少女のつくり方 〜艦隊これくしょん〜   作:山田太郎

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いつも簡単に流れていく海戦の、その裏方の話。

ソロモンと言えば暁、夕立、綾波が沈んだところ。
ホントはそのへんの葛藤も……とは思ったのですが、それでなくても長い話になってるのでザックリと割愛されている。

す ま な い !



ソロモン海戦(裏)

「四水戦が戻ってくるぞ、ウェルドック開け!」

 

 

戦場。それは海戦が行われている現場だけを指す言葉ではない。

座乗艦の中。ここも確かに戦場である。

前線には前線の、後方には後方の戦いがある。多分、分かりにくいだけで、銃後で戦ってくれている人たちだってきっと数多くいるはずだ。

 

深海棲艦と直接の対峙をしていないというだけで、彼らだって戦っている当事者なのだ。

そう、ここはまさに戦場の1つだった。

 

 

「バカヤロー! ニモツジャマダ!」

「バショヲアケロ! バカヤロー!」

 

 

けたたましい警報音に飛び交う大声、小走りで行き交う人々。艦の外からは遠くソロモンの砲撃音も届いている。

 

「帰ってきたぞ! 場所空けろ!」

 

そんな慌ただしい座乗艦へと、前線から由良を旗艦にした四水戦が帰還した。

由良に続いて村雨ら二駆が次々と艦後部のウェルドックから乗艦する。

 

 

「立ち止まらないで、奥まで行って!」

「肩に捕まってください!」

「そこ、艦娘の邪魔になる! スペース空けろ!」

 

鳴り止まぬ警報音のせいで、艦内には大声での指示がこだましている。

しかし、戻ってきた四水戦からの声は聞こえない。

無理もないことだ。

命を晒す戦場で、何時間も海上に立ち「戦争」をしてきたのだから。

 

彼女らは口を開く元気もなく、ただ疲れ果てた体を引きずっての帰還。

それでも全員無事に帰ってきた。これ以上を望むのはお門違いというものなのだろう。

 

 

何人もの軍人が、汗や血、油にまみれて焼け焦げ、破れた制服を体に纏わせる由良たちの元に駆け寄る。

艤装を外し、肩を支えてそれぞれの役割を果たしていく彼ら、そして彼女たちこそがこの戦場を支える主役だ。

 

「こっちです、医務員が待機してますから」

「あ……」

肩で息をする由良が口を開くが、吐き出されるのは荒い呼吸音だけ。

これ以上、少しの負担だって彼女たちに課したくないと考える兵士は、感謝を伝えようとした由良を遮って言うのだ。

 

「大丈夫ですから、喋らないで」

 

そうして力強く彼女を支え、臨時で作られた簡素な医療スペースへと導いていく。

 

 

 

「カクニンイソゲ!」

「トニカクアブラダ! アブラガアレバ フネハウゴクンダ!」

「艤装チェックして!」

「弾薬! 補充始め!」

「もう暗くなる、照明弾の積み込み忘れるな!」

 

預けた艤装は妖精さんと整備の人たちにより最低限の修理、補充が行われる。

ここには工廠施設があるわけでも、工作艦の能力があるわけでもない。できることは限られるが、できるだけをやるのが仕事だ。

そのために、リンガの基地では艦娘、妖精さん、工員の三者共同で艤装についてを学んできたのだから。

 

「急げ、まだ後続が来るぞ!」

次の出撃のために、次の艦娘のために。

彼女たちに、また帰ってきてもらいたいから。

 

 

 

「座って!」

「損害確認始め!」

「四肢欠損なし!」

「こちらも欠損なし!」

 

医療スペースに着くと、彼女たちはそれぞれのイスに座らされ医務員や看護師によるチェックが始まる。

どこも時間に追われ慌ただしいことだが、それでも戦場から帰ってきた由良たちにとっては、座ることでようやく人心地がつけるというものだ。

 

 

