少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜 作:山田太郎
リンガでの活動が軌道に乗ってきた時期。
妄想ノート
「大丈夫か?」
「今日は大丈夫な日だよ」
大丈夫ではないようだな。
艦娘に大丈夫じゃない日があるのかどうかは分からないが、今の状況が大丈夫ではないことだけは理解した。
「あれ、時雨は?」
少々遅刻気味に執務室に現れた提督がそう問い掛けた。
執務室には時雨の姿がなく、時雨の席には霞が座っている。
「遅いわよ。時雨はお出かけ、泊地の拡張するでしょ? 候補地を探しておかないとね」
「あ、あの話ね。言ってくれたら一緒に行ったのに」
艦娘の数はこれからも駆逐艦を中心に増えていくだろうし、他の基地から訓練受け入れの予定もある。
近隣企業や石油の販路を開いたことで、艦娘のために使えるお金にも余裕ができてきたところでもある。そろそろ艦娘さんたち専用の寮や食堂など施設の拡張を行おうと動いているのだ。
どうやら時雨はその候補地の確認に出掛けているらしい。
水臭いなぁ。言ってくれたらデート気分で着いて行ったのに。
なんて思っていると、霞がその幻想を軽く砕く。
「候補地が決まってからでいいでしょ。着いて行くにしても山に大森林よ? アナタがキツめのハイキングをしたいって言うなら止めはしないけど」
「やめとこ」
「賢明ね」
リンガは自然豊かな土地なのだ。
どんなところなんですか? と聞かれたら豊かな自然のあるところだよ。と答えるだろう。
見所はどこなんですか? と聞かれたら豊かな自然です。と答えるだろう。
それでだいたいどんな環境かは分かってもらえたと思う。
なんならGoogle MAPでリンガ島の航空写真を見てくれてもいい。
豊かな自然に囲まれているんですね。と君は言うはずだ。
さて、草木を掻き分けなきゃ立ち入れないような土地だが、時雨は大丈夫だろうか。
もっとも、彼女はアレで艦娘だし。リンガで行うジャングル縦断やらサバイバル教練なんかも受けているので、海軍軍人よりよほど慣れてはいるはずなのだが。
「誰と行ってるんだ? 工員連れて?」
「言ったでしょ、まだ候補地を選定する段階なの。建設を担当する妖精さんと行ってるわ。アナタが横須賀から送ってもらったバイクで」
「おお、乗ってくれてるんだな」
こちらで移動するときの足になればと、姉に頼んで横須賀で乗っていたバイクを完成した座乗艦に載せて送ってもらったのだ。
ついでに艦娘のみなさんの趣味の一つにでもなればいいなと思った次第。
時雨がバイクで行っているのなら、風を切って楽しみながら島を巡っているのかもしれない。
ちょっと安心だ。
「霞は乗らないのか?」
「体格的にアレは無理よ。時雨でも足が着いてなかったじゃない」
バイクを趣味の一つにしていた俺は、3台のバイクを所持して実家に置いてあった。トラウマ抱える悲劇の幼少期を過ごした割に、実はカナリ恵まれた環境だったといえる。
そんなこともあり、あんまり自分が不幸だと思ったことがない。一重にじじいの財力のおかげだろう。
で、リンガの道路事情を考えるとトレール車が1番ってことで、送ってもらったのはライムグリーンがイメージカラーの未舗装路に持ってこいのバイクだ。海軍に所縁があるメーカーだし、信頼はしていないが信用はしている。曰く、「よく壊れるが故障はしない」と言われる謎の魅力にも満ちている。
イマドキ2ストかよ! と言われかねない古いバイクではあるが、排気量の割にパワーがあるので気に入っているのだ。
経済活動が停滞しているご時世だ、排ガスについても地球さんの自浄作用のがパワフルだろうと勝手に思っている。そもそも俺はCO2と温暖化は関係ない派閥の人間でもあるので、そこは気にしないでいただきたい。
