少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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海風型の下4姉妹。その初期訓練は前中後の3話で投稿。

よく出てくる駆逐隊復習。
1桁台は横須賀、10番台は呉、20番台は佐世保に所属してる。


第6駆逐隊  暁、響、雷、電
第24駆逐隊 海風、山風、江風、涼風

第16駆逐隊 初風、雪風、天津風、時津風
第17駆逐隊 浦風、磯風、浜風、谷風
第18駆逐隊 霞、霰、陽炎、不知火



〜二四駆の初期訓練〜(前)

「もう無理だぁ、なンだって艦娘が陸の上を這いずり回って泥だらけになる必要があるンだよもー」

「腐るんじゃないぜ、姉貴たちもやったんだろ? だったらあたいらもやってやるってんだチクショー」

「二人とも、……うるさい」

「とにかく、今は少しでも体を休めて備えましょう」

 

 

木々の間で泥だらけとなり、肩で息をしながら這々の体でいるのは、この度新たにリンガ艦隊に編入された海風、山風、江風、涼風からなる二四駆逐隊だ。

彼女らはただいまリンガ周辺にある島を活用した初期訓練の真っ最中。初めての本格的な陸戦教程を前にして疲労困憊。

 

そこへ足音もなく近づき声をかけてきたのは、何者にも染まることのない銀糸の髪を持った少女。

 

「なんだい、まだまだ余力がありそうだね」

「げっ」

新兵の教導担当として一緒に行動を共にしている第六駆逐隊、その司令駆逐艦を務める響の突然の出現につい下品な声が出てしまったが、気にしていないのか変わらぬ温度で響が言う。

「あんまり騒ぐと撃ち込まれるよ」

 

 

小火器や必要最低限の糧食など装備を抱えて、絶海の孤島の山間部や湿原を72時間駆け巡る、地獄と評されるリンガの初期訓練。それだけでも脱落者を出す難易度の高い教練だが、リンガで地獄と呼ばれるには足らない。この訓練では、隙を見せればすぐさまアグレッサー役の艦娘が日夜を問わず襲撃してくるのだ。

 

 

「それも納得いかないンですよ! どうせ相手役って普段はどこかでぬくぬく休んでて、定期的に襲ってくるだけなンでしょ? こっちは休む暇も場所もなく地面這いずってンのに」

 

「なにを言っているんだい? 相手がどこかでぬくぬく休んでるなら、こちらから積極的に襲撃して壊滅させるに決まってるじゃないか。そうしたら、私たちも折角の海上護衛の隙間の期間にこんなところで泥を食べてないですむ」

 

不満を漏らす江風に、物騒な表現で相手も同じ条件だと伝える響。

理解するのを頭が拒む、なんだって? 隙を見せるならアグレッサー部隊を逆に襲撃するつもりなのか? ちょっとなにを言っているのかわからない。

 

 

「相手も私たちと同じ条件ってことですか?」

美しい淡藤色の髪や、その陶磁のようにきめ細かい肌に泥をまとった海風が響の真意を正しく読み取り確認をする。さすがに海風型としては長女になるだけあってしっかりしているようだ。

 

「да。アグレッサー部隊も訓練を兼ねているからね、期間内は私たちと同じように島内をウロついているよ。さすがに君たちみたいに泥まみれにはなっていないと思うけどね」

 

「よっしゃ! おんなじ条件なら目はあるね、一泡吹かせちまおう」

自らを奮い立たせるように言い放った涼風だが、それをバッサリと響が切り捨てる。

「それは無理かな、二四駆の全滅まで何時間保つのかってところだよ。ちなみに私は長めに賭けているから頑張ってほしいと思っているよ」

 

 

二四駆は全員が秘書艦時雨の妹艦だ、そして海戦では武闘派でならす白露型でもある。

訓練実施を検討する段階で、秘書艦さまからは「手加減なしでお願いするよ」と言われているし、同じく彼女らに期待している艦隊司令艦殿も「実力を計らせてもらうわ」と本気の構え、彼女たちにはお気の毒としか言いようがないが、今回のアグレッサー役は今までにない豪華メンバーで揃えられているのだ。

