少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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「敵! ◯時の方向!」
って戦闘モノならよくありそうなシチュ。

でも海軍は多分「方位! 二七〇!」だと思うぞな。
別の言い方だと左90度かもしれない。


ほら、サッカーの漫画見てて、「ストラーイクっ!!」って出てきたら違和感あるじゃん? そんな感じ。



〜二四駆の初期訓練〜(中)

「さて、駆逐司令は海風だったね、君はどう考える?」

レクチャー役の響が、生徒に問うようにして海風の考えを聞く。

 

「このまま真っ直ぐ下がるのは危険な気がします。ここは東の山を越えつつ一時退避を」

「西側の沢を選ばなかったのはなぜだい?」

 

休憩ポイントに選んでいた現在地は尾根を少し外れた山間になっており、そこから東には南国の木々を蓄えた山。西側は沢になっている。沢の向こうは崖が口を開け、険しい渓谷になっているようだ。

 

 

「霞さんがそこまで予測できるのなら、下りやすい沢から撤退するという選択は予見されているかも知れません。白露姉さんか長波さんが付近にいる危険性がある以上、待ち伏せの可能性があります」

 

「海風姉ぇすげぇ! 霞にだって負けてないよ」

詰まることなく考えを述べる海風を涼風が称賛するが、暁の採点は厳しかった。

「50点ね」

「そう? 雷はもう少し点を上げてもいいと思うわ。でも方針には賛成できないわね」

 

「なんででい? 完璧な作戦だったろ」

姉の採点が低いことにちょっとご立腹な涼風がほっぺを膨らませるが、理由はすぐに響が説明してくれた。

「陸に詳しくないから仕方がないとも思うけど、沢を下りやすいなんてのは、素人が陥りやすい幻想なんだよ。まったくの勘違いだ」

 

 

 

「途中で地下に流れ込んでることもあるし、一度下りると上れないなんて地形もある。下った先がどこなのかもわからないしね」

 

沢なんかに下りるもんじゃないと、その理由も含めて説明してくれたが、説明を聞いても納得できなかったのは江風だ。

 

「ちょっと待ってよ、江風たちは艦娘だよ? 歩いて下るならまだしも、水面を移動したら沢を下るなんて簡単なことじゃン?」

 

「うん、それは2点」

「論じるに値しない愚策中の愚策ね」

暁の採点は激辛。先程と違い雷も評価してくれず涙目になった。

 

「沢は海とはまったく違う。私ならともかく、君たちなら十中八九座礁するだろうね」

 

 

「でしたら、私たちの取るべき行動は」

しばしの沈黙の中、固唾を飲み込んだ涼風が深妙な顔で言った。

 

「東側の山を越えるんだね」

「何を聞いていたのかな?」

 

少しのトーンも変えることなく響がツッコミ、雷が後を継いで説明する。

「沢を下らず東側を走破してくるって想定で相手は待ち構えてるだろうって結論に至ったわけよ」

「つまり?」

「難しい行程だと言うことを理解して、敢えての沢下りね」

 

難しい話は姉任せな下二人には少し辛い。が、やることさえわかれば迷うこともない。

雷がその行動指針を教えてくれたからだ。

 

 

「ちなみに、響ならどうするのかしら?」

沢に下りながら暁が響にそう声を掛けた。

「私かい? 私なら東の山を駆け上って、伏せているだろう白露と長波をこの機会に仕留めるさ」

この変態艦め。不安定なぬかるむ足場に四苦八苦しながら江風は思った。

 

 

「もう一つ策を上げるとしたら、これは君たちを置いていっていいという前提があればだけど」

「今後の参考のために聞かせてください」

訓練大好きで生真面目な姉貴こと海風が、響から少しでも現場の対応を吸収しようと教えを請う。しかし響の口から紡がれた言葉は、知ったからと、すぐにどうこうできる類のものではなかった。

 

 

「西側の沢を渡って下らずそのまま西に抜ける。見てわかるとおり、道なき道を踏破しなくちゃならないけどね」

 

道なき道というより、地面があるのかもわからない。滑落して進むとでもいうのだろうか。半ば冗談なのかとも思ったが、それに対する暁の返答が、冗談ではなく実行に移せるものなのだと否応無しに理解させられた。