「袖、捲りますね。点滴入れます」

「補水です、焦らず飲んでください」

「確認終了後40分で再出撃です。展開後は本隊左翼、ベラ湾側の護衛に就いてください」

「モウフモッテコイ! ハイリョモデキネーノカ!」

 

検査や確認が行われていると同時に、次の行動指針が告げられ、その間に何本もの管が腕に通されていく。

流れるような作業ではあるが、される身としてはなかなかに辛い。

それらも、次にまた帰ってくるために必要なことだと割り切る。

 

 

「必要な物はありますか?」

「食べる、物、なにか」

ようやっと落ち着きが出てきた夕立が途切れ途切れに口にするも、それは叶えられないことのようで、申し訳なさそうにこう言われた。

 

「高カロリー輸液を点滴しています。次回の出撃後に休憩がありますので……」

「大丈夫っぽい」

 

それだけ言って夕立は目を閉じた。ここでは少しでも体を休ませるのが任務だ。

あとは寝ている間に体のチェックをしてくれるだろう。

こんな場合だ。仕方がないとはいえ、たくさんの人の目がある中、服をまくり上げられての検査を真顔のまま静観したいわけでもない。

 

 

 

五月雨を担当していた医務員が報告をした。

「4番、腹部に被弾しています。状況はイエロー、再出撃は不可能です」

 

「そんな、私はまだ戦えます。修復材を、バケツを下さい」

その判断に、五月雨がバケツがあればまだ戦えるのだと嘆願するが、それに医療班の責任者らしき人物が事務的に告げる。

「このくらいの損害でバケツは出せない」

 

ここは戦場なのだ。

必要になるのはシチュエーションアウェアネス。バケツや医療品には限りがあり、また時間も労力も無駄にするだけの余裕がない。

 

戦場や災害時など有事に行われるトリアージ(命の選別)には賛否の声が上がるが、なにもかもが有限である状況では仕方がないのだ。

誰だって同胞を見捨てたくはない。だからこそ、助からない人間に注ぎ込む薬も、時間も労力も、無駄なことなのだ。

トリアージが行われる現場では、治療をしても生存が望めない患者には黒色のタグが残される。黒色は死亡と判断された色。

それは、すでに死んでいるのか、まだ死んでいないだけなのかの違いしかない。

逆に、眼球が飛び出ていたり、開放骨折で腕の骨が突き破っている程度では緑のタグと判断されることがある。

緑タグの治療は完全に後回し。理由は簡単だ、目を落っことしてきた程度のことで命の危険に陥ることなどないのだから。

 

そういった人間へのトリアージに比べると、艦娘の治療はこれでも悲壮感がほとんどない恵まれた状況といえる。

 

彼女らは高速修復材(バケツ)のおかげで、死んでさえいなければ黒色タグが残ることがないのだ。

故に、戦場でバケツが使用されるのは緊急性のある場合に限られる。

 

 

「なら治療してください。それで大丈夫ですから!」

「無茶だ。次は帰って来られないぞ!」

 

興奮してそう縋る五月雨の腹部から勢いよく血が噴き出す。酸素をたらふく含んだその真っ赤な鮮血は大きなダメージを負っている証拠だ。それを見て、五月雨の担当をしていた軍人がつい感情的な声を上げるのも止むを得ないことだろう。

 

そんな状況に、責任者の男が由良に目線を送り、なんとかしてほしいと声なき声を伝えた。

 

「五月雨ちゃんは待機。次の出撃は四人で出ます」

 

「由良さん……」

「戦争はこれで終わりじゃないでしょ? ね? 提督さんの望みはまず生きること。私たちは次も必ず帰って来るから、ここで出迎えてね」

 

 

五月雨がイスの上で力を抜いたのが分かった。納得、は分からないが、弁えてくれたのだろう。

そんな彼女に担当の男が済まなさそうに声を掛ける。

「すみません。治療は四水戦が再出撃した後になります」

 

 

