この『エピローグ』に加え、前話の『最終話』とを合わせてお楽しみください。
このSS、これにて正真正銘の最後の投稿となります。よろしくお願いします。
どうぞ。
長い、長いと思える時間も、いつしか過ぎ去っていくものである。
密度濃く、やることも覚えることもまー多く、この時間が永遠に続くんじゃないかとすら思えた学生時代も……思い出がたくさん詰まった過去のものになってから、既に早数年。
日々の仕事の中で、学友の活躍をふとテレビで耳にしながら、その日々を思い出すような生活を送るようになり…………まー要するに何が言いたいのかというとだ。
「はい、ヒーロー事務所『One for All All for One』です! はい……はい、では少々お待ちください。副社長にお繋ぎします。『ダイナージャ』! 雄英高校からお電話です!」
「はいよー、内線飛ばして! はいもしもし、こちら……おー、八百万か。あーうん、何? え、職場体験の……うん、希望が……あーそう、うん。じゃ1人、来週ね。了解、あとでメール送っておいて」
――ガチャ(電話を切る音)
――ガチャ(ドアを開けて緑谷が帰ってきた)
「ただいまー、どう? 何か変わったことなかった?」
「あ、お疲れ様です社長!」
「あ、『デク』! ちょうどよかった、今雄英の八百万……あー、『クリエティ』先生から電話入ってさ、来週、職場体験生1人受け入れ頼むって。洸汰君来るぞ」
「ホント!? うわぁ、そっか、指名受けてくれたんだ……楽しみだなぁ!」
こんな風に、ヒーロー事務所構えて、いっぱしのプロヒーローとして活躍するようにもなるってことだ。5~6年も経てばね。
☆☆☆
めっちゃ色々あって、今思うと私らとんでもない青春過ごしてたもんだなー、とか思えてしまう高校1年の時から、既に6年の歳月が流れ、
3年前に雄英を卒業した私達は、社会人としてそれぞれの進路に進んでいた。
つっても、あの時のあの面々は、見事にというか、1人残らずプロヒーローになってるけども。
ある者はプロヒーローの事務所に入社して下積みの時代を過ごし、ある者は自ら事務所を立ち上げてバリバリ仕事をこなしていき、ある者はフリーランスのヒーローとして、特定の拠点を持たず全国各地を回りながら活動している。
けれど、皆それぞれにやりたいことを見つけて、迷いなく進んでいるってのは同じだ。それならそれで、何の問題もない。
例を挙げれば、そうだな……今ちょうど話してた、八百万―――クリエティとか。
卒業後、彼女は雄英高校に就職し、教師として後輩たちを指導していく道を選んだ。
その優秀な頭脳で、在学中からほぼ休日返上で講習を受け続け、卒業と同時に教員免許を取得。その後、実習やら何やら半年で全部終わらせて、翌年から教壇に立った。
彼女の指導は、時に甘えを許さず厳しく、しかし時には親身になって一緒に考えてくれると評判である。授業そのものもとてもわかりやすく教えてくれるとのこと。
そのルックスとコスチュームも相まって、(特に男子に)非常に人気があるそうだ。
彼女自身、雄英在学中に何度も悩み、苦しみ、そして乗り越えて来た身だ。その体験をもとに、悩める後輩達を今日も導いていることだろう。今年度の1年A組担任のクリエティ先生として。
なお、拳藤共々ウワバミ事務所に誘われていたらしいが、メディア進出が望みってわけではないので、丁重にお断りしたそうだ。2人とも。
ちなみにその拳藤も雄英高校に就職し、なんと今年度1年B組担任である。おかしな縁だな。
続いて、飯田。
卒業後は、お兄さんから名を受け継いで『インゲニウム』を名乗り、以前から考えていた通り、そのお兄さんの事務所に所属して、下積みから始めて……今ではバリバリの即戦力に。
超俊足でどこへでも駆けつけるヒーローとして、最前線で活躍している。
そしてそのお兄さん……元・インゲニウムなんだが、現在は、というかもう4年位前に、プロヒーローとして復帰している。
一度は『ヒーロー殺し』に脊髄をやられて歩けなくなった彼だが、私の『オーバーホール』にかかれば……まあ、うん。人間2人くっつけて1人にしたり、その後さらに分離させたり、何でもありな『個性』だからね。
仮免取った後、色々手続きして……治したよ。飯田にはめっちゃ感謝されたっけな。
