少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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海風たちは無事に訓練を完遂できるのかーーっ!?

リンガの初期訓練。海軍がするような訓練じゃないなぁ。

まぁ史実の海軍にも陸戦隊はあったから……。
遅刻した陸軍に代わって敵陣に突っ込み、占領したのは雪風と時津風です。

なにやってんだこの子ら……。



〜二四駆の初期訓練〜(後)

沢を上るのは下りるより一層難易度の高い行程だった。

「なんでぇい! なんでぇい! 下ばっかり見て歩いてるんじゃないってんだ!」

そんな中でも、涼風だけは前向きな声を姉たちに掛け続ける。カラ元気でも元気だ。それは僚艦にとって力になるだろう。

 

 

休憩を挟みながら沢を上ること3時間。太陽が折り返し、日中で一番気温の高い時間帯だ。

一行は木々が開けた場所に出た。隠れて移動したい二四駆にとってはありがたくないスペースではあったが、移動しっぱなしだった体には幾分か優しい。

 

 

油断はあったのだと思う。

鈴谷に狙われてからずっと続けてきた逃避行で随分と移動した。相手の裏をかくようなルートを選択し、悪くないペースでもあると思う。

結局、闇雲に当たりをつけて撃ったのだろうという襲撃があっただけで、一度も霞たちと対峙しておらず、今も追われている気配なんて微塵も感じ取ることができずにいる。

 

そんなタイミングだったのだ。歩きにくい山道が開け、頭上からは気持ちの良い太陽が降り注ぐこの場所に出たのは。

フッと息を吐くように、気を緩めたといえば緩めたのだろう。

 

 

そのときだ。枝の鳴る音がしたと思ったら、なにかが木の上から江風を目がけて落ちてきた。

咄嗟に勘づいた雷が江風を突き飛ばして衝突を避けたが、それは空で体勢を変え、伸ばした雷の左腕を強打した。

 

「行って!」

それが着地する前には江風の身をここから逃すための指示を出し、雷は自らの体を盾にするように江風とそれの間に立ち塞がる。

 

 

「あっれー、いいタイミングだと思ったのにな。やっぱ長波の指示が悪いんじゃないの?」

落ちてきたそれは、なんでもないことのようにそう言った。

 

「なんだよ、あたしのせいか? 好機を逃したのは白露でしょ」

それに答えたのは、木の枝の上でしゃがみこみ、眼下を観察している長波だ。

 

 

「ここで襲撃、初撃で一人って言ったの長波じゃん」

「さすがの長波サマも雷に本気で守られてる江風を狙ってくなんて思ってなかったよ」

 

二人は言い合いをしてはいたが、さほど残念そうな表情ではなかった。彼女らは目的を達成したといってもいい戦果を挙げたからだ。

 

「ま、いっか。雷の左腕、江風よりもやっかいなモノを獲ったワケだし」

 

 

「あら、この雷様の左腕をちょっと打っただけで勝てるつもりなのかしら?」

 

右手に錨を持って広げ、背後を庇うように立つ雷の左腕はダラリと下げられたままだ。

強がりを言ってはみたが、戦力の大幅ダウンは免れないだろう。

いつかはそのときが訪れるとわかってはいたが、ついに捕まってしまった。

リンガの艦隊が誇る指折りの兵隊チーム。白露型のボス白露と、二水戦最長所属記録を持つ長波のコンビが二四駆の前に降り立ったのだ。

 

 

 

「おっ、そーい!」

なんの予備動作もなく、いきなり白露が駆けだす。咄嗟に反応した響と電が手にした小火器で白露の行動を阻もうと射撃を開始するが、まるで背中に目がついているかのように、白露はそれらを軽々と避けて走る。

彼女の目標は、元気に一人先頭を歩いていた涼風。あっという間に距離を詰めて……。

 

 

「白露ラリアッート!」

 

 

吹き飛ばされた涼風に背を向け、いつの間にか握られていたP226で振り向きざまに2連射。狙われているのは海風だ。

 

「このままでは」

そう口にしたのは誰だったのか。

 

 

 

脱落者が出るのを覚悟しての撤退。

響の頭によぎるのはそんな選択肢。誰を犠牲にするべきか、そんな冷酷ともいえる考えが思考を埋める。

 

 

「行ってください! ここは私が支えます」

制止の暇もなく、そう言って前に出たのは海風だった。四人の中では1番基礎ができている海風とはいえ、白露と長波の二人を相手に時間稼ぎ、長くは保たないだろう。だからといって、山風をつけても結局は同じこと。脱落者が増すばかりだ。