はたして彼女はことも無さげにこう言ったのだ。

 

「じゃあ貴女たちが居てくれて助かったわ。あんなところを進むのは、できれば遠慮したいし」

 

 

 

「でも沢を下るのは霞さんも想定してますよね? だったら追撃されることを前提に逃げるってことですか?」

「50点。もちろん追撃される可能性を念頭に入れながら逃げるわけだけど、霞は追ってこないよ」

自信があるというよりは、それは既定路線であると、そんな断定ぶりだが考えてみても海風には理由がわからない。

 

 

「わからないかい? これは訓練、つまり戦争の予行だ。なら彼女たちの目的は戦いに勝つこと、優先されるのは確実に勝つ、それだけだ。短い戦闘時間で戦果をもぎ取るなんてのは二の次だね」

兵は拙速を尊ぶとはいうが、それはリスクに目を瞑ってまで優先することではない。そのことを霞は知っている。

 

「一度引いて態勢を立て直す、と?」

「霞の中では同時進行のプランが何本も走ってる。追撃よりも確実な手を改めて打ってくるさ。だから、私たちはその時間を使って考えなきゃいけない」

 

「霞さんたちに勝つ方法……、いえ、違いますね。私たちは勝たなくていいんです!」

ハッとした顔で海風がそう言った。

 

 

これだから白露型は侮れない。そう響は思った。

海風は十分司令艦の適性があるだろう。もちろん、これから散々訓練し、嫌ってほどの経験を積ませてからの話ではあるが、後で報告したらさぞ霞が喜ぶだろう。

 

「100点よ」

「えっと、どういうことかさっぱりだよ」

響の代わりに評価をしたのは、涼風の手を引いている雷。そして理解を示さなかったのは涼風だが、これはまあいい。

チームの全員が司令艦の適性を持つ必要なんてどこにもないからだ。

 

 

「私たちの勝利条件、目的は霞さんたちの撃破じゃないんです。私たちは私たちで、訓練をやっているのですから、72時間健在であれば私たちの勝ちなんです」

 

 

 

 

予め霞と詳細な打ち合わせを行ったわけではない。しかし、沢下りを選択した二四駆が追撃を受けることはないと、響には確信とも呼べる考えがあった。

アグレッサー隊の隊長としての霞なら、みんなに説明したとおり、時間を使ってより安全に確実な撃破を目指すだろう。霞の考え方は司令官に似ているが、彼よりもずっと慎重派だ。成功確率80%でまだ迷い、ほとんど確定路線となるまで準備を重ねる。

 

つまり、彼女が仕掛けてきたなら私たちはすでに詰んでいる状態に陥っているということ。私が思いつきもしない戦術で、霞が獲れると判断していた場合、追撃される可能性もあるにはある。

しかし、それらを踏まえても霞の追撃はないと断定しただけの理由もある。それは彼女がリンガの艦隊司令艦だからだ。司令艦としての霞は絶対にここでの追撃を行わない。彼女にとって、これはあくまで訓練。少しでも長く、少しでも身になる経験をここで二四駆に積ませようとしているはず。

 

 

 

「うへぇ、道なんてないじゃンか」

鬱蒼と茂る草木の隙間を水が流れており、むしろ普通の山道より歩きにくいまである。

今さらのことなので、足下が汚れるのも構わずとにかく足を前に出す、そんな行軍をしている二四駆の四人は体中が泥だらけだ。

 

「え? 道ならあるじゃない」

「ここはこれでも獣道だよ、おかげで歩きやすい。撤退している私たちにとってはあまりありがたくない道だけどね」

 

対して六駆の四人はというと、泥はね程度の汚れはついているが、服を払えばまだスーパーくらいならこのまま買い物に行けそうな出で立ち。

ぴょんぴょんと跳ね、体重をかけても平気そうな岩場や砂地だけを選んで進む、そんな危なげな歩き方をする暁なんて靴底以外に汚れなどないようだ。

 

 

「これで歩きやすいって言うのかい?」

山道の整備されていない山林は本当に歩きにくいのだ。

さほどの距離は稼げていないにも関わらず、時間だけが取られていく。

沢を下りながら海風も思う。本当に、沢を下るのは楽なんて思い違いも甚だしかった。自身の手足を使って下るのも大変な行程、艤装を使っての航行なんて以ての外だ。

 