その際、飯田は『インゲニウム』の名前も返そうとしたらしいけど、結局固辞されたとのこと。現在はお兄さんは、別なヒーローネームを名乗っている。
サイドキック達からの人望や、復活を喜ぶファンたちからの人気は変わらないそうだが。
弟共々、ターボヒーローとして今日も市街地を縦横無尽に駆け回っているはずだ。どっちも早すぎてテレビカメラがろくすっぽ追えないのが玉にキズだそうだが。
轟は卒業後、エンデヴァー事務所での下積みを経て、独立して自分の事務所を起こした。
父親……エンデヴァーは自分の事務所で一緒に働きたがってたそうだが。まー、あそこんちの家庭……後から聞いたけど、色々と闇深いからな。
それでも、在学中から徐々に仲直り?が進んで、関係もそこそこ良好なところへ収まったらしいし、時々チームアップで事件解決に臨んだりもしてるとのこと。
その時はエンデヴァーの機嫌がめっちゃよくなって、気前よくサイドキック達にご馳走してくれたりするともっぱらの評判である。やっぱ親バカだよなあの人、本質が。
エンデヴァー事務所以外にも、事務所が近いってことで、『レップウ』――夜嵐ともよく組むことがあるらしい。最初は気まずい、距離の開いた関係だったけど、今はすっかり仲直りしている。
で、一旦関係改善してからはもうなんかあいつ、ウザいくらいに寄ってくるし話しかけてくるから、『前の方がよかったんじゃねえかコレ』ってちょっと辟易してたな、轟。
他にはそうだな、ヒーローとしての活動で見れば、切島や梅雨ちゃんの活躍が著しい。
どちらもプロヒーローとしてバリバリ最前線に立っている。自分の事務所までは持っていないが、サイドキックでありながら、その人気は今やチャートでも右肩上がりだ。
それぞれ、ファットガム事務所で都市部での凶悪犯罪と、セルキー事務所で海難救助を主に手掛け、いくつもの事件を解決して、大型新人としてその名を響かせている。ファンも多いそうだ。
ヒーロー業に専念して有名になっている奴もいれば、『副業』の方で知られている者もいる。
お菓子メーカーや老舗洋菓子店とのタイアップで有名になり、自らも凄腕のパティシエとしての顔を持つヒーローとして知られている砂藤なんかいい例だな。
在学中に調理師免許に加え、管理栄養士とか色々資格取ってたし、もうすっかりその道のプロだ。料理学校とかに招かれて講演することもあるって聞いた。
音楽業界やダンス業界でそれぞれ脚光を浴びている、耳郎や芦戸もその系統だな。どっちも在学中からさらに腕を磨いて力をつけ、そっちでもプロの現場で通じるスキルを身に着けて活躍している。色んな番組に引っ張りだこでテレビその他での露出もどんどん増えてるし。
芦戸は持ち前のフレンドリーさで子供からお年寄りまで大人気だし、耳郎はそのクールな雰囲気に加えて、その中に垣間見える女の子らしさとのギャップにやられる人が急増中だ。
あと、口田。動物園の飼育員やブリーダーを副業にしていて、『愛犬のしつけ講座』なんかに呼ばれたりすることもあるとか。
最近、ウワバミとギャングオルカに紹介してもらったタイアップ先の動物園で、破天荒なウサギ顔のプロヒーローに振り回され気味だそうだが、同じく苦労人体質のサイっぽい人やゴリラっぽい人と一緒に、何だかんだで楽しくやってるらしい。『今度遊びに来てね』ってメール来てた。
芸能関係で言えば、B組の小森がアイドルヒーローとしてデビューして人気急上昇中である。ルックスもレベル高いのに加えて、歌って踊れて、さらにバトれるとあって、今注目の新人だ。
こないだCMデビューも果たした。……何となく予想してたが、『キ○コの山』のCMだった。
もっとも、本人曰く、『まだ芸能界という激流のほんの入り口に立てただけノコ! 私の戦いはこれからノコ!』とのことらしい。……うん、まあ、気合十分ってことで結構。
派手に活躍しているヒーローもいれば、地域に根差した活躍に注力しているヒーローもいる。
実家近くに事務所を構えてる麗日なんかその典型例だな。ヒーローとして自分のやりたいことはするけど、同時に親孝行もきちんとするんだって、実家の工務店を含めた地域の活性化のために色々と精力的に活動している。
