少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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ただいま掲載用に本編のソロモン海編を準備中。

終わりの南方が見え……てきた?
きてない。


第5章 南方海域
〜ここは無頼艦の庭〜


「うぉーい。どこの艦娘か知ンないけど、嫌な空気が流れてるから用がないなら離れたほうがいいぜー」

 

 

 

その出会いは突然だった。

新しい海域に出撃する許可を得た私の艦隊は、逼迫した財政難を打破するべく、新たな航路を開拓し資材を持ち帰る遠征任務の途中。

これから危険な海域を渡らなければいけないと、全員で心を決めたまさにそのとき、目の前に現れた一人の駆逐艦から声を掛けられたのだ。

 

その海域を一人きりで航行しているらしき艦娘は、控えめに言っても不審。

警戒を厳にして返答する。

「遠征任務の途中なんです。航路を離れるにも根拠が……あなたはここでなにを?」

 

「ただのお使いついでに哨戒してるだけだよ」

「一人でですか?」

「ここらへンは江風の庭みたいなもンだからさー」

駆逐艦だけでこの海域を突破しなくてはならない今回の遠征にビクビクしていた私たちの間にどよめきが起きる。

江風と名乗るこの艦娘は、軍艦の墓場と呼ばれるソロモン海を散歩のような気軽さで闊歩していたからだ。

 

「テッキ、テッキ」

「タイクウヨーイ」

「やっべぇ、ンなこと言ってる間に来ちゃったじゃンかさー爆撃機だ」

江風の目線の先を追うと、遠くの空に虫のような影が見えた。私の目では、この距離では爆撃機かどうかまで判断できない。

 

「機銃は持ってるかい?」

腰に手を当てた赤髪の少女が武装の確認をする。私は現実に迫った爆撃の恐怖を実感した。

「持っていません。あれって、もしかして」

先ほどより接近した虫のような影はその数を増やし、海面を滑るように低空を飛行している。

まさか、と思う。もしもそうなら最悪だ。

 

「あれはミッチェルさンかな? あの高さだと反跳爆撃狙ってるンだろなー、ここらの敵さんはまだアレやってンのか」

最悪の予想が当たったようだ。反跳爆撃。海軍に大損害をもたらした最悪の爆撃だ。

アレに狙われては、航空戦力のない駆逐艦などひとたまりもない。

自然と足が震える。しかし、やるしかない。大丈夫だ、回避訓練は十分にしている。

 

「しゃーない。江風の後ろに隠れてなよ」

戦闘に慣れていないことを察したのか、赤髪の少女は頭を掻きながら私たちを背にかばうようにして言った。

 

 

「しっかりついて来なよー」

 

浮き足立ちながらも回避運動の準備に入っていた私たちは、彼女から見ると酷く滑稽な表情をしていたと思う。

 

なぜなら、彼女は真っ直ぐ爆撃機の方を見て、私たちに『ついて来い』と言ったから。

「こういう時は迎え討つンだって姉貴が言ってた」

ポツリとそう呟くと、少女は機銃を片手に飛び出す。爆撃機はもう目前まで迫っており、抱えた爆弾まで目視できる。

 

 

「とりゃあー、時雨スペシャル!」

低空で接近する爆撃機に向かって機銃を撃ちながら突進する少女。その後を慌てて追いかける。

「うひょー怖ぇぇ! まるで爆撃機の順番待ちだ」

「え、援護します!」

ようやく我に返って主砲を撃ち始める。

私たちはまるで迷子のように、少女から離されないよう必死の単縦陣で追従した。

投下タイミングを失った爆撃機はそのまま空へと翻り、帰投してくれるようだった。

 

 

 

「いやーまいったまいった。1機撃墜がやっとだよ。みんな無事かい?」

絶望的な状況から無傷で生還し、領海付近まで移動する間は緊張しっ放しだったが、話しかけられたことでようやく肩から力が抜けた。

敵の編隊をやり過ごし、終わってみればこちらは損害なし、爆撃機一機撃墜の大戦果。先ほどまで怪しく見えた艦娘が、今はなにより頼もしい英雄にさえ思えた。

 

