少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
県外で「どこから来られたんです?」と問われたときに、県名で返答しない民族を独断と偏見で発表するコーナー。
横浜、名古屋、神戸、仙台、金沢。
だからと言って、特に意味はない。
「墜ちた?」
執務室に知らせられた急報は俄かに信じ難い内容だった。
「申し訳ございません。部下が機内で大佐殿を掴み、なんとか一緒に脱出しようと試みたのですが、投げ出されてしまい……」
自身の命も危ない中、やるだけのことはやってくれたのだろう。落下中の機内で、人ひとりを救出するなど狙ってできるはずもない。
「君に責はない。ほかの人員はどうか?」
「はっ、同乗していた整備兵の一人が大佐の救出を試みた際に骨折したようですが、無事に合流できております。ほか大佐を含め本土より同行した兵は行方不明です」
同じく無線を聞いていた霞が早々に指示を出す。
「捜索救難隊を編成して向かわせるわ。アナタたちは自分の安全に留意しながら周辺探索、無理はしなくていいわ」
「それなら僕が行くよ」
時雨が直接出向くとは思わなかったので戸惑いを覚える。
「ちょうどこの後、川内さんと白露に海上訓練を付き合ってもらう予定になってるんだ。二人とももう桟橋で待機している時間だから、今から出航準備をさせるよりは早く出られると思う」
緊急出動ではあっても、スクランブルを行う航空機ではない。艦はすぐに出航するというわけにはいかないのだ。
秘書艦を捜索救難に出す。そのことに思うこともあったが、今は時間が惜しい。
当人からの申し出と言うこともあり、ここは素直にお願いすることにしよう。
「こんなことを頼んじゃって悪いわね、ならお願いできるかしら」
「もちろんだよ、僕だって艦隊所属の駆逐艦だからね」
桟橋では二人がすでに準備を整え時雨の抜錨を待っていた。
「待たせてしまったね、行こうか」
「目的地は予定通りでいいのかな?」
川内が確認に声を掛けるが、すぐに無表情の時雨に視線で制された。
「どこに耳があるかわからない。滅多なことは言わないでほしいな」
小さな輸送船を曳航しながら海上を疾走する三人。十分に沖に出てから改めて時雨が声をかける。
「迷惑をかけてゴメンよ、僕には私兵がいないからね。二人にしか頼めなかったんだ」
「今さら何言ってるのさ、私の仕事は元々そんなだよ」
気にするなと言うように川内は笑ってみせる。
白露は肩をすくめてみせただけで何も言わない。内心では蔑んでいるのかもしれないが、それでも。彼女は僕のお願いならこれからも、やっぱり何も言わないまま手伝ってくれるのだと思う。
「秘書艦? なぜこのような場所に」
「僕だって艦隊に所属する艦娘の一人だよ、基地のみんなが事故にあったと聞けば救援に駆けつけるくらいのことはするよ」
迎えのメンバーに時雨がいることを確認し、手近な島まで退避していた男たちが驚いているようだ。
続いて川内が声をかける。
「遅くなったね、全員無事?」
「はい、腕を骨折した者が一人おりますが、それ以外は無事です。ただ、大佐とお付きの兵が二人、行方不明のままです」
先任らしき男が現状を報告する。
「申し訳のしようもありません」
「基地所属の君たちなら、あえて説明する必要もないとは思うけど」
と、そこで一旦区切りそれから時雨が言う。
「秘書艦である僕の声は提督の声だと思って聞いてほしい」
固唾を飲んで傾聴する。罵詈雑言を浴びせられても仕方がない状況だと男たちは覚悟した。
しかし時雨の口から発せられたのは、そういった類のものではなかった。
「君たちだけでも無事でよかった。不幸な事故ではあったけど、この状況から一人の欠員もなく基地に帰投できる君たちリンガ所属軍人の練度に、敬意を表したいと思うよ」
「し、しかし、本土の要人を乗せた航空機の墜落ともなると」
「僕たちはそれほど器の大きな組織じゃないからね、どちらかと言えばロクデナシの艦隊だ。身内の無事を喜ぶくらいしかできないよ。アチラとのことは提督が話をつける事柄だし、アチラさんだって事故の責任を殊更に追求したりはしないさ」
「それじゃあもう少し辺りを捜してみようか。時雨、怪我人のほうは任せたよ、付き添いよろしく」
現場の指揮を執る川内が、そう指示を出す。
「うん、船の警護は僕がするね」
「時雨さん。どうぞ部下をよろしくお願いします」
曳航してきた船まで負傷した男に肩を貸し、時雨が声を掛ける。
「迷惑をかけたね」
「いえ」
「腕は大丈夫かい?」
「大佐と同じタイミングで機外に出る際に引っ掛けてしまったようですが、問題ありません」
彼には迷惑を掛けてしまった。
申し訳ないのは自分のほうだと思う。
しかし、まずは確認しておかなければならないことがあった。
「それで、彼は?」
「そちらも、問題ありません」
時雨が一息吐いたのが分かった。
「他の人たちは?」
「一人の死亡は確認しております。もう一人は行方不明ですが、落下傘を使用したところは見ておりませんので、恐らくすでに死んでいるものと思われます」
「うん、わかった。そちらに関しては生きていてくれても問題はないしね」
それじゃあ僕は警戒にあたるよと言い船外に降りる時雨。
背中を向けたままではあったが、本心から、思いの丈を彼に告げた。
「本当に、僕のお願いを聞いてくれてありがとう」
「艦隊のために必要なことです」
船内に一人残る男がそう呟いた。
徒労に終わることがわかっている捜索救難。
それが終わってから、一行は基地への航路をとる。
後ろを振り向いた時雨は、遠くの景色を眺めたまま。なんの感情も乗せない色で呟いた。
「次は献花を贈らせてもらうよ」
花にはトゲがあるものだ。
刺さると抜けない、そんな本当に危ないトゲをその身に隠すのは、霞よりも時雨だよね。
この花の花言葉は、まるで時雨のためにあるような、そんな言葉。
「You have disappointed me」
内地の大佐の勘違いは、艦娘と提督の絆の重さ。
彼女たちはどこでなにと戦うだとか、自身の環境がどうだよりも重視することがある。
誰と戦うかだ。