それが結果として、庶民派・人情派で親しみやすいヒーローとして人気を博していて……本人も予想外で驚いてたな。今度『情熱○陸』出るとまで聞いた。マジか。
あとビックリしたのは、まさかまさかの、爆豪が日本を飛び出したことだな。
轟と同様、エンデヴァー事務所での下積みを経て、独立する……かと思いきや、さらなるレベルアップのために、ヒーローの本場アメリカに渡った。
恐らくだが、かつてアメリカに渡って修行したオールマイトを意識してるところもあるんだろう。当時のオールマイトは、AFOとの戦いのため、アメリカで個性犯罪の激流の中に身を置いて戦い抜くことで膨大な経験値をためてレベルアップしていた過去があるそうだから。
暫くして、『日本の神風ボーイ』だの、『爆炎迸るラストサムライ』だの、『クレイジーボンバーマン』だの呼ばれる留学生ヒーローが話題になり始め……お前あっちでもそんな感じなのかよ。
色々不安ではあるが、戻ってくる頃には多分、いや確実に、奴は大きくレベルアップしているだろう。
なお、渡米する直前、高校3年間ずっと爆豪のお守りだった切島が、『あっちでも頑張れよ、誰彼構わず喧嘩売っちゃだめだぞ、ちゃんと3食きちんと食べ……』『オカンかテメェはァ!?』って心配するあまり漫才を披露して、空港で見送りの連中や、野次馬達を爆笑させていた。
そして、私と緑谷は……ある事務所で1年ほどサイドキックとして下積みをした後、独立。
ここを……ヒーロー事務所『One for All All for One』を立ち上げ、対『敵』からイベントへの参加、各種企業とのタイアップに後進の指導まで、幅広く活動している。
緑谷を社長に置き、私が副社長兼サイドキックリーダーとして事務所を運営している形だ。規模はそこそこ、事務員やサイドキックもそれなりの数を雇っている。
緑谷はあの『神野区』の事件以降もめきめきと腕を上げ、世代最強の1人に数えられるだけでなく、『雄英史上最強の1人』とか、『新たなる平和の象徴』とか言われるまでになり、1年次後半のインターン生時代から、もうあちこちでサイドキック争奪戦になっていた。
その緑谷を支えるべく、私も全力で色々なサポート系技能を習得し、さらに事務所運営に必要な資格やスキルも片っ端から取得して、
インターンも同じようにあちこちの現場で色々な経験を積んで……今に至る。
なお、ここまでくるとまあ……私と緑谷の仲は半ば周知というか。
明言はしてないことから、『友達以上恋人未満』『でも実際は特別な感情を抱いてるかも』という感じに見られている。実際そういう感じだし、なんなら1年の時からもっとすごいことになってたりもするんだが。
ただ、いずれはとは思ってはいるものの、まだヒーローとして仕事やら何やらが軌道に乗ってきた時期だってのもあるし、色々と忙しくもあるから……当分は入籍とかもする予定はないな。
いずれは、とは思ってはいるけども(2回目)。
……いや、緑谷がそれでもきちんと私のことを思ってくれてるのは知ってるし、私はそれで十分嬉しいし、信頼だってしてるから別に問題ないんだけど……不安要素があるとすれば、学生時代からの恋敵達がね……。誰一人、諦めてないんだよ。
麗日を筆頭に、梅雨ちゃん、塩崎、取陰……その他、学内外に、年齢の上下を問わず何人か……程度に差はあれど、未だ変わらぬ思いで緑谷を狙っている。油断できない。
麗日は学生時代から、私を除けば最も距離が近い友人だし……梅雨ちゃんと塩崎は仕事関係で一緒になることが多いし……取陰も同様なのに加え、たまに『終電なくなっちゃったー』とかいって事務所のゲストルームに泊まってくし……
まあ、もう皆社会的な立場ってもんがあるから、無茶なことはしないと思うけど……思いたいけど……
今紹介した面子に限らず、他の皆も……私達の世代は、立派にヒーローとして活躍している。
巷では、幾度も凶悪な『敵』との戦いを経験して生き残り、今日の『結束と協調』のヒーロー新時代を切り開いたとされ、その優秀さも相まって『黄金世代』と呼ばれているとか何とか。嬉しいは嬉しいけど、なんだかこそばゆい思いである。
……そして、最後に。
私達に関わる人で、まあ何というか、絶対に語るに避けては通れない人が1人。雄英関係者としても、私達の個人的な付き合いという意味でも……うん。