 

「す、凄いですね。反跳爆撃から抜けられるなんて」

「あれ、知らないのかい? うちの姉貴が考案した『時雨スペシャル』だよ。アンタらの司令官から聞いてないかい?」

興奮冷めやまぬ口調で讃えるも、まるでなんでもないことのように反応し、逆になぜ知らないのかと問われた。

 

「軍令部の戦術教本は結構頻繁に更新されてるから読ンどいたほうがいいぜ〜」

 

私たちは遠征要員として任に就くことが多いので、確かに普段戦術教本とは縁遠いが、その必要性を目の当たりにした今、泊地に帰ったら司令官にお願いして読ませてもらおうと思った。

多分、私たちの泊地では哨戒に就いている艦娘たちも目を通していないだろうから、この機会に全艦で周知するよう意見具申することも合わせて誓う。

 

もっとも彼女らは、当の江風自身が座学をサボりがちで、よく小言を貰っていることなど知る由もない。

 

 

「でも本当に凄いです。対空射撃がお得意なんですね」

すると、一瞬動きが止まり、それから堰を切ったように笑いだした。

「まっさかー、苦手もいいとこだよ。ウチの艦隊で下から数えたほうが早いもん」

反跳爆撃を無傷で躱しておいて苦手だと言われても素直に納得できない話だ。

なにせ、あの悪名高い爆撃法は、海軍に絶大な被害をもたらしたものなのだから。

 

「姉貴たちがすげぇ上手でさー。江風なンて妹と二人でドンケツ争いだぜ」

「姉って、対処法を考えたっていう、時雨さん? ですか?」

「そうさー、まあ時雨の姉貴が上手いってのは今更すぎてどうでもいいけど」

 

そして一拍置いてからこう続けた。

 

「ホントにヤバいのは、低空飛行の爆撃機相手に機銃構えて突撃しようって考えることだよな。回避するよりよっぽど確実って、それ考え方おかしいだろ」

そう言って、今まさにそれを敢行した江風と自称する艦娘は笑う。

 

 

「ってなわけで、機銃も持っといたほうがいいよ?」

「でも海軍内での評判はあまり良くないような」

25mm機銃は特別希少な装備品ということもなく、どこの艦隊でも余っている程度のものだが、私の知る限りでは積極的に装備している艦娘はいない。曰く、性能が微妙だからと。

 

「らしいね、知らないけど。でも時雨姉ぇは25mm機銃があれば爆撃機なンて怖くないってドヤ顔で言ってたから」

姉貴が『使える』って言うんだから使える装備なんじゃないの? と、個人ではなにも考えてなさそうなことを言う。

 

 

そして地団駄を踏むようにして、それはいいんだよ。と彼女は続けた。

「なにがおかしいって、江風と同じで一見突撃バカなほうの姉貴が対空射撃演習でちゃっかり高得点なとこだよ! 村雨姉ぇが得意なのはわかるけど、アレは納得いかないンだよなー」

 

俄かには信じ難い。姉妹の中で最下位争いをしていて、姉たちがこぞって彼女と比べ物にならないほど優秀というのは。

 

 

 

「なんなら1回見に来くるといいよ。ウチの泊地は艦娘の講習とか受け入れてるし、連絡くれたらすぐだと思うよ。直接言ってくれてもいいし、江風の名前だしたら提督か時雨姉ぇに繋いでもらえるだろうからさ」

 

「提督に直接繋がるんですか?」

驚いた。艦娘からの連絡が直接基地司令官に繋がるなんて話はどこの軍隊でも聞いたことがない。

「うちの提督は江風に甘いンだよ。ン? 時雨姉ぇに甘いのかな?」

 

 

 

「訓練なら姉貴たちに教えてもらえるよう頼んでみるからさ。見てて気持ち悪いけどね。海風姉ぇなんかは訓練大好きだから喜んでやってくれるだろうし」

 

