少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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癒しアニメの金字塔。ARIAのタイトルコール風に読んでください。

〜その、花の色は〜

いつぞやに話題を振った腕。



〜その、花の色は〜(前)

この世界は、僕たちが考えるよりずっと、僕にとっては生きづらい。

 

 

 

 

 

 

司令艦だと挨拶した艦娘に案内されて男が入ったリンガの執務室。そこは前線の基地ということもあり、過度な装飾などない実用的な調度品が並ぶ。

 

その中で、一際異彩を放つもの。

 

ソレはまるで日本刀でも飾ってあるかのように。

 

 

 

台座の上には、1本の腕が鎮座していた。

 

 

 

 

男はソレに気が付きギョッとした。

もちろんそんな物が飾られている部屋など今まで見たことがないからだ。

 

リンガの基地司令官。

噂に違わぬイカれた男なのだろうと、そんな風に思う。

 

 

男は内地からリンガの視察にやってきていた大佐の役にあるものだ。

彼は国を憂い、この閉塞感漂う現状を打破したいのだと、熱い思いを胸に秘めている。

そのためにはまず軍を正常な状態に戻す必要があると考えていた。

 

軍は今、正常な状態ではない。そう思っているのだ。

艦娘という存在が現れ、人類の代わりに海で戦うようになった。

戦いは人類から艦娘へとその配役を変えたのだ。

しかし、今はその過渡期であるのだと思う。

まるで戦場を奪われたように感じている軍組織。艦娘という装備を扱いかね、その接し方や対応がうまくない。

戦車のように、ミサイルのように、正に軍艦のように。

正しい付き合い方を模索し、正しく事に当たる。

そのために艦娘を知ろうと心を砕いてきた。

 

 

そして彼は思う。

隣人と接するように、同僚と接するように、なぜ軍は、そして人類は彼女たちに接していないのか。

彼女たちと友好的な関係を築くのは間違った選択ではない。

そこに配慮して、そして、戦力は正しく配置されて初めて組織は機能するのだと。

 

 

そうして問題点を考えると、浮き彫りになるのはここリンガ泊地のように、まるで艦娘を私物化するかのように運用する一部の基地司令官の存在だ。

国を、そして民を思うのであれば、この一極集中とも言える現状が良い状態ではないことなど、理解して然るべき。にも関わらずそれをしないのは、艦娘を使って自らの戦果を誇りたい、そんな自尊心とも呼べる自分勝手な考えによるものだと思う。

 

特に、ここの艦隊だ。

戦争のキーとして、数々の作戦を行いそれを成功させてきた。

確かに彼の功績は計り知れないものだが、それらは全て、彼と彼の艦隊で行わねばならぬものだったのか、その疑問に残る。

彼の出世のために艦娘が使われているのであれば、速やかにそれは正されなくてはならない。彼の年齢で、少佐の地位にあることこそ、その証明なのだろう。

 

 

 

「お待たせしてしまい申し訳ありません」

 

執務室で待っていると、基地司令官が秘書艦を連れて入ってきた。

 

さて、その化けの皮を見せるがいい。

そう静かに闘志を(たぎ)らせた。

 

 

挨拶のあと、当たり障りのない確認作業がしばらくあり、話題は立て続けに行われている作戦とその戦果についてに差し掛かった。

ここで問い掛けなければいけない。

彼は、果たして艦娘の私物化のような状況をどう考えているのか。

 

 

「艦娘を独占でもしようとしているのではないか?」

 

 

彼は挨拶のときから変わらぬ表情と声色で、なんでもないことのようにこう返す。

 

「海域の維持に必要な人員ですよ。ここは日本の生命線ですからね。それに、全員がウチに所属しているわけじゃない。海域全体で持っている戦力ですから」

 

 

「それは詭弁だ。現に君がその気になれば、集めたその戦力でなにができる? それは一国の戦力に比するものではないのかね?」

 

「人類の敵と戦っている私たちが? 人間相手によからぬことを考えているとでも?」

 

そうだ。

組織の中で出世するために。それに使われるだけならまだいい。

艦娘は現代最強の戦力にもなり得るのだ。

この偏った戦力分布は、やもすれば国家転覆など、大きな問題を孕むのではと、この男を見て思った。

 

「軍が戦力の再編を望んだら、君は素直に応じるのか? 国家がそれの返還を求めたら?」

 

 

 

「その場合、間違っているのは軍であり国家でしょう。現に人類の版図は大きく広がり世界は平和への道を一歩進んだのです。ご心配なさらず、世界の平和という結果だけなら差し上げますよ」

 