今丁度、番組が始まるところだってことで、緑谷が席についてテレビをつけた。
その目は……学生時代から変わらない、憧れのヒーローを見る少年の目になっている。
まあ、今から画面の中にその人の活躍が流れるわけだから無理もないんだが。
誰のことかって? 決まってるだろ……おっ、始まった。
『もう大丈夫! なぜって!? 私が来た!』
夕方のニュース番組……その速報というかトップニュースとして、今日起こった強盗立てこもり事件を、即座に駆けつけて解決した、『No.1ヒーロー』の姿が、
見覚えがあるどころではない、金色V字の髪が特徴的なあの人が、そこに映し出された。
『神野区の悪夢』で力を使い果たし、最早戦える体ではないことが世間に周知となった、『平和の象徴』オールマイト。
長期の活動休止とは言いつつ、これはもう引退を待つのみかと思われていた彼だが……その約1年後、まさかの完全復活を遂げ、日本のヒーロー社会に再臨した。そしてそれ以来、今までと同じように、いやそれ以上の勢いで大暴れし続けている。
確かにあの時……オールマイトに、最早戦える力は残されておらず、事件解決時に言い放たれた『次は、君だ』の言葉は、緑谷に『私はもう、出し切ってしまった』という意味を持って重く突き刺さっていた……が、そのちょっと後に、私がそれを台無しにした。
それこそもう、デウスエクスマキナもかくやって感じのご都合主義的展開で。
まず、かつてAFOとの戦いで、呼吸器半壊、胃袋全摘その他によりボロボロだった体については、『オーバーホール』……もとい、『
流石にNo.1ヒーローの肉体……完全な状態への再構築にはどえらいエネルギーが必要で、栄養補給しつつ何日もかかったけども。
そしてもう1つ、オールマイトを『最強のヒーロー』たらしめていた力である……個性『ワン・フォー・オール』について。
既に緑谷に譲渡され、残り火も消えかけだったはずのそれがどうして甦ったのか……いや、そもそも今オールマイトの中にあるそれは一体何なのか、という話だ。
『神野区』の決戦のさらに最終局面……『マトリョーシカアタック』の最後に、オールマイトと、その場にいた生徒達やヒーロー達全員が『繋がった』感覚と共に、オールマイトは一時的に、完全な『ワン・フォー・オール』を宿したがごとき強さを発揮し、AFOを粉砕した。
あの時は単純に、何かこう、ヒーローの諦めない思いが奇跡を起こした、みたく思ってたんだが……実はあれ、きちんと理屈というか仕組みがあったのである。夢壊して申し訳ないが。
あの奇跡の正体は……あの瞬間に生まれた『もう1つのワン・フォー・オール』だ。
あの直前、私がAFOから無我夢中で奪った『個性』の中に、ラグドールの『サーチ』と一緒に……恐らくは、かつて私のご先祖様からAFOが奪ったのであろう『オール・フォー・ユー』があったのだ。長い年月の中で、すり減って弱ってしまった……しかし、今なお、主の仇を打とうと最後の執念に燃える、『個性』の、『魂』の残骸が。
そして、『ワン・フォー・オール』はもともと、『オール・フォー・ユー』と『与える個性』の融合によって生まれたもの。すなわち、似た材料がそろっていたのだ。
ここで私の中の『変容』の力がまた仕事をして……残骸の『オール・フォー・ユー』が、『エンゲージ』を通じて全てのヒーロー達の思いを受け取ることにより、そして、オールマイトの中にあった『残り火』と融合することにより、新たな『ワン・フォー・オール』に生まれ変わった。
緑谷の中にあるそれが、何人もの人間を渡って練り上げられた、世代・継承という『縦方向の繋がり』による力による『ワン・フォー・オール』だとすれば……あの時オールマイトが手にしたのは、その場にいたヒーロー達の思いによって作り上げられた、絆や願いという『横方向のつながり』による『ワン・フォー・オール』だった、と言えるのかもしれない。
こうして、便宜上『ワン・フォー・オール・オルタナティブ』と呼ぶことになった力に加え、回復した後にリハビリによって力を取り戻したオールマイトは、約1年後、奇跡の復活を遂げ、その直後のビルボードで再びNo.1ヒーローの座に返り咲いた。後はもう……お察しだ。
