少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
そんな話もあったのだがバッサリ削ってみた。
なぜ彼女がリンガの艦隊に泣きついたのか、それは姉が……。
カナリ初期に作った話。
ある意味この話に合わせるために、あとから登場人物を仲間に迎える話を作るはめになったり。
評価上がって嬉しい記念に。
ガスタービン独特のエンジン音が木霊する。
今夜は雲が多く、月を覆っているので突入にはもってこいの状況だ。
ローターを回し待機しているUH-60のデッキに腰掛けながら、妖精さんたちと一緒に装備品のチェックをしているのは鈴谷。
ナイトビジョンゴーグルを首にかけ、黒いニットにタクティカルベスト、カーゴパンツにブーツといった夜に溶け込む姿。スタイルの良い鈴谷にぴったりと張り付くスリムなニットと、大き過ぎず、かといってタイト過ぎない絶妙なボトムが良く似合う。これからヘリボーンする姿にしては、少しお洒落過ぎるくらいだ。
ステアーAUGを傍らに置き、肩に付けた無線機の位置を整える姿は、いつものノリの良い鈴谷ではなく、話しかけるのを躊躇わさせるプロフェッショナルの横顔をしていた。
「これが、この艦隊のもう一つの姿……」
そう呟いたのは能代だ。
ここは、艦娘がそれぞれ好き勝手に趣味に打ち込み、笑い声の絶えない牧歌的な艦隊だと聞いていたが、なるほど。
海域最深部で戦果を叩き出す海軍きっての武闘派艦隊というのも納得できる話。
噂にすぎないかと思っていたが、対人戦闘訓練が日常的に行われており、陸上でも高い能力を発揮するというのも嘘ではなさそうだ。
もっとも、そのおかげで大本営からはマークされているという話だが、きっとそんなものを歯牙にも掛けないだけの強さを持っているのだろう。
海に目を向けると、一時期パートナーとして行動を共にしたことがある島風が待機している。
高速艦としての速力を活かし、今回の作戦では前衛哨戒を行うことになっていたはずだが、重雷装を誇る彼女の運用方法としては正しくない気もする。
少し距離があるため声は聞こえないが、どうやら島風が背負う魚雷発射管に、背の低い駆逐艦娘が跨り身振りを交えながらなにやら文句を言っているようだ。
今まで参加してきた作戦とはまったく違う奇想天外な運用に眩暈を覚えつつ、しかし、このチームであれば、基地に監禁された私の司令官救出も成し得るのではないか。そう期待させるだけの感触をしっかりと実感できた。
結局誰にも話しかけられずにいると、バインダーを手に近づいてきた伊勢に声を掛けられた。
「さ、そろそろ出発よ。能代さんは阿武隈の救出班と一緒に行くのよね? 無茶はしないようにね」と島風の少し後ろにいる集団を指し、ヘリに乗り込んでいった。
指された方を見ると、周りの子たちより頭一つ高い艦娘が手を振っている。
慌てて集団に駆けていくと、駆逐艦の子達が挨拶をしてくれた。
「よろしくお願いしますー。私が救出班班長の阿武隈です」
「特型駆逐艦の響だよ。こっちが雷で、そっちが電。あそこで島風に噛み付いてるのが暁。この五人で君の司令官の救出を担当するよ」
緊張している能代をよそに、妙に甲高い声で挨拶された。なんだか頼りなさそうな班長さんだなと思う。こちらの銀髪の子のほうがよほどしっかりしてそうだ。
救出班は駆逐艦で占められており、不安はあったが、全員が艦隊の古参であり、屋内戦、特に護衛任務は本職なので任せてほしいと言われた。
それぞれ手には小火器を持っているが、突入の邪魔になる主砲や魚雷は装備していないようだ。私たち艦娘にとって、対人兵器は縁遠い。
「武器がないのが不安かい? 良ければサイドアームを貸すよ」
彼女たちの携える武器を不安気に覗き見していると、その視線に気が付いた響が腰から拳銃を抜き、グリップ部をこちらに向けて差し出してきた。一緒に見たことのない妖精さんもくっついているが、艤装以外にも妖精さんがいるのだろうか?
