少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
「〜追憶、あの日〜」みたいに、「佐世保のことを思い出している風」にして本編内で語れたら素敵なんだろうが、ZA SE TSU !
さて、生きると決めたからにはそのための努力をしなくてはな。
海上では変わらず砲撃の音が響いている。燃え盛る空を見て、生き残るためのパズルを組み立てていく。
最悪、二人で生き残るだけならこのまま基地を放棄し、陸路を行けば命は助かるだろう。
その場合、自分は敵前逃亡から銃殺刑というコンボを喰らうかもしれないが、ここに居るだけよりよほど生存確率が高い。
特に、今は有事だ。戦場となった今の佐世保なら戦闘中行方不明、いわゆるMIAとして処理してくれる可能性も十分にある。
しかしその場合、自分は軍に戻れない。今後の生活に大きな支障をきたすことは目に見えているし、なにより彼女がそれに同意してくれるかがわからない。
やはり搦め手ではなく、正規の方法での生き残りを模索するのが第一だろう。で、あれば。
「情報が足らない」
独り言のように言葉が出た。時雨は静かに次の句を待っている。
「海上での砲撃は続いているんだ、つまりまだ生き残っている艦娘がいるはずだ。現有戦力が知りたい。できれば敵艦についても」
「僕が見てこればいいかな?」
「あの戦場に出ることになる、危険な任務だ。必ず無事に帰って来てくれるか?」
少女の顔を覗き込む男は、本心から、彼女の身を心配しているようだ。
それがわかった時雨は頷きを返して言う。
「約束するよ。今日沈むとしても、それは君の側でだ」
やることは決まった。
時雨が海に出るなら艤装が必要になるが、それは出撃後ドックに置いてきたと言うので、取りに行くことになった。
屋根の一部が吹き飛んでいたが、幸いドックはまだ原型を留めており、艤装は静かに時雨の帰りを待ってくれていた。
それらを背負い、出撃の準備をしていると、艤装の隙間から主人の帰還を喜ぶように何人かの妖精さんが顔を覗かせた。
「置いていってしまってごめん。また力を貸してくれるかな?」
時雨の謝罪に、妖精さんたちは笑顔で敬礼を見せた。
「俺はその間、瓦礫の山を漁ってみるよ」
「なにか気になることでも?」
「……ちょっとな」
「わかった。それじゃあ行ってくるね」
そう言って背を向けた時雨にどこからともなく現れた新しい妖精さんたちが次々と飛び乗る。
「うわ、妖精さん?」
時雨の頭の上へ、肩へ、それから艤装の中へと潜り込んでいく。所属の違う妖精さんが集まるとケンカになることも多く、自分の妖精さんたちは大丈夫なのかと心配したが、肩を組んで笑っているものや、拳を握り合い熱い眼差しを交わしているものなど、問題は起きていないようなのでホッと息を吐いた。
「こんなに大勢の妖精さんが乗ってくるなんて初めてだよ」
そう言って振り返れば、男の周りにも多くの妖精さんが立ち並び、綺麗に並んで敬礼をしてくれている。
「みんな、君の妖精さんなのかい?」
人間につく妖精さんなど聞いたことがない。しかもこの数だ。環境の良い基地には妖精さんが沢山居ると聞いたが、少なくとも佐世保の艦娘でこれだけの数の妖精さんを乗せている子はみたことがない。
「何人くらいかな、居たり居なかったりするからわからないが、いつも側にいるのはソイツくらいだよ」
そう言って彼は時雨の肩に乗る、泣いていた妖精さんを指した。
「君は、僕に着いてきてくれるのかい?」
肩の妖精さんに話しかけると、真剣な表情で目を合わせてくる。それからゆっくりと頷いてくれた。
彼から預かった妖精さんたちを連れて再び海上に出たものの、さてどうしたものか。
暗い海の上ではどこで砲撃しているのかもわからない。実際に見たことがなければ想像するのも難しいかもしれないが、光のない夜の中では、伸ばした指先さえ視認することができない。
かといって発光信号や無線を使えば深海棲艦にこちらの位置を教えるだけだ。
そんなことを考えながらも、砲撃音のするほうへと航行を続ける時雨。
どのくらい進んだのか、時間さえ闇に溶けて感覚がわからない。
狭い港内を進んでいるだけなのに、まるで悪夢の中を航行しているようだ。
それは突然の出来事。人型の影を感じたかと思ったそのとき、不意に声をかけられた。
「なにやってるの! 動けるのなら防衛に回って」
本当だ。予想はしていたけれど、まだ諦めずに戦っている艦娘が居た。
時雨からは敵か味方かの判断もできない距離ではあったが、どうやら彼女は大型艦のようだ。積んでいる電探の性能も時雨のものより高性能なのだろう。
ともあれ、向こうから見つけてもらえたのなら僥倖。
時雨の前に姿を現したのは大きな主砲を持つ戦艦の艦娘だった。芯の強そうなその目を見て思う。この人は、死から逃れようとしているんじゃない。ただ当たり前のように、生きようとしているんだ。
勝手に生きることを諦めてしまっていた先ほどまでの自分を少しだけ恥じた。
「防衛って言っても、肝心の鎮守府はもう機能していないから、自分たちの判断で動くしかないんだけどね」
目の前に立った戦艦の彼女はそう言うと、引き際を考えるタイミングかしらと、泣いているような笑みを浮かべ、その頬を指でかいてみせた。
「さすがにここまでかな」
燃える鎮守府施設を遠くに眺めて言う彼女の背中に時雨が問いかける。
「こちらの戦力は?」
その問いかけに彼女は肩をすくめて見せた。
「戦えるのはもう私だけね、負傷した子たちを生き残った子に任せて外海に逃がしたわ。なんとか無事でいてくれるといいんだけど」
「戦うことしか能がない、嫌になるわね」
彼女はそう言って溜息を吐いた。
「生き残って指揮を執ってくれる人ならいるよ」
彼女が目を見開いた。そして、一瞬希望に縋り付く色を見せたかと思うとすぐにそれらを押し隠し、真っ直ぐに時雨と向き合う。
そんな彼女に願いを告げてみる。
生き残るためと彼は言ったのだ。だったら、この難局を乗り切るために力を貸してくれる艦娘が居たほうがいい。
「合流してくれるかい?」
「ちょっと待って、もう一人居るのよ」
その子は被弾のせいで自力航行ができず、脱出した組に合流させることができなかったのだそうだ。
被弾で動けない艦娘をここに残す。それは、逃がした艦隊の生存率を上げるためには仕方がない判断だった。
だからこそ、この戦艦娘もここに残ったのだ。
逃すことができなかったと言う艦娘を迎えに行く。
「移動するから、少し揺れるわよ?」
そう言って彼女が抱きかかえた駆逐艦娘は知っている顔だ。
睦月型駆逐艦皐月。僕と同じ時間を、ずっとここで過ごしてきた仲間だった。
「彼はドックの方に居るはずだから」
「わかったわ、行きましょう」
大まかな流れと戦い方のネタだけ考えてあったのですが、実際に佐世保の地理に落とし込むとうーん。な感じになってしまったんだよね。
穴を見つけても心の中で補完して……ちょ。
場所的には佐世保重工業や立神町の米海軍佐世保基地がある辺り。
西側にはドックがありまっする。
ドック付近の立神係船池から海に出ました。
深海棲艦が攻撃を集中しているのは佐世保川側、平瀬町辺りの米海軍基地ってイメージ。
……すぐ隣なんだけど。