姉の話をする江風は終始ニコニコ顔で、姉たちが大好きなのであろうことが容易に想像できる。彼女は真っ直ぐ育ったかわいい艦娘だ。きっと、その姉たちが大事に育て上げた自慢の妹でもあるのだろう。

 

 

「でも江風さんに教えてもらいたいです」

「うは、さん付けとかやめてよ、そンな呼ばれ方したことないから寒気するぜー。江風でいいよ」

 

 

「江風が教えるなら艦隊戦だな! こればっかりはちょっと自信あるぜ!」

そう言って胸を叩く江風だが、すぐに頬を掻きながらこうも言う。

 

「とは言っても、やっぱり姉貴たちの方が上手いンだけどさ」

 

 

苦手だと言う対空射撃で爆撃機を落とすのだ、自信のある砲雷戦はどのような練度なのか。そしてそのどちらをも上回るというお姉さんたち……いったいどんな人たちなのだろう。

 

時雨、時雨?

「もしかして、『佐世保の時雨』さんですか?」

「お、よく知ってンね」

間違いない。帝国海軍の二大駆逐艦『佐世保の時雨』、『南方の女神』。

数々の海戦を生き延び、あの佐世保鎮守府壊滅からも生還した海軍の英雄だ。

と、言うことは。

「江風さんは白露型の」

「そうさー、白露型9番艦の江風だよ」

 

この軍艦の墓場を『庭』だと言う彼女は、海軍で有名な武闘派姉妹の一つ白露型。奇跡の駆逐艦と呼ばれる姉妹のほかに、水雷戦隊の旗艦経験者や鬼畜艦とあだ名される大型艦喰いのとんでも艦が揃う駆逐艦姉妹の一隻。

 

 

後に知ることになるが、白露型の江風と言えば餓島の悪名で知られるガダルカナルへの突入回数トップの殊勲艦。

それこそブラリと立ち寄ったソロモンで白昼堂々敵艦の停泊する湾内に突入し、しれっと帰りがけの駄賃に撃沈報告を上げてくるような無頼の艦娘だった。

 

 

「でもすぐには無理かもしれないですね」

「ン? なンかあるの?」

 

「教えてもらうにしても、私たちの練度ではまだ早いんじゃないかと。艦隊行動も覚束ないくらいですし」

「艦隊行動かー。江風も毎日嫌ってほどさせられてるね。下手すりゃお花摘みも海上でってなほど……」

思い出したのか、げっそりとした顔で言う江風。

「ただコツを教えてもらってから形にはなったかなー」

「コツですか?」

 

「そそ、戦隊旗艦とか駆逐司令艦のパンツを追いかけろって」

「パ、下着を、ですか?」

「陸戦教官やってるちゃらい姉ちゃんがいるンだけどさー。江風に教えてくれたンだよ。見るのは阿武隈さんか海風姉、村雨姉のパンツだって」

 

言いながら、あれ? なんで江風は陸戦教官の鈴谷さんに艦隊行動を教えてもらってるンだろうなぁと独りごちる。

 

 

「それで、上達したんですか?」

「そりゃあもう、この間大きな作戦に参加したンだけど、海風姉のラベンダーと村雨姉のヒラヒラが沢山ついたピンクしか覚えてないくらいだよ。無我夢中だったけど、ほら。ちゃンと生き残ったぜ!」

 

自信満々にそう言って胸を張る江風。

ちょっと信じられないことだが、さて。

 

 

「村雨の姉貴も、女の子は常にキレイな下着を身に着けておきなさいとか言ってたし、そういうもンじゃないのかなー」

 

それは意味が違うんじゃ……。

そう思ったが、下着には気を付けようと思った。

 




村雨の姉貴と海風姉の後ろについて航海したい。
そして江風はこの後、一人で出歩いてたことを姉たちから叱られるに違いない。

25mm機銃があれば……と言って対空戦無敗と言える実績を時雨が残してるのはホント。
ついでに対空演習で夕立が高得点を叩き出したのも史実。
史実の夕立は知的&特攻スタイルでソロモンにてブイブイ言わせてた高練度艦だったので、ソロモン無双したあの夜戦前から有名でした。
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