いけしゃあしゃあとそう言った基地司令官。

この男は危険であると判断する。

国家や組織よりも、自分のほうが正しいとでも言いたげな不遜な考えが垣間見える。

内地の軍人や国民は誰もこの姿を知らず、まるで人類の救いの手だとでも言う論調でこの男を話す者までいる始末だ。

 

 

「やはり、そんな物を飾るような感性だ。貴様はどこかおかしい」

 

 

この男の元に多くの艦娘を預けるわけにはいかない。そのことに確信がいった。

艦娘を自分の持ち物のように、自身の手足のように扱う、それはここに飾られている腕を見るだけで分かりそうなものだ。

 

すると今まで表情一つ変えずに応対していた男が、まるで失望したかのように目を伏せ、嘆息と一緒に言ったのだ。

 

 

 

「当事者の前でそんな物呼ばわりする貴方も、なかなか配慮に欠ける御仁だと思いますがね」

 

 

 

そして続け様に口を開いたのは霞。

「ワタシの腕よ」

 

 

 

ソレが腕であることは確かに認識していたが、『誰の』というところまでは意識が及ばなかったのだ。

艦娘と共に(くつわ)を並べたことがなく、知識としてしか艦娘を知らない男にとっては、それでも仕方のないことだろう。

 

 

 

「ワタシたちは国を、人を護るために命を懸けて戦っているわ。あの腕はその代償に落とした物なの」

 

腕の持ち主である少女が言う。

 

 

「私たちの身代わりとなって戦う戦争の当事者です。それを指して、まさか気持ち悪いなどとは言いますまいな」

 

その指揮を執る男が言う。

 

 

 

内地から来た男は少し狼狽(ろうばい)したようだった。

 

当事者の前でとんだ失言だ。

艦娘たちへの感謝と畏敬の念を忘れたことなどない。

彼女らと手を取り合い、この困難を打破したいと、そう常々思っていたのは嘘ではない。

 

だけどまさか、飾られた腕の当事者が目の前に立っているとは……。

 

 

 

「時雨、お客様を宿舎へ。前線の基地を視察なさるそうだ。自由に見てもらおう」

 

 

 

 

 

 

二人が退室した後の執務室で、呆れながらも霞が言った。

 

「まさか、こうやって引っ掛けてやろうと考えて飾ってたの?」

「こんな風に役に立つとは思ってなかったけどね。いゃあ、仕込んでおくべきだね」

 

 

普段はメモスタンド代わりに使われていたりもする霞の右腕。

持ち主でもある当人が、まさか「気持ち悪い」と飾るのを拒否していたことなど、あの男には分かるまい。

 

 

「彼も災難ね、あんなのが飾られてたら、そりゃそれを飾るアンタの神経を疑う発言くらいするわよ」

「まさか当事者がその場にいるとは思わないよな」

 

悪戯の成功した子供のように答える提督。

彼の評したとおり、やはりマトモとは言えないだろう。

 

 

 

男は時雨に案内されて、1日かけて基地内を見て回った。

そして、一通りの案内が終わると、彼は自分の考えを時雨に告げた。

 

 

「まだ検討の段階ではあるが、私はここの艦隊に高練度の水雷戦隊が集中し過ぎなのではないかと思っている。よほど横須賀のお偉方にコネでも持っているのかもしれんが、基地司令官の階級に相応しいとも思えない」

 

まず感じたのは練度の高さだ。

陸海での訓練という、他の基地では考えられないことをしていたリンガの艦娘たち。

参加した作戦の資料を読んでも、その実力に疑う余地はない。

そして佐世保サバイバーたちの存在。彼の目には、佐世保を生き残れるほどの戦力をあの男が独占しているようにも見えた。

そして、極め付けは阿武隈ら第一水雷戦隊だ。横須賀に強力なコネを持っていると判断するに足る証であると思った。

 

面白くないのは時雨だ。

特に後半の提督批判とも言えるその評が、率直に言って面白くない。彼は静かに時雨の地雷を踏んだ。

「それはどういうことかな?」

 

 

「海軍はこの基地だけではない。戦力は適所に配置されて初めて効力を発揮するものだ、特に秘書艦である君や、あの霞という艦娘は多大な戦果を挙げている殊勲艦。活躍の場は他にもある」

 

 

 

「今回の視察が終われば、この基地所属の艦娘の異動について提案するつもりでいる」

「この泊地は護国の要だよ、戦力を割くわけにはいかない」

 

「幸いこの南西海域に直近の脅威はない。戦力の過集中だ」

「それを成したのが僕たちだよ。それに、もしもに備えるのが軍事だと聞いている」

 

当事者である艦娘、少なくとも秘書艦であるこの娘はここを離れたがってはいない様子だ。

秘書艦としての発言か、個人でもそう思っているのかは分からないが、軍属であれば理解もしてもらえるはずだ。

 

 