まだ脱落者を出していない今の状況なら、と思う。八人で二人を仕留める。数の上では難しいものではない。

 

問題は、二四駆の全滅を防がなければいけないこと。白露、長波のコンビなら、六駆の妨害を避けつつ一人ひとり二四駆だけを狙うことも不可能ではないだろう。下手をすれば守りながら戦う六駆でさえ獲られかねない。

ここで戦力を欠いてしまえば、相手にはまだ霞と鈴谷が控えているのだ。

 

 

思考は振り出しに戻る。犠牲を覚悟の撤退戦か、ここで雌雄を決するのか……。

そこへ暁の声が響く。

 

「ちょっと待って! これ、最悪の状況よ」

 

なにかに集中し、耳に手を当てる暁。彼女の研ぎ澄まされた感覚が終わりの足音を捉えた。

「この音……」

 

 

 

「まさか?」

音のする方を振り向き確信する。これは死神の足音だ。

咄嗟に響が声を上げる。

 

「江風、涼風! すぐに退避するんだよ!」

「なんだって言うのさコンチクショー」

それでも即座に指示に反応して動き出せたのは、短い時間とはいえここでの訓練の賜物だろう。決して筋が悪いわけではないようだ。

しかし、死神はそれを許しはしなかった。

 

 

 

「遅いわ」

 

 

 

木々の向こうから突如眼前に現れたそれは、死を告げる妖精。

凄まじい速度で、海風たちが苦労して歩いた沢を追撃してきたのだ。

 

「この沢を駆け上がってきたのかい! さすがに想定外だよ」

水深なんてあってないような、草木に覆われた狭い沢だ、こんなところを最大戦速で遡上するのか。

 

 

至近距離から涼風に砲撃を一発、動きを抑えるとすぐさま次の目標へと狙いを変える。

一歩踏み出す霞は途端にトップスピードだ。そして、そのままの速度で陸の上へと飛び上がり、勢いを殺さないまま江風の至近へと詰めた。

反射神経だけで咄嗟に砲を構える江風。よくぞ反応したと言いたいが、霞はそれさえ想定していたのか、焦ることなく流れるような動きで腕ごと砲を払いのける。

 

 

凄まじい、そう評するしかない。

艦娘(じぶん)という存在の特異性を完全に理解し、(じぶん)にできることを過不足なく把握している。

腕でバランスを取り、二本の足で飛び跳ねながら沢を遡上するソレは、四肢を持つ艦娘ならではの航法。その究極形だ。

 

「獲られる」

 

 

金属同士がぶつかる鈍い衝撃音とともに、霞の放った砲はむなしく空に吸い込まれた。

 

「行くんだよ!」

霞が構えた砲身を自らの腕で跳ね上げ、江風との間に身を滑り込ませたのは響。

当の江風は同じように保護された涼風と一緒に雷、電の援護の元ですでに退避行動に移っている。

 

 

「アナタが庇うのはワタシにとっても想定外よ」

 

そう静かに呟いた霞が響の眼前で体を回転させ後ろ回し蹴りを放つが、それを響は腕に装着する防護板で受けつつ、威力を殺すために一歩後ろに飛び間合いを空けた。

 

「君と直接対峙するつもりはなかったんだけど、こうなっては仕方がないね」

 

 

 

「ほぅ、死神バンシーと不死鳥の一騎打ちたぁ剛毅だねぇ」

「ちょっと長波、手伝いなさいよ!」

 

海風と対峙する白露が視線そのままに批難の声を上げる。

山風の援護射撃もあり、一人ではなかなか思うように鎮圧できないでいるのだが、相方であるはずの長波は変わらず木の枝に乗ったままで、観戦モードから気持ちを切り替えてはくれないようだ。

 

「まぁ待ちなよ。あ、白露は先に山風を狙いな」

「もぅー、簡単に言うなぁー!」

そう言った途端、海風に突進した白露。勢いに押されたのか、一歩引いた海風を確認してから直角に進路を変えた。あっという間に距離を詰める先にいるのは山風だ。

 

 

「喰らえ! ラムアターーック!」

 

 

 

 

至近距離での砲戦と格闘戦。それらが織り成した、二人で魅せる演舞のような動き。

永遠に続くと思われたそれは、木の根に足を取られた霞がバランスを崩したことで唐突に終わりを迎える。

 