 

 

「江風らが訓練終了までがんばるって想定はないンですかねー」

「ないだろうね」

 

なにせ、アグレッサー部隊を指揮するのはウチの艦隊が誇る艦隊司令艦その人だ。死を告げる妖精から「バンシー」の二つ名を頂いている霞が、戦術行動の申し子と呼ばれる重巡鈴谷を右腕に直々に参加している。そして兵隊役には白露型のボス1番艦の白露に、生きる二水戦長波と申し分のないメンバーだ。

だからこそ、忙しく海域を駆け回る過密スケジュールの隙間にお鉢が回ってきたのがお目付役に選ばれた歴戦の第六駆逐隊というわけだ。

 

「こっち終わったわよ、トラップも仕込まれていないし、敵の姿もない。今のところは平気そうね」

「あ、ありがとうございます」

周辺の脅威を確認してきた雷の報告に海風が頭を下げる。

 

 

「先は長いんだから。このくらいのことならいつでも頼ってくれていいわよ」

とはいえ、第六駆逐隊の役割はあくまでサポート要員。アドバイスもするし指導もするが、積極的に戦略を考え二四駆に指示を出すのは禁じられている。8対4の人数差があるとはいえ、経験や実績の面からも相手を下すことはないだろう。

 

 

「でも驚いちゃうわね、もう18時間よ? ここまで保つとは思わなかったわよ」

「おいおい暁、涼風たちを舐めてもらっちゃあ困るねー」

「暁さんも賭けてたンすか? まさか江風たちが短時間で全滅する方に……」

 

疑心の目を向ける江風を見て雷が響を窘める。

「ちょっと響、賭けのこと話しちゃったの? ダメよー、傷つくかもしれないじゃない」

「そうかい? まあ話してしまったものはしょうがない、それに暁たちは賭けていないよ。と言うより、私たちは第六駆逐隊として賭けていると言った方が正確かな」

「そうそう、暁なんか最初の4時間以内に終わるんじゃないかって言ってたんだけど、響が時間を伸ばしたのよ。だから頑張ってね」

響の言に雷が補足を入れる。

 

 

「頑張れねー、やっぱ暁さンは信用してなかったンじゃないですかー」

「江風、……あなた、ちょっとうるさい」

 

慣れない陸上運動で疲れているのだろう。いつもより静かな山風が木の根に腰掛けて休息をとりながら、姉妹にしかわからない言語で「アナタも休めば?」と言った。もっとも、彼女は平時でも引っ込み思案な性格なので、よほど親しくない限り差異に気付くことはできなかっただろうが。

 

 

「みなさんお疲れでしょうから、まずは体を休める場所を確保するのです」

「そうね、暁ももう疲れちゃった」

休息を進言する電に暁が同意すると江風も素直に応じた。

 

「そだね、こンなところで無駄に体力消耗してるわけにはイカン! ちょっとでも寝よ寝よ」

そういって早速ごろ寝しようと倒れ込む江風の背中を支え、電が止める。

「ダメなのです、地面に直接寝たら逆に体力を消耗するのです」

 

「そうよー、屋根はなくてもいいけど寝床は作らないと。さっきちょうどいい場所見つけてきたから、少し移動しましょう」

そう言って一同を先導し、さっさと歩く雷に着いて行くと、ほどなくして窪地が見えてきた。そして、倒木を指し休息場所はここだと告げる。

 

「ほら、ここの下に簡易的な寝床を作るわよ、ここなら屋根代わりにもなるしちょうどいいわ」

 

 

 

落木や枯葉を集め、地面に直接体温を奪われないよう寝床を作っていく作業は、雷と電指導のもと手早く行われた。

少しでも寝心地が良くなるようにと、雷流のコツまで伝授してもらったが、妙に作業に慣れている二人を見ると今後の基地生活が不安になるのも事実だ。

 