「もちろんだ。ならばこそ、リンガに脅威が及ばないよう周辺の海域に戦力を配置し、より多くの海域を解放する必要がある」

「それも、僕たちがやろうとしていることだよ」

 

「君たちだけで支える必要はない、もっと海軍を頼り、広い視野で行えばいいんだ。私たちにも、その手助けをさせてほしい」

 

男にあるのは少女の(なり)をした彼女らへの心配だった。

人類は彼女たちに戦争を任せっきり。それは否定できない事実ではある。

しかし、彼女たちにそこまでの責任を負わせて、それは正しいのか? と。

 

彼女たちがその実力を万全に発揮できる環境。それを正しく作っていくのが、人類に課せられた義務であり、軍人の責務なのだと信じている。

 

 

 

案内の感謝を告げた男の背中を見送る時雨の視線は、西洋人形の、まるでガラス玉でできた瞳のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

視察を終えた大佐が本土へと帰還する。

見送りには時雨と、司令艦として霞の姿があった。

「これ、よかったら受け取ってくれないかな」

機内へ消えようとする大佐に時雨が花束を渡す。

 

「女性から花をプレゼントされるとは、嬉しいものだ。だが普通は逆じゃないかな」

男の発言に、時雨は笑顔を返答に変えた。

 

「カーネションかね?」

花には詳しくなさそうだがカーネーションくらいはわかったらしい。

 

「カーネションの花言葉は名声。あなたにぴったりだ」

 

 

「うむ、花などと思っていたが、キレイなものだ。また色がいいな」

「男性に贈るのに赤色っていうのも気が引けてね、この南方の抜けるように青い空、それから青い海に映える色を選んでみたんだよ」

 

 

「ありがとう。君の思いに応えられるように一層の努力を惜しむまい」

 

 

機内に入ってから、大佐は今回の視察で見聞きしたことを反芻していた。それからふと贈られた花を見て思う。

 

「女性ならでは、か」

もう少し反発があるかとも思ったが、戦力の一過集中に対する自分の考えに理解を示してくれたようだ。

 

「悪くない」

花を贈られるというのは、存外嬉しいものだった。

提督との絆よりも利に走る秘書艦に対しては思うところがないでもないが、情勢を見極め自分という武器を躊躇(ためらい)なく使えるその姿勢は頼もしくさえ思え、なにより、それらをわかってなお、胸が躍る思いを持った。

 

 

「確か、呉とは気不味い関係だったな。彼女の活躍できる場所は、少し慎重に検討する必要があるか」

鼻持ちならないあの若造が、彼女を秘書艦として重宝しているのも納得だ。

 

 

 

 

陸攻が飛び立つのを見送る二人。

「花を用意してるだなんて聞いてなかったけど?」

冷たい視線を浴びせながら霞が言った。

幾分に非難の声色が混じっていたが、返答する時雨は悪びれもせず言う。

「うん、言ってなかったからね」

 

「なにか考えがあってのことなのかしら?」

「いや、ただの僕の気持ちだよ」

真意を推し量ろうとする霞に対しても、変わらぬ調子で答える。

 

「まさか本気で名声を贈りたいと?」

途端に霞の表情が厳しくなった。返答次第では、とでも言いたげな剣呑とした空気だ。

 

「まさか」

相変わらず涼しい顔で笑っている時雨を見る限り、大佐に対して特別良い感情を持っているわけではなさそうだが。

 

 

「花言葉はね、その色によって意味が変わるんだよ」

「ふーん。花言葉ね、アンタも変なこと知ってるのね」

「一応女の子として育ててもらっているからね」

 

一般的なソレとは随分と違うが、それでも提督から、蝶よ花よと大切に育てられているという自負はある。

 

 

 

「で、なんて意味なの?」

「それはご想像にお任せするよ」

 

それっきり質問はかわされた。

こうなってしまっては、何をしたところで時雨が口を割ることはない。長いともいえない付き合いだが、それはもう十分に理解できているので、それきり彼女から直接聞くというのは諦めた。

 

 

 

さて、借りを作ることにはなるが、横須賀の中将や鳳翔、金剛の持つ各基地へのパイプを総動員してでも、今回の話は潰しておかなければならない。

司令官の、そしてワタシの目的を果たすためにはこの艦隊が必要なのだ。その艦隊から、自分が遠ざけられるなんて笑えない話に、はいそうですかと簡単に頷けるわけがない。

まずは考えられる限りの策を準備し、司令官に相談でもしようか。

 




彼は艦娘を見誤っていたんだね。
後半は時雨パート。

花言葉は時雨にピッタリ()。
明日投稿の後半で……微妙に解答しまっス。


時雨メモ
姉や村雨、夕立よりも大きい(と自分では思っている)お尻と太ももを気にしている。
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