その一瞬の隙を見逃す不死鳥ではない。さすがの霞といえど、最大戦速で沢を駆け上がるなど無茶がすぎる。疲労が溜まっていたのだろう。

背後から霞を落とす、それが響の頭に浮かんだ最適解。確かにそう判断したのだが、それと同時に起こした行動は考えとは真逆のものだった。

 

 

響の体は頭で考えた行動とは裏腹に、咄嗟に飛び退いて距離をとっていたのだ。体に悪寒が走ったのが先か、体が動いたのが先か。

 

「マズいね……」

響を不死鳥たらしめている極限状態での第六感。

バックステップしたあと、間髪置かずに右側に跳ねる。その響の足が地を掴むその刹那、響の背中に凶弾が撃ち込まれた。

 

「ぐっ……、鈴谷か」

一対一となったこの状況で、そこからさらに誘っていたのか。霞はあくまで確実な勝利を求めていた、霞は響に勝つつもりなどなかったのだ。自身を囮に使い、行動を単調化された響を鈴谷が討ち取る。彼女はチームで勝ちを狙いにきていた。

 

 

 

「降参だよ。これ以上は戦えない」

背中に撃ち込まれた鈴谷の凶弾は思ったより深刻で、響の艤装に小さくない痛手を負わせたようだ。それでも、霞の誘いに気付かず追撃を行なっていたなら額を割られていただろうから、それに比べれば幾分かマシだと思う。

 

 

状況を把握するように辺りを見渡すと、海風と山風が倒れているのが確認できる。長波が戦闘に参加したようには見えないので、白露一人にやられたのだろう。

二人とも筋はいいが、さすがに現状では長姉のほうが一枚も二枚も上手のようだ。

 

 

 

 

さて、結果から述べると二四駆は訓練を無事に完遂してみせた。

 

あの後、鈴谷に執拗に狙われた暁がリタイアしたものの、江風、涼風が半身を泥に沈めるような姿で時間まで逃げきったのだ。

訓練終了時間ギリギリで白露、長波が再び彼女らを追い詰めたが、その二人をして、我が子を守る親猫のような決死の雷、電を前に手が出せなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、霞としては今回の訓練はどうだったのかな?」

 

後日の執務室。時雨が妹たちの評価を霞に尋ねた。

「ギリギリの及第点ね」

答える霞はそっけなくそう口にする。

時雨相手に気を使っても仕方がない、事は艦隊運用に関する話だ。

 

 

「雷、電が捨て身で守らなければ、二人は時間まで逃げられなかったでしょうね。アレは六駆の頑張りだわ」

「でも及第点はくれるんだ?」

おかしそうに口元を綻ばせながら時雨が言うと、片眉を上げた霞が肩をすくめてみせた。

 

 

「そこまで踏ん張ってみせたのは評価するわよ。響からの報告では海風に司令艦適正有りってことだし、山風は視野が広くてフォローに回るのが早い、白露も攻めあぐねたらしいわ。江風は夕立タイプだそうよ? 珍しく、センスがあるって響が褒めてる。涼風はチームのムードメーカーでもあるし、いつも前向きで折れない強さを持っている。これから訓練を積めば、彼女らはいっぱしの兵士に育つでしょ」

 

それはそれ、これはこれ。提督の考え方が霞に浸透していったものだ。

結果は結果、評価は評価。そういうことだ。

かくして、霞から二四駆への評価は今後に期待。それを響の所感混じりに説明した。

 

 

「霞が嬉しそうでよかった」

「そりゃあね、艦隊の強化は大歓迎だもの。二四駆は見所がある。それに……」

そのときのことを思い出しているのか、遠くのものを見るかのように視線を上げて続ける。

「六駆はさすがね、凄かったわ」

 

 

それぞれが自分の役割を完璧にこなす姿は完成された兵士そのものだった。

なにより彼女らは誰かのサポートに向いている。今回の場合でいえば二四駆を守り、育て、導いた。

「ベテランだし、一緒に戦ったこともある。だから評価も低かったわけじゃないわ。でもそれ以上ね。彼女たちが護衛部隊の第一陸戦隊にいてくれることに感謝よ。これも阿武隈の指導の賜物かしら?」

 

 

 

一見すると頼りない、そんな軽巡の顔を思い浮かべて、そして二人は仕事に戻った。

 

 




暁ちゃん大好き鈴谷は、敵側に暁がいると積極的に狙っていく習性があるんだって。
同じ電探子ちゃんなので、彼女にとっての優先排除目標ってのもあるかもしれない。


さて、まずは訓練時に着ていた服を回収しちゃいましょうねー。
僕が洗っておくからさ!
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