ちなみに、復活したオールマイトは、コスチュームも更新し、『ヤングエイジ』『ブロンズエイジ』『シルバーエイジ』『ゴールデンエイジ』に続く最新のスタイル……『プラチナエイジ』と呼ばれるそれに今は身を包んでいる。もちろん、作ったのはデヴィッド博士だ。
大本のデザインは『ゴールデンエイジ』を踏襲しているそれは……色彩の派手さは若干控えめになり……体の各部にアクセントとして『緑色』のラインが入ったデザインになっていて……まあ、わかりやすいな。意図というか、コンセプトが。
めでたしめでたし、だとは思うけど……問題がないわけじゃないんだよなあ。
まともな肉体と、新たなOFA……全盛期ほどではないにせよ、活動制限やら何やらの心配もない力を取り戻した結果……今までのうっ憤を晴らすかの如く、あの人ますますワーカホリックになって……朝から晩までどっかしらで元気に『私が来た』って働きまくるようになっちゃって……
しかも、本来そのストッパーになるはずのナイトアイが、オールマイトの『完全復活』に歓喜するあまり、なんと事務所畳んでまたサイドキックになっちゃって……それが強力に活動を後押しするもんだからもう手が付けられなく……
正直、『あのまま隠居させた方がよかったんじゃないか』って、時々……いや、割と頻繁に思う。
けれど、この人の復活――治療に専念した結果、ということになっている。一般向けの発表では――によって、上がり始めていた日本の犯罪発生率もまた下がってきたし、そこにさらに私達の世代から重要視されるようになった『結束と協調』のヒーローとしてのあり方が加わった結果、去年なんか犯罪率、ついに5%台に突入したからな。
よくなってる実績が確かにある以上、間違いだったなんて言えんし……何だかなあ。
まあ、いいか。また、この人1人きりに頼り切った平和にならないように、私達が頑張っていけばいいだけの話だ。
幸いと言っていいのか、活きのいい若手がそろってるからね。今の時代は。
私ら『雄英黄金世代』はもちろん……復活したオールマイトを今度こそ追い抜くと吼えているエンデヴァーとか、プロヒーロー・トップヒーローの多くの方々も。
あ、ちなみに私と緑谷が卒業後に下積みとしてサイドキックやったのは、何を隠そうこの事務所だ。オールマイトとナイトアイ直々に、私達の修行を仕上げてもらった。
それに見合うだけの……オールマイト事務所のサイドキック経験者として恥じないだけの力は身についたと思ってるし、これからもそれを見せていくつもりである。
しかし……光が強ければ、闇もまた強くなる。
今なお、この社会には、まだまだ悪が潜み、息づいている。それらに対しての警戒は、いくら慎重になっていても、なりすぎってことはないだろう。
あの『敵連合』だって、主犯格の死柄木を始め、まだまだ捕まってない面々が数多くいるし……水面下で勢力を拡大させている、って話も聞く。
ともすれば、いつか第二のAFOが誕生するんじゃないか、とすら話になっている。
私達の卒業間際の時期だったかには、『異能解放軍』とかいう連中が暴れ出した事件もあったし。
ただ、それも散発的なテロみたいな感じだったから、あっという間に鎮圧されて下火になって、現在、細々とその残党が色々やってるにとどまってるけど。
なんでも、ネームバリューとして自分達以上に有名になってた『敵連合』が目障りで喧嘩売ったはいいものの、AFOが残した戦力である『ギガントマキア』だかによって軍団が半壊させられ……で、もう半分はさらに『崩壊』の力を増した死柄木に『ぶっっ壊』されたらしい。
あえなく壊滅した解放軍。その残党の一部が『敵連合』に吸収され……そのまた残党が今色々やってる連中ってわけだな。
むしろ、その解放軍のメンバーに各界の著名人が結構な数名を連ねてたってことで一時期騒動になったっけ。そっちの方が影響大きかったかもしれないな。
……それに乗じて『
在学中も幾度も戦った、死柄木率いる『敵連合』。
『解放軍』の残党を取り込んで勢力を増し、今現在は潜伏中と思しきあいつらと……きっと、これからも戦う時が来るんだろう。死柄木を倒して、メンバー全員を捕まえて、タルタロスにぶちこんで……決着がつく、その日まで。
そんなことを考えていた時だった。
―――TRRRR!! TRRRR!!