「私物だからできれば無くさないでほしい」
グラッチと呼ばれるそれを恐るおそる受け取る。初めて手にする拳銃の質感は、思ったよりも艤装に似ていると思った。
「おっと」
手にした拳銃をいきなり上から握られ、逸らされた。
「撃つ瞬間までトリガーに指をかけてはいけない」
指摘され、慌てて指を伸ばす。
「銃を撃った経験はありますかー?」
「いえ、持ったのも初めてです」
阿武隈の問いに素直に応える。
「撃つときは両手で構えて、このセーフティを外して使う。繰り返すけど、それまでトリガーに指はかけないこと」
響が簡単なレクチャーをしてくれたが、最後に一言付け加えた。
「いざというときの護身用だね。まあ撃つ機会はないと思うから、発砲しないことをお勧めするよ」
砲撃に比べ、拳銃は至近距離で対象を殺傷する。しかも今回は人間や艦娘を相手にするのだ。そういった撃つことへの覚悟を問われているのかと思ったが、どうやら単純に自身の太ももを撃ち抜くことへの心配のようだった。
「狙ってもなかなか当たらないけど、なぜか自分の足にはよく当たる」
突然、後ろから怒気を含んだ声が飛んできた。
「さぁ行くわよ! 気を抜かないでよね!」
指示を飛ばしたのは霞。
私でも知っている、海軍指折りの武勲を持ち鬼金剛とまで呼ばれる戦艦。その艤装の上に立ち、眉間に皺を寄せた駆逐艦娘。
普通の艦隊であれば、駆逐艦の子が命令口調で指示を出すなど考えられないことだが、乗せている金剛は気分を害した風でもなく出発を待っている。
「島風、先行し過ぎるんじゃないわよ」
「はーい、行きまーす。ちゃんと着いてきてよ」
肩口から顔を覗かせている暁に、それじゃあ振り落とされないでと告げ、暁の手が島風の肩を掴んだのを確認するとゆっくりと進み出した。
次いで阿武隈たちに周りを囲まれるようにして能代が続き、後ろから霞を艤装に乗せたままの金剛が着いてくる。
夜の海を行くのには不安があった。普段なら気にもならないことではあるが、今回は被弾が酷ければ撤退すれば良いという作戦ではなく、絶対に失敗できない作戦なのだ。
そして、自分も含め救出班は誰一人艦隊戦の武装を持っていないのである。
隣を航行する響に、小声で不安を告げた。
「暁は目がいいからね。ああやって索敵させておけばこの海域での事故は有り得ない」
と返答があった。
あの暁という子は艦隊随一の索敵能力を持ち、彼女を中心とした一定の範囲内であれば空、水上、海の中を問わず全ての空間を把握する暁領域なる特殊技能を持っているとのことだ。
俄かに信じ難いが、本当であるなら心強い。しかし、駆逐艦の背中にしがみつき、外洋の荒波に揉まれる姿を見るとあまり安心はできそうにない。
「魚雷発射管にクッション乗せてたけど、あんまり役には立ってなさそうね」
後ろから雷が呆れたように呟いた。緊張を解そうと気を使ってくれているのがわかったが、ぎこちない笑みを浮かべるので精一杯だ。
それに、と響が続ける。
「もし深海棲艦と接敵した場合は金剛がなんとかするから心配は要らないよ」
そう言って少し遅れて後方を航行している霞を乗せた金剛を指差す。
各々が自分の役割を全うすることに全力を注ぎ、足らないものはチームが補うと暗に言っているように聞こえる。それだけでいかに仲間を信頼しているのかが伝わるが、いかに大戦艦と言えど深海棲艦相手に1隻だけではという不安はある。
「うん? 霞も居るから二人だね。海域最深部に行くわけでもないし、近海のはぐれ艦程度ならお釣りがでるくらいさ」
聞くに、救出班の全員が深海棲艦の心配を毛ほどもしていないようだ。
「私たちの戦場は突入後の屋内だからね。ま、この雷様にドーンと任せてよ!」
「こちら暁。指定のポイントに到着したわよ。目標はこちらに気付いてないみたい。静かなもんよ」
報告と共に暁の不満の声が聞こえる。
「もっと静かに航行してちょうだい、乗り心地が悪いったらないわよ」
無線からは島風の「おぅ?」と言う困り声が漏れた。
「乗り心地はよくなかったみたいですネー」
しばらく海上で待機していると、後続の金剛が追いつき能代に声を掛ける。
親しみやすい声で緊張をほぐそうとしてくれているのはわかったが、噂に聞こえる鬼金剛を前にして緊張を解けというのは少し難しことだと思った。
その試みがあまりうまくいっていないと判断したのか、金剛の艤装に座った霞が淡々と指示を出し状況を進める。
「ほら、所定の位置につきなさいな。いい? まずは私たちが陽動のために攻撃を仕掛けるから」
〜噂の艦隊へ〜よりも前に投稿してもよかったかもしれないね。