 

そういった不安をひとまず脇に置いておいて、交代で体を休めることにする。

六駆は雷、電組が、二四駆は海風、山風が歩哨に立つ。六駆の四人が順番を相談している姿は見なかったが、当然のことのように寝床に潜り込んだ暁に対して誰もなにも言わなかったことから、彼女らの中では決まっていることなんだろう。

その証拠に、寝床を作り終えた雷、電組はそのまま地面に穴を掘り、休むつもりなんてないとでも言わんばかりになにかの作業を続けていた。

 

二四駆はというと、姉組である海風、山風が妹たちを気遣って休息の先番を譲ってくれた。山風などはいつもより1.12倍くらいローテンションだが、これでも妹思いの姉なのだ。

末の妹二人だが、彼女らは姉たち全員から甘やかされて真っ直ぐ育てられているので、姉の配慮自体に気付くことはなく、そしてそれさえもかわいいと愛されている。

 

 

ようやくの休息ということで、早速寝床に潜り込んだ江風たちだったが、すぐ自然の障害に安眠を阻まれた。

 

「蚊? 羽虫がうっとうしくて寝づらい」

「これ使う?」

同じく寝床で休息に入るところだった暁がなにやら小さな瓶をザックから取り出し江風に見せる。

「なンです、それ?」

「ニームっていうハーブの一種よ。この間の輸送護衛でちょっと遠出したんだけど、そのときに見つけたから採ってきたのよ。塗っておけば虫除けの効果があるわ」

「よく知ってンですね」

「レディとして当然よ」

 

 

渡された小瓶を開け、肌の露出しているところに薄くのばしてつけるとピーナッツのような独特の匂いがする。ずっと嗅いでいたい匂いではないが、なんとなくお腹も満たされた気分だ。

 

「ほいほいっと、それじゃあ一眠りといきますか、って早っ?」

隣では暁がすやすやと寝息を立てている。

「暁は、まぁ特殊だけど、眠れるときにすぐ眠れる技能は磨いたほうがいいわよ」

黙々と穴を掘っている雷がそうアドバイスをくれた。

 

言いたいことはわかるが、ほとンど会話の途中で寝てたような。慣れたらそンなものなのだろうか。軍人って感じなのかなー、なんかわからンけどカッコいいな……。

そんな風に思いながらなんとはなしに暁を観察する。

 

「ってなんで暁さん寝袋持ってンすか」

「暁は布団や代わりになるものに包まれていないと眠れないんだよ。あと私たちにさんは付けなくていいよ」

今度は暁の隣から、眠たそうな響がそう答えた。

大きなザックを持っていると思ったが、そンなものまで入っていたのか。でもそのザックを背負ってたの電さンじゃなかったでしたっけ? そんな声にならない声が胸中にこだました。

 

 

半時間ほど経っただろうか半覚醒状態で、そろそろ交代の時間かなと気合いを入れ直していた。そのとき、なんの前触れもなく近くの木がいきなり弾けた。

「頭を低く、20°の方向から撃たれたね、下がるよ」

いつの間に寝床から這い出てきていたのか、響が江風、涼風の頭を抑えながら指示を出す。

 

「なにも、感じませんでした」

近くで警戒にあたっていた海風が驚愕の声を上げたが、それもそのはず。こちらは第六のメンバーを抜いても四人いる。その四人ともがまったく気付くことができなかったのだ。

 

 

「長距離射撃だね、鈴谷だ」

遠くを観察するように見つめながらも、寝ぼけ眼の暁を寝袋から引っ張り出す響の手は淀みなく動いている。

こちらでは完全に目が覚めた二人が装備品を持ち、恐る恐るといった様子で移動の準備を始めている。

 

「いったいどンだけ先から撃ってきてンだ」

「アレはチートだから気にするだけ無駄だよ、それより見つかったことの方が驚きだ」

 