『地区内のヒーロー全員へ応援要請!! HTA204地点にてバスジャック事件発生! 現在対象車両は国道○○号線を南東方向へ向けて逃走中、乗客12名が人質となっている模様、至急応え――』
「皆! ちょっと行ってくる、あとよろしく!」
「『行ってくる』じゃないよ現場まで何キロあると思ってんだ。車出すから30秒待ってな、支度してりゃすぐだ!」
相変わらず『考える前に体が動く』という持病の発作が起きそうになっている緑谷を止めて、オフィスの机についている、黄色の黒の縞模様で縁取られている上、ガラスカバーで保護されているスイッチを、カバーを開けて押す。
見るからにヤバそうなデザインだが、別にコレで事務所が自爆したりするわけじゃない。ただ、私専用の特別車両の発信準備が整うだけだ。
押してすぐに私と緑谷はガレージへ向かい、そこで出動用レールの上にスタンバイされている、近未来的というか、宇宙世紀とかにありそうな容姿のマシンに乗り込む。
車体全体が真っ赤で、流線型のデザイン。車体の各部に、噴射口が見え隠れしている、ヒーロー事務所として認可貰ってなかったら絶対に車検通らない、超がつく特殊車両だ。
聞いた話じゃ、昔、デヴィッド博士がオールマイトとバディを組んでた時に乗り回してたマシンをデザインの参考にしてるらしいが。
運転席に私、助手席に緑谷。『一応』シートベルトを締めて、と。
キーを差し込んでエンジンをかけ……ない。そんな必要はない。
インテリジェントキーなのかって? それも違う。このマシンは、私の『個性』で走るんだ。走るというか、飛ぶが。
事務所が提携している研究機関(『栄陽院』の傘下企業)に特注して、そこで働いているメリッサや発目の技術の粋をつぎ込んで作られたコレは、電力やガソリンで動かすこともできるが、基本は私が『気象操作』……もとい、それを『変容』させて作り出した力『ウェザー・リポート』によって発生させた風と雷を動力にして動く。
毎度天候を変えるほどの規模で発動するんじゃなく、それをそのまま手元で操れるような感じで……いわば『天候のミニチュア』を作り出して使うように扱えるようになってるのだ。
「セットアップ完了。コンディションオールグリーン。発・進!」
動力部に直で発生した暴風と雷を力に変えて、殺人的な加速で動きだすマシン。
メインのブースターに加え、機体のあちこちにつけられた『フレキシブルスラスター』……補助用の噴射口によって、立体的に動き、急カーブも何のその。減速せずに曲がる。
本来は減速して曲がる必要があるところとかを、噴射口を増やして、違う方向に力を加えることで急制動をかけるっていう滅茶苦茶な設計思想でこのマシンはできている。相当無茶苦茶なGがかかるので、緑谷とか私レベルの肉体強度じゃなきゃ、多分、乗ってるだけで、最悪死ぬ。
数キロ、あるいは十数キロあった道のりをあっという間に走破し(飛んでるが)、通報にあった地点に到着すると、そこには……
『来るんじゃねぇぇええぇえ!!』
「……えぇ~……アレ、バスジャックって言うのかよ?」
「ま、まあ……確かに、バス1つ占拠して乗客を人質にしてはいる……よね」
「占拠ってか掌握? 手に持ってんじゃん、バス。なんか持ち帰ろうとしてんじゃん」
巨大化、あるいは怪物化の類の『個性』だろうか。10mくらいの巨体になった男が、小型のバスを手に持って、周囲を包囲するヒーローや警官隊を威嚇していた。
見た目通りのパワーがあるようで、抱えているバスがギシギシ、メキメキ、と嫌な音を立てている……説得に耳を貸す様子も、当然ない。
これ以上興奮させると、自棄になって、あるいは力加減をミスってバスを握りつぶしかねない。そうなったら、乗客の皆さんが……まあ、ダメだなそれは。
もちろんそんなことを、私の横にいる彼が許すはずもなく。
隣で緑谷が、シートベルトを外して、風防の上部分を開いて……
「じゃ、行ってくる!」
「おう、じゃ、私は下からだな」
とだけ言葉を交わして……座席を蹴って、飛び出していく緑谷。
同時に私は、『敵』が立っている高架橋の下側に車を潜り込ませ、そこから直角に急上昇……鯉の滝登りみたいな動きで足元から奇襲する。
そして、突然の奇襲に反応できずにいる敵の手に握られているバスに触れて、
―――バツン!
