少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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横須賀にて2

秘書の女性を先頭に時雨と山崎が部屋を出る。

「さっきは失礼な態度を取ってしまって……」

廊下に出たところで時雨が頭を下げるが、最後まで言い終わらないうちに、サイドテールの女性が手で制す。

「いいのよ、こちらこそ驚かせてしまったわ。ごめんなさいね、感情を表すのがどうにも苦手みたいで」

 

 

 

「どうぞ」

そう言って通されたのは中将の部屋から3つばかり離れた簡素な部屋。

「私の執務室だけど、友人が訪ねてきたときにしか使っていないわね」

 

「姉さん、と呼んでいたけど」

「血は繋がっていないわ」

話のとっかかりを、そう思い、まずは疑問をぶつけてみたが、返答がそっけない。

怒っているわけではないんだよね? 室内に促されてから、めげずにもう一度口を開く。

 

「あの、提督が無礼な口を……」

「それも気にしなくていいわ、アレで甘えているのよ」

今度は中将に対する提督の口調を謝罪しようとしたが、こちらも途中で遮られる。

本当に、怒っているわけではないんだよね?

 

 

「あなたたちには感謝しているのよ」

自分の態度が思わぬ誤解を招いていると気付いたのか、慌てて彼女が口を開いた。

 

「あの子はもう少し頑なで、冷たいところがあったから」

「提督は最初から優しかったよ」

それを聞くと、ほんのわずかだが表情を緩めた気がした。

ああ良かった。この人は、言っていたとおりに感情を出すのが苦手なだけなんだなと思った。

 

「あの子があなたたちを連れてきたのも、きっと自慢したかったからでしょうね」

 

 

装飾の類がない質素で堅実な室内は彼女という人柄を表しているかのようだった。言葉を飾らない彼女は、やもすれば誤解されるかもしれないが、素直に好ましいと思えた。

 

「あの子を助けてくれたこと、感謝しています」

改まった女性がそう言って頭を下げる。

 

「私、席を外しましょうか?」

空気を読んだのか山崎がそう言うが、それはすぐさま彼女が断る。

「いえ、遠慮しないで居てちょうだい。あの子が連れてきた客人だもの、無礼を働いては後で怒られてしまうわ」

 

なんとなく微妙な空気が漂うが、全員がイスに腰掛けるのを見計らうと、提督の姉だという女性は「少し話をしましょうか」と話始めた。

 

 

「あの子と初めて会ったのは、もう随分昔のことになるわ。あの子は戦災孤児でね、まだ子供だったから誰か大人の庇護が必要だった。こんな時勢だからそれは珍しいわけでもないのだけれど、中将の協力もあって私があの子を引き取ることになったわ」

 

そう語る彼女の目はどこか遠くを見ているかのようだ。きっと当時のことを思い出しているのだろう。

 

「それからは大変だったわね、仕事の傍らで必死に子育てをしたわ。私はこの通り、感情を表に出すことが苦手で、人付き合いも得意ではなかったから。初めての連続だった」

中でも、近所のママさんたちに話しかけようとして、何度も作戦を失敗させたことが大変だったと言う。

あ、かわいい人なんだなと二人は思った。

 

 

「最初は全然懐いてはくれなかった、子育ては戦争だったわね。同じ戦争なら、深海棲艦と戦うほうがよほど自分に向いているとも思ったわ。でも、あの子と過ごすうちに私にも少しずつ変化があった。あの子と過ごした時間は私にとってとても大切な時間になった」

大切な物を胸に抱くように、目を閉じた彼女は言った。

本当の姉ではないと彼女は言うが、彼女は姉であり母であり、提督はこの人から沢山の愛を与えられて育てられたのだろうと感じた。

 

 

「あの子と過ごす時間を捻出するために、中将も尽力してくれたわ。彼、とても悔やんでいたのよ」

「悔やんでいた?」

 

「あの子とうまく関係を築けなかった。だから、あの子が軍学校を卒業した際に、横須賀を出て佐世保に着任することを選んだのだと。あの子の席次ならここに着任することになっても特段おかしくはないのだけれど、あの子はそうしなかったのよ」

「それは、単に家族と一緒の職場が恥ずかしかっただけではないですか?」

居た堪れない顔をする彼女を見かねて、山崎がそうフォローする。

 

「えぇ、そうなのかもしれません。でも、結果がこれよ。あの子の所在がわからないと報告があったときの彼は見ていられなかったわ。すぐに現地に飛ぶと言って大暴れ。私にとってもそうね、目の前が真っ暗になって、奈落の底に落ちてしまったのかと思いました」