 

「歩いてみてわかったようだね。艦娘として、艤装ありきで物を考えるのは仕方がないことだと思うけど、陸の上で航行するなんて選択肢はひとまず忘れたほうがいい」

 

そう、まず陸上で艤装を使用するという選択肢は忘れるべきだ。陸上では陸上なりの戦い方がある、私たちは人型として今を生きているのだから、その身体能力を以って物事の対処にあたる。必要になるのはそういう選択肢だ。

もっとも、銃撃戦の最中にショッピングセンター内に流れる人工の川を遡上する、そんなとんでも能力を持つ艦娘も確かに存在してはいるのだが。

 

 

沢を下るうちに、別の沢との合流地点に出た。どうやらこの沢は途中で地下に流れることなく、こうして川となりどこかから海へと繋がるのだろう。

たったそれだけ、海へと繋ぐその細い糸を感じ取るだけで元気が出た気がするのは艦娘だからだろうか。

 

このまま海まで下ってしまおうか、それともここらで沢を脱し、また島内に潜むのか。またぞろ話し合いという名のレクチャーが行われることとなった。

 

海風は思考の深みにハマり、山風はバテ気味。沢下りの後半は電に手を引いてもらっていたくらいだ。

元気なのは、もう泥濘なんて気にしない! とでも言いたげな姿の江風と涼風。下着までビチャビチャになった二人に怖いモノなどなにもなく、このまま「海まで下ろう!」との意見を述べている。

 

 

二人の面倒を見るため後ろをついていた雷は、道中ずっと不安で落ち着かなさそうだったが、当人たちが沢に浸かって歩いていた以上の問題はなかった。

「ダメだって言ってるのに、困っちゃうわね。数日かける作戦行動時は服を濡らしちゃダメなのよ」

困った風に眉を傾げてはいるが、いそいそと二人の服をタオルで叩く雷はどこか嬉しそうだった。

 

 

「このまま海に出る、それが一番想定しやすいルートなのではないでしょうか?」

そう発言したのは海風。それに響が同意する。

「そうだろうね。沢を下るなら最後まで、普通に考えたらそのまま海まで出ると考えるんじゃないかな」

 

「だからこそ霞はきっと海には出ないと思ってるわよ! 間違いないわ」

そう言ったのは暁だ。そのため、ますます海風が頭を悩ませることになってしまった。

「てやんでい、このまま海に出て海上でハッキリさせようじゃないか!」

「海上に出て直接対決かい? 相手に鈴谷がいることを忘れていないかな?」

涼風が吠えるが、もちろん鈴谷は重巡だ。数の利があるとはいえ、経験の勝る大型艦を相手にして二四駆が堪えられるとは思えない。

 

 

「合流するあちらの沢を上ります」

「うん。いい判断だと思うよ」

 

 

「見ての通り君らは疲れてる。普通ならこのまま沢を離れるか下るかを選ぶだろうね」

頭の上にクエスチョンマークをたくさん飛ばしているような江風、涼風にもわかるように響が簡潔に説明をする。

ようやく得心がいったとの様子で二人が納得してみせた。

 

「だから逆に上るってことかぁ。なるほどな」

「言ってることはわかるンだけど、シンドイねぇー」

慣れない陸上での逃避行だ。二四駆に余裕はあまりないだろうが、相手は霞だ。

下ろうが逸れようが手の内であるかもしれない。それどころか、裏を読んで沢を上がるところまで想定されているまである。

 

沢を下り、平地に近づいたことで開けた場所にでも出てしまえば、待ち伏せしている相手から一方的に攻撃を貰うだろう。

沢を逸れたとして、それを読まれていたのなら、こちらだけが周囲の地形もわからないままうろつくことになりかねない。

 

どの可能性も捨てきれないなら、せめて一番難度が高く、一番可能性の高いところに賭けておきたい。

こうして、疲労の溜まった体に鞭打ってでも、沢を上るべきとの結論に達したのだった。

 




海風は史実でも訓練ウーマン。
神通さんとマンツーマンで一昼夜訓練してたりする。


ショッピングセンター内の川を航行してたのは時雨と霞。シンガポールのマリーナベイサンズでのこと。
いずれ掲載……できたらいいな。

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