少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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(投稿しておいて)読み飛ばし推奨。

本編でやってるソロモンを終えて、「〜」から始まるシリーズも終えて、南方に進出したあとのあと、ちょびっと未来のお話。

平たく言うと大いなるネタバレ含む終わり付近の話ってことさぁ。




※絶望は、君の顔をしている。※

「アンタ……、なにやってんのよ」

 

絶望なら嫌というほど目にしてきた。つい先頃も、今まで感じた絶望など絶望のうちにも入っていなかったんだと、そう思わせる出来事があったばかりだ。

自分が沈むときでさえ、あれほどの絶望と、声にならない慟哭を感じさせることはないだろう。

だから、この先なにが起きようとも、絶望することなどもうないのだと思っていた。

今、コレを前にするまでは。

 

 

 

コレは、絶望の形だ。

 

 

 

「深海棲艦……、なのでしょうか?」

僚艦の不知火が立ち尽くしながら、誰もが持つであろう疑問を口にする。

一瞬の静寂が訪れた戦場の空気を打破したのは、悲鳴とも怒声ともとれる霞の声だ。

 

「退避! 誰も近づけさせないで! コレはワタシが相手するから」

 

他の誰もが相手にならない。他の誰にも任せられない。コレを沈めるのは他ならぬ自分なのだと、対峙した瞬間に理解した。

 

すぐさま海上を蹴り相手との間合いを詰める。それは海戦と呼べるようなものではなかった。

間合いを詰められた絶望の形をとるモノは、それを迎え撃つように自らも前に出て、拳の交わる距離でまず一合。獲物が刀ではないというだけで、まるで斬撃の結び合いだ。

 

そう、これは海戦と呼べるようなものでは決してなかった。

 

 

 

「距離を取ります、誰も近づいてはいけません」

その立ち会いを見て不知火が周りの艦に重ねて指示を出す。

つい一瞬前まで援護を考えていた自分の想定がいかに誤りであったかに気付いた。

コレを霞が想定していたのだとすると、自分では霞に追いつけないのだと実感するには十分過ぎるほどだった。

 

援護などとんでもないことだ、この二つの暴力に巻き込まれないようにするのが自分にできる唯一のこと。ならば、他の深海棲艦に目を向けるほうがよほど建設的だと思う。

 

どうせこの戦いで、見ている以外自分にできることはなにもない。

 

 

「コレが、帝國海軍最強と謳われた駆逐艦の戦いですか」

苦々しくそう呟き、その場を霞に託し背を向けた。

 

 

 

それはよくできた殺陣(たて)のよう。

手を伸ばせば触れ合うのではないか、そんな距離で砲を交わし合うも互いに決定打とはならなかった。

ただ炸裂した砲弾の破片が、心の傷をなぞるように体を傷付けていく。

 

砲撃音が途切れ、戦場にフッと訪れた突然の間。

対峙するソレが口を開く。瞬間、霞の砲が火を吹いた。

 

 

「しゃべるんじゃないわよ! その顔から出る声は一音だって聞きたくないわ!」

 

これは、世界がワタシに見せる悪夢だというのか。だとしたら、いったいどれだけの悪意を向けられているのか。ワタシたちはそれほど罪深い存在なのだろうか。

それだけのことを、してきたのだろうか。

 

 

同航戦の形で高速移動しながらも止まない砲撃の応酬。それらを躱し、火を吹くのは殺意と敵意。

こんなにも海が狭いと思ったのは初めてだった。

「冗談にもなりゃしない! ソレがアンタの望みなの? だったら……」

ああ、胸に宿るこの感情がなんなのか分かった。

これは怒りだ。

 

 

「せめて笑ってなさいな!」

 

 

 

 

その戦いを遠巻きに見ている目があった。

「江風ちゃん? 下がるよ!」

立ち尽くすしかできないでいる江風の元に阿武隈が駆け寄る。無理もないと思う、もうこの戦場で江風にできることはない。今は生き残らせないと。

 

「あ、ああ……」

 

茫然と目だけがソレを追い、心ここにあらずと立ちすくむ江風の頬に衝撃が走る。阿武隈が平手打ちしたのだ。

「江風ちゃん! しっかりしてください!」

江風の腕をしっかり掴んで無理やりに針路を基地に向ける。ワタシがしっかり捕まえておかなければ、この子も、ここではないどこかへ還ってしまいそうな気がした。

 

 

 

「自分だけが不幸みたいな顔してないで! 笑えってば!」

その周囲は戦場であることを忘れたかのように静かで、遠くに響く戦争の音が嘘のようだ。二人の奏でる音だけが場を支配し、空気を染め上げていく。

 

 

ここだけが二人の世界。

 

 

いくつもの色を内包した眼でソレを睨めつけ、霞は砲撃を繰り出していく。

それを回避しながら、絶望が左へ左へと円を描くように海面を滑る。

よく知っている。目を閉じていても、その対策なら十全にできている。

 

 

「“ソレ”が、ワタシに通るとでも思ってるの?」

 

 

眉を釣り上げた霞が怒りを隠すことなく言い放つ。

最後の一撃だ、互いに必殺の間合い。駆逐艦の持ち得る最強の獲物である水雷での終幕。

 

 

「沈みなさい!」

 

 

それを最後に、二人の世界から音が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

眼前いっぱいに広がる夕焼けが綺麗だった。遮るものはなにもない。自分は凪いだ海を背にして浮かんでいるのだと気付いた。

どうやら、また沈み損ねたようだ。

 

「霞! 無事ですか?」

 

すぐ頭の横に血と煤で汚れた姿の不知火が駆け寄る。

「状況はどうなったの?」

「敵艦隊は撤退しました。半数ほどは撃沈したはずですが、あの正体不明艦は見失いました」

「こちらの被害は?」

「少数沈みましたが軽微です。作戦は成功しました」

 

つい乾いた笑いが出た。

「霞?」

「あっという間だったわね、あの栄光の日々も」

轟沈艦が出た作戦を成功だと言わなければいけない海軍の現状が嘘みたいだ。悪夢といえば、この醒めない現実はこれから延々と続く悪夢なのだろう。

 

 

 

あの日、あの人を亡くした。自分の、そしてあの人の艦隊も無くなってしまった。まるで海に立つ理由を失ったみたいに、心に大きな穴が空いたのが分かった。

だから、感謝しなくてはならないのかもしれない。この絶望に。

 

 

「生きる目的ができたわ」

 

不知火に手を貸してもらい、満身創痍の身で再び海に立つ霞が言った。

「それなら良かった、と言いづらい顔をしていますね」

生憎と鏡がないので確認はできないが、多分。あの絶望と同じような顔をしていたのだと思う。

 

 

待ってなさい。ちゃんと、ワタシが沈めてあげるから。

 




迷ったんだけど、どのような話なのか心の準備だけしてもらおうかと……。

さて、いつものごとくなんの前置きもなく唐突に始まってますが、しばらくは妄想を爆発させながらお待ちいただけるとありがたいのです。


それでも、この物語の終わりはバッドエンドではない。のだと思う。
物語の一つの形として許容してくれたらいいなぁ。
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