろう。
彼女は根拠のない希望的観測を口にしない性格だ。
「しかし、キミがあの小さかった子供やとはね。全然気が付かんだわ」
「龍驤は俺と会っているのか?」
「キミが救助された後におうてるよ。後にも先にも、うちの手に噛み付いたんはキミだけやね」
言いながら龍驤が右手を振ってみせる。
なにをやってたんだ幼少期の俺。
相変わらず当時の記憶はほとんどないが、黒歴史なのは間違いないだろう。
「それで、加賀さんにはこのまま手伝ってもらえると考えてもいいのかしら?」
状況を伺っていた霞が実務の話を振る。
基地航空隊が当てにできない戦場に、もう一度今の戦力で出向けと言われても難しい。
その確認だろう。
「ええ、リンガ艦隊の指揮下に組み込んでもらって構わないわ。ここでは貴女が指揮を執っているのよね。よろしくお願いするわ」
姉はそう言ったが、横須賀鎮守府所属の、それも一航戦だ。指揮をするにしたって気をつかうなんてもんじゃない。特に霞にとってはそうだろう。
先の大戦では開戦からずっと、機動部隊に随伴して護衛を務めていたのが阿武隈率いる第十八駆逐隊。そう、それは霞が所属した駆逐隊。
緒戦の快進撃を支えた一航戦の凄まじさを、霞は間近で見てきたはずなのだ。
それでも、彼女の手を借りないなんていう選択肢は見えないので、飲み込むしかないだろうけど。
「補給と休息、それから被弾箇所の確認のために一度休むわ。敵の航空戦力には損害を与えた。明朝から再度仕掛けて、敵艦隊を撃破後に予定通りトリンコマリーを制圧する」
なんだってえええ! 提督のお姉さんは加賀だったのか!?
1話目の夢に続く。
加賀は第一次上海事変で阿武隈と、第二次上海事変時に暁と面識があるので、二人とは太平洋戦争前からの付き合い。
他、山風の初陣もこのときだったりする。
セイロン沖海戦、赤城、蒼龍、飛龍は参加したが、加賀は一回休み。
赤の1本は赤城、青1本が蒼龍、2本は飛龍。