『オーバーホール』を発動し、バスの外側のフレームを分解して再構築……一回り小さくして、ほんの一瞬、敵の手の指との間に隙間を作る。
そしてその一瞬を見逃さず、緑谷が『黒鞭』でバスを引っ張り出して敵の手から奪う。
「なっ!? 返……うがぁあぁあ!?」
それを追って突っ込んで来ようとした敵を、私が局所的な突風を発生させて押し返す。こっち来んな。
で、押し返しながら『個性看破』でこいつの能力を見る。……ふむ……
「緑谷、こいつの『個性』はあくまで発動型。気絶させれば縮むっぽい」
『了解、それだけわかれば十分だ!』
無線越しに言うと同時に、緑谷から投げ渡されたバスを、青いドラゴンでキャッチし、優しく道路に降ろす。
そしてその時には……勝負は既に決まっていた。
「SMAAASH!!」
お決まりの掛け声とともに、『敵』の顎に吸い込まれるように決まった拳が、その巨体を天高く吹き飛ばし……一撃でキレイに意識を刈り取る。
そのまま空中で気絶し、しゅるしゅると縮んだ『敵』に……私が、車に搭載されている武装から、対個性犯罪者用『牢獄弾』を発射。
警察が使う『
なお、この車同様、開発者は発目とメリッサである。相変わらずいいもん作るな。
ここまで10秒足らず。
あまりにあっという間のことで、それを見ている野次馬や、当事者だったバスの乗客達すらも、何が起こったかよくわかっていない。
むしろまだ、自分達が助かったことにすら気づけていないかも。バスの窓から見える彼ら・彼女らの表情は、困惑がほとんどだから。
もうここから先は、いつものことだ。見なくても、何が起こるかわかる。
あと数秒もすれば、このどよめきや困惑は大歓声に変わることだろう。
まあ、でも見るけども。私のご主人様の決め台詞は……いつ見てもかっこいいから。
不安でたまらない、助けてほしい、そんな気持ちでいっぱいの人々に向けて、今日も彼は言うのだ。見る者を安心させる、満面の笑みで。
ヒーローはただ、それだけで、人々を笑顔を守ってみせるのだ。
「もう大丈夫! 僕が、来た!」
これにて全ての投稿を終了いたしました!
今年の2月から始まりまして約7か月……長いことお付き合いいただきありがとうございました!
いやあ……ホントに書きたいようにだけ書きまくったって感じです。勢いだけでここまで来ました。
最終話ということで、色んなキャラのその後を簡単に。違和感ないといいな……
そして、このSSではなんと、オールマイトが引退せずに復活しております。描写はないけど。
『ここは引退しておくべきだろう』と思わなくもなかったんですが……永久が『オーバーホール』持っちゃったから……いや、治せるじゃないですか、コレここまでくると。
なので、全盛期には遠く及ばないけど、体の不調は取れて復活……と相成りました。……まあ最終的には、またしても『書きたいように』書かせていただいた形になったかと。
あと飯田兄も復活。まあ、オーバーホールだからね。
そして緑谷と永久は、最終的に、決定的にくっついてはいないものの、限りなくそれに近い感じで、2人がプロヒーローになって独立、という形となりました。なお、麗日さんたちはまだあきらめていない模様。
最後まで勢いのまま突っ走らせていただきまして……しかしなんとか完結までこぎつけました。
これもひとえに、応援してくださった読者の皆様のおかげと思っております。感想にメッセージに、ときにはアンケートなんかも、1つ残らず力に変えさせていただきました!
これをもちまして、『TSから始まるヒロインアカデミア』完結と相成りました。
皆様本当に、ご愛読どうもありがとうございました!