ともあれ、持ち込んだバイクは足回りなんかを同シリーズの上位車種のものに変更していたりと、見る人が見たら「わかってるじゃん」と言ってもらえるくらいのこだわりカスタム車。フロントゼッケン化していてヘッドライトがなくなっているが、ここは日本じゃないし、敷地内なら問題もあるまい。多分。
こういった環境なら水を得た魚の如き活躍を見せてくれるだろうガッチガチのオフロード車だが、いかんせんシート高がカナリ高い。
走っている最中に足を着く必要などない。と言うのが俺のポリシーだが、さすがに霞には大きすぎたようだ。
今度は内地から自転車でも送ってもらうか。
サス付きのMTBなら基地内の移動からちょっとした散策にまで使えるだろう。
自転車界の巨人を数台、備品として購入することを決意した瞬間だった。
「セバンカ島の辺りまで行ってるのかな」
「ワタシが艦だったころはそっちにも行ったわね。でもどうかしら、それだと拡張じゃなく移転になっちゃうし」
勝手に基地の場所を変えてしまうのはさすがに問題になるかもしれないな。いや、まったく別の場所に2つ目を建設するならありか? どうせリンガ泊地ってここいら全般を指すわけだし……。
「うん。いいかも」
「なにが?」
「拡張って言っても、基地設備のほうは現状で十分なわけじゃん? 新しく造りたいのって艦娘寮なんかの施設だし。だったら少しくらい基地から離れてても問題ないなって。朝出勤してこればいいわけで」
考えてみたら悪くないかもしれない。
泊地としてのリンガは、もともとカナリの広範囲をそう呼ぶ。なんなら旧軍のときのリンガ泊地はリンガ島に限ってさえなかったのだ。
そして今は艦を並べておくことも少ない。ウチが持ってるのは俺の座乗艦と輸送艦の類だけ。座乗艦は引き船を使わずとも自前で接岸できるので、なんならタグボートだっていないくらいだ。
戦力として1番重要な戦闘艦って、それは艦娘だしね。
それを踏まえて考える。
新しく欲しいのは泊地機能ではなく居住施設のほうだ。
なら無理して隣接させるより建築しやすい場所や少しでも風当たりが良い場所など、生活環境に配慮したほうがよろしい気がする。
リンガってほとんど無風の熱帯気候だから、空調効いた室内じゃないと結構辛いんだよね。
それに、いっそ基地からちょっとくらい離れているほうが女の子ばかりの居住区として俺も安心、艦娘も安心ってなものだ。
ほら、大奥みたいなイメージで……。
「敷地を分けるつもり? あんまり遠いといろいろと問題出るわよ」
おっと霞さん。俺はそれなりの常識を弁えているつもりだぜ? 非常識も携えてはいるのだけど。
さすがに基地から数十km離れた場所に、とまでは考えていないさ。
現実的には2km範囲とかかな? 日本の学校では2kmを超えると自転車通学になるみたいだし、徒歩で毎日通っても苦にならない距離ということなのだろう。
その程度なら離れていても大した問題になるまい。早速、候補地を隣接地から半径2kmまで広げて選定するように話を詰めていこう。
「夢が広がりますな」
「希望があれば早めに言ってちょうだい。もう図面引いちゃうから」
相も変わらずなんでも自分でやらなきゃ気が済まない霞さんだ。それくらい任せてくれてもいいんだぜ?
「俺より艦娘の意見優先ね、お前らの家になるわけだし。快適なものにしよう」
俺たちの基地ができていく。
それは本当に楽しみだ。
結局2kmも離れていないが、泊地拡張により艦娘たちは基地に出勤するようになる。
それとは別に本舎の近くには幹部の居住棟が新しく建てられた、と。
ところで、この話の艦娘は生まれながらの艦娘です。
人間からの艦娘ではない、ってことは。
彼女らは生まれながらの異物であり、ありもしないスペースに新しく割り込んできた新参者ってことなんだよなぁ。