 

周りに目を向けられるくらいには落ち着いた。他の子はどうだろうと由良が周囲に目を向けると、村雨のところに医務員が集まっている。

 

「開けられますか?」

「ちょっと痛いかもしれません」

「これはマズいかな?」

 

口々に話す医務員たち。

状況が分からないのは旗艦として捨て置くわけにはいかない。

「村雨ちゃんがどうかしましたか?」

 

 

「右の眼球に砲弾かなにかの破片が刺さってますね。外科手術で取る時間もないですし、視界が塞がれたままで戦闘ってわけにも……」

 

「大丈夫ですよ。首を振って確認するようにしますし、右目の代わりは夕立がしてくれます」

そう言って村雨は隣で眠る夕立を残された視界に入れる。

 

「しかし極端に狭い視界での戦闘行動は疲労を早め、集中力を」

「大丈夫です」

 

「大丈夫ですよ」

朗らかとしたいつもの彼女の笑顔だ。

これは判断に困る案件だが、どうする? と旗艦である由良に視線を向ける担当者。

目線を向けられた由良も葛藤しているところだった。

 

五月雨が再出撃できなくなった今、司令駆逐艦の村雨にまで抜けられるのは困る。戦力としては大幅に期待値が下がったといえるが、頭数としているといないでは大違いなのだ。

いてくれると助かる。しかしその判断のせいで村雨にもしもがあっては取り返しがつかない。

由良は軽巡。彼女たちをまとめ導く水雷旗艦として間違いのない選択を行い、その責任を取るべき立場だから。

 

「大丈夫ですよ」

考えを巡らせていた由良に、村雨がそう繰り返す。その目は自棄になったわけでも、意固地になっているわけでもない冷静なものだった。

 

「村雨だって司令艦です。任務に耐え得るとの冷静な判断ですよ」

 

村雨にも分かっているのだろう。

これ以上の兵数減少は戦域全体の危険に繋がるのだということが。

彼女を信じる。それをするのも私の仕事なのだと思った。

 

「無理をさせるけど、無茶はしないでね、ね?」

 

 

由良の判断により、村雨の再出撃が決まる。

であるならば、この時間でやることはやっておかねばならない。

「少し、強い薬を入れておきますか?」

「依存の出ない程度でお願いね」

彼女はそう言って笑った。

 

 

「目の洗浄します。ちょっと染みますよ」

「つぅ……」

イスに寝かされた村雨の処置が始まると、村雨がつい声を漏らす。

処置とはいっても、当座は軽い洗浄をして包帯を巻かれるだけのものだが、しないよりは幾分かマシだろう。

 

 

「今、外はどんな様子ですか?」

再出撃後の指示を伝えた軍人が由良に問い掛ける。艦の深いところ。ウェルドックにいるとなかなか外の様子が伝わってこないのだ。

 

「霞ちゃんが後方に下がってます。私たちの前線は長波ちゃんが指揮を執り、時雨ちゃんたちが制圧中です。島の反対側にはトラックの隊が展開して敵を牽制していますね」

 

「霞司令艦が下がっているんですか? ……何事もなければいいんですが」

「大丈夫ですよ。何事も起こさせないために下がっているんです」

 

 

それだけ聞くと、彼は頭を下げてから一言。

「お疲れのところすみませんでした。時間までお休みください」

 

そう言ってまた自分の仕事に戻って行った。

それを見届けて由良も目を閉じる。

 

 

次は夜間の本隊護衛だ。

海戦はまだ続く、作戦が終わった後の反省会に無事出られるように、気を引き締めて臨まなければと思った。




暁ちゃんはソロモンで探照灯係。被害担任艦となり15分で沈むことになる。

わずか15分じゃないよ? 彼女は敵味方入り混じる混戦の中で15分も耐えたのだ。
ヤツはエレファントなレディだぜ!

ちなみに彼女を沈めたのはソロモンの悪夢さんだったりする。
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