重巡相手にアレ呼ばわりはどうかと思うが、この艦隊では艦種で上下が決まらないそうなので、そういうものなんだろう。

そして言葉の通りに、彼女たちは繰り返される射撃の中でも今までと変わらず飄々としてるのが怖い。

 

 

対照的に、少し身を屈めるようにしている涼風が空を見上げながら疑問を口にする。

「まさか観測機かい?」

「それはないね、観測機が飛んでたなら暁が見つけてる」

 

そう言った響が暁に視線を送ると、なんでもないことのように暁が言った。

「島の北側を飛んでるのなら見たけど、こっちには来てないわよ」

 

驚いた。駆逐艦の性なのか、空には気を使っているつもりだったが、観測機が飛んでることなんて気付きもしなかったからだ。いったいどんだけ見えてるんだと、暁の索敵能力にも舌を巻く。同じように、さっきまで寝ていた暁の変わり身にもだ。

 

 

逡巡していた海風が口を開く。

「なら電探でしょうか?」

「確かに鈴谷さんの電探射撃は電探精密狙撃って言われる腕だけど、それもないわね」

せっかく掘った穴を残念そうに埋めなおしている雷がそう返答した。

 

物のついでのように断定する雷に疑問を呈するのは涼風。気になったことを素直に口に出せるのは彼女の美徳だ。

「なんでなんだい?」

「考えてもみなさいよ、こんな木々の中に埋もれてるような暁たちを電探で判別するなんて、そんなの私でも無理よ」

大袈裟な手振りでそう話す暁。その暁を電が後ろから髪をとかし、寝るときに緩めたスカートを響が直し、あっという間にいつでもお出かけできる。そんな汚れ一つない出で立ちとなった。

レディな暁は六駆による合作でてきていた。

 

 

 

「白露か長波か、直接目視されたのかも知れないね」

「目視って、見られたってこと? どんだけ広いと思ってンすか?」

リンガに浮かぶ無人島とはいえ、それなりに広い密林まで備える人の手の入らない孤島だ、たった半日ほどで隅々まで隈なくとはいかないだろう。

だが続く響の言葉はその想定を覆すものだった。

 

「相手には霞がいるからね、最初からある程度場所は絞られてると考えるべきだよ」

「絞られている?」

 

「私たちの動きを予測して、警戒網を敷いている。北側に観測機を上げていたのも、わざと暁に見せて行動範囲を狭めるためだったのかも知れないね」

「そんなことが……」

「妖精だからね」

言外に、アレも気にするだけ無駄だと告げられる。

 

 

ようやく射撃も収まり、移動を開始するにはよい頃合いになったわけだが、ここにきて二四駆の面々に不安の色がよぎる。

そんなのに狙われて、そこから逃れるなんて不可能なのではと不安になったのだ。

まるで見えているように、こちらがどこに潜んでいるのかを予測できる司令艦に、長く届く腕を持つバケモノクラスの重巡。さらには、自分どころか、自分が逆立ちしたって敵わないだろうと思ってる姉たちがなお、口を揃えて勝てないと言う長女がいるのだ。

 

 

そんな不安な状況の中でも、六駆の顔色は少しも変わらず、焦ってもいないみたいだ。

 

「でも狙撃じゃないことはわかったわ」

「どうしてですか?」

「誰も当たっていないだろう?」

「鈴谷さんなら1発で仕留めにくるのです。誰にも当たらなかったのは見えていないからなのです」

「はぁ? あれで闇雲に撃ってたって言うのかい?」

 

それはそれで、恐ろしい腕前だってのがわかっただけだった。

 




陸戦教程、司令艦認定と並んで艦隊の登竜門となる「護衛エキスパート」。

海上輸送や要人が乗った艦の護衛を行う遠征のエキスパート。
海戦能力はもちろんのこと、重視されるのは護衛能力と哨戒能力となり、阿武隈率いる第6駆逐隊の一水戦が資格を有している。合言葉は「海上護衛の余力で戦争」。
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