本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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第7-16話「太陽(日)の呼吸」

 久遠の手による全ての布石は打ち終わった。

 眼前に立ち塞がる義勇(存在)がいなくなった今。竈門兄妹の成すべき使命は全力で(目的)に向かい、最高の未来を掴み取るのみ。

 

 炭治郎は残る力を全て気熱の呼吸に注ぎ込み、周囲が曇るほどの蒸気を発生させ、両手で握る日輪刀を介して巨大な蒸気の竜巻を顕現した。

 一方の禰豆子も同様だ。大きく深呼吸を繰り返し、全ての元気を藤の呼吸へと注ぎ込む。この周囲だけがまるで、お花畑にでもなったかのように幻の花びらが舞い散っていた。

 

 竈門兄妹は後の事など考えていない。

 これが最後にして最高の好機だ。これを逃せば、自分達に待ち受ける未来など分かりきっている。

 

 妹が鬼の膂力(りょりょく)をもって軽々と兄を担ぎ上げ、数秒後には再生が終わるであろう累に向けて疾駆した。

 

「うううううううううう――――――――――っ!!!」

 

 雄叫びと共に禰豆子が自らの身体を一本の矢と化し、正確に累の心臓へと一本の小太刀を刺し貫く。

 久遠によって頭部を破壊され、身動きのとれない累はその刃を受け入れる他なかった。

 

 

 

 禰豆子が鬼の弱点である首を狙わなかったのは、決して間違いでも失策でもない。累という名の十二鬼月には、心の臓が急所であると見抜いた上での決断だ。

 

「……どうして。どうして動けるんだ! 久遠姉さんは完璧に僕の人形になったはずっ、なのに!?」

 

 鼻より上の頭部が欠け、再生しながらも累は悪態をつく。

 

「私の身体に流れる鬼の血は、他ならぬ鬼舞辻 無惨()から受け継いだもの。蜘蛛鬼の血程度に塗り替えられるとでも思ったのかしら?」

「だとしてもお前は、鬼を殺せないはずだろ!??」

「ええ、そちらは間違いのない真実よ。私は実の母を手にかけた精神的な傷から、人も鬼も害せない。――だから累くんの血を利用させてもらったの。蜘蛛鬼の血を逆に支配して、私の意思に関係なく敵へ刃を振るえるように……、ね」

 

 鬼舞辻 無惨の血は、鬼が鬼であるための狂気が満ちている。だからこそ飢えた禰豆子とて幾度となく暴走し、親代わりである鱗滝の肉でさえ喰らってしまった。

 だが久遠はその狂気を逆に利用し、己の意志に関係なく、危害を与える相手へと刃を振るわせる賭けにでた。鬼特有の食肉衝動をもって体内にある蜘蛛鬼の糸を利用し、自らの体を強引に動かしたのだ。

 その証拠に刃を振るった久遠とて身体中から大量の冷や汗を流していた。自らの意志ではなかったとはいえ、累の頭部を吹き飛ばした事実には変わりない。一歩間違えれば、久遠自身の心が崩壊する。そんな瀬戸際だったことが十分にうかがえる姿である。 

 

「……認めない、僕は認めないぞっ。僕の血だって、『あの御方』から頂いたものなんだ。半人半鬼の血になんて負けるはずが――」

 

 禰豆子の小太刀が累の心臓を貫き、血気術の燃料となる血は供給を止めたはず。

 だがそれでも累の悪態は止まる様子を見せなかった。つまりはまだ、それだけの余裕があるということだ。

 それを知ってか知らずか、竈門兄妹の連撃は止まらない。すでに心臓から送り出された血をもって、頭部を再生させようとする累の身体が突如、その動きを停止した。

 

 原因は一つしかない。禰豆子が累の心臓に突き立てた小太刀から、追撃とばかりに華やかな藤色の臭いが沸き立ち始めたのだ。

 その香りは幻想となって浮き上がり、小さな少女の身体を造り始める。

 

 炭治郎にとっても、見覚えのある少女だった。

 

(この子、……どこかで。どこだ? 俺はどこで……、この少女と出会った?)

 

 禰豆子の刺突と共に上空へと飛びあがった炭治郎は、必死に己の記憶を遡る。そもそもがこの荒れくれた旅の中で、妹以外の少女と出会う機会など数すくない。

 印象的なのは、今も共に戦ってくれている神藤久遠と。それから最終選別で一緒だった、表情を一切かえない栗花落(つゆり) カナヲ。

 

 そしてもう一人。

 藤の毒を操り、最終選別の場において竈門兄妹の前に立ちはだかった鬼の少女。いつも瞳に涙を浮かべ、自身の兄を探しさまよった悲運の存在。

 

 ――見つけた。私達の、おにいちゃん。

 

 決して現実の身体を持たない少女が、そう炭治郎に話しかけてきた気がした。

 

「ふじ……、か?」

 

 ――お兄ちゃん、私達に元気をちょうだい。この藤に水を与えて、日を射しこめば。きっと、綺麗なお花が咲くよ?