「でも、提督は無事だったよ。ちゃんと帰ってきた」

「貴女たちには本当に感謝しています。貴女たちが居なかったらと思うと、私は」

慰めるように言う時雨の手を握り、彼女は縋り付くように、再度お礼を言った。

彼女は信頼できる。彼女はなにがあっても提督の味方となるだろう。感情をなかなか表に出さない彼女の、漏れ出た感情。

これが演技なのだとしたら、もう騙されても構わないとさえ思えた。

 

「それで、司令を横須賀に呼び戻したと?」

「呉で責任を取らされそうになっていると、旧知の者から伝え聞いたのよ。あの子の希望から、中将や私との関係を知る者は限られているの。それが裏目に出たのね」

親の七光りで目立つのを避けた。わかる話だが、きっと中将は、それも提督とうまく関係を作れていないと思わせる理由になったのだろう。

中将が、まるで僕のご機嫌を取るかのような態度だったことにも得心がいった。彼は豪快で、でも繊細で、そして不器用なのだと思う。

 

 

「後は知ってのとおりよ。なり振りなんて構ってられなかった。同じ査問を受けるにしても、ここで受けさせてあげたい。とにかく一刻も早く、あの子の無事をこの目で確認したかったのよ」

「思ってた以上に混み合った事情ですね……」

横須賀に付き添いをしただけ。そのはずだった山崎は、こうして盛大に巻き込まれた。

彼は提督以上に巻き込まれ体質なのかもしれない。

 

「少し話しすぎてしまいました。そろそろいい頃合いね、戻りましょうか」

あまり二人きりにしておくと間が保たないようで、あとでそれぞれから泣きつかれるのだそうだ。

 

中将の部屋に戻る途中で、時雨はつい心配事の確認をする。

「提督は、大丈夫だよね」

「もちろんよ、なにがあってもあの子のことは私が守ります」

 

 

 

 

「そこで、問題になってくるのは山崎くんか」

部屋に戻ると、さっそく中将がそう切り出した。なんの心の準備もしていなかったのにこれだ。ならばなぜ自分の居る場でこんな話をしたのかと、ちょっと恨めしい気持ちにもなったが、考え直してみると呉からはこちらの状況が見えていない。

なにかに勘付いたのかどうかもわからない提督を処断しようとしたくらいだ、同じことを自分にしないとも限らない。

 

「私、やっかいな話に巻き込まれてますか?」

「このまま呉に帰すと、どんな結末が待ってるかわからん」

 

やっぱりそうだ、この人たちはそれがわかっているからこそ巻き込んだのだと思う。むしろこれは、自分を守るためなのかもしれない。

このくらいの見透す力がなければ戦争なんてできないんだろうなと、ちょっと遠いことを考えた。

 

「しばらくここに置いてやってくれ」

提督が中将にそう言ってくれた。自分の考えが間違っていないことに確信を持つ。

ああ、上官に持つならやっぱり提督のような人がいいなぁ。改めてそう思う。

 

「お前の処分も決まっておらん状況では仕方あるまいな、横須賀で面倒をみよう」

 

それから秘書の女性に指示を出す。

横須賀で面倒を見ると言っても自分は呉鎮守府所属の軍人だ。どんな方法を使えば呉に帰らないまま横須賀に籍を移せるのか検討もつかない。

「早速頼めるか?」

「わかりました。山崎さん、私と一緒に来てください」

「多少強引でも構わんぞ」

「なにが始まるんです?」

見るからに有能そうな二人だから、心配はいらないと思うが、彼らの言う強引さが少し怖かった。

 

 

二人が出て行ってしまい、部屋には中将と提督、時雨だけが残される。

「お前も久しぶりに帰って来たんだ、今日は家に帰ったらどうだ?」

「明日は査問会だろ?」

「昼までに戻ってきてくれたら構わんよ、いつまでかかるかわからんことだ。そうなれば行動に制限もつくだろう、今のうちに気を休めておけ。外泊許可は届けておいてやる」

 

「いや、止めておくよ。今日くらいは時雨と一緒に居てやりたい」

佐世保以来、ずっと離ればなれだったしな。命の危険がなくなった今は時雨とゆっくり過ごしたい。ありがたい話だったが、そう思って外泊の話は断る。隣で時雨がちょっと嬉しそうにして俯いたようだ、なら考えは間違ってないだろう。

 

「なんだったら二人分の外泊許可を取るが?」

このじじいは俺と時雨をどうしたいのか。そっちも丁重に断っておく。今度は時雨が微妙に残念そうな顔をした気もするが、気付かないフリをしておかないと危なそうだ。

 

「ならばせめて、両親にくらいは無事を知らせておけ。外出許可は二人分で取っておく。ほれ、すぐに行け」

こうして俺と時雨は部屋を追い出されることとなった。




山崎さんはお姉ちゃんに暴行を働いた罪で横須賀勾留。
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