 

「禰豆子? ……分かった、お兄ちゃんに任せろ」

 

 次に聞こえた声は間違いなく実体である妹のものだ。 

 禰豆子と藤華。二人が作り出した藤に水を与え、日の光を照らすもの。それは、コレしかない。落下の加速を加えた天雷刀は寸分のくるいなく、禰豆子が突き立てた小太刀と同じ累の胸へと導かれてゆく。

 

「行くぞ蜘蛛鬼。これが本当の『家族の絆』だ。たっぷりと、受け取れえええええええええっ!!!」

 

 蒸気が荒れ狂う。他ならぬ、十二鬼月:累の胸中で天雷刀より注ぎ込まれた嵐が吹き荒れる。

 

 竈門家に代々伝わるヒノカミ神楽。

 それは火ではなく、本来は日の神に捧げる舞だ。この大地が創生する四十六億年前から燃え盛る、太陽を象徴とする天照大神の加護を受けし「始まりの呼吸」。

 一方の鬼は人間の闇の部分から生まれた、決して祝福されない異端の怪異。夜闇の世界が朝日に照らされるように、鬼の闇もまた、日の呼吸によって浄化される。

 

 だがこれまでの日の呼吸は決して日ではなく、火の呼吸どまりであった。長い歴史の中で、何かが足らなくなっていったのだ。

 

 炭治郎が得た水の青。

 禰豆子が得た藤の緑。

 そして竈門家の血脈となる日の赤。

 

 それらが混ざり合い、天から照らしつける白光を、本当の「日」を竈門兄妹が作り上げる。

 まだまだ未完成な「日」であった。炭治郎は水の才に恵まれず、禰豆子は鬼の血によって藤花色へと変色している。それでも始まりの剣士から連なる本来の日が今、ここに復活した。

 勿論、この二人がそのような理屈を知るはずもない。一家の惨劇から始まった旅の末に得た力を結集し、二人の絆が偶然という名の奇跡を呼び込んだのだ。

 

「おおおおおおおおお――――っ!!!」

「ううううう……………………っ!!!」

 

 満身の力を籠めて、竈門兄妹は力を合わせ、累の体内に日の白光を注ぎ込む。

 鬼の身体に蔓延る鬼舞辻 無惨の血という毒を浄化し、清廉(せいれん)な血流を取り戻し。

 

 鬼の身体を、生まれたままの姿へと戻してゆく。

 白粉(おしろい)で白塗りされた歌舞伎役者のような肌が暖かな色を取り戻し、血液のような真紅にそまった瞳は白さを取り戻し、脱色してしまった髪の毛も(つや)やかな漆黒を取り戻す。

 

 十二鬼月の一角、下弦の伍ではない人間の少年。生まれつき病弱で、ただひたすら両親の愛情を欲した累へと戻るのだ。

 

 もう一度。人間としての命を、人生をやり直すために。

 

「ごめん、……殺しちゃってごめんよ。……父さん、……母さん」

 

 人の身体を取り戻した累が過去を想い起こして涙を流し、地に伏したまま空を見上げながら呟いた。

 そこにはもはや狂気の臭いなど微塵もなく。ただ鬼に利用され、捻じ曲がった願いを押し付けられた少年の姿がある。

 

 その場に居る久遠も、義勇も、葵枝も。そして身体を引きずりながらも救援へと駆けつけたばかりの伊之助と善逸も。木陰から事態を見守っていた蟲柱:胡蝶しのぶも。

 しばらくの間、竈門兄妹が成し遂げた偉業を呆然と見守っていた。

 

 それは誰もが夢見た希望の光。

 

 凄惨を極めた那田蜘蛛山の攻防が今、決着の狼煙をあげたのだ。




 最後までお読み頂きありがとうございました。

 へ、人間に戻しちゃうの? と思う方も多いかとおもいます。

 作者もまったく同感ですが、気熱の呼吸と藤の呼吸を考えているうちに自然とこうなっちゃいました(笑

 原作の炭治郎君が握る黒い日輪刀は、全ての呼吸の始まりである「始まりの剣士」達がもっていた刀でもあります。それはつまり全ての呼吸における色が重なり合った結果、黒くなったのだと何処かの検証サイトに書いてあったのです。(公式だっけ? うろ覚えですみません^^;)
 CMYKと呼ばれる色の4原色の法則にのっとっているんですよね。

 ならばこの作品においての竈門兄妹の日輪刀は、RGB(レッド・グリーン・ブルー)と呼ばれる光の三原色の法則を採用しようと思い立ったわけです。白光=日=太陽って感じですね。
 そして日の光が鬼を滅するならば、始まりの呼吸は鬼の血を消し去る効果を持つんじゃないのか? という考えから累君は無惨の血を消され、人間へと戻ってしまったのです。
 
 うむ、これぞ究極の自分勝手設定。どうか石を投げないで下さい、何でもしまskr。

 ………………コホン。

 さてさて、これにて六章・七章と続いた那田蜘蛛山の戦いに決着がつきました。
 あとはエピローグ的なものを二話ほど投稿して第七章(完)となります。あと二日だけ毎日更新を継続しますので、どうかお付き合いくださいな。

 ではまた明日っ!
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